1-36 決心と訓練の終わり
よろしくお願いします。
突然だが、俺は鈍感系男子ではない。
天涯孤独であった以外、ごくごく普通の男子高校生をしていた。
女の子に興味津々で、女の子が自分をどう見ているのか気になって。
普通の高校生はさ、女の子と接点が生まれたら、『もしかしてこの子、俺のこと好きなんじゃないかな』と一時は疑うのだ。
そして冷静になって、相手のステータスを考える。そのステータスが『コンビニ店員』だったなら、笑顔で対応するのは当たり前だよな、と考えたりするわけだな。
そんな有様のおバカな生き物だから、ロロの仕草はいつも見ていた。そして、いつもその仕草の意味を考えていた。
その結果。
どう考えてもさ、ロロは俺の事が好きだと思う。
俺が何かすると、たまに顔を赤らめて俺の顔をチラチラ見てくる。
最近では炬燵の中や机の下で手をずっと握り合った。
全身をマッサージさせてくれたし、俺にやってくれもした。
今日なんて、俺が抱きしめたら求めるように抱きしめ返してくれた。
これを好きと言わず何というのか。
これで全部が全部俺の勘違いだとしたら、俺はこの先、恋愛事で積極的に何かをすることなんて一切できない人間になるだろう。
一方で俺の気持ちはどうだろう。
ああ、今までエロいことばかり考えて明言こそしなかったけれど、ここらでハッキリしておこう。
ぶっちゃけ、俺は出会った瞬間からロロが好きだった。
当たり前だ。
別段、将来を誓い合った幼馴染がいるわけでもない俺が、絶世の美少女であるロロと出会って恋しないわけがない。
今日、ロロを抱きしめて、ロロが抱きしめ返してくれて、あの瞬間、沸騰した熱が口から出そうになった。
もう我慢は出来ない。
だけど、さすがに日が悪い。
明日は訓練の最終日だし、ロロの心を乱したくない。
告白するならそれ以降だ。
明後日は、魔導装具を買い替えて、明々後日くらいにクエストのリベンジかな?
あー、そうだっ!
初めて達成したクエストの報酬でプレゼントを買おう。それを贈って告白しよう。
よし、決めた。
決戦は4日後以降だ。
そのための下準備にまずはこれだ。
「お願いします」
「いらっしゃいませ」
俺はレジに紳士の下着を持っていった。
1枚6千テスもの高級下着だ。
だが、必要経費である。
バッキバキのフル臨戦態勢で告白とか悪夢だし、ガリオン教官の下着を穿いて告白ってのも悪夢だ。
その夜、無敵になった俺はロロをめっちゃモミモミした。
ロロちゃんは肩甲骨の辺りが気持ちいいのか、「にぅ……にぅ……きもちぃ……」と気持ちよさそうに、それでいてちょっぴり切なそうに声を出した。
サービス精神旺盛な俺は、ロロの腕を背中に回して肩甲骨を浮き出させ、くっきり現れた溝を優しくなぞる。
ビビビビクンックンッ! とロロのお尻が痙攣した。めっちゃ興奮した。
翌日の訓練は、これと言って心拍数が上昇するようなことはなかった。
ボディタッチがあまり起こるような訓練ではなかったからだ。
午前中は、捕縛師の攻撃訓練。
鎖の叩きつけや、鎖を巻きつける訓練だな。
これがまあ、割と簡単なのだ。
魔導装具の性能がそもそも素晴らしいので、結構意のままに扱えてしまう。ガリオン教官が移動術や回避を重点的に教えてきたのも頷ける話だった。
午後になり、最終の訓練が始まる。
その訓練とはずばり、冒険に役立つ冒険者グッズの紹介と実際の使用方法の説明である。
「義務冒険に限らず、冒険者は好き勝手に討伐、採取をして良いわけじゃない」
ガリオン教官が言う。
テフィナは……いや、魔法世界は、魔素を生み出す魔獣で成り立っている。
彼らがいなくなれば魔素は無くなり、連鎖的に魔力が無くなり、魔法が無くなる。純魔力で動く魔導科学の様々な物品が機能を停止する。っていうか、それ以前に魔素が空気中にないとテフィナ人は死ぬ。
だから、冒険者は好き勝手に魔獣を倒してはいけない。
必ず個体数調査が行われ、生態系のバランスを取るように討伐依頼が組まれる。
一方の採取は、テフィナ文明の文明加速を押さえるために行われている。
やろうと思えば一瞬で資源を掘りつくせる程度の技術をすでに持っている彼らが本気を出してしまうと、文明が加速しすぎて制御が利かなくなる恐れがある。
テフィナはすでに最強の栄華である全人類が働かなくていい時代を築き上げ、そして大失敗していることから、文明の加速について非常に敏感だ。
故に、義務冒険者や上級冒険者などの、言ってしまえば『手間が掛かる工程』を作り出している。
さて、そんな冒険者さん達に役立つアイテムの紹介。
いろいろあるぞ。
異世界版スマホであるゼットもそんな中の一つだ。
コイツでアプリを落とすと、冒険にも役立てることが出来る。
地図アプリ、索敵アプリ、採取物発見アプリ、戦闘力鑑定アプリ……チートである。
義務冒険者サイトである『テモチャ』にこういったアプリの紹介があるので、よく見ておくように言われた。メモメモ。
とりあえず、ガリオン教官の勧めで、『冒険者七つ道具セット』ってのを買っておこうと思う。メモメモ。
「これで全日程は終わりだが、お前ら、やっていけそうか?」
ガリオン教官が俺、ロロ、フィーちゃんを見回して言った。
そうして、返答を求めるようにフィーちゃんに視線を止める。
「押忍っ! ガリオン師匠のご指導のおかげで、なんとかやって行けそうですぅ! 押忍押忍ぅ!」
……今度フィーちゃんと冒険してみたいな。
連絡先はゲットしているから、是非誘ってみよう。
何よりもタンポポ真拳が気になりすぎる。
ゼットで動画を見ても良いのだけど、ゼットの動画を見すぎるとせっかくのファンタジー人生なのに感動が薄くなりそうなので極力頼りたくない。
タンポポ真拳を見るならフィーちゃんだな。
「ご指導ありがとうございました! 押忍ぅ!」
十字切り十字切り十字切り!
めっちゃテンションが上がっちゃった空手家みたいになっている。可愛さは全然違うけど。
次にロロに視線を止める。
ロロは胸を張って前に進み出た。
「私もやって行けそうです! ありがとうございました!」
感想言うのが下手なのかな?
人心掌握術とかに長けてそうな女騎士面してるくせになぁ。
最後に俺に視線を向けた。
「自分の役割がどういうものなのかよく分かりませんでしたけど、この訓練のおかげでロロと協力して戦えるようになりました。ご指導ありがとうございました」
そう言って頭を下げた。
「うむ。それじゃあ最後になるが、義務冒険で分からないことや行き詰ったことがあれば冒険者協会を頼れ。予約をする必要があるが、訓練をつけてもらえるからな」
ほうほう、そんな事もしてるのか。
俺達はコクリを頷いた。
「それじゃあ解散だ」
わぁっとロロが飛び跳ねる。
コイツは夏休みなった瞬間に騒ぐタイプだな。
「ロロ、ちょっと待ってて。俺はガリオン教官にお話があるから」
「え、私も行くぅ」
何その言い方可愛い。
しかし、俺は甘やかさない。
「フィーちゃんと待ってて。男同士の話だから」
「はっ、察し」
「たぶん何も察してないと思うよ?」
俺はロロと魔力交換した。
ロロはポンと顔を赤く染め、誤魔化す様にフィーちゃんときゃっきゃっし始める。
最近、辛さに慣れてしまったのかあまり顔を赤らめなかったロロだが、昨日からまた復活した。なんでだろうか?
俺は、かなり苦い焦げの味と蕩けるような甘みが混ざったロロちゃん風味を舌の上で転がして、首を傾げる。なんだか、甘さに比例するように苦さが増していくなぁ。
それはともかく。
俺は格技室を出ようとするガリオン教官を追いかけた。
部屋を出て、ガリオン教官の姿を探す。
すると、どっかのアニメキャラみたいに、ドアの横の壁に寄りかかって俺を待っていた。マシルドが無ければ、俺の顔をパンチ一発で文字通り吹っ飛ばしそうな筋肉の魔神のお出迎えに、俺はやはり慣れなかった。
「あ、あの、昨日はありがとうございました!」
俺は新しく用意した紙袋に昨日借りたパンツを入れて渡した。紙袋の口はリボン付きだ。
「自分のは買ったのか?」
「はい。昨日の内に買いました」
「そうか、大丈夫だと思うが、ロッテと仲良くな」
あんだけ熱い抱擁シーンを目撃しているので、ガリオン教官も俺とロロは大丈夫だと思ってくれるらしい。やはり、俺の見立ては間違ってないと自信が持てた。
「むっ、いや待てよ。一つ聞きたい。お前らはすでに恋人同士なのか?」
「い、いいえ。違います」
「そうか。告白とかは考えているのか?」
え、顔に似合わず恋バナ好きなオッサンなの?
俺は若干ギャップ萌えした。
「あ、あのその、昨日、決心しました」
俺が言うと、そうか、とガリオン教官は顎を撫でて若干考える。
「お前はテフィナの恋人の作法を知っているか?」
「作法……ですか?」
「知らないようだな。それならゼットで調べるか、レオニードにでも教えてもらうといい。これを知らないと大変な事になる」
え、マジで?
恋人の作法とかあるのかよ。
「俺はこういうのに疎くてな。かつて嫁に滅茶苦茶ガッカリされた。まあそれも一つの思い出になるのだろうが、ロッテを喜ばせてあげたいなら知っておいた方が良いと俺は思う。たぶん、ロッテはやってほしいと言ってくるだろう。見たところ、そういう感じの娘だ」
ガリオン教官の恋バナをゲットした俺は、真剣に頷いた。
ロロが喜んでくれるなら、そういう作法はちゃんとしてあげたい。
「成功すると良いな」
ガリオン教官は口角を上げて笑うと、俺の肩をポンと叩いた。
俺はもじもじしながらコクリと頷いた。その姿はまさに受けであった。
「お前らは魂の双子だからな、また俺が訓練をつけることになるだろう。その時にでも結果を見せてくれ」
「は、はい。がんばります!」
「まあ、昨日みたいに訓練中に抱き合しめあってもらっても困るがな。はははははっ!」
それじゃあな、とガリオン教官は去って行った。
俺はその大きな後ろ姿に向けて頭を深く下げた。
でかい。
俺はその背中を見て思った。実際にでかいし。
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