縁日 1
番外編です
――これは鏡子が刺される少し前の話――
「妻よ」
外から声をかけられ鏡子は部屋の戸を開ける。紅蓮色の烏帽子と着物。細長い目。そして鋭い牙。目の前に立っていたのは閻魔大王だ。
鏡子はもしかして裁判かもしれないとゴクリと唾を飲みこんだ。だが閻魔大王から意外な言葉が飛び出した。
「縁日に興味はないか」
「縁日?」
「今ちょうどやっていてな」
縁日というと……。
鏡子は地獄に来た頃を思い出し、自身の指輪を見る。指輪には閻魔大王が力を注いだウレキサイトがはめ込んである。
この指輪はたしか。閻魔大王が縁日で買ってきてくれたものだって。
「……」
指輪が売られている地獄の縁日。ちょっと行ってみたいかも。でも。鬼がいるかもしれないし。でもでも……。やっぱり行ってみたいし。
鏡子は悩みながらも「行ってみたいです」と頷く。
閻魔大王なら鬼のことも何かあったら追い払ってくれるだろうと信頼していたからだ。
「じゃあ、行くか」
閻魔大王は鏡子に向かって手を差し出す。
「お願いします」
鏡子は頷いて閻魔大王の手を取った。
暗闇の中、赤色の提灯が並んでいる。その提灯の明かりに照らされて縁日の出店が夜の中に次々と浮かび上がる。出店は木造の小さな小屋のようになっており、温かな雰囲気を醸し出していた。その幻想的な様子とは裏腹に縁日に来ているのは全員鬼、そして出店の店主も鬼である。
「…………」
鏡子は鬼の姿に警戒を強めて閻魔大王の手をギュッと強く握る。閻魔大王は鏡子をチラリと見てから手を握り返した。
「大丈夫だ。余が側にいる」
「……はい」
「さ、店を見て回ろうか」
閻魔大王は少し強引に鏡子を引っ張る。鏡子は閻魔大王に引っ張られながら鬼の間を割って歩いていく。
鬼は鏡子を見て「おっ!」というような反応を見せるも、閻魔大王の姿を見て鏡子を見なかったかのように振る舞う。
やっぱり。閻魔大王って他から恐れられているんだな。
そう思うもののなかなか恐ろしい閻魔大王を想像できない。確かに最初は恐い思いをしたが、閻魔大王はいつだって鏡子に優しく接してくれていた。
鏡子は再び閻魔大王を見つめる。
「? どうした。腹でも空いたか」
「えっ!? えっと。まぁ、はい」
実はそんなにお腹は空いてないのだが。鏡子はなんとなく気まずくなって咄嗟に頷いた。
閻魔大王は得意げになって「それならあそこがおすすめだ」と一つの出店を指差した。その出店は巨大な青鬼が店主をしている。その店主の周りには客がたくさん集まっていた。
「桃の果汁を絞った蛙の蒸し焼きが上手いと評判だ」
「蛙!? いらないですから」
「そうか? 桃の果汁と合うんだが」
「いらないですから!」
鏡子は頑として譲らない。閻魔大王は「ふむ」と顎に手を当ててから「ならどういうのがいいんだ」と尋ねる。
「りんご飴とか」
「りんご飴?」
閻魔大王は視線をさ迷わせる。閻魔大王は甘いものをあまり食べないため、りんご飴が売っている出店が分からなかった。
そんな二人をひそかに見ていた人物が二人――。
「あら。閻魔大王は女性の喜ばせ方を知らないのね」
「!」
この声は。
後ろから声が聞こえ、鏡子は声の主に目を向けた。
「刀葉林!?」
刀葉林は橙の浴衣を艶やかに着こなしている。少し胸がはだけているがいやらしくなっていない。
そんな刀葉林の横には仏頂面した泰山王がいる。
「久しぶりね、鏡子。二人で逢瀬の真っ最中?」
「そ、そういうわけじゃあ」
刀葉林の言葉に鏡子は顔を赤らめて否定する。そんな鏡子を横目に刀葉林は閻魔大王を見た。
「りんご飴の出店も知らないの? 女性は甘いものとおしゃれが好きだって分かっていないのかしら」
そう言って「さあ!」と刀葉林の腕を掴んだ。
「こっちよ。一緒に行きましょう」
いつも読んでいただいてありがとうございます。
今回はちょっとした番外編です。なのでいつもと違って軽~く書いているのでストレスフリー。楽しく書いております。