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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜 - 女王の望み
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旭光の新世紀〜日本皇国物語〜  作者: 僕突全卯
第4章 宇宙戦争篇
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女王の望み

2199年4月16日 火星 北大洋の海岸 第3の都市 セレーノ・アクア


 ー連合女王への襲撃ー


 その事件は速報となって、火星全土に拡散された。そしてそれが失敗に終わったたことも、合わせて報道される。現地警察によって運河から引き揚げられ、ずぶ濡れになりながらも拘束され、現行犯として連行される少女の姿が、ニュースで大々的に報じられた。


「クソッ! 失敗か・・・!」


 セレーノ・アクアの一画に古びた貸し倉庫がある。その中の1棟を、この一件の黒幕たちが根城にしていた。


「どうする、リーダー? イツキが警察の手に落ちた以上、ここがバレるのも時間の問題だ」


 狼狽するリーダーに幹部の男が問いかける。水龍市民である河原崎玄冶を首班とする彼らは「22世紀の攘夷志士」を名乗る過激派組織であった。

 最初の火星襲撃で大切な人を失った者たちが集まり、宇宙漂流連合への復讐を悲願とする彼らは、女王が降臨したこの街へ拠点を移し、復讐の機会を伺っていたのである。


 そんな中、ある“特殊能力”を持つイツキの参入は、彼らにとって大きな好機であった。自ら刺客に立候補したイツキを使い、警備要員の1人と上手く入れ替われた“幸運”と、ホログラムを看過されずに接近できた“幸運”を経て、ついに女王の喉元まで迫った。

 だが、あと一歩のところで、火星最強の魔女という壁に阻まれ、失敗に終わったのである。


「警察の手に落ちた以上、救出など不可能だ。だが、彼女の犠牲は無駄にはしない」


 河原崎は早々にイツキの救援を断念する。彼女の“能力”は非常に強力なものだが、流石に国連軍に身柄を抑えられれば、ここまでだろうと考えていたのである。

 しかし、国連軍の動きの速さは彼らの予想を大きく超えるものだった。倉庫の中に、血塗れのメンバーが飛び込んできた。


「おい! どうした!?」


 その男は倉庫に飛び込むなり、力なく倒れ込んでしまる。咄嗟に仲間たちが駆け寄り、彼の体を抱える。血塗れの男は息も絶え絶えになりながら、リーダーの河原崎を見つめた。


「・・・リ、リーダー、大変だ! こ、国連宇宙軍と警察が!」

「・・・な」


 倉庫の外は、すでに武装した国連宇宙軍の兵士たちが取り囲んでいる。事件発覚からわずか2時間足らず、国連軍はイツキの所持品からテロ組織の潜伏先を割り出し、電撃的な制圧に打って出た。


『テロリストに告ぐ! 直ちに投降せよ!』


 数多の銃口が向けられ、投降を促す警告文が発せられる。この日、22世紀末の攘夷志士を名乗った彼らは、結成からわずか1ヶ月足らずで瓦解したのだった。


〜〜〜


同日 深夜 セレーノ・アクア沖合 女王府 座乗艦「ミーナン」


 襲撃事件によって女王の火星視察は中止となり、女王ライザとその部下たちは、セレーノ・アクア沖合に浮かぶ宇宙艦「ミーナン」に戻っていた。

 女王の間近に敵の刃が迫ったことで、女王府の役人たちは紛糾していた。


「即刻、チキュウ人に謝罪と賠償を求めるべきだ!」

「しかし、女王陛下の警備については、我々が全て責任を取ると啖呵を切ったのだぞ!?」

「そんなもの、野蛮人共に義理を通す必要などない!」


 役人たちは何よりも、女王の身に命の危機が迫ったことに憤っていた。実行犯はもちろん地球人の過激派であり、地球側へ責任を求めるべきという声も上がっている。しかし、今回の視察は女王の警備については連合側が責任を負うという約束の下で実行されたものである。

 故に議論の矛先は、女王に刃が迫った根本的な原因へと追求していく。


「しかしあの時、何故陛下の『防御チップ』は発動しなかったのだ?」

「ちゃんと事前に点検していなかったのかね!? 君たちは女王陛下の“生きる盾”、陛下の身に何かがあれば、君1人では贖えない程の罪なのだぞ!」


 テーブルに座す役人たちの視線の先には、華美な隊服に身を纏う女王近衛師団長、テールナー・ギ・ホロウウヴの姿がある。彼は視線を下げつつ、技術班からの検証結果を報告する。


「陛下の『防御チップ』は、事前に動作チェックは問題なくクリアしていました。例えば・・・あの“漕ぎ手の女”が陛下を襲ったとしても、陛下には指一本触れられない筈だったのです」


 女王が身に纏っていた防御体制、 ポータブル電磁バリアを展開できる「防御チップ」という装置については、当然ながら厳しい事前チェックが行われていた。


「だが、現実としてチキュウ人の暴漢は陛下に迫ったではないか!」

「言い訳はよせ! まあ、間一髪でバリアが発動したから事なきを得たが・・・」


 女王に刃が迫る直前、漕ぎ手の女が手を翳した瞬間にバリアが発動した。結局は遅れて防御チップが発動し、ことなきを得た・・・役人たちはそう思っていた。

 しかし、技術班からの報告はそれを覆すものだった。


「それについてですが・・・実は、女王陛下の『防御チップ』はあの日、一度も発動していません。あのバリアは・・・『防御チップ』によるものではないのです」

「何!?」


 女王府の総裁であるロトリーは顔色を変える。


「では・・・チキュウ人もバリアを実用化しているという訳か・・・」

「そんなはずは! 前回の戦闘で、チキュウがバリアの技術を持っていないことは確実だったはずだ」


 火星での戦闘で、宇宙漂流連合と国際連邦宇宙軍は初めて相見えた。その圧倒的な科学力の差で、漂流連合は瞬く間に火星を制圧してしまった。その際の戦闘で、漂流連合も地球の軍事力について情報を収集しており、その中でも地球がバリアを実用化していないことは、彼らにとって周知の事実となっていた。


「技術班には、あのチキュウ人女性がバリアらしきものを発した瞬間を解析させています。その結果、信じられない事実が明らかになりました」


 テールナーは解析結果を提示する。彼が提示したスライドには、解析班の検証結果が提示されていた。


「あの“バリアらしきもの”は、我々が用いる電磁バリアとは全くことなり、あらゆるエネルギー探知機に感応しませんでした。実態がない・・・我々が知るエネルギーとは全く異なるものかと思われます・・・!」


 解析結果を目にした役人たちは、一斉に表情が変わっていく。


「チキュウには・・・何かがある、というわけか」


 ロトリーがつぶやいた。

 1300年の放浪の末に、ついに辿り着いた理想の星「地球」・・・先住民族は科学力で圧倒的に劣る種族であり、圧力を掛ければいずれは相手が折れると考えていた。

 しかし、地球人は自分たちが知らない「何か」をまだ隠し持っている。それは今後、連合側を足踏みさせかねない事実であった。


「・・・」


 会議に沈黙が流れる。その直後、新たな火種が担ぎ込まれてきた。


『・・・失礼します! チキュウ側より電報が届けられました』


 女王府の官僚が緊急テレビ通話を使い、会議の一幕に乱入してきた。彼の顔を映し出すバーチャルディスプレイが、役人たちの目の前にポップアップした。直後、画面は国際連邦から届けられた文章に切り替わる。それには今回の事件に関する報告と新たな提案が記されていた。


「・・・こ、これは!?」

「バカな! こんなことがあった後に、敵の本丸に飛び込めというのか!?」


 それに書かれていた地球側からのある「提案」を目にして、役人たちは一斉にざわめき始めた。それは地球側からの”挑発”とも取れる内容であったからだ。


「いえ・・・チキュウへの移住を渇望する我々は、決してこの申し出を無碍にはできません。女王陛下にお伺いを立てましょう」


 だが、女王府総裁のロトリーは、冷静な声色で口を開く。この日の会合はこれにて終了した。




女王の間


 襲撃者の登場で、セレーノ・アクア視察も、その後に予定されていた親睦パーティーも、何もかも不意になってしまった。女王ライザはショックを隠しきれず、自室である「女王の間」に籠っている。

 ライザは椅子に座り、窓の外に浮かぶセレーノ・アクアの夜景を見つめていた。


「・・・私は、チキュウ人にとって、やはり悪の親玉なのですね」


 彼女の脳裏に、自分に襲いかかってきた地球人の少女の姿、その表情がフラッシュバックする。まだ幼さが残る子供が、自分に凶器と憎悪を向けてきた事実が、彼女の心に重くのしかかっていた。

 そして、強硬派の強い提言に押されたためとは言え、自身が最終的に判断を下した「火星占領」が、多くの地球人の生活を狂わせたことを、改めて思い知らされていたのである。


「・・・」


 地球にとって、火星襲撃が歴史上初めての「宇宙戦争」であるのと同様に、漂流連合にとっても、他勢力との戦闘は1300年の歴史でおよそ数百年振りの出来事である。

 ライザは女王として、その引き金を引いた責任を感じていたのだ。


「・・・失礼します。陛下、チキュウ側より今回の一件について、電報が届いております」


 傷心の女王のもとへ、腹心の部下であるロトリーが現れる。彼は悲しげな視線を向ける女王に、地球側から届けられた電報を読み上げた。

 それは国連事務総長ジュンタ・ピワランの名前で送られたものであった。


『宇宙漂流連合女王陛下。本日の一件について、国際連邦の代表として心よりお見舞い申し上げる。今回の一件はテロリズムを是とする非道な一派による凶行であり、地球人の総意ではないことをご理解頂きたい。なお、実行犯については・・・』


 電報は見舞いの言葉から始まり、犯行を行なった少女がテロリストグループの一員であったこと、そのグループは国連宇宙軍の手ですでに瓦解したことが記されていた。

 ロトリーは長文の電報をそのまま読み進めていく。そして、最後の1文を読み上げた時、女王の表情は大きく一変した。


『我々は今回の視察が成功した暁には、是非とも女王陛下と女王府の方々を『地球』へご招待申し上げたいと考えていた。傷心の折、大変恐れ入るが、是非とも前向きに検討して頂きたい・・・!』

「・・・!! 私が、チキュウへ?」


 女王の表情が変わる。それは恐怖や不安ではなく、用意されたプレゼントの中身を期待してしまう様な、嬉しさを隠しきれない少女の表情であった。

 すでに地球人による襲撃を受けたにも関わらず、彼女の地球への憧れと羨望は、それによる恐怖と不安を遥かに凌駕するものだったのだ。


「『チキュウ』へ行けるというのなら、私は行きたい・・・。ロトリー、ついて来てくれますか?」

「・・・陛下のお望みとあらば、どこへでも」


 女王の腹心の部下であるロトリーは、ライザの問いかけに即答して頭を下げる。彼の返事を聞いて、ライザはますます顔が明るくなっていく。

 彼女は窓の外へ視線を戻し、地球へ上陸するにあたって、密かに抱えていた“ある希望”を口にする。


「チキュウに行くのなら、私はチキュウのトップと直接話をしたいのです」

「チキュウの・・・トップですか? お言葉ですが、陛下。現在、この第4惑星を訪れているジュンタ・ピワラン氏は、チキュウの最高機関にて事務総長という役職に就かれている方で、その立場に近しい人物の1人であると思われますが・・・」


 地球は惑星そのものを支配する統一国家は存在しないため、国際連合の後継機関である「国際連邦」が、宇宙漂流連合に対する交渉役となってきた。その中で地球の代表者として指名されたのが、国連事務総長のジュンタ・ピワランであった。

 しかし、女王が会いたい人物は別に居た。彼女はその人物の素性をロトリーに伝える。


「私がお会いしたいのは、この恒星系を支配する国家『ニホンコウコク』・・・その国を治める『皇帝』です」


〜〜〜


2199年4月18日 地球 日本皇国 首都東京 首相官邸


 火星での「連合女王襲撃未遂事件」から2日後、宇宙開拓の礎を築いた国「日本皇国」では、政府首脳陣に不穏な空気が流れていた。

 そして首相官邸の総理執務室には、当代の内閣総理大臣を務める唐木田昭和の他、宇宙開発大臣の吉井丈、そして宮内大臣の湯浅兼尚の3人が集まっている。応接用のソファに座って相対する彼らは、昨日、国連宇宙開発機構を介して火星行政庁より届けられたある案件について話し合っていた。


「まさか、異星人の女王が我が国の名と陛下のことをを知っていたとは驚きだ」

「彼らは地球について無知だと思っていましたが、本当に何も知らない訳ではない・・・ということでしょうね」


 首相の唐木田と宇宙開発大臣の吉井は困惑した表情を浮かべていた。連合の女王が会談の相手として天皇陛下を指名してきたことは、日本政府にとってまさしく晴天の霹靂であった。


「しかし、天皇陛下は・・・」


 首相の唐木田は言葉を詰まらせる。かつて、天皇・皇族による海外要人との会見・引見は重要な国際親善の場であった。しかし、当代の天皇が即位して以降、日本政府は意図的に海外要人との会見・引見を減らしてきたある事情があった。


「・・・いえ、私から陛下と・・・摂政殿下にお伺いしましょう」


 宮内大臣の湯浅はこの案件を天皇、この国の頂点に立つ存在へ持っていくことを約束する。

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