1.好事家の愁訴
お久しぶりのエルメントです。今年も「死霊術師」をよろしくお願いします。
駆け出したぁ言え死霊術師なんかやってるとな、本業たぁ少し違う仕事なんかも引き受ける羽目になる事があんのよ。ま、浮世の柵ってやつだわな。
今日話すのもそういった畑違いの仕事の話なんだが……ほれ、例の四バカどもとあわや出っ会しそうになった、テフェンでの騒ぎの直ぐ後の事だ。
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「呪いの花瓶……ですかぃ?」
その日、俺は知り合いの大店のご隠居に呼ばれて、その隠居所へやって来ていた。
……ってぇか、元々この町にゃご隠居――ニルスって名前なんだがな――から呼ばれて来たんだよ。ご隠居の隠居所がテフェンの町外れにあるんでな。そこを訪ねようとしてた矢先に、あの騒ぎに巻き込まれたわけだが……話を進めるぜ?
ニルスのご隠居は骨董とか珍品とかに目が無くてな。俺ぁふとした事で知り合ったんだが……どういうもんか気に入られて、ちょくちょく仕事を廻してもらってる。
ただなぁ……その仕事ってのが……
「あぁ。知り合いの骨董屋で見つけたんじゃがね。何でも、どこぞの墓を曝いて掘り出したものだとか」
「……そりゃ、盗掘品ってやつじゃねぇんですか?」
おぃおぃ……骨董道楽なのは知ってたけどよ……仮にも良いとこのご隠居が、そこまで行っちまったら拙いんじゃねぇか?
「何、飽くまでそういう話があるだけじゃ。立証された事実ではないから、何の問題も無いわぃ」
「然様で……」
いや……〝何の問題も無い〟んなら、俺が呼ばれる事も無かっただろうによ。
「ただまぁ……この花瓶を手に入れてからというもの、頭や腰が痛くての。朝起きても疲れが抜けずに残っておると言うか、張りや凝りがあると言うか……何となく身体が重い気がするし、寝起きもスッキリせんでのぉ。……おぉ、夜半に呼吸が苦しくなって目が醒める事も何度かあった」
おぃおぃおぃ……
「……そりゃ……控えめに言っても善い話にゃ聞こえねぇですが……?」
「うむ。婆さんや息子も気に病んでおってな。何ぞ悪いものでも取り憑いておるのではないかと」
「……ご隠居本人はお気になさらねぇんで?」
「肩凝りや腰の痛みの一つや二つ、この歳になれば当たり前じゃろう。若い頃ほど疲れが取れんのもの」
「……それでも、この花瓶とやらを手に入れる前は、そんな事ぁ無かったんじゃありませんかぃ?」
「うむ……大体そのくらいから始まっておるようじゃが……」
そりゃ、ご家族が心配するのも当然だわな。
「そこで、じゃ。この花瓶が真実呪われておるのかどうか、エルメント君に確かめてもらいたいんじゃよ」
おぃおぃ……そりゃ畑違いってもんだぜ。
「ご隠居……前にも言いましたがね、俺ぁ死霊術師ですぜ? 魔術師でも神官でもなくて。呪いを解いたりは死霊術師の仕事じゃねぇんですけどね」
「それは解っておるが、エルメント君とてズブの素人ではないじゃろう。死者の呪いとかいうものもあるわけじゃし、亡者が関わっておる事なら、遍く死霊術師の領分ではないのかね?」
「また……随分と無茶をおっしゃいますね」
以前ご隠居が手に入れた品に悪霊が取っ憑いてた事があって、そいつを祓ってやってからというもの、この手の仕事は俺に振るもんと心得てるみたいなんだよなぁ……いや、仕事を廻してもらえるなぁありがてぇんだが……
どうせ神官とかに説教されるのが嫌さに、顔なじみの俺を使おうって肚なんだろうが……悪霊憑きと違って、呪いとか解呪とかは専門違いだし、俺も詳しかぁねぇんだけどなぁ……
……てか、この花瓶ってのをどう見ても、悪霊とかの気配はしねぇんだよな。
いや……そもそも、こいつは本当に花瓶なのか? 花瓶にしちゃ首の部分が細長過ぎる気もするし、両の肩から口にかけて持ち手みてぇなもんが伸びてるし……
赤茶色の地肌に黒で絵が描いてあるところなんざぁ、中々乙なもんだが……花を飾る器にしちゃ地味じゃねぇか?
……こいつが花瓶でねぇとすると、本来の用途から調べねぇと、肝心な事を見落とすかもしれねぇな……
「……まぁ、試しにやってはみますけどね。端から畑違いの事なんで、上手くいかなくても、お腹立ちは勘弁願いますぜ?」
――てな次第で、俺ぁ畑違いの仕事に取りかかる事になったわけだ。