55話 スラム
エリクサーに必要な材料は以下の通りだ。
『聖薬草の葉』
『黒樹の粉』
『死せる聖女の灰』
『精霊の核』
『聖水』
『魔力の籠った何か』
この中でも上の二つはもう手に入っている。
後はほかの4つだけだ。
ほかの4つの中でも下の二つは割と広範囲に集めることが出来る。
聖水といっても色々あるが、全てにおいて何らかの要因によって聖なる源の力が大量に含まれた水のことだ。
色々あるとは言ってもどれも貴重なものに変わりは無いため、数が手に入るとは思えない。
魔力の籠った何かもそうだ。
魔力の籠ったもの自体はこの世に大量に溢れている。
が、エリクサーに使えるレベルのものはそうそう無いのだ。
最後にこの2つはかなり特殊な条件でのみでしか手に入れることが出来ない。
それは、聖女や精霊が死んだ時にのみ手に入れることが出来るということだ。
聖女といってもこの前リリンが言っていたような大層なものではなく、長らく聖職を志して体内に大量の聖なる源の力を宿した女性の事であり、精霊は聖なる源の近くに生息する知性ある生き物のことである。
人族の中では聖女や精霊を殺してこの素材を奪い取るのは御法度とされており、また、そうすると素材の質も落ちるためそういった事はほとんどされない。
そのため、市場に流れる数は必然的に減ってしまい価値が上がってしまうのだ。
だが、ここは商業都市ヴァルメリア、人族の商業の中心であり、世界にあるものの殆どはここで手に入ると言われるほどの場所だ。
きっとエリクサーの材料だって見つかるはずだ。
少しかけにはなるが、これ以外に頼れるものがない以上、このプランしかない。
そんなこんなでお昼ご飯としてそこら辺の出店の串焼きなどに舌鼓をうちながら材料探しを探しをしていた。
しかし、材料を売っている場所は中々見つからない。
出来れば今日一日で何とか全ての材料を見つけ出し、夜までにはここを発って夜は少し違う所で野宿でもしようと思っていたのだが、どうやらそれは難しそうだ。
もう日も少し落ち始め、辺りがオレンジ色に色付き始めた頃だ、もうそろそろ泊まれるところを探した方がいいかもしれない。
宿に泊まるという事も一定のリスクを孕んでいる以上そういった事は極力しないつもりでいたが、この際仕方が無いだろう。
ただ、本格的に暗くなり始めるにはもう少し時間がかかるし、あともう少しだけ探すのを続けよう、そう思ってまた探し始めようとしたその時、1人の女性に声をかけられた。
「…………ぁ、ちょっと、君たち、止まってくれるかな?」
俺は肩をいきなり掴まれたことにびっくりして思わずそれを払い除ける。
チラッと見てみると、煌びやかな騎士の様な装備を纏ったウルフカットの女性であった。
俺はリリンの手を引いてその場から離れようとする。
「…………ごめんなさい、私たち急いでるので」
「まぁまぁ、そう言わずさ」
女性は胡散臭い笑みを浮かべながら再度俺の肩を掴む。
…………しつこいな。
善意で子供だけでここを歩いているから助けようしているのか、それとも何か俺達を騙そうとしているのか…………。
兎に角、俺達は2人だけで行動する方が何かと都合がいいのだ、この人について行く訳には行かない。
ここは少し強引にでも断った方が良さそうだ。
女系の手を払い除け、懐に忍ばせていたナイフを取り出す。
「本当にごめんなさい、私達に構わないで」
ローブの袖の中にナイフは隠し、この女の人にしか見えないようにしているので、周りが騒ぎ出したりすることはない。
これで去ってくれれば良いのだが……。
そう思い、視線を少しリリンの方へと向ける。
「……!?」
違和感。
俺は何かがおかしいことに気がついてナイフを握っていた手を見返す。
無い。
さっきまで持っていたはずのナイフが手から失われ、代わりに俺の青黒い血が流れ出していた。
「……正体を表したな」
「待って、戦うつもりは無い」
「戯言はいい、付いてこい」
女の人は俺の背後に立ち、俺を先に進ませようとする。
「ネ、ネムちゃん…………」
「大丈夫、何とかする」
何も、見えなかった。
少し目線を外した隙に俺は斬られたのだろう。
剣を構える動作も、それで俺の事を斬る動作も何も見えなかった。
…………従うしかない。
こいつの目的は分からないが、少なくとも俺達にとって味方になるような存在では無い、という事だけは分かった。
俺は女の指示どうりに進み、少しづつ人気の無い場所へと進んでいく。
リリンが震えていたので、少しでも安心させてあげようと手を繋ごうとしたが、この女によって制され、それは叶わなかった。
こいつは、リリンが怖がっているという事が分からないのか?
怒りが湧いてくるが、それでも一時の感情に流されて更に危機的状況を招くのは望んでいないため、グッとこらえて歩き始めた。
商業都市とは言えども人気のない場所位ある。
特にここまで大きな都市になれば、その繁栄の影に転落したもの、又は成功者の甘い汁にあやかろうとする者たちが集まってくる。
俺達は所謂スラムと言われるような場所に来ていた。