第三章24 『エコーロケーション』
洞窟内を着実に進んでゆく。
階層は、第三階層が終わったところだ。
俺たちが活動を始めて、約四時間。
もはやゲームという感覚は薄く、トイレに行かなくても平気なこと以外では自分の身体がデータであることを忘れるほどだった。改めて、ものすごい再現率だと感心する。
俺は隣を歩く逸美ちゃんに、
「昨日も結構歩いたし、今日は辿り着くといいね」
「そうね」
逸美ちゃんが答えて、マイルズくんが提案した。
「みんな。もう午前九時を過ぎたところだ。今日は朝食も早かったし、おやつでも食べない?」
「え? おやつあるの?」
「食べた~い!」
俺と逸美ちゃんが真っ先に食いつく。
鈴ちゃんは感心したように口を押さえて、
「すごい。マイルズさん、準備がいいですね。ね? 先輩」
「ん?」
凪はもう食べる気満々みたいで、すでに腰を下ろしており、鈴ちゃんを見上げた。
「もう、先輩ってば」
呆れる鈴ちゃんとおやつを待つ凪を見て、マイルズくんはくすっと笑った。
「待っててね。はい、どうぞ」
果たして、マイルズくんが出したおやつは、スコーンだった。
「はむはむ。おいしいわ~」
「うん。味つけもいいね」
「紅茶までいただけるなんて、マイルズさんがパーティーメンバーでよかったです」
逸美ちゃんと俺と鈴ちゃんがおやつをいただく。
「これもかなりいけるね。マイルズくん、キミはパラディンじゃなくてパティシエだったのか」
「いや。ボクが作ったわけじゃないから」
あはは、とマイルズくんが笑った。
おやつ休憩は三十分。
再び、俺たちは歩き出した。
すると。
少し歩いた先に、人がいた。
プレイヤーだろうか。
「誰だろうね」
「ちょっと話しかけてみよっか」
と、逸美ちゃんがその人に声をかけた。
「すみません」
「なんだい?」
こちらに顔を向けたのは、三十歳は過ぎているかなというくらいの男の人だった。服装はつなぎっぽく、冒険者のプレイヤーという感じではない。
「プレイヤーさんですか?」
逸美ちゃんの問いかけに、彼は笑顔で答えた。
「おれは採掘師なんだ。この洞窟を掘って、鉱物を探してる」
「そうなんですか」
「へえん」
と、鈴ちゃんと凪が納得する。
しゃべった雰囲気からして、彼はNPCだろう。
「この先、ちょっと暗い道があるから気をつけたほうがいいよ。スカイラットはエコーロケーションによっておれたちの位置を認識し、暗闇から攻撃してくるんだ」
「エコーロケーションって、イルカの話のときに出た、反響音によって周囲を認識するっていうあれですよね?」
鈴ちゃんに聞かれて、凪はうなずく。
「そう」
エコーロケーション。つまり、反響定位。
「しかし、スカイラットって何者だい?」
凪が尋ねる。
採掘師さんは丁寧に教えてくれた。
「コウモリ型のモンスターさ。この洞窟にいるモンスターの中だとそれほど強くはないが、なにせこちらは暗闇でなにも見えないからね。サイズもあまり大きくないが、複数がいっしょになってかたまっている。属性相性を気にするほどじゃないから、松明を灯すとかしておけば問題ない」
「松明ですか」
俺たちはたぶん、松明なんて持ってない。マイルズくんはどうかわからないが。
「スカイラットだけじゃなく、この先の第七階層には、宝石などをまとった『土』の属性を持った強いドラゴンのモンスターもいる。そいつには、『木』や『雷』の属性の魔法を使うといいよ。対策はしっかりね」
親切な採掘師さんにみんなもお礼を述べて、俺たちは先へ進む。
俺はつぶやく。
「スカイラットか。他にもコウモリ型のモンスターがいるんだね」
「コウモリは、哺乳類のうち四分の一を占めるほどの種がいるし、ネズミに次いで大きなグループだもの」
と、逸美ちゃんが言った。
「コウモリは、天のネズミと書いて天鼠。また、飛ぶネズミと書いて飛鼠っていうからね」
「そのまんまの名前だ。でも、洞窟にコウモリはつきものさ」
俺と凪がそんな話をしている中、凪がマイルズくんに聞いた。
「マイルズくん、キミは松明を持ってるかい?」
いいや、とマイルズくんは苦笑交じりに首を横に振った。
「ごめんね。いまは切らしているんだ」
「なーんだ、残念」
あんまり残念そうじゃない凪である。
マイルズくんが逸美ちゃんに言った。
「でも、逸美さんの《天照》は回復魔法だけど、使用時に光を放つ。属性が『光』だしね。もしスカイラットが出てきたら、《天照》を使って照らすのも手だよ」
「なるほど」
「それもありね~」
感心する俺と逸美ちゃんである。
「あ、みなさん。この先、暗くなっていますよ」
鈴ちゃんが指差すこの道の先は、暗闇だった。
暗闇では、逸美ちゃんの《天照》をする前に、スカイラットが動いた。
モンスターは動かず擬態していたり身を隠したりしていれば、プレイヤーが近づいても名前がポップアップされない。しかし、攻撃するモーションで動きが生じたため、スカイラットという名前が現れた。暗闇でも名前だけは認識できるから、スカイラットのおおよその位置もわかった。
「《天照》」
即、逸美ちゃんが魔法を唱えた。
一瞬、スカイラットが光によろめく。
その隙に、俺たちは攻撃をした。
数は六匹。それを、俺たちはささっと倒した。
スカイラットがモンスター図鑑に登録される。
元々、天のネズミと書いて天鼠というだけあり、ネズミが翼をもったようなコウモリだった。
光によろめいたし、もしかしたら、スカイラットは『闇』の属性だったのかもしれないな。
このあとも、エコーロケーションによるスカイラットの奇襲じみた攻撃を受けつつ、なんとか暗闇を抜けることに成功した。