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蜂蜜とミルクティー - 42.瞳
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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 4 〉
42/100

42.瞳

 

 カチャ


 小さな音がしてドアが開く

 中をそっと覗くと、その音にすでに二人は気が付いていた様子でこちらに視線を向けていた。フミは突然の訪問者に不思議そうに。颯人は――――――――目を細め……不機嫌そうだった

 あの言い争い……颯人がフミに何か言っていたのだろうか?


「杏実ちゃんどうしたんだい?」

 杏実の緊張感が伝わったのか、フミから声をかけてくれた。いつものような穏やかな声

 それにホッとして杏実も口を開く


「お茶の用意ができたから…冷めたらいけないし、ちょっと様子を見に来たの」

 もうすでに冷めているとは思うが、とりあえず当たり障りのない会話を投げかけてみる


「ああ……そうだったね。すっかり、忘れてたよ。じゃあ……話も終わったし行こうかね」

 そう言ってフミは「よっこらしょ」っと、座っていた座椅子から立ち上がる

 颯人は杏実からは視線を外したものの、険しい顔をしてその場から動こうとしなかった


 この雰囲気……なんだろう


 こちらに歩いてきたフミと、動こうとしない颯人を見比べて戸惑う杏実に、すれ違いざまフミが思いついたように口を開いた


「そうだ。杏実ちゃんって料理は得意かい?」

「は?」

「おい、ばばあ!! いいかげんにしろ!」

 杏実の間抜けな返答と、颯人の叫び声が重なった


 料理??

 いったいなんなのだ

 颯人の様子は一層険しくなっている

 

 ここに入っていく前「杏実ちゃんの…」と言っていたことを思い出す。また………フミが杏実を“嫁にする”だのなんだのと、ごり押ししていたのだろうか

 フミの懲りない様子に、颯人はしびれを切らした……という状況なのか


 それにしてはちょっと…


 杏実が戸惑っていると、フミが今の状況はなんでもないかのように「どうなんだい?」とにこやかに尋ねてくる


 答えても大丈夫なのか? 不安に思ったが、そもそも大した問いではない。少し疑問に思いながらも杏実はフミの方を向いた


「得意ではありませんけど……自炊なので人並みには…」

 杏実がそういうとフミが満足そうにうなずく

 

 しかしそれと同時に、チッと颯人の舌打ちが鳴り、とたんにこちらに鋭い視線が飛んできた


「おまえも……余計なことを言うな!!!」


 ビクッとして杏実の身体が大きく揺れた。突然大声で怒鳴られ、キツイ眼差しを受けた事にびっくりして、その場に立ちすくむ

 その様子にすかさずフミが颯人に怒鳴る


「颯人!!! 杏実ちゃんは関係ないだろ!!!」

 

 颯人はその言葉にひるむことなく、青ざめて立ち尽くす杏実とフミに鋭い視線を向けると「やってられるか!」と一言言い放ち、立ち上がって部屋を出て行った


 すれ違いざま一瞬杏実と視線が交差する

 そしてそのまま玄関に向かい出て行ってしまった



 先ほどの剣幕に呆然としていた杏実の肩に、ポンッとフミの手が置かれる


「杏実ちゃん。大丈夫かい?」

 その声と肩に置かれた手のぬくもりでハッと我に返る


 怖かった…

 男の人に怒鳴られたのは初めてだったので、その低い怒声と迫力に圧倒されてしまった

 今も……手はヒンヤリと冷たくなっており、小刻みに震えている


 しかし――――――すれ違いざまに交わした視線が、脳裏に過った


 怒っていたんだと思う

 しかし……何か…やりきれないような―――――――辛そうに見えたのだ

 そう思うとたまらなく……颯人の様子が気になった


「ごめんよ、杏実ちゃん。颯人、ちょっと八つ当たりしたみたいで……杏実ちゃんに怒ってたわけじゃ…」

 心配そうに杏実の様子を見ているフミに、杏実は思いついたように顔を上げ、その言葉をさえぎる


「私……朝倉さんの後を追ってくるね」

 杏実がそういうと、フミは目を丸くして驚いている


「なんか……ちょっと…心配で。怒鳴られたのに……おかしいかな?」

 杏実がそういうと、驚いていた表情がみるみる笑顔になる


「そんなことないさ。ありがとう、杏実ちゃん。颯人のこと……頼んだよ」

 そう言って、もう一度ポンッと杏実の肩を叩いた。その目尻にはうっすら涙が浮かんでいるように見えた


 杏実はフミを圭のところまで連れて行くと、そのまま鞄を取って玄関から出て行ったのだった






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