Fire in the hole!
新世界暦1年9月9日 アメリカ・メキシコ国境地帯 ラレド周辺
人口25万人ほどのアメリカ側都市であるラレドには、絶えることなく砲声と爆発音が響いていた。
このエリアの守備に就いているのは英米の混成連合軍である。
英軍の主力戦車はもちろんチャレンジャー2だが、米軍のほうはデポから引っ張り出されたM60A3である。
保管状態だった車両といえば聞こえはいいが、各地のデポで解体もされずに放置されていた車両である。
「クソっ!このポンコツが!動けってんだよ!」
そんなわけで、戦場のそこかしこで立ち往生しているM60A3が出現することになった。
「燃料はエンジンに送られてるみたいですし、なんでしょうね」
「知るか!プラグじゃねぇのか」
「ガソリンエンジンじゃないんですからそんなもんありませんよ」
「着火してないってことは圧縮できてないんだろ」
「スターター回ってるのに圧縮出来てないって、こんなとこで修理できないじゃないですかやだー」
エンジン不調でわちゃわちゃしている車両の横をM728戦闘工兵車が通り抜けていく。
M60ベースの戦闘工兵車だが、こちらは州軍では現役だし、陸軍でもれっきとした予備車両として保管整備が行われていたので、特にトラブルは発生していない。
「クソっ!そのエンジン寄こしやがれ!」
こちらを指差して笑いながら通り抜けたM728に、車長は持っていたスパナを投げつけて怒鳴り散らす。
「今は一時的に押してるみたいだからいいですけど、この後後退ですよ。どうするんですか?」
「そりゃお前、こんなもん押していけねぇから歩くしかねぇだろ」
そういって諦めたように見上げた空を複数の戦闘機かミサイルか、いずれにせよ高速で雲を引きながら飛行していた。
新世界暦1年9月9日 アメリカ・メキシコ国境地帯 ラレド上空 航空自衛隊 第8航空団第8飛行隊
空自から大型飛行艇キラーとして派遣されたF-2飛行隊の8機が、主翼内側にAAM-4B、外側にXAAM-6Aを装備して飛行していた。
《WatchWitchよりABELEリーダー、正面200マイル、敵大型飛行艇12、武器使用自由》
『了解、射程に入り次第AAM-4を斉射、目標の振り分けはデータリンクに従え。ただし、1発だけXAAM-6を発射する』
彼らの任務は大型飛行艇狩りである。
確実性をとってAAM-4で障壁を作動させ、消失後にXAAM-6を撃ち込むという従来の米軍と、ミサイルが変わっただけで全く同じ作戦だが、直接XAAM-6を撃ち込んだらどうなるか確かめようというための1発である。
敵を誘い込んで殲滅するために、罠と思われないように盛大に歓迎する。
言うのは簡単だが、引きながら戦うというのは難しい物である。
結果として、安全に後退するためには、最大限の火力投射を行い、一時的に敵を引かせて、その隙に後退する、という方法を多用することになるので、各国の航空部隊も全力出撃であった。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州ラレド
「敵の抵抗が苛烈になりました。本拠地が近いのかもしれません」
これまで見えないところからの攻撃ばかりだったのが、以前のように直接対峙しての抵抗が突然現れたのである。
「良いことです。本拠地に神の秘跡を示してあげましょう」
聖女の顔に暗い笑みが浮かぶ。
眼下の市街では、大量の敵兵器を撃破したと、歩行戦車部隊や歩兵が気勢を上げていたが、実際にはそのほぼ全てがエンジン不調等で放棄されたM60であった。
特に意図したことでは無かったのだが、敵は多大な損害を負って敗走したという印象を与えることになり、意図的な後退を欺瞞するのに役立っていた。
もっとも、死体が無いのだから気付きそうなものだが、ここ最近一方的にやられるだけだったところに(見かけの上での)勝利である。
そして、そもそも考える頭を持っている人間は飛行艇に乗っていて降りてこない。
「しかし、大型障壁の外に出た飛行艇は全て撃沈されました。手痛い損害です」
メキシコシティを出発してから、すでに兵力は半減といっていい状態である。
そんな中でも、飛行艇だけは温存するために大型障壁の範囲内から出さずに来たのだが、敵地上兵力が現れたので、その援護のために範囲外にも展開したら、範囲外に展開したものは例外なく撃沈されたのである。
「それが何か?」
そして相変わらずのごり押しだけで損害は顧みない聖女。
かつてはそれでも問題なかったが、今は補給が無いのである。
「そろそろ物資も心許なくなっています。敵の本拠は神の秘跡を示す場にするのではなく、聖者の教えを広める新たな基点とするためにも、占領を前提にしてはどうでしょうか。敵の抵抗も以前ほどではありませんし」
「ふむ」
宗教バカで復讐に目が曇ってはいても、生粋のバカというわけでもない聖女は、司教の進言に考えを巡らせる。
確かに、今後のことを考えれば拠点は必要である。
それを神の教えに反逆した愚か者たちの拠点の上に築く、というのは聖者タスマンの行いにも合致する素晴らしいことだと聖女の頭の中では結論付けられた。
「それは良い考えかもしれませんね」
「では、」
「とはいえ、敵の抵抗次第では神の秘跡を示し、その上に新たな神の教えを広める都を造ることも必要でしょう」
結局、何も変わってねぇじゃんと司教は心の中で思ったが、表には出さない。
「進みなさい!聖者タスマンのお導きです」
お前それしか言わねぇじゃんと司教は思ったが、やはり顔には出さないのだった。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ
空軍基地に設けられた臨時現地作戦司令部では、その設けられた仮設コンテナ型の事務所やテントの数の割に、人の気配があるのは輸送機のメンテナンスのために建てられている航空機メーカーの巨大格納庫内の一角だけだった。
元々の航空基地としての機能を停止させて設けられた司令部には、イギリス軍やシンガポール軍、オーストラリア軍の各地上戦力や、州政府、警察、消防、テキサスレンジャーやハイウェイパトロールなど、テキサス州に存在する法務執行機関など、多数の人間がいたのである。
しかし、敵の侵攻に伴い、サンアントニオを決戦の地とするべく、市街地を無人にするという作戦方針にのっとり、一般市民を(半ば強制的に)避難させていく過程で、地上戦力はメキシコ国境に向かい、それ以外は徐々に後退していったのである。
とはいえ、住民避難が完了していない現状では、元の人員からすれば雀の涙とはいえ、それなりの人員が各部門残っていた。
「「「避難が完了していない!?」」」
さて、我々もそろそろ、と後退してヒューストンに移ろうと腰をあげようとしたテキサスレンジャーのD~F中隊の中隊長は、警察からの報告に声を揃えた。
「ちょっと待て、どういうことだ。避難完了と30分前に聞いたばかりだぞ」
その声を聞いて、陸軍州兵の師団長も声を上げる。
「それが、国際空港で飛行機に乗れなかった避難民約5000人が取り残されていると空港警察から連絡が・・・」
「5000人!?なんでそんなにいるんだ!」
「チケットが無いのに空きを期待して空港にいった市民もある程度いるようですが、敵の侵攻が早かったので飛行禁止空域の設定が早まって、最終5便が欠航になったようです」
すでに避難便を全て送り出して閉鎖されたはずのサンアントニオ国際空港に大量の一般市民が取り残されているという報告に、司令部は騒然となる。
「空軍に行って民間便を入れさせるか、輸送機を手配できないのか!」
「無茶言わないでください。この上空を一体どれだけの作戦機が飛行してると思います!?綿密な作戦計画を組んであったから事故なく回せているだけで、そこに大型機を数十機いれろなんて、事故が起こっても責任もてませんよ!?」
兵力が健在な米空海軍に加えて、日英加豪からも空軍戦力が参加して出撃と補給を繰り返しているのである。
数百機の軍用機が飛び交っている中で、空中衝突防止装置もなしに完璧に空域管制するなど困難である。
いや、そもそもTCASがついていたところで、回避した先で衝突する恐れすらあるが。
空中回廊を設けて、出撃基地に応じて出撃機と帰還機の高度を完全に分けることで衝突を防いでいるのである。
そんな空中回廊だらけの中に離着陸する機体を放り込もうというのは無茶である。
「自家用車でもレンタカーでも使わせて陸路で逃がすしかないだろ!」
「だが道路は全て封鎖したんだぞ!」
「まだ避難完了連絡から30分だ!急いで連絡して281号線の封鎖を中止させろ!とにかくジョンソンシティにでも逃がすんだ!」
急遽予定外の5000人を避難させるために、撤収ムードだった司令部は再び慌ただしくなったのだった。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ郊外 ルート281
ルート281が高架になって一般道と交差するインターチェンジから少し離れた建物の屋上に、陸軍州兵の工兵隊が集まっていた。
ルート281はまっすぐ走ればいずれカナダに着く、アメリカを南北に貫く幹線の1つである。
彼らの任務は、敵の侵攻を阻害しサンアントニオに押しとどめるため(効果が有るか微妙だが)、道路破壊を行うことである。
その上で地雷まで設置して、この方面に敵が来ないようにしようというのである。
サンアントニオを大きく包囲するには地上兵力が足りないが故の苦肉の策である。
30分前に避難完了の報告を受けたので、あらかじめ設置してあった爆薬に起爆装置を接続し終えたところである。
で、誰がスイッチを押すかで揉めていたのだが、無事にコイントスで勝敗が決まり、先任兵長が押すことになった。
「爆破するぞ!」
兵長の掛け声で、全員耳を塞ぎ、口を開ける。
轟音とともに高架道路は崩れ落ち、インターチェンジを瓦礫の山へとかえる。
歓声をあげる工兵達に水を差すように無線が鳴り響く。
『中止!中止!中止!爆破を中止せよ!繰り返す、爆破を中止し、別命あるまで待機せよ!』
それを聞いた工兵達は、誰ともなく、え、どうすんのこれ、という空気になって沈黙が満ちた。
次は土曜日に出来たらいいなと思ってます。
思ってるだけなので一応一週間見といてください。