地下ダンジョンは心の迷宮(前編)
「ジェド……私はね、覚悟はしていたとは言ったよ。確かに。でもね、立て続けに巻き込まれていいとは言ってないんだよ?」
「いやだから、俺が原因みたいに言いますけど……今回は俺のせいとは限らないでしょう」
「じゃあ前回は自分が原因だという自覚はあるんだ」
「まぁ……多少は」
俺達は聖国行きの馬車に乗っていたはずなのだが……何故かダンジョンの入り口を呆然と見つめていた。。
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事の発端は数時間前――
帝国の首都から程近い町リトで馬車に乗った茶色の旅人ジェドとモブに近い旅人ルーカスは、リトを出発してすぐの街道で盗賊に遭遇した。
アジトまで連れて行かれ、なんやかんやで解決した俺達は一旦リトに戻り盗賊を引き渡してから、再度聖国に向けて出発したのだが……その馬車内での事。
「あなた方、ただの旅人ではありませんね?!」
馬車には俺達の他に3人位のオッサンが乗っていた。3人は同じグループらしいが、その中でも1番偉いであろうオッサンが俺に話しかけてきた。
「いえ、ただの旅人です。どこからどう見てもただの旅人です」
「いやいやご謙遜を、あの盗賊団を壊滅させる腕は素晴らしかった! そんなただの旅人がいる訳ないでしょう! 冒険者か、はたまた武術家ですか?」
ああ……目立たぬつもりが、溢れ出るオーラが出てしまっていたようだ。この俺の右腕に封印されし、漆黒のオーラが。
隣をチラッと見ると、陛下は我関せずの表情である。いやいや、陛下ったら、俺に任せていいの? 俺が上手く流せると思っているの? 助けてよ。
「その腕を見込んで頼みがあります!」
「えー……いや、俺達先を急いで旅しているので……」
「そこを何とか、お話だけでも聞いては頂けないでしょうか??」
「まぁ、話だけなら……」
「私はビーク・イエオンと申します。リトの町でご覧になったかと思いますが、帝国全土に沢山の支店を持つ複合商店街イエオンは何を隠そう私が展開した商業であります」
ああ、あの安くていいものいっぱいな夢の商店街の! 結構凄い商人じゃん。他の2人は従者かな? オッサンとか言って一纏めにして何かごめん。
「そうでしたか。それで、そのイエオン様が私達に何の御用でしょう?」
「この先にあるダンジョン都市ナポリのダンジョンに潜って、様子を見に行って頂きたいのです」
ダンジョン――冒険者達がレベルを上げたりアイテムを発掘したりする場所。
前に魔王アークに聞いた話だと、魔気の溜まりやすい洞窟等で魔石が何100年と力を蓄え発生し、それが核となって形成される。
その謎は全て解明された訳ではないのだが、ダンジョンで発生した魔獣達はダンジョン外の魔獣とは違い、魔石の作り出した魔気で出来ているとか。
その空間は異世界に繋がるとも噂され、謎のアイテムが多く発掘されるので冒険者は挙ってダンジョンに潜り一獲千金を狙う。
ナポリのダンジョンはかなり大きく古いダンジョンとしても有名である。
「……実は、私の息子が冒険者を雇ってナポリのダンジョンに潜ったっきり、連絡が取れなくなってしまったのです。捜索に人を送りましたが、その者達もまた連絡が途絶えました。私は直接ナポリに行き、冒険者ギルドに息子と他の者達の捜索を依頼しようと思っていたのです……もしあなた方が冒険者ギルドに所属していない旅人ならば、個人でこの依頼を受けて頂くことは可能でしょうか?」
……ヤバイ、面倒な事を聞いてしまった。
ダンジョンは、ある程度危険の無いように基準が設けられていたはず。そんな行方不明の人がいるならばすぐに俺達に連絡が来て捜索対象となり、最悪危険なダンジョンならば封鎖もあり得る。
何で皇帝の所に連絡来ないの? ……ナポリのヤツら、さては閉鎖されるとマズイと思って連絡してないな。
陛下の方を向くと溜息を吐いていた。もうこれは行くしか選択肢の無いやつですな……
「わ、わかりました。私でお役に立てる範囲で良ければ」
俺達は程なくしてナポリに到着した。
聖国行きの馬車についてはイエオンさんがお金を出してくれたので依頼が終わればまた乗れるそうだ。
ダンジョン都市ナポリは、ダンジョンで生計を立ててるんだろうな〜という町である。
至る所にダンジョン土産屋さんがあり、年若い男の子が欲しがりそうな竜が絡んだ剣をモチーフにしたペンダントやダンジョンクッキー、この手の観光地では良くある似顔絵描き屋さんも沢山あった。とんでもなくダンジョンにあやかっている町である。
町を少し外れた所にはちゃんとイエオンの商店街もある。環境が素晴らしいな。
『ダンジョン都市ナポリ』と書かれている服いいなぁ……誰かのお土産に買って行こうかな。
「ジェド、変なお土産が気になるのは分かるけど、私達まだこの先聖国まで行かなくちゃいけないんだからね? 土産を買うにはだいぶ早いんだよ」
……そうだった。俺達はまだ目的を何も達成していないのだ。
お土産屋さんの誘惑を無視して、ナポリの冒険者ギルドに向かった。
まずは情報収集である。ギルドの受付には調子の良さそうな男の職員が居た。
「すまないが……依頼を受けに来た冒険者ではないのだが、ダンジョンの事について教えてはもらえないだろうか?」
「へいらっしゃーい! ダンジョン?? めっちゃ金になりますよー! じゃんじゃんバリバリ聞いてくださいー!」
いや君、土産屋じゃなくてココ、ギルドだよね……? もう何か、受け答えでいかにダンジョンにあやかっているのかよく分かる。
「……ナポリのダンジョンで行方不明者がいるのではないか?」
「えっ……」
調子のいい受付が明らかに動揺し、さっきの調子は一変して小声で話し始めた。
「ど、どこでその話を……」
「……やはりそうなのか。いや、俺の知り合いがな、息子と連絡が取れないと捜索に来ているんだ。こんな事中央にバレたら大変なんだろ? 黙っててやるから洗いざらい話してくれよ」
「本当だな? いや、実はここだけの話……そういう問い合わせが最近増えてるんだ。だが、こちらもちゃんとそこは調べている。――行方不明者はいないんだよ」
「何?」
「その、連絡が取れないとされている奴らは定期的にダンジョンから帰って来てはいるんだ。ただ、何かに取り憑かれたようにまたダンジョンに潜りに行ってしまう。皆、話すと普通なんだが……地元への連絡も忘れてまたダンジョンに戻るんだ。そろそろ調べないとヤバイとギルド内でも話が出ていたんだよ……」
職員の話では、行方不明者として捜索願が出ている人達は定期的に町に戻って来てはいるらしいのだが、捜索願が出ているから地元に戻ってくれと言っても頑なに戻らず、ダンジョンに行ってしまうとか。
それが1人2人ならまだダンジョンが楽しくてハマってしまったのだろうと納得出来るが、行方不明者を捜索に来た人達も一緒になってその調子になり、今では取り憑かれたように毎日潜る人が沢山いるらしい。
「分かりました……良ければ俺達が見て来ましょうか? 生憎俺達にはダンジョンでレベルを上げたいとか、宝を探したいとかいう欲求はありません。少しは他の人よりマシなんじゃないですかね? 腕にもまぁまぁ自信ありますし」
「並みの冒険者より腕の立ちそうな事は何となく分かる……そう言って頂けるのであればありがたい。ダンジョンの係員には連絡しておくが、くれぐれも気をつけてくれ」
話を聞いてギルドを出た俺達はダンジョンへと向かった。隣で陛下が頭を抱えている。
「細々と色んな問題が発生しているらしい事は分かった。ダンジョンについても、危険の無い範囲でならば多少は商売っ気を出す事も黙認していたが……もう少し規定を考え直さないとダメだな」
「まぁ、その辺りは個々の判断になりますからね。事例の無いものはギルド側としても判断つきにくいのでしょう。とは言え何かあってからでは遅いですがね」
世の中にはよく分からない事件が沢山あるので、その都度判断するのは中々難しい。マニュアル通りには行かないのだろう。
「あれがダンジョン……ですかね」
「……何というか」
到着したダンジョンは『おいでませ! ダンジョン!! 本格派!! 集まれトレジャーハンター! 一獲千金!』と看板が掲げられ、商売感丸出しであった。
こんな情緒無いダンジョンに人が集まるのだろうか? と思ったのだが、予想と反してかなりの行列が出来ている。
さぞかし一獲千金に目がギラギラしているのだろう……と思いきや、並んでいる人達の様子は明らかにおかしかった。
皆、大荷物を背負い目は虚ろ。頬は痩せこけ、ダンジョン依存にしても明らかに度を超している。
並んでいた中にイエオンに似た男を見つけた。商人仲間や冒険者達と一緒であるが、彼らも同じ様子だった。
「失礼だが貴方、ビーク・イエオンの息子じゃないか? 俺達は彼に頼まれて息子と捜索隊を探しているんだ」
声をかけられた男達はビクッと体を震わせる。
「い、いや……人違いです。仮にそうだとしても……俺達はまだ帰れないんです!!」
「そうだそうだ!! 行きましょう坊っちゃん!!」
その男達は受付の順番が来てそのまま走り、ダンジョンの中へと消えてしまった。
「……どう思いますか? 話した感じだと意識はしっかりしているようですが……」
「何かある事は確かだな……はぁ。仕方ない、とにかくダンジョンに入ろう」
そうして、俺達は彼らを追いかけてダンジョンに入って行った。