65 ざわめく
王宮の広間には、朝の光が柔らかく差し込み、木製の床を照らしていた。オルデン侯国からの留学生や若い使節団の姿がすでに揃い、緊張と期待の入り混じった空気が漂っている。私は控えめに壁際に立ち、書類の最終確認をしていた。心の奥には、昨日からの違和感がまだ残っている。陛下が、いつもより少し楽しげに、あるいは緊張を滲ませずに留学生たちを迎えているように見えたからだ。
「陛下……」私は小さく呟くが、声は届かない。彼はすでに、穏やかな笑みを浮かべながら、留学生たちの質問に答えている。その声は柔らかく、知性と温かみが混ざった響きで、聞く者を自然に惹きつける。胸の奥が、チクリと痛む。
「クラリス様、貴女のご説明も非常にわかりやすいです」
留学生の一人が微笑む。視線は私に向いているが、心のどこかで、陛下を慕う目が気になって仕方がない。あの笑顔も、あの微笑みも、彼を慕う者に向けられたものだ――そう思うと、自然と視線を落とし、微笑を浮かべてそっと頷くしかなかった。
昼が近づき、陛下は留学生たちを前にして、国の政策や文化を紹介する。言葉のひとつひとつに、知識と品位がにじむ。どの瞬間も無駄がなく、しかし柔らかさも感じさせる話し方だ。私はその様子を横目で見つつ、資料の整理と進行の確認に集中する。だが、胸の奥には焦燥感が芽生えていた。
「クラリス、君の働きぶりも見事だ」
陛下が控えめに耳打ちするように言う。私は礼を返すが、心の中では小さな緊張が走る。普段の仕事の延長に過ぎないはずなのに、陛下の視線が自分に向けられるだけで、なぜか動揺するのだ。