少女の夢 ~黄昏に願う~
「湿気っぽいわね……」
シャミィと並んで移動をするエルエッタは、不快そうに顔をしかめた。
天井や壁は雨水が染み込んだのか色が濃い。地面は外から入り込んだ湿気で少しぬかるんでいる。
かびっぽいにおいと雨のかおりが重苦しい雰囲気をまといながら、ふたりを包み込んでいる……。
この場所が乾きを取り戻すまでに、しばらくの時間を要するだろう。
「ほら、見なよ。明かりを灯す道具だ」
「ええ、そうね」
シャミィが一声鳴くと、通路に一定の間隔で設置された灯台が魔力を帯びて、ぼうっと光った。
真っ暗な通路が淡い光で満たされたことで、いくらか気が楽になり、不快な空気も減ったように感じた。
「あら? また扉が……」
しばらく歩いていると、ふたりの目の前に、大穴の入り口にあったような木製の扉があらわれた。
「私が行くわ」
シャミィに「待て」をして、エルエッタが扉に近づく。空気を切り裂く鋭い音を立てて、少女の手から爪が伸びた。
「気をつけて」
シャミィの忠告にうなずくと、エルエッタは、そうっと扉を開けた。
……地下道にしては、広い空間だ。
慎重に足を踏み入れたエルエッタは、注意深く辺りを見回している。……なにも来ない。襲ってくる存在が見当たらないことを確認すると、少女はシャミィを手招きした。
「ちょっとした小部屋ね」
ここは天井が少し高く、前後にも左右にもだいぶ広い。机や椅子など小物がまばらに置かれていて、隅には棚まで設置されている。
「休憩部屋ってところかな。……この場所から転移魔法の痕跡を感じる。ははあ。作業者はこの部屋ごとここに転移をして、内側から隠し通路を拡張していったわけか。転移に失敗したら生き埋めになる可能性もあっただろうに、結構な無茶をするね」
とシャミィが感心したように言った。
「よし。先に進んで出口を確かめたら、ここで一休みしよう。野宿することにならなくてよかったね」
「土の中なのは変わらないけどね」
くすりと笑うと、エルエッタはシャミィの背に乗った。
少女たちは、先に進む。進むにつれて粘り気のある風が吹き始め、それが肌を刺激するのか、ちくちくと痒みを感じるようになった。
しかし、不思議とエルエッタは、それを心地よく感じていた。
やがて、水が激しく跳ねる音が聞こえてきて、それは確かな波の音となって、ふたりの耳に届いた。
ザザ……ァァ……! ザザ……ァァ……!
直前の悪天候で機嫌を悪くしたのか、少し荒れている広大な海原がふたりの眼前に広がっている。
少女たちは切り立った崖の中腹に出ていた。
黄昏に焦がされた海は、煤けた橙色に燃え上がっていた。
ああ――。
無意識に潤んだ瞳で、エルエッタは果てのない大海原をじっと見つめていた。
ああ、すっかり雨雲が消えているではないか。
景色に圧倒されたエルエッタは、そんな些細な変化にすら感動を覚えた。
雨雲は遥か彼方に消え去った。これで、しばらくは雨に悩まされることはないだろう。
「シャミィ?」
「うん?」
「私たち、ずっと一緒よね?」
「ああ、もちろんさ」
少女たちは固く誓い合った。
互いの意思を確かめるように、エルエッタは獣の姿のシャミィに口づけを落とした。