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新武将・芋粥秀政 - 第六十一話 敵情、下調べ
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新武将・芋粥秀政  作者: 得生
第五章 伊勢惣奉行編

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第六十一話 敵情、下調べ

伊勢へ向かう前日。

秀政は、地図を広げたまま動かなかった。


「……やはり、見ておきたい」


ぽつりと漏れた声に、

側に控えていた村瀬兼良が眉を上げる。


「どこを、でございますか」


秀政は指先で、木曽三川の合流点をなぞった。


「長島だ。

 あそこを知らずに伊勢を治めるなど――

 片腹痛い」


村瀬は短く息を吐いた。


「危険な土地ですぞ。

 願証寺は砦同然、周囲は輪中の湿地。

 舟でなければ近づけませぬ」


「だからこそ、だ」


秀政は地図を畳み、立ち上がった。


「紙の上では分からん。

 あの地の“空気”を知らねば、

 判断を誤る。


 明朝、伊勢桑名に向けて発つ。

 先に早馬を飛ばして、船の手配と、

 凪を案内役に呼びつけておいてくれ」


「はっ」


村瀬はそのまま退出した。


「伊勢惣奉行として赴任する前に――

 長島の“地獄”を、この目で見ておきたい」



伊勢、長島。


舟は、静かに川面を滑った。


冬の冷たい風が吹き抜け、

水面は鈍い鉛色に染まっている。


遠くに、黒々とした寺院群が見えた。


「……あれが、願証寺か」


秀政は息を呑んだ。


寺とは思えぬほど巨大で、

周囲には土塁と柵が巡らされ、

まるで城塞のようにそびえている。


その周りには、

いくつもの小砦が点在し、

煙が絶えず上がっていた。


「寺ではないな……。

 これは、完全に“城”だ」


「門徒が数え切れぬほどおります。

 武装もしております」


凪が静かに言う。


「女も子どもも、武器を持つ土地です」


秀政は、川風に目を細めた。


(ここが……長島一向一揆の総本山か)


舟が近づくにつれ、

太鼓の音が響き、

見張りの舟がこちらを警戒して動き出した。


「殿、これ以上は危険です」


村瀬が言う。

秀政は頷き、

しかし目を逸らさなかった。


「……あの黒い煙。

 あれは、鍛冶か。

 それとも火薬か」


「両方でしょうな」


同行していた荒木重直が、

低く答える。


秀政は、拳を握った。


「伊勢に赴任すれば、

 必ずこの地と向き合うことになる」


「はい」


「ならば――

 逃げずに見ておくべきだ」


舟はゆっくりと向きを変え、

長島の要塞都市を背にした。

秀政は最後まで振り返り、

その黒い影を目に焼き付けた。


(……ここが、俺の戦場か)


冷たい風が、

その決意をさらに鋭くした。


「皆に言うておく。

 俺の最大の任務は内政ではない。


 この長島だ。


 一向一揆は燻ぶり続けている。

 いずれ、大きな火事となる」


「一向一揆がまた起きると?」


南條が顔をしかめながら呟く。


「そうだ、それも確実にだ。

 大きな戦に巻き込まれる」


皆が真剣な顔になった。

秀政がこの口調で述べる推測は大抵当たる。


「兵は滝川殿の領分であり、

 俺たちは政で対抗せねばならん。


 南條、お前は桑名郡の郡代として、

 長島対策を練らねばならん。


 案はあるか?」


いきなり振られて、困惑した南條だったが、

すぐに真剣な顔で対策を練る。


「そっそうですね。

 例えば……経済封鎖。

 桑名・津島・熱田の商人に

 “長島との取引を控えよ”と圧力を、

 かけまする。


 米、塩、鉄、布……その他、

 日用品まで自然な形で止めまする。

 さすれば、一兵も損なわずに弱体化できます」


「……だめだ。

 お前は、燻ぶった長島に

 いきなり火種を突っ込むつもりか?」


「あ……、敵対が過ぎましたか。

 殿は既に策がおありで?」


「あぁ、実はあるにはある。

 だが、やれるかはわからん。


 その策とは……」


そこへ松親が割り込む。


「義兄上、なにゆえ、

 私にはお聞きくださらぬ?」


「ん?松親か、お前には策があるのか?」


「いくつもあります。

 ここを見て気づきました」


(ほぉ?若くても松成の子か?

 千種の血はどこまで優秀なんだ)


「聞かせてもらおう」


「はい、これは一つの策だけでは、

 どうにもなりません。

 複数の策を同時になしてこそ成立します」


(ほぉ?確かに。

 俺よりも具体的な策を出したということか?)


すました顔で指を折りながら松親が策を披露する。


「まず一つ目。

 これは利昌の策をさらに捻ったものです。


 供給を止めれば、敵対とみなされます。

 ならば、供給を止めずに“質”を落とします。

 自然減衰策です。


 良質な米は他地域へ優先し、

 長島には古米・屑米を回します。


 舟手衆に、急ぎの荷を他所へと指示します。

 そうなれば長島行きの荷だけ、

 “自然と遅れる”でしょう


 これは敵対行為ではなく、

 行政上の優先順位の調整にすぎません。


 ですが、長島の内部で確実に不満が貯まります」


南條が目を見開いた。


「なるほど」


「二つ目。


 長島を締め付けるのではなく、

 周囲の村々を優遇します。


 税の軽減、物資の優先供給などです。

 これは敵対ではなく、

 北勢の復興を優先しただけという建前です。


 するとどうなるか。

 長島だけが取り残される。


 相対的弱体策です」


(こいつは思った以上に面白い考え方をする)


「まだあるか?」


「はい、三つ目。


 長島は実は商人が生命線です。


 長島商人に桑名での商売を優遇させます。

 長島との取引を禁止しないが、旨味を減らすのです。


 伊勢湾に新たな市場を整備しましょう。

 長島以外の寺内町としっかり結びつけます。


 すると商人は自然と長島から離れます。


 これは敵対ではなく、商業政策の一環です」



「見事だ、松親。

 その真綿で首を絞めるような、

 いやがらせ……中々性格が悪くなければ

 できんことだぞ?」


「義兄上、褒めておられるのか、

 貶しておられるのかどちらです?」


そこまで言うと二人が笑いあう。


「いやいや、褒めておる、褒めておる。


 俺の策は人心攻めだった。

 長島は自治都市だが、

 内部に不満は多い。

 食糧難や、過激派の横暴、

 僧侶の贅沢、女の負担増。


 これを揺さぶればと思っていたが、

 松親の案も面白い。


 松親、南條と協力して進めてみよ。


 俺は人心攻めを行う」


「は、お任せあれ!」


村瀬がそこでゆっくりと割り込んだ。


「ところで、殿。

 逃げなくて平気か?


 鬼の形相の坊主どもが刀を振り回しながら

 船で近づいてくるぞ」


「うあ……それを早く言え!

 皆で漕げ!逃げるぞ!」


(よし……一応の攻め口は確認した。

 戦は滝川殿に任せる。


 俺たちはじわじわと奴らを追い詰める)

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― 新着の感想 ―
宗教勢力相手の調略は効果が出るところを間違えるとかえって危険になりかねないのが怖いとこですねえ 死後救済を説く集団だと下層の厭戦気運は煽りにくいし、分断は指導者層の間で起きればいいけど上下層間で起きる…
いつも投稿ありがとうございます。 経済格差による不満を出す点高い効果があると思います。 欲を出すなら対象位置に近い一向宗門徒も整備に加えて門徒同士での格差を生ませ分断を加速させていく事もありかと思っ…
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