第二十八話 帝都内 義務
二話目
僕は視線を騒動の現場から周囲に移す。
そしてじっと、現場近くの通行人達を見る。
彼らに助けを求めるようにだ。
あくまでも視線だけで、だけどね。
その僕の所作に気が付いた通行人達は、自身が助けを求められている事に耐えられず逃げ出す。
……こりゃ望みは薄いね。
僕はクリスを見る。
「うん? どうしたがな」
「いえ。美人だなと思いまして」
「……」
視線を逸らし赤面するクリス。
可愛いかも。
ちょっとした冗談はさておき。
僕がククル村の孤児院で育てられるようになってから聞かされた言葉がある。
『民と共に全てを分かち合う』
この言葉を僕はククル村の住人から幾度となく聞かされて育った。
正確に言えば元王族貴族達。
若しくは王侯貴族達にだ。
あくまで僕が知ってる範囲でだが。
特にシスターからはよくこの言葉を聞かされた。
ノブレス・オブリージュ<<高貴なる者の義務>>を僕に諭すのは良いだろう。
だけどあのジスター達は、僕がただの平民だと理解して諭していたのかは疑問。
……まあ良いけど。
ただこの言葉をククル村に住む王侯貴族達は日々実践してるのだ。
ククル村で育てば否応にもそれが分かる。
あそこは王侯貴族でも平民と共に寝起きを共にする。
朝は野良仕事に精を出す。
週末は身分の差に関係なく共に教会に行く。
身分若しくは年齢を問わずに、教えを請い請われるのが当たり前。
魔物が出没しても共に肩を並べ闘う。
ククル村はそんな所だ。
この思想は本来の帝都や王都の王侯貴族の考えなんだろう。
だから王侯貴族といえど民に驕らない。
だから無闇に城下に降りたりして、王侯貴族が民に緊張を強いる事を遠慮する。
だけどそれは建前。
実際は彼らは頻繁に城下に下る。
統治や政治の能力が無い貴族達はせめて裏から自身の実力で民を守る……。
という思想かな。
というか孤児院のメンバー達は、何時も魔物との戦いの時は最前線だしな。
だから彼等が日々娯楽室に集まるのはそんな理由からなんだろう。
と……思う。(目を逸らす)
僕の精神衛生上そう思うようにしとこう。(冷や汗)
だってさあ……。(頭を抱える)
なんで何時も皆は喧嘩してんの?
王族?
元王族?
貴族?
何度も嘘だろう~~と、思った事か……。
何でたかが遊びで喧嘩してんの?
……と何度言いかけたか。
騒動の中心は何時も孤児院のメンバーです。
特にシスター。
あんた元魔王なんだろう?
何でゲームに負けた位で鍬を振り回してんだ?
馬鹿なの?
サラはそんなシスターを直ぐに煽るし。
サキ姉さんは薄い本を村人相手に普及するし。
此れで村人達に嫌われてないんだから不思議だ。
薄い本は若い女性の間で流行るし。
まあ、お陰で村の識字率が異常なレベルで上がったけど。
精神衛生上誰がモデルかは言いません。(泣く)
静かに僕が泣いていると、何故かクリスに優しく肩を叩かれたけど。(号泣)
しかも村を出る僅か二日前に作られた薄い本のモデルにもされてました。
性別は同性で。
因みに性別は男女別の二種類。
攻めと受けが変わった物。
合計四種類。
その事を知ったのは帝都に入る前。
具体的に言えば隠れて馬車の中でサキ姉さん達が何かやってるな~と思ったのが切っ掛け。
それが皆で見慣れない薄い本を読んでいたんです。
僕とクリスを除いて。
最悪な事に既にココロ村では普及済みだったらしい。
何時ばら撒いた……。(呆然)
此れであの村の識字率は更に上がるのだろう。
娯楽が少ないからね……。(さめざめと泣く)
話は元に戻るが、全てのククル商会にも娯楽室がある。
娯楽室にはトランプやオセロにチェス後は人生ゲームや将棋などその他色々と完備されてます。
これらは僕が余った紙や木材を何かに使えないかと考え作り上げました。
その結果村の皆に大絶賛されました。
その後儲けを考えずに全商会に設置しました。
その結果、商会の売り上げに更に貢献したのだが、意図的だった訳ではないので余談ではある。
「……あれは例外がな」
「シスターとサキ姉さんサラも、ククル村の商会に遊びに行ってますね~~後……クリスも」
「お茶を飲みながら将棋を指すのは俺の楽しみだがな。悪いか?」
「いえ」
「それにあの村は殆どが王族や貴族だ。気にするな」
まあいいけど。
目を逸らすクリスを放置する僕。
「ちょっと誰か助けてよっ!」
「セリスを離しなさいよ」
「うるせえっ!」
ベキッ!
ゴスッ!
セリスとミリアが殴られる。
プチン。
この瞬間僕は切れた。
「僕の前で女の子に酷い事をするなああああああっ!」
「へっ?」
仮面を被りそのまま僕は走り出す。
走りながら掌の汗を僕は痺れ薬に変える。
唖然とするクリスを尻目に【幻身】を起動。
失敗。
何で?
急遽、失敗の要因を【世界の英知】で検索し探る。
ヒット。
鉛が近くに有る場所。
若しくはダンジョン内では【幻身】は更にレベルの低下を招く。
レベル低下は更に十分の一になる。
此れでレベル一未満の場合起動できない。
……。
馬鹿かあああああああっ!
ゲームの時より劣化してるじゃないかっ!
ああくそ。
まあいい、他のスキルは問題なく起動できる。
鉛の所為で全ての魔術は弱体化してしまうが。
此処まで掛かった時間は約一秒。
ジョブを竜兵士に変更。
同時に僕は護身用短剣を鞘ごと抜く。
上空に護身用短剣を放つ。
そのまま僕は上空に跳躍。
体を捻り体勢を変える。
ダンッ!
空中に投げた護身用短剣を足場に、僕は男達に向けさらに再度跳躍。
「なあ! カイルっ!」
クリス煩い。
奇襲の邪魔です。
「なんだ?」
セリス達に乱暴をしていた男達の視線が絶叫を上げたクリスの方に移る。
ちい。
目標先の体勢がずれた。
これでは充分な威力が乗せられない。
仕方ない。
僕は体を捻り蹴りを繰り出す。
その蹴りは手前の男に当たる。
ゴスっ!
「ぎいっ!」
ああくそっ!
シシルを踏んでいた男を間違って蹴ってしまった。
男はそのまま壁に激突。
僕はそのまま着地する。
狙いが逸れた。
元々余り使い慣れていないジョブだから仕方がない。
「なんだ! この餓鬼っ!」
「どっから湧いて出たっ!」
混乱する二人の男に切りつける。
「危ない! 君っ! 逃げてっ!」
「逃げなさいっ!」
「やめなっ!」
突然現れた僕に目を白黒させなる三人。
ですがミリアにシシルやセリスが心配して僕に声を掛けてくれるのが嬉しい。
やさしいね。三人共。
……まあその心配は見当外れなんだけど。
確かにこいつ等全員が準男爵クラス実力者だという事は分かる。
だけどこの男達は……ぬるい。
ククル村の住人に比べてぬるい。
そう言いたい。
今も突発的な事態にどう対処したらいいか分からないでいる。
これがククル村の住人なら、躊躇しないですぐ迎撃行動に移るぞ。
あの村では、六歳児の子供でも手に持ってる物を投げ牽制し、手持ちの武器か魔術で反撃してるのに。
僕は武道家のジョブの力で掌を硬化させる。
【硬気功】である。
達人クラスなら素手で鋼の剣を折れるが、生憎僕はそのレベルに達していない。
だが人の肉を突き刺す程度なら此れでも充分なレベルだ。
そのまま僕は近くの男の懐に踏み込む。
そのまま鎧の隙間に、先程汗を痺れ薬に変化させた手刀で突き刺す。
「いでええええっ!」
僕の手刀が肉を刺し通す感触を確認してから手を引き抜く。
そのまま僕の手刀で刺された男は体を痙攣させ崩れ落ちる。
「てめえっ! なにしやがるっ!」
この時点でようやく最後の男が動き出す。
だけど甘すぎる。
なんで話す隙があるなら、その間に振るわない?
僕は返す掌をその男の膝に叩きつける。
ゴスッ!
「があっ!」
血は噴出しない。
但し肉は爆ぜ骨は砕ける。
【浸透剄】と呼ばれる技だ。
体当たりの原理を手刀だけに込め鋭く込めて放出し、威力だけを内側に深く伝える衝撃技。
流石に公衆の面前で殺すのはヤバイので威力は控えた。
さて……。
この後どうするかなあ……。
驚くセリスやミリアにシシルを視界に納めつつ僕は溜息を付く。
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