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黒鉄の冒険者~双剣による勘違い無双譚~ - VS 決戦級魔術師ソマリ
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VS 決戦級魔術師ソマリ

 城にある訓練場には様々な設備があるようだ。

 例えば魔術師達の的となる魔道具は魔法の階級を測定できる。

 他にも魔力や集中力を高めることができる訓練用の魔道具など、前世では考えられない。


 特に驚いたのが仮想領域(マジックフィールド)だ。

 ここでは魔術師同士が戦うことができて、致命傷を受けると自動的に外へ出される仕組みになっていた。

 ただし痛みなどは一瞬でも感じるので過信は禁物とのこと。


 陛下は危険と判断したらすぐに中断すると仰っていたが、そんなものがあるのか?

 そう思っていたがルアンによれば魔法の影響は何も痛覚に限定されないらしい。

 確かにパラライズなど、神経系統に影響を及ぼす魔法もあったか。


 つまりオレが戦えない状態になれば即中断させるというわけだ。

 そんな場所にオレはソマリと対峙している。

 まるで大樹を彷彿とさせるかのような杖を持っていた。


「それはソマリが愛用している武器か?」

「ユグドラス。樹齢五千年の神聖樹の枝を使ったものよ。枝一本で地形を変えるほどの魔力を宿していて、四賢士のみが持つことを許されているの」

「なんと……!」

「あなたのそれもかつて竜の首を斬り落としたと言われている黒鉄の戦士アルドが使っていたもの。武器だけ見れば対等といったところかしら」


 ソマリは本格的に指導に力を入れているな。

 それだけオレという軟弱な存在が許せないのだろう。

 竜の首を斬り落とせたのはクロとブラックのおかげであって、すべてがオレの実力ではない。


 武器が互角といっても、ソマリとオレでは天と地ほどの差があるだろう。

 魔法が使えないオレでもあの杖の異質な何かは感じ取れる。

 まるで触れることすら恐れ多いかのような、あの杖自体が神であるかのようだ。


「ソマリが術戦であれを持ち出すなんて初めてじゃ? ウォレスさん、大丈夫かな……」

「リエール、案ずるな。先ほども言ったがこの戦いをどこで終えるかは私が決める」

「わかってる。だけどソマリがここまで感情を動かすなんて、ウォレスさんはいい刺激になっているよ」

「いい刺激、か」


 陛下が意味深に呟いたが、それはオレごときでは力不足という意味ではないのか?

 そもそもこれは指導だ。

 オレも真摯に受け止めるつもりで、大きな成長の機会になればと思っている。


「ウォレスさん。術戦とは本来交互に魔法を撃ち合う戦いだけど、あなたはそちらの双剣でかかってきていいわ」

「あぁ、胸を借りるつもりで挑ませてもらおう」

「では陛下にコイントスで先行と後攻を決めていただくわ」


 陛下のコイントスの結果、オレが後攻となった。

 ということはソマリの魔法がオレに放たれるわけだな。

 オレは双剣を強く握って構えた。


 うむ、素晴らしい。

 オレの握力などものともしないクロとブラックが実に頼もしかった。

 さぁ相手は国内最強クラスと言われている四賢士の一人、決戦級魔術師ソマリだ。

 限界を越える意気込みで挑ませてもらう。


「では始めるわ。ファイアボール」


 それはとてもファイアボールと呼べるサイズではない。

 まるで洞窟の入り口をふさぐ巨岩のごとく、ソマリの頭上で赤々とうねりを上げている。

 死ぬだろう。あれは完全に死ぬ。


「ごめんなさい。下級魔法と呼ばれるものでも、第三階級程度の威力はあるかもしれないわ」


 その巨大火球がオレに向けて放たれた。

 これに対してオレは防ぐか回避の二択を迫られる。

 魔術師であれば結界なり魔法でそうするのだろうが、オレに取れる選択肢など一つしかない。


 回避行動を取ることで難を逃れる。

 オレの背後に着弾した巨大火球は爆発の後、火柱を立てて被害の大きさを強調していた。


「……強化魔法もかかっていないのに、すごい身のこなしね。下級魔法では少々失礼だったかしら」

「いや、大変ありがたい指導だった。では次はオレの番だな」

「指導?」


 オレはソマリに突進した。

 もちろん全力での一撃、即ち技を使わせてもらう。


「ウォレス流剣技……木分双壊ッ!」


 双剣を合わせてからソマリに一気に振り下ろす。

 オレごときの力で木を分断させられるという意味で名付けた剣技だ。

 双剣が結界に衝突したことで凄まじい光と音を放ち、オレは勢いよく後方へと弾かれてしまう。


「……クッ! やはり結界か!」

「ウ、ウソ……」


 オレが態勢を立て直すとソマリが棒立ちしたままだ。

 何やら様子がおかしいな。


「さぁソマリ! 次の指導を頼む!」

「ちょ、と、待って……私の結界が……」

「どうした! まさか体調がすぐれないのか!?」

「い、一撃、ウソ、ウソよ、ウソウソウソウソウソウソ……」


 ソマリはどうしてしまったのだ?

 結界がどうとか言っているが、何が起こった?

 よくわからんが次はオレが受ける番だ。


「お、お父様……ソマリの結界が、一撃で……」

「う、うむ。あれを破った魔術師など未だかつておらんかった……同じ四賢士とて容易ではなかろう……。そ、それを一撃で……」


 なるほど、結界が破れてしまったのか。

 だとすればやはり体調が優れないのだろう。

 そうでなければオレごときが一撃で結界を破るなど不可能に決まっている。


 これはソマリに試合中止を進言すべきか?

 いや、その決定が出来るのは陛下のみだ。


「け、結界を再構築……いえ、それより……もう手加減はできないわ。第四……いえ、あなたには第五階級でなければッ!」

「む、待て! さすがにそれは死んでしまう!」

「ここで死ぬことはないわ。大丈夫、痛みなんてほとんど感じない。気がついたら離脱(アウト)しているわ」

「これは指導だろう! 落ち着け!」

「さっきから何を言ってるの。固有魔法(オリジナル)……銀水術」


 ソマリの周囲から銀色の液体が放たれた。

 それは確かに液体だと思う。しかしソマリが停滞させた状態にしたのだ。

 水であれば空気の揺れで水面が揺れるはずだが、それは完全に固まっていた。


「私はね、あらゆる魔法の中で水が最強だと思うの。だけどただの水芸じゃ三流以下、私の銀水術は柔軟性と硬質の両方を併せ持つ。さぁ、溺れなさい」


 銀色の津波がオレに押し寄せた。

 おそらくアレに取り込まれてしまえば溺れることすらできずに固められてしまうのだろう。

 ソマリの痛みすら感じないという言葉通りなら、オレの無抵抗を約束されている。


 どうすべきか?

 あの銀色の水は試合場を覆って飲み込まんばかりだ。

 つまり回避は不可能、そうなればオレにできることは一つしかない。


「双剣を構えて何をするつもりなの! 無理よ、私はこれで大軍を全滅させたんだから!」


 オレは双剣を掲げた。

 木分双壊は単に双剣で破壊的な打撃を与えるだけではない。

 極限に集中することであらゆるものを斬る。


 クロとブラックが揃った今なら実現できるはずだ。

 オレは息を吸ってから全神経を集中させる。


「木分双壊……断ッ!」


 体や双剣がぶれることなく縦の軸を維持、一切の乱れがない剣技はあらゆるものを斬る。

 双剣を振り下ろすと銀色の津波が縦に割れた。

 左右に分断された銀色の津波は試合場に打ち付けられて、一直線に見えたのはソマリだ。


「おぉおおおおおおぉーーーーーッ!」


 オレは全力で駆けた。目指すはソマリだ。

 距離を詰めてからオレは全力で双剣を――


「そこまでだッ! 勝負あった!」


 陛下が試合の終了を呼び掛けた。

 オレはピタリと動きを止めて、呼吸を整えてから双剣を鞘に納める。

 ソマリは尻餅をついて何やら震えている様子だ。

 

 やはり体調が悪かったのか。

 もしかしたら風邪を引いているのかもな。

 それなのにオレの指導をしてくれるなんて、本当に優しい。


「この勝負、ウォレスの勝ちとする!」


 陛下がオレの勝利を告げた。

 しかしこれは指導であり、この結果は無意味だ。

 なぜならソマリは明らかに風邪を引いている。


 その証拠に額には脂汗がにじんで呼吸も荒い。

 立っていることすらつらいというのに、これ以上は無理をさせられないだろう。

 オレは陛下に跪いて、指導を見届けてくれたことに感謝した。

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