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英雄王とイストリアの白銀姫 - 97.報せ
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97.報せ


少しの居心地の悪さが払拭されないまま、ルシアは見た目だけは普段通りと変わらない生活を送っていた。


「やっぱり、自分で動いてこそよね...。」


私は手にしていたペンをくるりと回す。

ルシアは前世から元来、人を動かすより自分が動く方が楽だと感じる性質(たち)だった。

一人でそれなりにこなす能力を持ち合わせていたのも要因だろう。

そして、それは今世でも同じである。

さすがに立場だったり、身分だったりでイオンたちに動いてもらうことは多いけど。


「お嬢。先程なんですが、第三王子殿下から贈り物が届いてましたよ。」


ひょっこりと廊下から顔を覗かせたイオンが手に持っていた箱をルシアに見せる。

なんだろう?


「レジェスから?何かしら。」


「ああ、ボードゲームですね。多分、暇しているお嬢に本以外の娯楽を、と言ったところかと。」


一度、検品されたであろうその箱を開けると中にはチェスのようなボードゲームが入っていた。

横から覗き込んでいたイオンが納得したように(うなず)いて、中にあった駒の一つをつまみ上げていた。


今現在のルシアが会話出来る相手はイオンたち従者とレジェスとたまに訪ねてくる兄のアルトルバル、近衛騎士団団長もマノリトくらいなのだ。

つまり、そう。

イオンの言う通り、いつもよりずっと味気ない日々を過ごしている。


いや、別に読書漬けは嫌ではないんだけどね。

前世から代わり映えのしない日々は退屈だと感じる性質なので。

だからといって、こんな死亡フラグを抱えた人生は御免被りたいけど。

ともあれ、私の性質をよく理解してくれている義理の弟は義姉の退屈を(まぎ)らわせる為の物を贈ってくれたという訳だ。


「...ふふ、また今度一緒に遊びましょうですって。それまでにはルールを覚えなきゃ。皆も相手してちょうだいね?」


一緒に入っていたレジェス直筆のカードを見て、ルシアは笑いながら言った。

ルシアの従者たちは三人が三人、頭脳戦を主とはせずとも苦手ではないので嫌がる顔は浮かべることなく頷いた。


それにしても、こういった時に私の味方まではいかずとも、気がねなく話せる人間が如何(いか)に少ないかを実感するなぁ。

王子、その部下やイバンが居ないだけで、本当に毎日同じメンツとしか顔を合わせない。

交遊関係が狭いどころの話ではない。

一つのグループ、つまり王子たちしか関わりがないのである。


うわぁー、後々困りそう。

だって、ここを離れたら味方が一気に減る。

さすが悪役令嬢、味方は少ないのである。

なので、大抵の日は私と会話する人がイオンたちに固定化しつつある。

...まあ勿論、それは気がねなく話せる人に限定した時の話でして。


「ルシア、こっちの菓子には毒が入っていた。処分しておく。」


「...歯応えを感じていないのに、贈り続ける根性は賞賛するわ。」


クストディオが廊下から扉を片手で開けて、もう片方の手に持っていた箱をルシアに見えるように抱え直した。

それは誰からまでは分からないが、令嬢の誰かが贈りつけてきた代物だ。

本当に危険な物以外はこうやって見せに来てもらうようにしていた。

書類でも把握は出来るけど、実際見た方が良いからね。


さすがに生き物やその死骸だったりは見せてくれないけれど。

クストディオが従者になってからはお茶係と同じく検品は彼の仕事になっていた。

彼なら危険物の扱いも得意なので。

まあ、お茶と並べて言って良い仕事か...?とは思わないでもないが。


最近、嫌味、嫌がらせ、性質の悪い贈り物が(とみ)に多いんだよな。

(ひとえ)に王子もとい保護者、知られては困る人の居ぬ間に、というやつである。

バーカ、今までの含めて全て私が隠してたって報告は行ってるっつーの。

結局、いつもクストディオが処分してくれるので実害はないのだが、少々うんざりする日々である。


コンコン

ルシアがイオンと同じようにボードゲームの駒をひょいと持ち上げて手の中で転がしていると、ノック音が響いた。

その音は少し性急そうである。


「どなた?」


王子宮に入ってこれる者は限られている。

ましてや、自室ではないとはいえ王子宮の中でもそれなりにプライベートスペースにある部屋にルシアは居た。

然程、警戒せずルシアが応え、入室を促すと扉を開けて入ってきたのはノックスだった。

それにルシアは首を(かし)げて、彼に続いて入室してきたマノリトを見て得心を得たように頷いた。


普段ならノックスはわざわざノックしない。

そもそも彼は護衛の為の騎士なので三人の中でもルシアから離れる機会は少ない。

今日、彼が離れていたのはイオンがルシアの傍に居たこととマノリトの元に行っていたからだった。

やはり、マノリトは師事するにはとても魅力的な人らしい。


「どうしたのノックス、そんなに急いで。マノリト様もわざわざ足を運んでくださって如何なさったのですか。」


ノックスは急いだ足取りで入室してきたこともマノリトが一緒だったこともルシアに何かあったと報せるには充分だった。

少し張り詰めた空気に変わった室内の雰囲気のまま、ノックスはルシアに一枚の手紙を差し出した。

封筒を見て、ルシアは険しい表情を浮かべる。

それは紛れもない、ノーチェやニキティウスの部下が届けてくれる手紙だ。


「......っ。」


彼が運んできたのは戦場からの近況報告の手紙。

『ピオ重傷、王子も庇った為に腕を負傷』

そうはっきりと書かれたそれにルシアは息を呑んだ。

手に持っていたボードゲームの駒を取り落とし、静まる部屋にカツーン、と高い音が響き渡った。

レジェスには悪いが、どうやらボードゲームをしている場合ではないようだ。


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