争い渦巻く第六領域『ファーストプレイヤー:イオ・アガリス』2
ゴーラ・アガリス。
アルガラード領域では豪嵐童子と名乗る鬼族。
元々人と鬼の戦いは、十の島のうち六つを人が支配しており、鬼は少し不利な状況にあったらしい。
鬼は人よりも大きく力で勝るが、纏まりに欠け、戦術を駆使する人の軍隊に手を焼いていたそうだ。
また人の中にも、優れた技量で鬼以上の戦闘力を発揮する者も居る。
だが豪嵐童子の出現により、鬼もまた群れるのみでなく、指揮を受けてその通りに動く事を覚え、要するに群れは軍と成った。
そして僅か半年で、豪嵐童子は二つの島を攻め落とし、人と鬼の有利不利をひっくり返してしまう。
現在、豪嵐童子の首には多額の賞金が掛かり、十州で最も人から恐れられる鬼の一匹となっている。
ソウ・アガリス。
アルガラード領域では吾賀里・双を名乗る武士。
豪嵐童子が伍の島を攻め落とした時、少数の精鋭を率いて奇襲を掛け、島の住民が避難する時間を稼ぎ出した侍大将。
現在は伍の島の奪還を計画しているらしい。
壱
弐参
肆伍陸
漆捌玖拾
十州は、この様な形で十個の大きな島から成り、隣接する島には大きな橋が掛かっている。
島と言ってもその一つ一つはかなり大きく、小国程はあるそうだ。
隣のアルガラード大陸までの航海が可能な船は存在するが、十州の周囲は波が高く、水軍はあまり用いられない。
鬼
鬼鬼
人鬼鬼
人人人鬼
現在の十州の支配比率は人が四、鬼が六。
豪嵐童子が攻め落としたのが、伍の島と拾の島。
ヒュオーサ・アガリス
アルガラード領域ではヒュオーサとのみ名乗る吸血鬼。
人族陣営、巨人族陣営、双方にアガリスは潜り込んで居る為、内通を疑われない為にアガリスの家名は使用しない暗黙の了解があるそうだ。
ヒュオーサは連射式クロスボウの使い手であると言う事以外は、詳細不明。
大陸では鮮血の異名で恐れられているらしい。
デルーサ・アガリス
同じくデルーサとのみ名乗る巨人族。
恐らく現在最も大きなアガリス。
やはり詳細は不明。
ミレッタ・アガリス
アルガラード領域ではミレッタ・アカリと名乗っているエルフ。
エルフは人族陣営に属する種族だが、ミレッタは人族と巨人族の争いは無益だと説き、双方から排斥を受けている。
しかしミレッタに賛同する者も皆無ではなく、その勢力は少しずつ、密かに大きくなりつつあると言う。
また何故かゴライアスと言う3m程のサイズの巨人の傭兵は、ミレッタに味方する者が多いらしい。
傭兵を生業とする以上、停戦を訴えるミレッタは、本来邪魔でしかない筈なのだけれども。
……ソウから教えられた情報を纏めてみたが、とりあえずこんな所だろうか。
どうやら私が加わっても、全然三対三じゃない様子。
人族側の一人は、完全に戦う気のない中立である。
まぁ大陸に居るアガリス達、ミレッタのみならず、ヒュオーサやデルーサがどの様な意思を持っているのかは、この十州からでは伺い知れない。
でも大陸で、人族側の情報を集めるアガリスが一人も居ないのは、拙いんだろうなと言う事だけはわかった。
ならば出来る限り早く、ソウに情報の提供や世話になってる恩を返して、大陸に旅立った方が良いだろう。
具体的には豪嵐童子以外の有力な名のある鬼の首を挙げるか、伍の島の奪還辺りを手助けするのが妥当に思える。
豪嵐童子ことゴーラに関しては、鬼の文化や風習、考え方や伝承等を調べるアガリスも必要だろうし、何の恨みもない今の状態ではなるべく揉めたくはない。
勿論、名のある鬼の首を挙げると言っても、それは口で言う程には簡単じゃない筈だ。
そもそも私は、名のある鬼の居場所どころか、名前すらまだ知らないのだから。
多分島の支配者は大物の鬼だろうから、多分それを狙う事になるだろう。
……島を攻め落とすのとあまり変わらない気もする。
ミルノーシェ領域を出る前なら兎も角、今の私には少し厳しいかも知れなかった。
かと言ってソウの計画する島攻めもすぐには行われないだろうし、まぁ仕方がない。
早く大陸に行きたい気持ちはあるけれど、まずは階位の上昇を目的とするべきだ。
どの道、何を成すにしても力も、情報も、人との繋がりだって必要になる。
忘れかけてる初心を思い出して、一日一日を積み重ねよう。
「イオ殿、妙子が飯を用意してくれた。食事としよう」
板張りの廊下をギシギシと踏み締めて、ソウが私を呼びに来た。
私はうつぶせに寝転がって居た畳から、少し名残惜しいが顔を離し、身体を起こして立ち上がる。
妙子は、吾賀里の屋敷で働く下働きの女性だ。
初めて会った時、妙子は私の容姿に目を丸くして、それから怯えた様に隠れてしまう。
地味にショックだったのだけれど、この十州の人の目には、私の姿は奇異な物に映るらしい。
ソウは客人に対して無礼だと彼女を叱ろうとしたが、でも私はそんなソウを止めた。
だって怖がられてしまうのは、私自身に拘って、この地に溶け込む事を考えなかった私が悪いのだから。
そして多分、こうなる事を知った後でも、結局私は、今の私を捨てないだろうし。
但しソウが屋敷の主人として、家人を教育するのなら私が口を挟む事じゃない。
私に妙子を咎める気がない事を、ソウが理解してくれればそれで良いのだ。
するとその晩、妙子はソウと共に、貸し与えられた私の部屋に謝罪に来た。
どうやらソウは、外からやって来た人間は、十州ではあまり見かけぬ姿をしているが、鬼や妖とは違って同じ人間なのだと妙子に語ったそうだ。
……また知らない単語が出て来たが、妖は鬼の手下の様な物らしい。
大陸では人間以外にも獣の特徴を持った人、獣人や、長命なエルフ、ドワーフ等と、十州の常識では測れない種族も居るが、皆同じ人族として戦っていると。
鬼を客として招いたならば、それを見て怯えてしまうのも仕方ない。
しかし十州ではあまり見かけぬ姿をしているからと言って、客として招いた同じ人間に対してあの様な態度を取られては、私に対して失礼だし、吾賀里の家の恥ともなると。
そんな風に言ったのだとか。
でもその話を聞いた時、一つ私が思ったのは、
「だったら、あらかじめこんな風な人が来る。驚かない様にって言わなかった、ソウも悪い?」
全員が少しずつ悪かったんだなと言う事。
家の当主であるソウのミスは、家人には言えないだろうから私が言おう。
妙子のミスは、ソウが既に教えて諭した。
ならば後は、私が自分がどの様に見られるかを考えて居なかった失敗を、謝るのみ。
「妙子、私は自分の見た目が、この国で驚かれ、怯えられる事もあると知らなかった。ごめん。でも知れて良かった。ありがとう」
外を出歩く時は、フードとマントで見た目を少し隠した方が良いだろうか。
怪しくは思われるだろうけれど、いきなりの遭遇で驚かせてしまうよりは余程良い。
私の謝罪の後、妙子はもう一度、凄く丁寧に頭を下げて謝った。
それから私と妙子は、ほんの少し打ち解けたと思う。
「イオ様、本日は領民の方が魚を届けて下さいましたので焼き物に致しました。どうぞお召し上がり下さい」
妙子が運んでくれた膳の上には、大きな焼き魚と、米のご飯と汁物が載っている。
凄く贅沢だ。
何が贅沢って、ミルノーシェ領域では全く食べられなかった魚が、十州では当たり前に出て来る辺りが。
米のご飯の美味さにも慣れた。
味は薄いが、魚や汁物と一緒に食べれば、幾らでも食べれてしまう気がする。
箸を使うには、少しだけ練習を要したが、三回程の食事で大分と覚えた。
さて、先程妙子の言った領民とは、吾賀里の領地に住む人々の事だ。
つまりソウは領主。
ミルノーシェ領域で言えば、領地持ちの貴族であった。
いやはや、実に凄い事だと思う。
ではまず、明日はその領民達に何か困りごとがないかを聞いてみようか。
情報は期待出来なくとも、地道に名声を稼ぐ事でも、階位は上昇するのだから。
勿論先日の反省は活かして、領民達には話を通して貰い、ソウに私の身分を証明する何かを貰ってからの話だが。