黒い鳥
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ 現地作戦司令部
空軍の訓練基地だった飛行場に設置された防御陣地は、激しい砲声に包まれていた。
防御陣地の兵力は、司令部に残った州兵陸軍100名足らずと市長、警察署長。
それに加えて、勝手に合流してきたテキサスレンジャーのSWATチームと国境警備チーム、いつの間にかいた市警のSWATが1班と、あと自前の銃を持ってどこからか集まってきた民間人である。
追い返すのも面倒だし、そんな時間も無駄だから、指揮下に入るなら好きにさせようということになっていた。
それに対して敵は数万規模で押し寄せてくるのだから、防御陣地があっても押し潰されていないのは奇跡である。
もっとも、それは野砲や航空機の火力支援があったからこそであり、すでに敵の大規模障壁の範囲内に入ってしまった現状では、防御陣地に設置された5基の対空機関砲が頼りであった。
射撃のたびに砲身が後退する40mm機関砲は、その砲身から煙を上げており、近くにいるだけで砲身が灼けているのを感じられるような状態である。
要するにいつぶっ壊れてもおかしくないのだが、射撃を止めるわけにはいかず、砲手や装填手は砲と心中するつもりで撃ち続けていた。
敵歩行戦車には機関砲を撃ち込んで障壁を作動させ、その後、TOWを撃ち込んで撃破する、という戦術で対処していたが、如何せん州兵の倉庫で眠っていた兵器を引っ張り出してきたものなので、足りない分はM202やLAWで補うしかない。
AT-4ですら貴重というのが彼らのおかれた状況を物語っていた。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ 市街中心部地下駐車場
普段なら賑わっている地下駐車場も今は1台も車がいない。
そんな中を、油圧式のハンドリフトで何かを運んで設置している、防護服に身を包んだ集団がいた。
市内に誘い込んだ敵を吹き飛ばすための核弾頭を設置している陸軍工兵である。
もっとも、扱うものがものなので、それと別で正体不明の部隊も一緒だったが。
「接続完了」
設置されているのは搭載ミサイルが廃棄されて保管状態になっていたW84核弾頭である。
市内のビルの上に複数の中性子爆弾を設置するのがいいのではないか?という意見が強かったのだが、「無い物は設置できない」というしごく単純な理由で市街地ごと吹き飛ばす作戦計画になっていた。
弾頭威力150kt。
メキシコシティを吹き飛ばした敵の核爆弾に比べれば可愛いものだが、これを敵大型障壁の内側で2個同時起爆することになっている。
この地下駐車場で1つ、そしてその上のビルの屋上で1つ。
起爆は時限信管によって行われるようになっているが、一応中止コードを入力すれば途中で止められるようになっている。
まぁ、その場合、誰が止めに戻るのか、という問題があるが。
「タイマーセット」
「タイマーを10800秒に設定」
「地下設置班、用意良し」
『了解』
地下のせいで感度は悪いので、屋上から線を垂らすことで有線で交信している。
『屋上設置班、設置完了』
「時刻合わせ、10秒前」
『「5秒前、3、2、1、スタート」』
タイマーが時を刻み始める。
「作動確認、これより退避する」
『了解、こちらも退避する』
屋上班はそのままヘリで退避、地下班は陸路である。
彼らが逃げ遅れた市民と、それを逃がすために市内で交戦している部隊の存在を知るのは、地上班が市街から出たルート90で自家用車で避難する車列を見かけてからである。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ サンアントニオ駅
戦線が現地司令部の置かれた空軍基地に到達したという情報は駅を警備する部隊にも届いていたが、まだ駅は避難民で溢れかえっていた。
敵が市街地に入った時点で運行を停止すると言っていた鉄道会社も、なんだかんだ言って運行を続けてはいたが、中心街を敵との戦線方向に向かって迂回してから向かうオースティン方面は単線なこともあり打ち止め、ヒューストン方面に向かう路線は複線だし、サンアントニオを出てまっすぐヒューストンに向かうので運行は続けられそうだが、車両がもう無いのでピストン輸送の車両が戻ってくるのを待つ必要があった。
詰め込めるだけ詰め込めば2本でなんとか運びきれそうではあるが、問題はそれまで敵が待ってくれるかどうかである。
駅の警備にあたっていた州兵と市警SWAT、市内パトロールの後そのまま居座ってる警察官たちは、密かに最悪のケースを考えて斥候を出すことに決めたのだった。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国テキサス州サンアントニオ 現地作戦司令部
「HAHAHAHAHA、逃げる奴は全くいねぇ!逃げない奴はよく訓練された敵だ!全くサンアントニオは地獄だぜ!」
M60をバリバリ連射しながら市長が叫んでいる。
「さすが市長!やりますなぁ!」
「1968年のダナンを思い出すな、市長!」
市長におべっか使っているのは勝手に武装して合流した歳食った市民達である。
ちなみに、全員ベトナム帰還兵で、市長のM60は正確に敵歩兵をなぎ倒していたので、州兵もドン引きしている。
「爺さん達もやるな」
「・・・」
そんな騒々しい集団の横で、お喋りな観測手と、黙々とボルトアクションライフルを撃っている男はアフガン帰還兵である。
他にもイラクや湾岸の帰還兵もいる。
「現役が退役した爺さんに負けてんじゃねぇ!撃ちまくれ!」
爺さんと言われる覚えのないイラクやアフガンからの帰還兵はむっとしていたが、それ以外は気にした様子もなく撃ち続けていた。
「師団長!もうすぐTOWが尽きます!」
障壁が無くても突起物が多い歩行戦車はHEATと相性が悪い。
州兵が持っていた保管期限間際か超えてるようなTOWなので、勿論、スラットアーマーや中空装甲対策のタンデム弾頭なんて洒落たものではなく、スタンダードなHEATの単弾頭では有効打にするには確実に本体に撃ち込む必要があるのである。
結果的に1輌撃破するのに複数発撃つことが多くなるので、ただでさえ少なかったミサイルを撃ち尽くしたようだ。
トップアタックが可能なFGM-148なら確実に本体に命中させることも可能だろうが、無い物は無いのである。
「ここまでか」
現状、敵の歩行戦車を撃破できているのはTOWだけである。
それが尽きれば、歩行戦車を止める術はなくなる。
火力支援も航空支援も望めない現状では、残された道は玉砕か撤退である。
「撤退準備」
師団長のその言葉に、爆薬を持った兵士が散って行く。
鹵獲を防ぐために放棄していく機関砲やミサイル発射機などを破壊するためのものだが、それにしては過剰な量であるし、民間の解体作業や炭鉱で使用するダイナマイトまで含まれている。
要するに、「時限式やブービートラップにして敵も一緒に吹き飛ばそう!」というわけである。
「バカを言うな!まだ避難完了の報告は来てないぞ!」
師団長の撤退の言葉に、市長が手を休めて反論する。
「もうここではこれ以上戦えません。市街地に敵を引き込んで戦うしかないでしょう」
要するに建物の影から接近してC4でも貼り付けて戦車を撃破しようという狂気の作戦である。
「それに、どうせ死ぬまで戦うなら、ここよりも相応しい場所があるでしょう」
にやり、と笑って言った師団長に市長もにやり、笑い返す。
「若造の癖にロマンがわかってるな!気に入った!うちに来て妹をファックして良い!」
「あ、それは結構です」
市長の年齢を考えて思わず素で返す師団長。
「では、事前の作戦通りに、爆薬を設置したら各員乗車して散開!合流地点は」
「「「「「アラモ!」」」」」
元々合流地点はドライバーにしか知らせていなかったのだが、全員がそこしかねぇだろ!と声を揃えた。
コードネームなどではなく、正真正銘のアラモ砦。
そこが彼らの定めた最終防衛線である。
新世界暦1年9月10日 アメリカ合衆国ミズーリ州 ホワイトマン空軍基地
《This is Reaper02, WhitemanControl, request to take off》
《WhitemanControl, Reaper02, Runway19 cleared for take off. Good luck!》
短いやり取りのあと、滑走を開始する特異な形をした黒い機体。
やがて離陸速度に達した機体は、ゆっくりと空へ舞い上がる。
高価すぎて21機しか造られなかった爆撃機の7番機。
”Spirit of Texas”は自らにつけられた名前の大地を灼くために離陸した。
次回は土曜日か金曜日(予定)
いい加減にアメリカの話終わりてぇなぁ