第三章9 『五行と属性相性図Ⅱ』
さて、話を戻すとしよう。
「でも、エマノンくん。四元素で『地』と『水』は、水は大地によって形を止めておけるから良い相性とされるが、五行では土が水を濁らせるから相剋の関係になる。ここには矛盾が生じている。違うかな?」
疑問を呈すると、エマノンくんは嬉しそうに微笑んだ。
「やはり開さんは鋭い考察をしますね。あなたの頭脳が《ソロモンの宝玉》入手に導いたのでしょうし、あなたなら他の《ルミナリー》の謎を解いてしまうんでしょうね。ただね、五行と四元素において矛盾はないんです」
「どういうことですか?」
小首をかしげる鈴ちゃんに、エマノンくんはさらりと言った。
「相剋の中にも相生があるという、森羅万象は二面性によって保たれるとする思想がこれに当たる」
なるほど。
「つまり、どちらも同じ考え方の元にあるってことだね」
「ええ。それから、『風』は四元素にしかありませんが、一般的に五行の八卦では『風』も『木』と同じ位置に来ます。また、元の五行になかったエレメントとして、『雷』の属性もこのゲームにはあります」
ドールさんが横から付け加える。
「これはごく一部のひとしか知らない情報だけど、『雷』は四元素の『火』、すなわちプラズマと同じ形態を持ったエレメントとされているの。まあ、『雷』は五行の『木』だから、『火』と同一じゃないんだけどさ」
「それって、『雷』は同じ位置にある『風』や『木』に比べて、『火』と関わりが深いって程度なのかい?」
凪が質問をするけど、鈴ちゃんが「んー?」と眉間にしわを寄せてしまっている。
その様子を見て、逸美ちゃんが言った。
「整理するわね。四元素は四態。『地』・『水』・『風』はそれぞれ、固体、液体、気体の状態としているけど、『火』は『第四の状態』の象徴なのよ。その『第四の状態』をプラズマというの。雷もプラズマだから、どちらも『第四の状態』としての性質を持つわ。ゆえに、『雷』は『火』と密接なつながりを持つ。つまり、『雷』が『木』や『風』と違う点は、四元素における四態」
「そういうことですか」
と、鈴ちゃんが納得する。
そういえば、俺の持つ魔法、《雷火》や《天空の煌星》も、雷の魔法と火の魔法の複合だ。系統が近くて組み合わせやすかったってことだろうか。
「だから開のゼノ――」
言いかけた凪の口を、俺は押さえる。そして、小声で注意した。
「バカ、自分たちの能力を教えるやつがどこにいるんだよ。バレたらどうするんだ」
「なにかまずいの?」
ぼけっとした顔でそんなことを言う凪に教えてやる。
「アイテムをかけたデュエルを申し込まれることだって、可能性としてゼロじゃない。《七星連合》にもそういう好戦的な連中がいるって言ってたじゃないか。そうじゃなくても、周囲に手の内バラして良いことなんてただの一個もないんだよ」
「一個も?」
「そう、一個も!」
「開は秘密主義だからな~」
俺と凪がこそこそとしゃべっている間、ツナミさんたちは逸美ちゃんの解説に驚いていた。
「そういうことか。ボクも、この世界の属性相性として関係性を聞いただけだから背景は知らなかったよ」
「素晴らしい知識ね。これであの理屈も説明できるわ」
「ツナミ、オレたちもこれでちょっと賢くなったな! ハハハ。まあ、オレはまだよくわかってねえんだけどよ」
「タラコさんってばまた」
と、エマノンくんはため息をつく。
そりゃあ、逸美ちゃんは俺の知る中で、所長の次に深遠な知識を持つ人だ。これくらい当然さ。
内心誇らしく思いながらも、俺はその話にメスを入れる。
「とはいえ、この世界では、『火』と『雷』はまったく同じではない。その背景を持つことで、『雷』にはなにか特殊な効果があるんですか? あの理屈っていうのとなにか関係が?」
お姉さんがチラと俺を見て、
「やっぱりキミ、鋭いわね」
エマノンくんは穏やかな笑みを口元に含ませ、
「順番に説明しましょう。『雷』は、五行では『木』に相当する。これはこのゲーム内だけじゃなく、一般的にも言われていることです。『雷』は『木』と同じく『火』を強めることができますが、このゲームでは、四元素の『火』と『風』の関係に見立てるように、『風』が『雷』を強めてくれるんです」
「同じに位置にあるけど、この二つの属性だけは特殊なんだ」
と、ツナミさんが言った。
エマノンくんは続ける。
「まあ、風魔法を扱えるのはモンスターの一部くらいで、魔法屋でも風魔法だけは売ってないから、普通のプレイヤーがあんまり気にすることはないんですけどね」
ふむ。
やはりエマノンくんは情報処理能力が極めて高い。話をわかりやすくまとめる力もこれに当たる。情報収集能力も高いだろう。メロディさんはエマノンくんを《旅兎六人衆》のブレーンだと言っていたが、おそらく、エマノンくんの最たる能力は分析力に非ず、凪にも匹敵しかねない情報関係のスキルだ。まあ、凪は底が見えないという点で、二人の比較は簡単にはできないけど。
すると、ここで凪が口を開いた。
「え、ぼく風魔法使えっ――」
俺は凪の口を押さえて、小声で「バカ、だから手の内バラすなって」と注意する。俺も知らなかったけど、このゲームでの風魔法は特別みたいだ。風魔法を扱えるモンスターを使いこなすのも難しいだろうし、実は凪の魔法は希少だったんだな。
「おまえの風魔法はめずらしいんだ。その魔法を生み出している武器《ケリュケイオン》を、最悪の場合盗もうとする輩まで出てくるんだぞ」
「え、ぼくやだよ」
「だろ? だったら黙ってろ」
あい、と凪が小さく敬礼した。
ひょっとしたら、俺の《天空の剣》よりとんでもない武器かもしれないんだぞ、おまえの《ケリュケイオン》は。
エマノンくんだけは凪の様子をおかしそうに、気づいたかのように見ていたが、他のメンバーは気に留めていなかったようだ。
俺と凪の会話が聞こえていなかったツナミさんが、こんなことまで言った。
「現に、ボクもこれまで風魔法を扱えるプレイヤーを見たことがない」
メロディさんが引き継ぐ。
「だから、『風』と『雷』はその点で特殊。さらに、『雷』は『水』の弱点を突ける。よくある水は電気を通すってやつさ」
エマノンくんがまとめる。
「あとは、五行通りです。五行では木剋土――つまり、木は養分を吸い取り土地を痩せさせる。その『木』を『雷』に換えて、木剋土=雷剋土が通用するそうです」
「これだけ覚えておけばいいわ。ワタシたちも、なぜ雷が土に勝っちゃうかわからないんだけどさ。あはは。てことで説明は終わり。わかった?」
ドールさんに言われて、俺は笑顔で首を縦に振る。
「はい。おかげさまで。要するにこうだ。雷は、岩や石、コンクリートなどあらゆる固体を壊してしまうもの。四元素において固体は『地』であり、『地』は五行の『土』にあたる。雷は地を破壊する。ゆえに雷剋土。そう言い換えられますよね」
「キミ、よくそんなことに理屈をくっつけられるな」
と、タラコさんが口を開けた。
「ちゃんとわかってますか? タラコさん。開さんの思索過程は、情報の咀嚼をする上で学ぶべき点がありますよ」
エマノンくんに指摘されてもタラコさんは快活に笑うだけだ。
「オマエはちっと理屈っぽいんだよ。賢いんだけど考え過ぎだ。考えるのはツナミやメロディに任せりゃいい。オマエは情報収集とまとめだけするとかよ」
「案外、結構的を得てるんですよねぇ」
ジト目でエマノンくんはため息をつく。
「まったくだ。情報処理が得意なぼくらは、推理や分析なんて人任せにすればいいんだからね。余計なソフトをアンインストールしないと、作業スピードと効率が下がる。メモリを無駄に使っちゃうってもんさ」
そんなことを言う凪に、俺は言ってやる。
「おまえはちょっとくらい考えて行動しろ」
あはは、とエマノンくんは苦笑していた。