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ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた - 第22章 魚と山菜の味噌汁を食べるために
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ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた  作者: アルシャピン


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第22章 魚と山菜の味噌汁を食べるために

俺はガスコンロを設置し、ガスを繋いだ。

そして火が付くか確認する。

何度かカチカチしたあと……ついた。

青白い火がゆらめく。

そこに湧水から汲んできた水を鍋に入れ、火にかける。

小さな青い炎が、地下の暗がりで揺れる。


「火、弱すぎないか?」


佐藤が言う。

佐藤よ、焦るでない。


「弱火でいい。ガスが馴染むまで待たないと、ガスの匂いが充満してしまう」


佐藤は「なるほど」と頷いた。

そして、


「この生きる術は、田中さんの方がやっぱりあるな」


と笑う。

嬉しくはないが、まあ一年一人で生き残ってきた自負もある。

ふふん、とドヤ顔をするが、二人とも火と鍋を注視していて俺を見ていない……。

いやもう少し、年長者の歴史を尊重しようよ・・


しばらくして湯がゆっくり温まり、やがて小さな泡が底から浮かび上がる。

そのタイミングで、処理済みのニジマスを切り身にして鍋に入れる。

切り身で水面がわずかに揺れる。

冬で脂が乗った、いい身だ。

鍋の中に溶け出した脂が浮かぶ。

ゴクっと唾を飲む。

自然な脂なんて、いつぶりだろうか……。

それとともに、魚の身が白よりのピンク色に変わっていく。


美味そうだ……。


いや、これしか感想が出ない……。

その変化を、二人もじっと無言で見つめていた。

いや、わかるよ、その気持ち……。


そして、ふきのとうも入れる。

匂いは……まだ強くないが、茹でた魚のいい匂いがしている。


「では……味噌、入れるぞ」


俺は新しい味噌を取り出し、パッケージを開封する。

ほのかな味噌の匂いが鼻に漂う。


いや、匂いを気にして一度確認とかしなくていけないのは、わかっているよ……。

でももう止まらない。

はい、入れます!

俺は味噌を鍋の中にイン!

おたま?

知らん!

ドボっと塊を入れて、箸で回して溶かしていく。

たまらない匂い。


その時、この匂いと旨そうな見た目の魔力を振り切り、我に返った鈴木が息を止めたように、小さく言う。


「……外に匂い、漏れてないですかね」


その声に、俺も佐藤も我に返る。


「多分ね……」


俺は答える。

正直に言うと、「わからない」というのが答えだ。

人間の嗅覚には限界がある。

もし俺の鼻が犬並みに利けば、今どれくらい匂いが外に流れているのか分かるのかもしれない。

だが俺は人間だ。

しかも特別鼻がいいわけでもない。

今、外に出ても正直、「匂いが出ている気がする」程度だ。


問題は――奴らの嗅覚がどれほどのものか、誰も知らないということだ。

このバイオハザードが発生した当時は研究機関もあり、奴らの生態を研究しているという報道もあった。

だが十五日もすれば世界は終わり、報道すら見られなくなったため、奴らの生態はまだこの世界では明かされていない。


ただ俺の体験談として、奴らの嗅覚を予測することはできる……気がする。

だがまあ案の定確かではない。


あれは三ヶ月前。

山道を歩いている時、俺は一人、古いキャンプ場を見つけた。

山の奥。

建物も小屋もある。

視界もひらけている。

周囲を何度も確認した。

木の陰。

駐車場の奥。

炊事場の裏。

トイレの建物。

目視で、少なくとも見える範囲に奴らはいなかった。

風向きも確認した。

匂いが流れない方向に陣取って――


やっと、やっと……

カップラーメンを作った。


カセットコンロでお湯を作り、注いで、蓋をして。

三分。

三分待つだけだった。

その三分の間に――奴らは走ってきた。

あの時、目視で確認したときには、確かにいなかったはずだ。

物陰に潜んでいたのか。

それとも匂いに反応して遠くから走ってきたのか。

今でも分からない。


だが確かなのは、ラーメンを一口食べた瞬間に俺は逃げる羽目になったということだ。

カップラーメンを捨てて、全力で。


あの時、俺は学んだ。

“匂いは、想像以上に遠くへ届く可能性がある”

それは本当に遠くの奴らに届いた事実なのか、それとも俺自身が奴らを見落としていた偶然だったのか。

今でも分からない。

だが、あの経験があるからこそ――俺は今、我に返り慎重になった。


「……匂い、結構してるかも。」


俺が言うと、佐藤も確かにと頷く。


俺は火を一番弱火にし、鍋に顔を近づけすぎないようにして空気を吸う。

味噌の香り。

魚の身と出汁の香り。

ふきのとうの独特な、ほろ苦い香り。

だが、俺の嗅覚的には地下の湿った土の匂いの方がまだ勝っている。


「大丈夫……だとは思う」


“思う”しか言えない。

鈴木が静かに頷いた。

鍋は、ぐらぐらとは煮立たせない。

温度を保ったまま、静かに火を落とす。

魚は十分火が通っている。

万が一の寄生虫のリスクも、これなら抑えられるはずだ。

今すぐ食べたい・・・・

だが、


「……一回、外出て確認する」


カップラーメンの二の舞は絶対に踏むまい。

俺は何がなんでもこの味噌汁は食べる!

俺はその信念のみで、理性を保たせ、一度確認することを選んだ。


「俺もいくぞ」


佐藤がそう言うので、地下に置いてあった鍬を渡す。

もし奴らがいても倒すのは君だ。

俺は直接殺さないのがポリシーなので……。


俺と佐藤は地下貯蔵庫の階段を上がる。

扉の前に立ち、外の音を確認する。

静かだ。

少なくとも、この扉の前にはいないということ。

まあ柵もあるし、入っては来れない可能性の方が高い。

だが、特殊個体のやつのこともある。


俺は扉をグッと押し開けた。

一気に外の空気が流れ込み、冷たい空気が肺に入る。

外の灯りに一瞬目が眩しくなるが――

……何もない。

……いつもの静寂だ。

そして外に匂いは……漏れていない?

佐藤を見ると、


「しないな」


と言う。

確かに森の匂いが強い。

湿った土、枯れ葉や木の香り。

味噌や魚の匂いが強く漂っている感じはしない。

ただ、これは俺の嗅覚では、だ。

奴らの嗅覚がどれほどのものか分からない以上、これで大丈夫だとは思わない方がいい。


鈴木には「ここにいて」と伝え、いったん扉を閉める。

そして佐藤と、入口を目指す。


五分ほど歩いて入口付近に来たが、そこも静かだ。

奴らがいるなら、柵を破壊しようと暴れているか、大きな呻き声が聞こえるはずだ。

だが入口付近にも、静寂がある。

今日の風向き的に匂いは入口側へ流れている。

なら、出口側に来ることはないだろう。


やはり地下室は正解だったようだ。

優しい味噌汁は、森を刺激していないらしい。

ただ、これが焼き魚や揚げ物となったら話は別だ。

確実に、味噌汁の五倍は匂いが出る。


俺と佐藤は周囲の安全を一通り確認し地下へ戻る。


扉を開けた瞬間、鈴木が飛び上がった。

何も言わず開けたため、びっくりしたのだろう・・

申し訳ないことをした。


「大丈夫そうだ」


その一言に、鈴木の肩が少し下がる。


鍋から湯気が、ゆっくりと立ち上る。

温かく、優しい香り。

三ヶ月ぶりの、暖かいご飯。

手作りとなると、もっとだ。

俺は小さく呟いた。


「……食うか」


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