56.子猫のいる孤児院の様子
いつもお世話になってます!
子猫のクロを飼うことになった、翌日。
孤児院のなかは、にわかに猫ブームが起きていた。
「や~~~~~~~~ん♡ かわい~~~~~~~~~~♡」
午前中。
1階ホールにて。マチルダが子猫のクロを見て、いやんいやんと体を捩っていた。
今日は朝からまた雨だった。だからこどもたちは、1階ホールで漫画を読んだり、ゲームしたりしている。
ソファに座っているレイアの、その頭の上に、子猫のクロがふせの状態で座っている。
「ふっふーん。でしょう? くろはとってもかわいいのよっ」
レイアがふふん、と胸を張る。
「いいな~♡ かわいいー……。ねっ、ねっ、レイアちゃん。私にもクロちゃん、触らせてくれないっ? おねがいっ!」
ぱんっ、とマチルダが顔の前で手を合わせて、竜人に頼み込む。
すると周りにいた子供たちが、ぴたりと動きを止めて、
「あー……」「しろうとかー」「はわわ……まちるだおねえちゃん……」
となんだか子供たちが、マチルダに哀れみの視線を向けている。
「どうしたの、みんな?」
子供たちの態度が気になって、マチルダがそう尋ねる。
「いやー、なんでもねーです」「なにごともけいけんか。しっぱいもまたいいくするになるからね」「コンちゃんカッコいいセリフなのですっ!」
うんうん、と子供たちだけが、訳知り顔でうなずいている。
「な、なんだろー……。もうっ、みんなおしえてよっ」
「いや、まちるだはいちどしっぱいしとけやです」
「しっぱいはおそれちゃだめ。どんと、びー、あふれいどぅ」
グッ! とキャニスとコンが、親指を立てる。
「?」
「いいわよ。クロ、ほらあんたちょっと降りなさい」
首をかしげるマチルダをよそに、レイアが頭の上から、クロをつかんで下ろす。
「みぃー……」
不満げに声を上げるクロ。レイアは「はいマチルダ」と言って、黒猫を受け渡す。
マチルダはニパッと笑って黒猫を受け取る。
「わ~♡ かわいいな~♡」
「……………………みー!」
そのときだ。クロが歯を剥いてうなる。
次の瞬間、カプッ! とマチルダの手の甲に、かみついたのだ。
「あいたっ」
マチルダは思わず手を離す。クロが自由落下するが、その前にレイアが竜のしっぽで受け止める。
「みー♡」
クロはさっきと態度を一転させ、レイアのしっぽを伝って器用に頭の上に乗っかると、ほっ……と安堵の表情を浮かべる。
「あーやっぱりなです」「あるあるだー……ぁね」「あるあるたんけんたいだね」
マチルダの様子を見ていたキャニス、あやね、コンが、訳知り顔で頷いている。
「うう……どうして~……」
半泣きのマチルダ。
「よすよす、なかないの」
「ま、マチルダおねえちゃん、ないちゃだめなのですっ。らびもおなじことされたのですっ」
コンが彼女の肩に乗っかって、きつねのしっぽで頭をなでる。
ラビがマチルダの腰にしがみついて、慰めの言葉を継げる。
「あの子ねー……ぇ。ちょー……ぉっときみずかしいんだー……ぁ」
「そうなの?」
あやねの言葉に、子供たち全員がうんうん、と頷く。
「れいあいがいのやつに、なつかねーんです」
「そうなの?」
キャニスの言葉に、子供たちがうんうんうん、と頷く。
「みー♡」
見やるとクロは、するりとレイアの肩に乗ると、ぷにぷにのほっぺに頬ずりしている。
「ちょっとやだっ、やめなさいよっ。もう、あんたの舌ざりざりしててっ、痛いんだからぁ♡」
ぺろぺろ、とクロがレイアの頬を舐めている。確かにレイアへの態度と、さっきマチルダが触ろうとした時の態度とが、まるで違っている。
「なんでレイアちゃんだけあんなに懐かれてるのかな?」とマチルダ。
「さぁ?」と子供たち全員が首をかしげる。
「でも……みんなはそれでいいの? レイアちゃんにだけしか懐かないのに?」
マチルダがレイア以外の子供たちに尋ねる。
すると……。
「「「いいー!」」」
と喜色満面で、子供たちがうなずいた。
「あのちょっと気のつええとこがすっげーかわいいでやがるです!」
「ふだんのつんつんしたたいどが、れいあのまえだとでれてる、あのつんでれなとこがよい」
「えと、えと、あんまりさわらしてくれないけどっ、みてるだけでかわいいのですっ!」
どうやら子供たちは、あの猫のちょっと排他的なところを気に入っているようだ。
「言われてみれば……そうだねっ。みんなの言うとおりだっ!」
マチルダも子供たちと同じ意見のようだ。そ、そうなのか……。俺にはちょっとわからん。
これが女と男の美的感覚の違いというやつなのだろうか……?
「れいあっ、れいあっ、ぼくにだっこさせろやですっ!」
キャニスがぴょんぴょんと飛び跳ねて、レイアにおねだりする。
「きゃにす、おぬしきょうもいどむというのか?」
「ま、またひっかかれちゃうのです~。あぶないよ~」
コンが目を見開き、ラビは目を><にしている。
「ったりめーですっ! なんどだっていどむっ! です!」
するとキャニスの果敢な姿に、子供たちが「「「おー!」」」と感嘆の声を上げる。
「さすがきゃにす。われらがりーだー」
「キャニスちゃんはかっこいいのですー!」
「ゆーもーかかんてやつだー……ぁね」
「お、おいあんまあぶねーことすんじゃねーぞキャニス。また顔中ひっかききずだらけになったらどーすンだよ」
妹鬼だけがキャニスを引き留めようとしている。
「だいじょーぶっ、ですっ! きずとかかんけーねーです! れいあっ」
「はいはい。クロ、ほらあんたをさわりたいってさ」
レイアは頭の上に乗っているクロを持ち上げる。
「みー! みー!」
クロはじたばたと手脚を動かし、抗議の声を上げる。よほどレイアのあの場所が気にっているようだ。それにレイア以外に抱かれたくないらしい。
「キャニスちゃん、ふぁいとなのですー!」
「おぬしのゆーし、しかとこのめでみとどめるぞよ」
子供たちが息を呑んで、キャニスの動向を見守る。
キャニスはレイアからクロを受け取る。そのままハグしようとするが。
「みー!!!」
かりかりかりっ! とクロがキャニスの手の甲をひっかいた。
「いってー!」
クロがぽと、とキャニスの手から落ちる。
「きゃ、キャニスちゃんっ。だいじょーぶなのですっ?」
たたたっ、と子供たちがキャニスの周りに集まる。俺も治療のために犬娘に近づく。
「ちっくしょー。まーださわらせてくれねーです」
にかっ、と笑いながらキャニスが言う。そこには悲しみの表情はなかった。無理難題に挑む挑戦者のような、かっこいい笑みを浮かべていた。
「でもぜってーだっこするでやがるです!」
ぐっ……と拳を握りしめるキャニス。
「キャニスちゃんかっこいいーのです!」
「やはりきゃにすはみーたちのりーだー。みーたちにできぬことをへーぜんとやってのける」
「そこにしびれるあこがれるねー……ぇい」
「なぬ、おぬしよんだのか?」
「最近ラビちゃんともじのべんきょしてるだー……ぁよ」
やんややんや、と子供たちがキャニスを褒める。その間クロは我関せずといった感じで、レイアの頭の上に乗っていた。
「あんたもうちょっときゃにすたちに触らせてあげても良いんじゃない?」
「みー♡」
いやです、みたいな感じで首を振るったあと、レイアの頭に頬ずりするクロ。
「「「いいなー」」」
子供たちが羨ましそうにレイアを見る。
「あんたちもすぐになかよくなれるわよ」
「はいはいっ、どーすればなかよくなれるのですっ?」
ラビがぴょんぴょんと飛び跳ねて、レイアに質問する。
「とゆーかれいあ、おめーどうやってクロとなかよくなったでやがるです?」
「「「たしかにー」」」
と子供たちがうなずく。
「んー、わっかんない!」
にかーっ、とレイアがスゴい良い笑顔で首を振るう。
「とにかくれいあからいえることはっ、これからもクロとなかよくしてねってことくらいねっ」
レイアは頭の上からクロを取り上げると、みんなのまえに突き出す。
「ほら、あんたも言いなさいよ。なかよくしてねって」
「みー……」
「えー……じゃないわよっ。もうっ、ひとりがさみしいんじゃなかったのっ?」
レイアがクロと仲よさそうに話すのを、子供たちが指をくわえて、羨ましそうに見やる。
「ぼくはあきらめーぞっ。おめーらもそうだよなっ!」
「もちのろんうぃーずりー」「らびもれいあちゃんみたいに、クロちゃんと仲良くなるのです-!」
「あ、アタシは別にどうでもいいし……」「とか言ってー……ぇ。さっきニボシだいどころからくすねてなかったー……ぁ?」「だ、黙れよ!」
キャニスの言葉に、子供たちがうんうんとうなずく。
どうやらクロと子供たちは上手くやってけそうだ。
☆
数時間後。
子供たちを昼寝させて、1階へと戻ってくると、ホールには鬼の母、桜華がいた。
「みー」
ソファのところに子猫のクロがいて、うつぶせの状態であくびをしている。
桜華は子猫の前にしゃがみ込んで、猫を見ていた。
「……にゃあ」
と、子猫の前で、桜華がそんなことをおっしゃる。
「みー。みー」
「……にゃあ、にゃあ」
「みー。みー。みー」
「……にゃあ、にゃにゃん、にゃー」
桜華が子猫と会話? している。
ちょっと楽しそう。桜華は笑顔だった。
熟女と見まがう美女が、猫に猫の言葉でニャンニャン言ってるのが、なんかいけないことさせてるみたいで、エロかった。
桜華はしばらくニャアニャア言った後、思い立ったように、懐から何かを取り出す。
「……にぼし、食べるかにゃー?」
クロの前に、桜華がニボシを差し出す。
「みー」
ぷいっ、とそっぽを向く子猫のクロ。
「……いらないのか、にゃー?」
しゅん、と桜華が肩を落とす。
「…………。みー」
すっ……と子猫が、そっぽ向いた状態で、右脚だけを出してきた。
「……食べる、かにゃー?」
子猫の前にニボシを置く。するとクロはつつ……と手を伸ばして、ずりずり、とにぼしを手元に引き寄せる。
クロはついばむように、煮干しを食べる。
その様を、桜華はニコニコしながら見ていた。
「……おいしい、かにゃー?」
「みー」
「……まあまあ、かにゃー?」
「みー」
会話になってそうでまるでなってない。
「……クロちゃんは、とってもかわいいにゃー♡ とってもとっても、かわいいんだにゃー♡」
それでも桜華は楽しそうだ。自作の歌を披露している。にゃんにゃんと言っててなんかかわいかった。
「みー」
子猫がにぼしを食べ終わる。すっ……と立ちあがると、もう用はないとばかりに、桜華の前を立ち去っていった。
「……あ」「あ」
子猫が2階へと上っていく。桜華と俺の視線が、あう。
「…………」
桜華の顔が、みるみるうちに真っ赤になっていく。
「……じ、じろーさん」
あわあわ、と唇を震わせる桜華。
「……そ、その。……こ、これは。……これは、ちがいます」
耳の先まで桜華が顔を真っ赤にしてぶるんぶるんと首を振るう。胸が追随するように、ダイナミックに動く。
たぶん桜華は、俺がさっきのにゃーにゃーいっている姿を見た、と思っているんだろう。
ここで見てないと答えるべきか。正直に答えるのはかわいそうだし。
まよった末に、
「き、気にすんな。すげーかわいかったから」
「………………ぁ、ぅ」
桜華は顔から湯気がでそうなほど、頬を朱に染めて、その場からダーッ! と逃げ出した。
西階段を登って、2階西ブロック、自分の部屋へと戻っていく。
「…………。やっちまった」
あそこは見てなかったと見て見ぬ振りをすべきだった。
俺は桜華に謝りに行こうと、西階段を上っていく。
そのときだった。
「かっかっか! いやー、アタシらのお母ちゃんは、かわいいねぇい」
「ほんと~♡ 5人生んだ親とは思えないほどじゅんじょ~ってかんじ♡」
2階の渡り廊下から、聞き慣れた女の子たちの声が聞こえた。
そこには鬼娘の一花と弐鳥がいた。渡り廊下の手すりに体重をかけて、1階を見下ろしていた。
長身長髪が桜華の娘、長女の一花。
短髪のロリ巨乳が、次女の弐鳥。
俺は階段を上りながら、彼女たちに言う。
「おまえら見てたのかよ」
「んっ。ばっちりさね」
「ママのにゃんにゃんいってるすがたかわいかったよね~♡」
ニコニコ、にやにや、と笑う鬼娘たち。
「おかあちゃんもまだまだイケるね。ベッドで猫耳とかつけてにゃんにゃんいえば、兄ちゃんはきっと野獣のようにお母ちゃんを襲うに決まってるさね」
「もうやばいよ~。朝から晩までにゃんにゃんしちゃう気がするっ。にゃんにゃんだけに~。きゃ~♡」
この子らちょっと母親を母親と思ってないところがある。同世代みたいな感じ。
「……ば、ばかなこと言わないのっ! もうっ! もうっ!」
どうやら桜華に聞こえていたらしい。ドアからちょっと顔をして、桜華が真っ赤になってそう言った。
「お母ちゃん、猫耳用意しておこーかい?」
「おしりにいれる猫のしっぽも用意しておくよ~?」
「……ふ、ふたりともあとでお説教ですっ。もうっ」
ぱたん、と桜華は自分の部屋へと引きこもってしまった。
「おまえら母親をからかうのもほどほどにな」
鬼たちと共同生活を初めて2ヶ月くらい。さすがにこの子たちが、悪意を持ってやってないことくらいは、わかるようになった。
「言われなくってもわかってるさね」
「あとでママにごめんねしておくね~」
そう言って、一花たちは母親の部屋の前へと歩いて行く。
「お母ちゃんごめんよー」「からかってごめんね~」
「……ふたりとも、反省してますか?」
がちゃり、と桜華がドアを開けて、半分だけ顔を出す。
「してるしてる」「してるしてる~」「……もう、反省してないでしょう。まったくこの子たちは」
「さっすがお母ちゃん。アタシらのことよくわかってるさね」
「あ、でもちゃんと反省してるよ。次からは手加減するから~♡」
きゃあきゃあ、と鬼たちが楽しそうにしている。俺はその様を見ていると、黒猫が階段をぽてぽて……と降りていく。
自分が嵐を起こしたというのに、まるで我関せずの様子だった。
☆
その夜。
食事をして、お風呂に入れたあと、子供たちを寝かしつける。
二階の子供部屋では、レイアのベッドに、子供たちが集まっている。
「レイアっ、ねるまえにぷにぷにしてーです!」
「んもー、しょうがないわねー」
頭に乗っかるクロを、レイアが下ろす。
「みー?」
「みんながさわりたいんだって。ほら、みんなと友達になるちゃんすよ」
「みー……」
「いらないじゃないわよ。ほらっ、みんなほらさわって!」
わー! と子供たちがクロに殺到する。
レイアはクロをあおむけに寝かせて、手を摘まんで、肉球を触りやすいようにする。
「ぼくがいちばんにっ!」「おいおいみーがさいしょでしょう」「ら、らびもさわりたいのですっ!」
わあわあ、と言い争う中、
「アカネちゃんほらー……ぁ。れいあちゃんがおさえてるからさわってごらー……ぁん」
「お。おう……。うわぁ♡ すげえきもちいい。ぷにぷにだあ」
「良かったぁー……ね」
鬼姉妹が先んじて、猫の肉球を触っていた。姉鬼と妹鬼が、ピンクの肉球を触っている。
「あー! ずっりー!」「ぬけがけするとはいいどきょー」「らびもさわるー!」
わぁっ、と子供たちがクロに殺到する。全員がぷにぷにと、クロの肉球を触る。
「みー……」
「がまんなさい。友達ふやしたいんでしょ」
「みー……」
レイアが保護者のように、クロに語りかけている。クロは不承不承といったかんじで、子供たちに触られていた。
一方で子供たちは、黒猫の柔らかな肉球にご満悦の様子。
「ぷにぷに~♡」「みーのしっぽとためをはる癒やし……♡」「はうっ、とってもやわらかいのですー♡」
ほへー♡ と子供たちが柔らかな笑みを浮かべる。
「みんな姉貴みたいな顔になってやがんぜ……」
「こんなふー……ぅ? ほへー……ぇ♡」
子供たちが猫に触れてほっこりしたところで、俺は声をかける。
「ほらそろそろ寝るぞ」
「「「ふぁー…………い」」」
全員が眠そうに返事をする。
レイアのベッドから降りて、めいめいが自分たちのベッドに入る。
「あしたこそはだっこしてやがるですー……」
布団に入って、キャニスが目を閉じる。
「ふぁぁー……。みーはまけぬ。このしっぽはにくきゅーよりもすぐれてること、しょーめい……ふぁー…………」
コンが布団を被って、自分のしっぽを抱いて、丸まって寝る。
「くぅー……。くぅー……」
ラビは入った瞬間に寝た。
「あ、姉貴ぃ~……。今日も一緒に……」
「うん、いいよー……ぉ。おいでー……ぇ」
妹鬼が姉のベッドへ行く。姉は横にずれると、アカネはそこへ横になり、ほっ……とした表情で目を閉じる。
全員がベッドに入ったのを確認し、俺は電気を消す。
「ぐー……。がぁー……」
レイアも気づいたら寝ていた。クロがその上に丸まって眠っている。そう言えば猫はああやって寝るのが好きみたいだ。アムもよくあのポーズを取っている。
「おやすみ、みんな」
俺は子供たちにあいさつをすると、その場を後にしたのだった。
お疲れ様です!そんな感じで孤児院みんなの様子でした。
子猫編はあと2話くらい書いて閉めようかと思ってます。予定なので変わるかもですが。レイアちゃんだけに懐く伏線回収して終わる感じかなと。
ではまた、