55 エミリア
どうして、あの人のこと悪い人だと思っていたのだろう。
あの人は人に悪く言われても、それを気にせず背筋が伸びていたから? 目を逸らさず、言葉を濁さず、誰にも媚びることなく立っていたから?
……もしかしたら、私はずっと、クラリス様のようになりたかったのかもしれない。
私は“聖女”と呼ばれてきた。でも、その名前にふさわしい人間だっただろうか。人の心を癒す存在──そう言われながら、私はいつも誰かの顔色ばかりをうかがっていた。
そして一方の話しか聞かず、それを信じた。自分の目で見たわけでもないのに……
リサは、私の誇りだった。
私にとって、手の届かない強さを持ち愛を貫き幸せを掴む象徴だった。
……だけど、その“強さ”は、いつの間にか、誰かを踏みつけ、傷つけるものに変わっていた。
クラリス様に聞かされたとき、胸が痛んだ。
あの人の声は冷たくて、でも、どこまでもまっすぐだった。冷たい声。でもリサのことも、マルグリート様も、責めてはいなかった。
責めるのではなく──ただ、事実を受け止めていた。あの人は、怒りに流されず、悲しみに縛られず、一人立っていた。
私はまだ、その域には届かない。
だけど──少しだけ、あの人に近づきたいと思った。自分の言葉で、人と向き合えるようになりたい。誰かの陰に隠れず、顔色をうかがうわけでなく、自分を信じられるようになりたい。
クラリス様が言ってくれた。「自分だけは裏切らないで」と。その言葉が、胸に残る。
私はもう、誰かに縛られたままではいられない。これからは、私の正しさを探していく。
リサとも、また向き合う日が来るのだろうか。
クラリス様とも、もっと話せる日が来るだろうか。
その時、私は――
迷わず、笑っていられる自分でいたい。