第二章16 『襲来! 海賊船』
「海賊旗――ジョリー・ロジャーが見えるだろう?」
凪の言葉に俺はうなずく。
「うん。まさか本当に海賊なんかに遭遇するなんて」
逸美ちゃんが俺にくっついてきて、
「どうしよう開くん。こっちに向かって来てない?」
もしかして、いつも何事にも動じない逸美ちゃんが、海賊を怖がってる? なら、ここはカッコイイところを見せないと。
「だ、大丈夫! 俺が、まも……」
「うん、大丈夫よ。開くんのことはわたしが守ってあげるからね!」
逆かー。俺のことが心配でくっついてきたのか。
がくっと首をもたげそうになったけど、そんな場合じゃない。
「どどど、どうしましょう! 海賊船が、こっちに向かってきてます!」
と、鈴ちゃんがおびえたように海賊船を指差す。
すでに海賊船はこちらの存在を視界に捉えているのか、俺たちの船に向かって一直線だ。
戦いになったらこちらの分が悪い。相手は大人数でも、こっちは俺と凪と逸美ちゃんと鈴ちゃんの四人とハネコしかいない。そのうち、凪はおそらく大して役に立たない。
「考えても仕方ないよ、開」
「そうだな。こうなったら、やれるだけやって戦うしかない」
俺には《天空の剣》がある。
迎え撃とう。
じりじりと海賊船との距離が詰まり、とうとう船同士がぶつかった。
幸いこの船は丈夫なので壊れなかったが、それによって海賊船から五人の海賊が俺たちの船に乗り込んできた。
真ん中にいる人相の悪い男が剣を抜いて言った。
「オレたちは海賊だ! てめえらの持ち物をすべてよこせ!」
俺は海賊に屈せず言い返す。
「断る。海賊の言う通りになんかなるもんか」
「よく言った、開。ぼくたちならやれる」
そして凪は海賊に向き直って、
「この船も、お宝も、ぼくたちはなにひとつ渡すつもりはない。ぼくたちだって海の戦士なんだ、この世界を救うって目的のためにも、こんなところで引き下がれないね」
くるくると曲芸みたいに器用に杖を回して構え、めずらしく凪がかっこよくセリフを決めた。
とはいえ、俺たちはお宝なんて持っていないんだけどね。
海賊も顔を怒らせた。
「なんだとぉ? 抵抗する気か。てめえらなんざ、親分がいればひとひねりだ。いま呼んでやるよ。親ぶーん!」
凪は強気に、ビシッと指差した。
「親分でもカナブンでも呼べばいい。親分が出てきた瞬間、ぼくの魔法でまとめて――」
「あン?」
親分が登場した。
「……」
人相が悪いだけだった五人とは、怖さのレベルが違った。極悪人クラスの強面で、右目には百戦錬磨の古キズがあり、黒い眼帯で隠している。二メートルはある巨体に海賊帽、首元には大ぶりなひらひらしたスカーフのような布、左手はフックになっていて、右手にはでっかい金棒を持っている。金棒のトゲトゲはどこか目玉がくっついているような不気味さで、百の眼でにらまれているみたいだ。
「このキャプテン・アーゴス様に歯向かおうってのは、てめえか。魔法でまとめて、どうすんだ? あぁン?」
ドスの効いた声で言われて、凪はすたすたすた、と俺の後ろに半身を隠れさせて、アーゴスを指差す。
「ぼくの魔法を出すまでもなく、彼がやる。さあ、開。《天空の剣》の威力を見せてやれ」
「ふざけんな! おまえが挑発したんだろ」
俺と凪が言い合いをするヒマも与えず、アーゴスは金棒を振り落とした。
船の床板がバキっと割れる。
「ギャーギャーうるせーぞ。てめえら四人くらいまとめて相手になってやる」
凪は及び腰ながらも、手のひらを向けて、
「ま、待て。話し合おう。ぼくたちはわかり合える」
「んなわけあるか! オレたちは海賊だぜ?」
アーゴスはニヤリとほくそ笑む。
鈴ちゃんはこの状況を作った凪に抗議する。
「ちょっと先輩っ、刺激して余計に怒らせてどうするんですかっ」
「NPCの気持ちなんて気にしちゃ負けだよ、鈴ちゃん」
「そんなこと言ってる場合かっ」
俺が凪につっこみを入れると。
アーゴスが、金棒をこちらに向けた。まるで野球のバッターがホームランを宣言するポーズのように半身で、俺たちを見据えた。
「お遊びはそこまでだ。さあ、おまえら! やっちまえ!」
「おー!」
海賊たちがアーゴスの命令に返事をした。
逸美ちゃんは、こちらに向かってくる海賊たちを見て《癒やしの杖》を構えたまま、俺と凪と鈴ちゃんに言う。
「来るわよ、気をつけて!」
「ああ」
と、俺はうなずき、肩にかけた《天空の剣》に手を伸ばす。
「了解です」
鈴ちゃんも《氷晶の鎌》を両手に持ち、敵が来たら振るえるように備える。
凪はやれやれと肩をすくめた。
「いきなりとは節操がないんだからぁ。どら、ぼくもローブの防御力をアップしてもらったところ、戦ってやるさ。軽く追っ払ってやる」
くるくると《ケリュケイオン》を回して、襲ってくる海賊たちに立ち向かう。
「凪、ほんのちょっと強くなったからって、気を抜くなよ」
「わかってるさ」
「逸美ちゃんは後ろから援護をお願いね」
「任せて」
しかと顎を引き、逸美ちゃんは回復での俺たちのサポートに回る。
「ハネコちゃん、まずは《かぎしっぽ》」
鈴ちゃんはハネコに指示を出した。
指示を受け、ハネコは飛んだ。
「ニャフ!」
ハネコは、くるりんとしっぽを丸めて、魔法を唱えた。