第八章「再会」第一節
都はガクリと膝をついた。撃たれた傷はある程度まで、修復されたとはいえジリジリと痛む。孝の本音を引き出すためとはいえ不安定の中である。
これが、強引に精神世界を開いた代償なのか。
体全体が重かった。
「かっーーはっ、ぅ」
息もできない。 血を吐いていると、都を中心にして光に囲まれた。体も軽くなる。怪我をした部分の痛みもなくなっていた。
ーー誰?
ーー誰が僕を呼んでいる?
遠くから呼ぶ声がする。優しい声だった。自分をこんな風に呼べるのは、湊ともう一人だけだ。
ーーこ。
ーーやこ 何度も何度も呼びかけてくる。
ーー都。
今度ははっきりと聞こえた。 聞き取れた。 ぼんやりとしていた形は、奈美の姿になる。
「かあ……さん」
年齢としては都と別れたの頃である。触れて確かめようとした。奈美の体を手が突き抜けていく。ぐにゃりと彼女の姿がゆがむ。
魂だけであり、肉体ではない。会えただけでも奇跡に近いものがある。会話ができているだけでも、都の大きな支えになっていた。長年、会いたかった人物である。
心配して奈美が呼んだのだ。
「都。無理しないと言っても無理するわよね。私は都の母親よ。考えなんてお見通しだわ」
都は背筋を伸ばす。 孝とぶつかり合った事実は、奈美にはしられていた。家族ならではの共鳴でもあるのかもしれない。都がいる空間は彼女の作った世界だ。
何でもありなのである。
ならば、少しぐらいわがままを言ってもいいだろうか。
湊に会いたいと、都は出てきそうになった言葉をどうしても、音にはできなかった。
心の中にそっとしまい込む。
ひるんでいる暇はない。
都は口を開く。
「母さん。聞いて。無理をしないと和江さんと美和は守れない。また、手からこぼれおちるのは嫌だ」
「家族」の誰かがかけるのは嫌だった。いなくなってほしくなかった。不器用すぎてなかなか言えず、すれ違ってしまっている。
「あなたは一人じゃないわ。新しい家族がいるじゃない。素直になりなさい」
「今更、素直になんてなれない」
弱さなんて見せられない。見せてしまえば、和江と美和を守りきれない。大切な人たちを、死なせるわけにはいかなかった。 二人の心に傷つけたくない。
「聞いてあげるから、ゆっくり話してごらん」
「僕のめざす道は、間違っているのかな?」
「大丈夫。間違っていても、道は一本道になるわ。同じ道を歩けているはずよ」
「同じ道、か。いい言葉だね。母さんは僕が教授に会いに行くのを、止めないの?」
「あら?止めてほしいの?」
「母さんは止めると思っていた」
「あなたはあなたのできる役目をやりなさい」
「やってみる」
都にできる最後の役目は、孝を倒すために力を注ぐべきだ。報復は終わっておらず、与えらる役割を果たすしかない。終わるまで駆け抜けていくべきだった。
「都の気持ちは受け取った」
「母さん。僕は母さんの子供でいれて、幸せだったよ。ありがとう」
都は奈美の姿を、目に焼き付ける。彼の目の前で、彼女の幻は徐々に薄くなっていく。 光の粒子が弾けるようにして消えていった。
『あなたはあなたのできる役目をやりなさい』
都を奈美は応援してくれていた。 背中を押してくれていた。 嫌われ役なら、買って出る。 誰にも文句は言わせない。
短い命だ。
燃え尽きてしまえばよかった。
都は顔をあげた。
曲がりながら一本道になっていく。
都は一本道に踏み込んだ。
ーー戻ってきたのか。
目を開ければ、自分の部屋のベッドに座っていた。一日すぎたと思っていたら、時計を見て半日しか時間経過していなかったのである。 ベッドに倒れ込む。
ーー孝には負けない。 負けたくない。
都にとって再認識できる出来事だった。