38.獣人たち、部屋割りを決める
いつもお世話になってます!
子どもたちとかくれんぼをした、その日の夜。
明日、引っ越しの作業が行われることになっている。
引っ越しバイトとして、ケインが人員をこちらに寄こすことになっていた。
バイトとしてくるのは、なんと10人。
10人も来てくれるので、俺はクゥに頼んで、業者を手配しないことにした。
またバイトとして来るメンバーのリストが、ケインからフクロウ便で送れてきた。
その中にはなんと、マチルダの名前があった。
マチルダも手伝いに来てくれるみたいだ。わざわざ遠いところから、ありがたい。
さて引っ越しを控えてその夜、新・孤児院の1階、ホールにて。
獣人の子どもたち、キャニス、コン、ラビ、レイア、そして鬼姉妹あやねアカネが、神妙な顔で、ホールのソファに座っていた。
ホールには革張りのソファがいくつか置いてある。ソファの近くにはテレビ、本棚がおいてあり、ちょっとした娯楽スペースになっている。
そして子どもたちはソファに座っている。
大きめのソファが、テーブルを挟んでふたつある。
片方に獣人たちが、もう片方に鬼たちが、座っていた。
「さて、話し合うです……」
「そうだぁねー……ぇ」
否、違った。
鬼側に、鬼じゃない子がひとりだけいた。
「はわわ、ケンカはやめようなのです……」
おろおろしながら、ラビがキャニスと、そしてあやねを見て言う。
「ラビが、どっちの部屋に来るか、きめるときです!」
俺は子どもたちの話し合いを、ちょうど真ん中の小さめのイスに座りながら、見守っている。
「キャニス、これはいったいどうしたんだ? 俺はなんでこの場に呼ばれたんだ?」
いぬっこキャニスに俺が尋ねると、
「おにーちゃんは議長でやがるです!」
「議長……? なんの?」
「だからぁ、ラビがどっちの部屋に来るかのかいぎでやがるですっ」
「どっち……?」
何の話をしてるんだろうか、この子らは。
確かこの子たちは、部屋割りで少し揉めていた。
子ども部屋は4つある。そして子どもは6人。
俺は3-3になるように配分して、残りの2部屋は空き部屋にすれば良いと思っていた。
桜華の赤ちゃんたちが、大きくなったら、そこを使えるようにと。
「にぃわかってない。3-3で、どーわけるかで、もめもめしてるの」
キャニスの隣に座るコンが、俺を見てそう言う。
コンは自分の口元に、きつねのフワフワとしたしっぽを乗せていた。「それは?」「おひげ」だそうです。
「3-3で揉める……ああ、ラビがってそういうことか」
つまりだ。
6人を3-3でわけるとなると、種族での不均等ができてし会う。
獣人は4人、鬼族は2人。
3-3でわけるとなると、獣人がどうしても、ひとり鬼族のほうへいかないといけない。
では誰が行くか……?
多分ラビなのだろう。
「ラビちゃんはー……ぁ、おいらたちといっしょの部屋にきてほしいなー……ぁ。ね、アカネちゃー……ん」
ポワポワ笑いながら、妹に尋ねるあやね。
鬼族たちの並びは、あやね、ラビ、アカネ……という、ラビを真ん中に据える座り型だ。
「ん。ま、まぁな。ラビちゃん……いいやつだかんな。がさつなキャニスと違って」
アカネがそっぽ向きつつ、そんなことを言う。
実はこの3人結構仲が良い。
気の強そうなアカネは、実は思ったほど活発でないし、気も強くない。どちらかというとラビと同じ系統、気弱で、お姉ちゃん子な大人しい目の子どもなのだ。
ポワポワしてるあやねは言わずもがな。
そう言う意味で、鬼姉妹とラビはインドア派。キャニスたちはアウトドア派、ときれいに3-3で別れてる。
なのだが……。
「だめでやがるです!」
「そぉだぁ」
と主張するのがキャニスとコン。ちなみにレイアはグースカ寝てる。マイペースすぎる……。
「ラビはぼくらのなかまでやがるです!」
「しょきめんばー、ぞろとか、うそっぷとか、そーゆーの」
「だからラビはぼくらのところに来いやです!」
「あくまのみなくても、はきがつかえれば、いんふれについてけるからだいじょうぶだよ」
どうやらキャニスとコンは、ラビを取られるのがいやみたいだ。
確かに3人は、昔から長い付き合いがある。
鬼姉妹より長い時間一緒に過ごした仲間……。なのにあやねたちの部屋に行こうとしているのが……ということらしい。
「ンだよ、アタシら鬼は仲間じゃねーっていいたいのかよ、キャニス」
「そんなこといってねーです! なんでそんなはなしになりやがるです! おめーらもともだちでやがるです!」
「お、おう……。そっか。あんがと……」
「おうです!」
どうやらキャニスは、アカネたちのことも仲間として認めているらしい。
まあ最初から仲良かったが、今日まで共同生活を送ったことで、さらに絆は固くなってるみたいだった。
「じゃあ6人で一緒に生活するのは……難しいか」
子ども部屋は10畳くらいある。
3人の子どもなら、余裕で暮らせるだろう。ただ6人となると、ベッドも机もおかないといけないので、なかなか難しい。
「アタシらを仲間って思ってんなら、べつに部屋は3-3でいいじゃねーかよ。ラビちゃんはアタシたちの部屋でくらすんだよ!」
「いーや、ラビはぼくらとずっと一緒じゃねーとだめなんです! ラビがいねーとぼくはいやでやがるんです!」
キャニスとアカネによる口論がヒートアップしていた。
「これはー……ぁ、困ったねぇー……い」
うーん、とあやねが首をかしげる。
「ラビはどーなんですっ!」
とキャニスがラビに話しを振るう。
「おめーはアカネとキャニス、どっちが……」
とそこでキャニスが口を止める。
「ぐす……。ぐす……。うぇえええん…………」
ラビが泣き出す。
俺は立ちあがってラビを抱き起こし、よしよしとあやしてやる。
「ら、ラビ……?」
「どーしたの、おなかいたいの? えびおすのむ?」
「ラビちゃん……ど、どうしたんだよ。大丈夫かよ……?」
不安げに眉を八の字にする、子どもたち。
「ケンカはぁ……ぐすっ、いやなのです……。うええええ…………ん」
ラビが俺に抱っこされながら、鼻を啜りながら言う。
「らびはぁ……みんな仲良しが良いのです……。キャニスちゃんも、アカネちゃんも、けんかはやめてよぉ……」
えんえんと泣くラビに、獣人たちは耳をぺちょんと垂らす。鬼族たち……というかアカネが「びえええええん! ごめんねラビちゃあああんっ!」と泣いていた。
よしよし、とアカネの頭を撫でるのは、姉鬼のあやねだ。
「おいらもけんかは、よくないとおもうよ。みんなともだちじゃん。だれがだれをとるとか、やめようよ」
普段のんびりした口調のあやねだが、このときばかりは、しっかりと自分の気持ちを口にしていた。
「す、すまねえ……ラビ、アカネ」
「ごめんなさい」
ぺこり、とキャニスとコンが立ちあがって、てこてことアカネのそばへ行き、頭を下げる。
俺はラビを下ろしてやる。
アカネ、キャニス、コンの3人が、ラビの元へ行ってごめんなさいする。
「良いんです。みんながなかよしなのが、らびはいちばんうれしいのです」
にぱー、っと笑うラビ。
ごめんねと言い合う子どもたちをみながら、さてと俺は立ちあがる。
「どこいきやがるです?」
「ん、ああ……ちょっと問題を解決しに行ってくる」
「「「問題?」」」
首をかしげる子どもたち。
俺は1階ホールを後にして、東側の階段を上って、2階へ向かう。
廊下を渡り、2階東ブロック、つまり子どもたちの部屋がある場所までやってきた。
「にーさん、いったいなにをするのです?」
気づけば子どもたち全員が、俺の後ろに立っていた。
「ようするに部屋が2つあるから問題なんだろ?」
俺は片側、【子ども部屋1】の部屋に入る。
入って左側にベッドが並んでいる。右側の壁には何もない。
引っ越し前で良かった。これで荷物が増えたら、作業が面倒になっていた。
「ようするにさ、この壁が邪魔なんだろ」
右側の壁をはさんで向こう側には、子ども部屋2がある。
「ならこの壁をどうにかすりゃ良いわけだ」
俺は壁に手をついて、【成形】の魔法を使う。
これは無機物の形を、自在に変えることのできる魔法だ。
これを使って、俺は壁に大きめの、長方形の穴をつくる。
完全に壁を消すと、建物全体のバランスが崩れてしまうだろうから、壁に対してぎりぎりの大きさの穴を開ける。
穴の周囲の壁に、【硬化】の魔法をかけて、穴から壁が崩れないよう強化する。
「「「おー!」」」
これで2つの部屋が、穴を開けたことで、1つの大部屋へと早変わりした。
「でっけー!」「ひろしのはらか」「これならっ! みんないっしょですー!」
嬉しそうにラビが笑う。
「にぃさん、ありがとうなのです!」
ラビはぴょんと跳び上がって、俺の胸に飛び込んでくる。
よしよしとラビの頭を撫でてやると、子どもたちが自分も自分も殺到してきた。
とまあ、こうして、子どもたちの部屋割りは決まったのだった。
いよいよ明日は引っ越しだ。
人手もあるし、まあ楽に終わるだろう。
お疲れ様です!
すみません、マチルダさんの引っ越しの話は次回になります。引っ越しの前じゃないと、この話書けないかなと思いまして。
次回こそ引っ越しのバイトにマチルダさんが来る感じになります。10人の予定がおやマチルダさんしか来ないぞ……しかも雇ってくださいったなに?みたいな感じになると思います。
以上です!
ではまた!