八歳で死ぬと予言されたそうで。20
国王が扉の向こうに声をかけると、護衛がノラン様がいらっしゃいました、と答えた。
ノラン様、それは前国王の異母弟の息子、つまり国王の従兄弟の名前である。王族だから殿下と呼ぶ者も居たが、国王夫妻にアッシュが生まれた時から殿下の敬称はアッシュ、そしてジョシュのものとなり、ノランは様の敬称へと変わった。ちなみに王妃は妃殿下と呼ばれている。
入室許可を出すと入ってきたのは、国王陛下よりかなり若く見える男性。国王と王妃はレッセルとテレーザの公爵夫妻と同年代の三十代前半から半ばに見えるが、入室した男性は二十歳くらいのよう。
前国王と異母弟が十五歳近く離れているので、まぁ息子同士もそれくらいの年齢差があるのだろう。
「お呼びだと伺いまして参りました」
国王やアッシュと同じ黒に近い焦茶色の髪に琥珀色の目をした青年は、併し憂いごとでもあるのか影を帯びた顔つき。だが、それが陰気な雰囲気を与えないのは、中性的な顔立ちだからか。女性からモテそうな顔立ちでミステリアスな雰囲気に、令嬢も夫人も華やいだ声を上げそうであった。
「うむ。ノランに尋ねたいことがあってな。ああ、ビアス公爵夫妻は知っているか? それとその子どもたちだ」
国王から紹介され、先程までアグレッシブな発言をかましていたとは思えないくらい、見事に小さな令嬢として挨拶をするテネシスは、失礼にならないように相手を観察した。
「ビアス公爵夫妻には夜会で何度かお会いしておりますね。お久しぶりです、公爵。夫人。夫人は体調が思わしくないと耳にしておりましたが、本日は大丈夫でしょうか」
挨拶と共にテレーザの体調を気遣う発言をする辺り、出来る人のようである。
「お久しぶりでございます、ノラン様。本日はノラン様にご紹介いただきました予言者のことについてお尋ねしたく陛下の元を参りました。妻も体調が整っておりますので、子どもたちと共に」
腐っても公爵。こういう挨拶を息をするように返せるのはさすがというべきか。
テネシスは「ふーん」と思いつつ、一応それなりのことは出来るんだね、と辛辣な評を下している。
公爵の威厳ゼロ。父親としての信用ゼロ。
その結果なのだからテネシスからの評価が低くても仕方ないと思うべきである。
そんなテネシスの内心は、当然誰も知る由もないが、ノランは怪訝そうな顔をしてレッセルを見た。
「予言者、なんです? 誰のことですか?」
シンと室内が静まり返ったのも仕方ない。
抑々、本日の登城は予言者に会いたい、とレッセルが国王にお伺いを立ててノランに会い、予言者について尋ねるためのものである。
それなのに、ノランから予言者? ナニソレ? と言われてしまえば、いやいや、そっちこそ何言ってるの? という空気になってしまっても仕方ない。
国王もノランのあまりの訝しむ表情を見て、公爵の勘違いか? と疑ってしまったのは確かだが、それでは息子・ジョシュもその予言者に会っていることが勘違いということになってしまう。
ジョシュが予言者に会ったらしい、ということは、塞ぎ込んでいたジョシュからアッシュがようやく聞き出した話だったために、疑いようもない。
その予言者に会ったのも、ジョシュがノランに会いに行ったときではなく、少し侍従と護衛から離れて王城の庭園内を駆け回っていたときに、ノランとその父親が住まう区域に立ち入って、だったとか。
慌ててジョシュを追いかけた護衛や侍従の話からも、前国王陛下の異母弟様とそのご子息様の住まう区域に入られた後、出てきたときから落ち込んでいらっしゃった、と報告を受けている。
ということは、少なくとも予言者なる怪しげな人物は、そこにいたはずである。侍従や護衛たちが見ていなくても、推論はそういうことだ。
となると、ノランが嘘をついているのだろうが、レッセルから予言者のことを尋ねられ、訝しむ表情は、とても嘘をついているようには見えない。
……もちろん演技の可能性もあるかもしれないが。
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