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蜂蜜とミルクティー - 70.初デート~5
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蜂蜜とミルクティー  作者: 暁 柚果
〈 5 〉
70/100

70.初デート~5

「ただいま~」


 玄関から杏実がそう叫ぶと、「帰ってきた!」という声と共に、萌がリビングから顔を出した

 萌のうれしそうな顔を見て杏実も萌に笑いかける


 しかし急いで靴を脱いで萌の方へ向かおうとして、萌の後ろからひょこっと顔を出した人物を見て、びっくりして足を止めた


「おかえり~杏実ちゃん。朝倉」

「え? ……平田さん!」

 平田が楽しそうにこちらを見ていた。杏実の後ろにいた颯人は、平田の声に気が付いて返事を返す


「来てたのか」

「まあね。でももう帰るよ」

「あっそ」


 平田はそう言うと、萌に挨拶をして、杏実たちがいた玄関の方へ歩いてきた

 萌は残念そうに、後ろからついてきている

 いつから一緒にいたのだろう。というか……こんなに頻繁に平田と颯人は(と言っても今回は萌だが)交流をしていた仲だったのかと思うと少し驚く

 

「楽しかった?」

 平田がそうぼんやりと考えていた杏実の隣に立って、にこやかに聞いてくる

 その声に、ハッと自分が話しかけられているということに気が付く


「はい。水族館に行ってきたんです」

「ふ~ん……よかったね」

「平田さんは……いつから萌ちゃんと?」

「お昼頃ぶらぶらしてたら、偶然外で萌ちゃんに会ったんだ。それからね」


”偶然”

 全く平田という人物はどこにでも出没するんじゃないだろうか


「そうだったんですか」

 今日は萌は一緒に行けなかったので、寂しかったのではないかと心配していた。相手が平田というのは心配だが、萌の楽しそうな様子を見ると、ある意味よかったと思う


「水族館かぁ~。僕、久しく行ってないなぁ……」

「嘘つけ。知らん女と、入れかわり立ち代り行ってんだろ」

「ふふ……ばれたか」

 平田は笑って颯人にそう答えると、再び杏実に向きなおって話しかけてくる


「水族館っていいよね。涼しいし……きれいだし。ほかのところにも行ったの?」

「はい。その隣の公園にも。あと……イルカのショーも見てきたんですよ~。私、参加もしてきました」

「参加?」

「そうなんです。イルカのジャンプとかの指示を手で……こう……」

 そうやって杏実が手で実際にやった動作をやってのけると、平田は楽しそうにうなずきながらその話を聞いていた


「面白そうだね~」

「それはもちろん! しかもその後、飼育員さんに誘導されてイルカにキスしてもらったんで……」

 そこまで話をして、ハッとその後の颯人との出来事を思い出した。あの意地悪そうな笑顔や……頬に受けた唇の感触……

 まずいとは分かっても顔が赤くなる


「へ~……それはラッキーだったね?」

 幸いそんな杏実の様子に気が付いていないらしく、平田はそう言ってにっこりと笑う


「はぁ……まあ……」

 さっきの勢いを失って、杏実はしどろもどろで返答する。するとそんな杏実に平田はさらに話しかけてくる


「そう言えば……隣の公園って、港公園? あそこでっかい観覧車があるでしょ」

「え!?」


“観覧車”

 そのフレーズに驚いて、目を丸くする


「確かジングスがあったよね? 頂上でキスすれば必ず結ばれるとか……ありがちだよね~。そもそも結ばれるって何が? って感じ。………乗ってきた?」

「あ……」

 そうだ。そんなジングスがあったんだ……と思い出した

 知っていた……けれど、関係のない話だと思っていた

 しかし―――――頂上でキス? まさしくその状況だったではないか。しかもあれはそんな生易しいものじゃなかった……颯人のキスはもっと……息ができなくなるぐらい熱くて……

 自然に先ほどの出来事が脳裏によみがえってきて、ますます顔が赤くなる

 

 ダメ……自然にふるまわなきゃ


 そう思うが、その思いとは反対にますます杏実の行動はぎくしゃくしてくる。目を合わせれば見透かされる気がして、とっさに視線を逸らしてしまった。しかしそんな杏実の様子を見て、平田が面白そうに笑みを浮かべる

 同時に颯人の長い溜息が後ろから聞こえてきた


「乗ってきたんだ~? しかも……その反応……うわぁ~あっやしい」

「もう平田帰れ」

「ふふふ……ほんと君って可愛いよね」


“可愛い”?……それは今日、颯人から言われた言葉だ

 颯人から言われたときは恥ずかしかったがうれしかった。しかし平田から言われても“君はいいおもちゃだよ”と聞こえて、ちっとも嬉しくない


「平田」

「さ、これ以上やると朝倉も怖いし、帰るかな。あ~そうだ! ……リビングに携帯忘れちゃった。萌ちゃん取ってきてくれる?」

「はぁい~」

 その声と同時に軽快な足取りで萌がリビングに向かう音が聞こえる。杏実は未だ平田の顔を見れず、視線を逸らすように萌の行った方向を見ていたが、ふと平田が思いだしたように言った言葉で顔を上げた


「そうだ……忘れるとこだった~! 実は杏実ちゃん。君に一つ言っときたいことがあって、待ってたんだよね」

「え?」

「ちょっと、耳寄りだよ?」

 そう言うと、平田はちょっと耳を貸せと言う風に人差し指で“こいこい”という仕草をする


 言っときたいこと?

 なんだろう……

 颯人には聞かれたくないことなんだろうか?

 そう思って、杏実が平田の方へ耳を近づけると、チュッという音と共に頬に平田の唇が触れてキスされた


「な……っ!?」

「平田!!」

 杏実は驚いてキスされた頬を抑える。とっさに平田を見ると、同時に平田は颯人の制裁をよけて玄関に走り出した。そして素早い動作で靴を履くと、ドアを開けてパッとこちらに振り返る

 イタズラが成功した時のような、満足そうな表情を浮かべている


「さぁ~目的達成!! 杏実ちゃん、それねぇ~………“う・わ・が・き”だから」

「…………は?」

「朝倉。お前もあんなことするんだね~? あまりの甘々ぶりに、目を疑っちゃったよ。……ふふふ。じゃあ、ま、た、ね?」


 そう言って唖然とする二人の前で、ドアがバタンと閉められる

“それ、上書きだから”……平田の残した言葉……つまりそれは……あの時の……


「平田さ~ん……携帯なんて無いよぉ……?」

 そう言いながら、リビングから萌が顔を出した

 そののんびりとした声に、同時に杏実たちは萌の方を見る


「あれぇ~? 帰っちゃたのぉ?」

 ドアの方をみて、萌が首を傾げる。背後から……不穏な空気が漂ってきた


「……こぉ…の……萌!!!」

「……ぇえ? 何??」

 萌は颯人の怒声に驚いて目を丸くしたが、やがてその怒りの理由を悟ったのか残念そうに口を開く


「……もうばれちゃったのぉ?」

「しかも……平田まで~~!!!」

「だってぇ……萌も行きたかったんだもん」

「口答えするな!!!」

 颯人の怒声が廊下に響き渡る。萌は飄々とそう答えると、颯人の剣幕を見るや否や、一目散に階段の方へ逃げていくのが見える


「萌待て!!!」

「……今日は邪魔してないのにぃ~なんで怒るのぉ…?」

 そう言いながら二人の姿が廊下から消えていく

 

 二人の初デートはそんなドタバタで幕を閉じたのだった






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