第2話:鼻から始まる革命(レボリューション)
1
金貨10枚────。
その輝きは、我がアルジェント男爵家のボロい応接室において、太陽よりも眩しいものでした。
お父様が「ひえぇ、たった一包みの紙切れが、本当に金貨十枚に……!? 夢じゃなかろうな!?」と腰を抜かしていますが、私は至って冷静です。
(※内心:……よし、これでとりあえず今月の光熱費と、お母様のボロボロの靴を新調できるわ。仕入れ値はたったの198円……ポイント支払いだから実質タダなのに、金貨十枚。……ふふ、ふふふ、笑いが止まりませんわ!)
ヴァル様は、ポケットティッシュを一瞬、それはそれは大切そうに摘み上げて、うっとりと光に透かしています。
「メイちゃん。アンタ、この紙……本当にこれっきりなの?」
2
数日後。王都の高級社交界「薔薇の離宮」にて。
そこには、慢性の鼻炎(※魔力アレルギー)に悩む、この国でも指折りの権力者、カトリーヌ公爵夫人の姿がありました。
「……ズビッ。あぁ、嫌だわ。また鼻が……。このゴワゴワの布で拭くと、お化粧が崩れてしまうし、お肌が荒れてしまうわ……」
そこへ、颯爽と現れたのは、金色の縦ロールを揺らしたヴァル様でした。
「奥様。……そんな痛々しいお姿、私の美学が許しませんわ。……これをお使いなさい。北の最果て、清らかなる聖女が祈りを込めて紡いだ、**『天界の綿毛』**ですわよ」
「……天界の綿毛? そんな大層な名前の布、聞いたこともないけれど……。あら? ……あららららっ!?」
公爵夫人が恐るおそるティッシュを鼻に当てた瞬間。
周囲の時間が止まりました。
「……何これ。……何なの、この、赤ちゃんの頬に触れているような柔らかさは……!? 摩擦がないわ! 鼻の下がヒリヒリしない! ヴァレリウス、これを……これを全部私に譲りなさい! 金貨ならいくらでも出すわ!」
3
その頃、私は領地で優雅に(※訳:首の伸びたシャツ姿で)お茶を飲んでいました。
「……あら。お耳が痒いですわね。……誰か、私の噂でもしているのかしら?」
すると、空中に浮かぶ【次元カタログ】が、激しく発光し始めました。
画面には「緊急メッセージ」の文字。
『メイちゃん!! 大変よ!! 例のティッシュ、公爵夫人が悶絶したわ!
王都中の令嬢たちが「私もあの聖女様の紙を!」って、私の店の前で暴動寸前よ!
在庫! 在庫を今すぐポチりなさい! 100個……いえ、1,000個よ!』
(※計算:1,000個!? 198円の20個入りを50パック……。
……あ、次元カタログの『業者用バルク買い』を使えば、ポイント還元率が上がってもっと安くなるわね……。
……ふふ、ふふふふふ! 笑いが止まらないわ!)
私は、震える指で画面をタップしました。
お嬢様としての所作を忘れ、前世の「特売ハンター」の顔になった瞬間です。
4
「……お父様、お母様。……お喜びください。……我が領地に、まもなく『黄金の雨』が降りますわ」
「メイ……? お前の目が、獲物を狙う鷹のように鋭くなっているよ……?」
お父様の心配をよそに、私は次なる一手を考えていました。
ティッシュで鼻を赤くさせない「慈愛」を売った次は……。
**「どんな頑固な汚れも魔法のように落とす、さらなる奇跡」**を投入する番です。
私はカタログの検索欄に、力強く打ち込みました。
【 激 落 ち く ん 】
お屋敷の頑固な汚れも、ヴァル様の商売敵も、すべてこれで消し去ってあげますわ────!
今回の収支報告
仕入れ商品: ポケットティッシュ(追加1,000個)
仕入れ原価: 業者用バルク買いにより、さらに低コスト化
販売価格: 金貨500枚(推定。公爵夫人への特別価格を含む)
今回の利益: 金庫が悲鳴を上げるレベルの黒字!!