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不死の子供たち - 063 宿命 re
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不死の子供たち  作者: パウロ・ハタナカ
第二部 目覚め re【web版】

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063 宿命 re


 視線のずっと先に爆発の衝撃でつくられた巨大なクレーターが見えていた。

 ウェンディゴを介して投下された爆弾がどのようなモノだったのかは、私には分からない。インターフェースに表示される汚染状況を示す数値に変化がないことから、核兵器の(たぐい)ではないと推測できたが、旧文明期の兵器なので本当のところは謎だ。


 上空から投下された未知の爆弾は、昆虫の巣穴の中心地のちょうど真上で爆発した。その爆発で変異体のシロアリをどれほど殺せたのかは分からない。

 数千か、一万か、あるいは十万匹なのかもしれない。いずれにせよ、その数に意味はなかった。現に彼らは地底に続く暗い穴から、今も絶えず這い出してきているのだから。


 遠くで(うごめ)く昆虫の()れを一瞥(いちべつ)してから振り返ると、ハクの小さな巣の周囲に折重なるようにして積み上げられた瓦礫(がれき)や、シロアリの死骸でつくられた勾配(こうばい)を慎重に下りてハクの側に向かう。

「ハク、巣を作るのに使用した糸を(もら)ってもいいか?」

 ハクはカサカサと腹部を揺らした。

『ん、あげる』


 白蜘蛛の腹部にある赤い(まだら)模様(もよう)を見ながら、黒土を(かぶ)っていた糸をハンドガンで取り込んでいった。爆発の衝撃から身を守るためにハクが作った巣はとても頑丈だったが、爆風によって飛んできた旧文明期の建物の瓦礫(がれき)などの直撃を受けていて、酷く損傷していた。


 ハクの助けがなければ、怪我は頬や腕のものだけでは済まなかっただろう。

「ありがとう、ハク」

 あらためて感謝すると、ハクは長い脚で地面をトントンと叩いた。

『レイ、まもる』と、得意げに言う。


 ハクの糸を取り込んだことで、ハンドガンの残弾数に余裕ができた。

 通常弾を使用した戦闘ならば、数百匹の昆虫を相手できるほどだった。しかし、それでも全然足りていなかった。昆虫はクレーターを埋めてしまう勢いで地の底から出てきていて、頼りになる仲間はハクしかいなかった。


「カグヤ、撤退したミスズたちは無事か?」

『うん。爆発のさいに発生した衝撃波を受けたけど、それだけだよ。今は人擬きと交戦しながら、ウェンディゴと合流しようとしてる』

 カグヤの声を聞きながら、廃墟の街に避難させていたカラスの映像を確認する。


「ミスズ、聞こえるか?」

『レイラ! 無事なのですか? さっきの爆発は――』

 内耳に聞こえたミスズの言葉を遮りながら言う。

「落ち着け、ミスズ。俺とハクは無事だ」

()かった……でも、あの、爆発は?』


「あれはウェンディゴからの支援攻撃だ」

『ウミからのですか?』

「そうだ」ミスズと話をしながら、積み重なった瓦礫(がれき)と土砂でつくられた勾配を上っていった。「それより、そっちはどうなっている?」


『問題ありません。人擬きの数は多いですけど、なんとかします』

 彼女は力強く答えてくれた。

「了解。もう少ししたら、俺も合流する。だからあまり無理はするなよ」

『はい……あの、レイラ』

「うん?」

『待っていますから、だから必ず戻ってきてください』

「分かってる」


 通信が切れると、爆発の衝撃で混乱していたシロアリの()れを眺めた。

『ねぇ、レイ。いいの、あんなこと言っちゃって?』

「何のことだ?」

『ミスズたちとは、すぐに合流できないでしょ?』


「そうでもないさ」と、私は昆虫の群れを見ながら言う。「この場所で俺がやるべきことは全部やったからな。撤退する時間も稼げたし、無理に残って昆虫と戦う必要はない」

『……それもそうだね。なら今から撤退する?』


「いや、もう少しだけ昆虫の数を減らしたい」

『減らしたいって言っても、限度があるよ。爆撃機は圏外に飛んで行っちゃったし、次の機体がいつ横浜の上空を通過するのかも分からない』

「爆撃機の飛行経路や、時刻に規則性はないのか?」


『ないよ』と、カグヤは残念そうに言う。『爆撃機が何処(どこ)の基地から飛んできているにせよ、そこから出された指示によって無人機は飛行している。私たちは爆撃機がウェンディゴとの交信範囲に入ったときに、少しの間、爆撃機を貸してもらっているだけだから』


「ウェンディゴには専用の爆撃機があるとかなんとか、言ってなかったか?」

『うん。でもその機体はまだ飛んできていない』

「なら、さっき操ってみせたのは、たまたま上空にいた機体ってことか?」

『そうだよ』


「爆撃機のシステムをハッキングしたのか?」

『うん』

「すごいけど、なんだかややこしいな」

『うん。それで、どうするの? 何か考えがあるの?』


 そのときだった。ふと腕に違和感を覚えた。こそばゆいような、痛いような、(かす)かな刺激だ。

「ハク、何しているんだ」

 白蜘蛛は私の腕に噛みついた状態で言葉を伝える。

『すこし、ひつよう』


 飛んできた瓦礫(がれき)によって(えぐ)れていた腕の傷は、ナノマシンの働きで出血が止まっているはずだったが、ハクが与えるなんらかの作用でまた血液が流れていた。

『平気なの、レイ?』

 カグヤは心配していたが、何故(なぜ)か私に恐怖心はなかった。


「どうして血が必要なんだ――」

 ハクに質問しようとしたが、カラスから届く映像を見て黙り込む。

『レイ』

「ああ、見えているよ。あれはサスカッチだな」


 廃墟の街から荒涼とした区画に侵入してくる者たちの姿が見えた。多脚戦車の〈サスカッチ〉を先頭に、〈守護者〉と機械人形の集団が向かってくる。

 サスカッチの砲身の先には、黄色いレインコートを着た子供型の〈守護者〉である〈アメ〉が立っていた。彼女は足場の悪い砲身の上で、飛び跳ねながら私に手を振っていた。


 視線をハクに移すと、白蜘蛛はすでに私の腕から離れていた。不思議なことに腕の傷は(ふさ)がっていた。ハクは平坦な地面に飛び降りると、まるで太鼓を叩くように触肢(しょくし)で地面をトントンと叩き始めた。それから三十センチほどの細長い糸を吐き出した。糸は赤黒く、地面に接触すると吸い込まれるようにして黒土の中に消えていった。


「レイラ!」と、アメが元気に言う。

 私は手をあげて答えた。

「また会ったな」

 アメは赤い瞳を発光させながら言った。

「レイラも虫の駆除をしていたの?」


「そうだ。切りがないけどな」

「だね、本来はあそこまで多くなることはないんだ」

 アメは額に手をあてて、遠くにいる昆虫の()れを眺めた。

「もしかして、例の覚醒剤が関係しているのか?」


「そウだ」と、サスカッチの近くにあらわれたカインが言う。「待タせたナ」

 カインは表情のない赤色のお面を、爆発の衝撃でつくられたクレーターに向ける。

 黒色の古びたロングコートの隙間から見える骨格は白く輝いていた。


「実はカインたちが来てくれることを期待していたんだ」

『私たちの手には負えないからね』とカグヤが言う。

「問題ナい、任せテおケ。数週間はかカるかモしれなイが、昆虫は全テ我々で駆除すル」

 人間のように休む必要のない機械人形なら、本当に可能なのかもしれない。


 サスカッチの後方に視線を向ける。そこには数十体の〈守護者〉に加えて、アサルトロイドを含めた数百体の機械人形が立っている。


 〈人造人間〉でもある〈守護者〉は、旧文明の特殊な鋼材で造られた骸骨のような出で立ちをしていて、すべてが同一の個体に見えた。それらの〈守護者〉はカインやアメのように、簡単に見分けられる特徴を持っていなかった。


 その背後に立っている機械人形はいずれも武装していて、アサルトロイドは見るからに凶悪な殺戮機械といった格好をしていた。廃墟の街で滅多に見ることのない、完全な状態の戦闘用機械人形の手にはレーザーライフルが握られていた。


「これだけの戦力があっても数週間はかかるのか……」

「増え過ぎタ虫を駆除すルのは、簡単でハないかラな」とカインは言う。

「ハクも一緒に戦ってくれるの?」

 アメはハクを眺めながら言った。


 ハクはバンザイするように脚を空に高く上げて、謎の踊りを続けていた。昆虫に対する威嚇なのか、本当にただ踊っているのか、私には分からなかった。でもとにかくハクは謎の儀式を続けていた。


「ハクも貴重な戦力だ」と、私はハクの代わりに答えた。

「でも、あの爆撃機はもう使わないでね」とアメが言う。「あんな爆発に巻き込まれるのだけは勘弁だから」

「俺が使用したって分かるのか?」

「わかるよ。て言うか、レイラだけだよ、地球上であんなモノが使えるのは」


「でも、あれはウェンディゴの能力だろ」

「攻撃のために必要とされる権限を与えたのはレイラだよ」

「そうなのか?」

 カインに(たず)ねたが、彼は腕を組んだまま黙って何も言わなかった。

『たまに無口になるよね、この人』と、カグヤがボソリと言う。


「よし!」と、アメが元気よく言った。「昆虫退治の時間だ!」

 私もアメのあとに続いて瓦礫(がれき)の山を下ってハクのとなりに立った。

「レイラはミスズたちのところに帰ってもいいんだよ」

「ミスズたちに会ったのか?」

「うん。危険な区画から脱出できたみたいだよ」

「なら、もう心配する必要はないか……。でも昆虫の駆除を少し手伝っていくよ」

「そっか」アメが微笑んだように私には見えた。


 上空を旋回(せんかい)していたカラスから受信する映像を確認する。混乱していたシロアリの変異体は落ち着きを取り戻していた。偵察のような役割をこなしていたシロアリもクレーター内で待機していた()れに戻っていた。それからしばらくすると、数千匹はいると思われるシロアリの集団が、()れの中から抜け出して我々に向かって進軍を始めた。


 〈守護者〉や機械人形の集団が我々の横を通り過ぎて前に出た。カラスの視点から見る機械人形は、守護者を中心に規則正しく隊列のようなモノを組み始めていた。

「まるで中世の戦争だな」

 太腿のホルスターからハンドガンを抜いた。

『そうだね』と、緊張したカグヤの声が聞こえてくる。

「もうサプライズは止してくれよ」私は緊張を誤魔化(ごまか)すように言った。

『わかってる。爆撃の件はすごく反省してる』


 遠くから聞こえてくるシロアリの足音に思わず身震(みぶる)いする。

『今からでも遅くない。撤退(てったい)しよう、レイ』

「怖いのか、カグヤ」

『怖いよ。いつだって私はレイを失うことが何よりも怖い』

「ずいぶんと素直なんだな」

『私はレイに素直だよ、ずっと』


 機械人形の隊列の隙間から、我々に向かってくる乳白色の昆虫の波が見えた。

 ハンドガンの形状が変化して、ホログラムで投影される照準器が浮かび上がる。

「撤退はしない。この戦いは俺だけが生き残ればいいものじゃない、廃墟の街にいるミスズたちや、その先にある〈姉妹たちのゆりかご〉のためでもある」


『レイが全部、背負う必要はない』

「……希望の光なんだ。何処(どこ)に行ってもよそ者だった俺たちが、やっと見つけた光」

『失いたくない……光?』

「ああ」私はうなずくと、ハンドガンを握る手に力を込めた。


『レイ』と、ハクの可愛らしい声が聞こえる。『母、くる』

「えっ?」

 突然のことに、私は情けない声を出した。

 地面が大きく揺れて、不気味な地響きが周囲に木霊(こだま)した。

 すると〝何か〟が、とてつもなく巨大な〝何か〟が大地を割って姿をあらわす。


 それが巨大な蜘蛛(くも)の脚だと気がついたのは地響きが収まり、巨大な蜘蛛の脚に踏み潰された高層建築物が轟音を立てながら崩壊し始めたときだった。

『……怪獣(かいじゅう)だ』と、カグヤがつぶやいた。

 私はカグヤに同意した。その生物は、データベースのライブラリーで見ることのできる〈怪獣(かいじゅう)映画(えいが)〉に出てくるような途方(とほう)もなく巨大な生物だった。


 怪獣(かいじゅう)の脚は白い体毛に覆われていたが、頭胸部と腹部は真っ黒だった。しかしそれも私の勘違いだった。黒いモノはすべて、ハクよりも一回り大きな黒い蜘蛛だった。真っ黒な毛に赤い(まだら)模様(もよう)。〈深淵の娘〉で間違いない。それが何千匹もいて、巨大な蜘蛛の身体(からだ)から飛び降りるようにして離れると、眼下のシロアリたちに襲いかかった。


『レイ!』

 カグヤの声に反応して周囲に目を向けると、その場に立っているのは私とハクだけだった。〈守護者〉たちや機械人形は膝を地面につけて、怪獣(かいじゅう)のような巨大な白蜘蛛にこうべを垂れていた。


 その巨大な蜘蛛は我々に顔を近づけた。その瞳は夜の闇より暗く深かった。私にはその暗闇が果てのないように感じられた。自身の背丈よりもずっと大きな瞳に睨まれると身体(からだ)が強張る。


『ひさしいですね、カイン』

 女性の声が聞こえた。それは何処(どこ)か遠く、山の(いただき)に降る雷鳴(らいめい)にも聞こえたかと思うと、母親が子どもに向ける慈愛(じあい)を含んだ優しさに満ちた声にも聞こえた。


「オ久しぶリでス、深淵の母ヨ」と、カインは頭を下げたまま言った。

『喉の調子はまだ悪いのですか?』

(いまし)めでス」

(あわ)れなカインよ、いつかそなたに救いがあらんことを』

「神々の望みノまマに……」


『貴方も久しいですね。不死の子、レイラよ』

 急に名前を呼ばれて、私は狼狽(ろうばい)したが(なん)とか返事をした。

「すみません。俺はあなたのことを覚えていません」

『記憶を捨てたのですね、不死の子よ。ならば探し物はまだ見つかっていないのですね』

「探し物……?」


『貴方が命よりも大切にしていたモノです』

「わからない……」と、私は頭を振った。「何も思い出せないんです」

『不死の子よ、不安に思うことはありません。宿命が曲げられることなどないのですから』


『さて、我が娘よ。よくぞ我を呼んでくれた』

『母、あう、うれしい』と、ハクは言う。

『そうですね。小さく愛しい我が娘よ』

 巨大な蜘蛛の眼がさらに近付いた。

『みつけた』

 ハクはそう言うと地面をトントンと叩いた。


『不死の子ですね。彼が貴方の伴侶(はんりょ)?』

『ん』ハクはその場でぐるりと回る。


伴侶(はんりょ)?」と、私は驚いて言葉を口にする。

『不死の子よ、何も恐れることはありません。一種の契約とでも考えてください』

「契約……」

『そうです。神代から続く古い御呪(おまじな)いです』


 それだけ言うと、巨大な蜘蛛は地響きを立てながら動き出した。

 巨大な脚はゆっくりと動いているように見えたが、錯覚じゃないのだろう。カインに〈深淵の母〉と呼ばれた蜘蛛の後方では、〈深淵の娘〉たちによるシロアリの掃討が始まっていた。不思議なことに〈深淵の母〉に近付いたシロアリの変異体は動きを止めて、ぼうっと〈深淵の母〉を眺め、その間に〈深淵の娘〉たちに狩られていった。


 こうべを垂れていた機械人形や〈守護者〉たちも立ち上がると、シロアリに対して一斉(いっせい)攻撃(こうげき)を始めた。〈守護者〉の集団は、〈深淵の娘〉と敵対していないのか、攻撃されることがなかった。


 私は何をするでもなく、その場にただ立って、巨大な蜘蛛の下でシロアリの変異体が駆除されるのを見届けていた。それはただただ不思議な光景で、とてもこの世のものとは思えなかった。

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