序章編ー8
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豪華なシャンデリアが室内を照らす一室に入ったハルトは香水の香りを嗅ぎながら赤いソファーに腰を下ろす。
「話とは?」
「率直に聞くけどユズキの様子はどうかしら?」
「いつも通りです」
「なら、いいわ。引き続き監視役として頼むわよ」
「……はい」
ユズキの全てを凌駕する圧倒的な力を恐れた四天王たちはその力が自分たちを脅かす前に彼女の力を封印した。
その封印が解けないよう監視する役目がハルトに与えられ、それがユズキのそばにいなければならない理由でもある。
ユズキ本人は力を制限されていることは知っているが、彼が自分のことを監視しているとは知らない。
「万が一封印が解けた場合、私たち四天王が黙っていないわよ」
「分かっています。封印が解けることは他の四天王様と同じくオレも望んでいませんから」
「本当にそうかしら?」
横目でハルトを見たクロウナは胸元が開いたセクシーな赤紫色のドレスをひらつかせながら彼の向かい側に座る。
「私の執事から聞いたけどユズキに異能を使わせたそうね」
それの言葉を聞いた瞬間、ハルトの瞳が鋭く変わる。
「どうしてそのことを」
「そう睨まないでほしいわね。偶然執事が見かけたのよ」
「本当に偶然ですか?」
「妹……あなたの本当の母親に似て疑ぐり深いわね」
クロウナの妹であるスワンナ・ディバマリスはハルトの本当の母であり、彼がまだ幼い頃に病気で亡くなった。
「偶然にしてはタイミングが良すぎるので」
「あなたが私を裏切るようなことをすれば執事にあなたを監視させるかもしれないけど今はその必要はないわ」
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「『ブラック・ロザリオ』と呼ばれ、恐れられていたあなたでも私には勝てないからよ」
10年前に別の国で起こった内戦に参加したハルトはその強さから仲間や敵国から『ブラック・ロザリオ』と呼ばれ、恐れられた。
今でもその二つ名は有名で伝説級になっている。
「昔なら私に勝てたかもしれないけど平和ボケした今のあなたは足元にも及ばないわ」
「確かに平和ボケしているかもしれませんが、ブラック・ロザリオの名は伊達ではないつもりです」
「あら、素敵な殺気ね。でも、今のあなたはチヨと互角かそれ以下よ」
「随分と自分の娘を過大評価しましたね」
「私の細胞から生まれた兵器だもの」
現在は国際法で禁止されているが、チヨはクロウナの細胞から生み出された人工異能者なのだ。
チヨはクロウナのクローンと言ってもいい。
「私の一言でチヨがあなたの敵になる可能性があることを覚えておきなさい」
「はい、お義母さん」
不機嫌な表情をして向かい側に座るハルトを見て舌舐めずりをし、邪悪に微笑むクロウナ。