少女の夢 ~水泡に抱かれて~
平静を取り戻したエルエッタが口直しの果実を味わっている間に、シャミィは自分の食事にありつこうとしていた。彼女は大口を開けて、空を仰いでいる。
少女は、息絶えた鳥を頭上に掲げると、ゆっくりとそれを締め上げていく。やがて、加えられる圧に屈したその体は崩壊をして、鮮血が噴き出した。赤い雫は重力に従って落下すると、彼女の口腔へと注がれていった。
紅が、純白の衣服を染め上げていく。
悪くない味だったようだ。シャミィは目を細めて舌なめずりをすると、亡骸を捨てて、もう一匹の鳥を手にした。そして、浴びるように血を喰らった。
普段の立ち振る舞いからは想像つかない本能をむき出しにした姿に、しかし、長年の付き合いである親友の幾度となく見たことのある姿に、エルエッタは恐怖とも安心とも判断しかねる気持ちに襲われて、ぶるりと身を震わせた。
搾りかすとなって用無しとなった鳥の亡骸を放り捨てると、シャミィはエルエッタに言った。
「友よ。私は体を清めたいと思うのだけど、君はどうする?」
べっとりと手に付着した血液を美味しそうに舐めとりながら、少女は親友に問いかけた。
エルエッタは彼女の提案に同意を示した。
二人は、流れ落ちる水流が発する轟音の地へと移動した。
「うん! 悪くない眺めだ! そうだろう?」
「騒々しいけどね!」
水音に負けまいと、大きな声で会話をする二人の少女。
彼女たちの視線の先には背の高い崖から落ちる水の景色があった。その量はすさまじく、空気の泡で乳汁のように白く染まった液体がとめどなく流れている。滝壺からは、煙が立ちのぼるかのごとく、水しぶきが上がっていた。
滝にかけられた鮮やかな虹が、二人を歓迎している。
流れの穏やかな場所を見つけると、シャミィは気分よく鼻歌をうたいながら、岸辺へ一歩を踏み出した。
すると突然、シャミィの身にまとう白い衣服から炎が発した。それは、彼女の身体を芯として、少女の全身を燃え上がらせた。
炎は、彼女が持つ悪魔の瞳と同じ色をしている。
黄金の炎に包まれたシャミィは平気な顔をして、歩みを進める。たちまち、彼女の衣服は燃え散ってしまい、少女は生まれたままの姿となった。
頭のてっぺんから足の爪の先まで精巧に整った造りの、すらりとした美しい親友の躰を目の当たりにしたエルエッタは、目を奪われて、無意識に生唾を飲み込んだ。
そんな彼女の心中を知ってか知らずか、シャミィは恥じらうことなく、髪の毛をさっとかきあげると、水の中へ足を踏み入れた。
ちゃぷ、と小さな音を立てて、細い足が川の中に沈んでいく。
シャミィは振り返ると、エルエッタに手招きをした。
エルエッタはシャミィに導かれるように、あるいは操られたかのように、ふらふらとおぼつかない足取りで親友のもとに向かう。
すると、彼女の衣類もシャミィと同様の現象を起こして、燃え散ってしまった。炎は、彼女の悪魔の瞳と同じ、透き通るような桃色だった。
「……あ、冷たい」
冷やりとした水の感触に、わずかに理性を取り戻したエルエッタが、おもわず呟いた。
裸体の少女が、差し伸べられた親友の手を取った。
「でも、君の手はあたたかい」
指を絡めてきつく結んだ手を引っ張ってエルエッタを抱き寄せると、シャミィは重力に身を任せた。
ばしゃん。
立ちのぼる無数の泡が陽に煌めく世界で、二人の少女が唇を重ねた。