78:長かった同盟戦も完結です!
■エメリー ??歳 多肢族
■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄
危うかったですね。
いかに霊薬でも死者の蘇生はできませんから。ゼンガー様が耐えていてくれて助かりました。
『エメリーさん! あの短剣は【呪い】を付与するものらしいで……あれ?』
「問題ありませんお嬢様。すでに治しました」
『えっ、ゼ、ゼンガーさんご無事なんですか!?』
「恐らくは。しかし念の為戦闘をはやく切り上げる方向で動きます」
『わ、分かりました!』
ゼンガー様が目を覚ます前に周囲の魔物にやられたり、また何かしらの手口で奇襲をかけられると困ります。
となればこの塔主戦争を早く終息させるのが第一でしょう。
さしあたっては階段へ逃げようとしている【風の塔】塔主。これを始末すれば眷属であるディンバー王やフェンリルも消えるはずです。
お嬢様におかしなスキルを使い覗き見したあげく、ゼンガー様を死の淵まで追いやった。決して許すことのできない敵です。
しかし何よりそれを防げなかった自分に腹が立ちます。
察知もできず、目では見ていたはずなのにそれでも味方に被害が出た。わたくしは侍女として恥ずかしいです。
帰ったらお嬢様に謝罪し、再発防止の為にも皆様に色々とお伺いしなければなりません。
ともあれ今はアレを始末しなくては。
わたくしは魔竜斧槍で再度四属性魔法を放ち、周囲に残る雑魚敵を払いつつ【風】の塔主に突貫します。
と、思っていたらフェンリルが行く手を遮ってきました。
離れていたはずなのに速いですね。【風】の塔主が指示を出していましたか。
「邪魔です」
「キャイィィィン!!!」
わたくしは二本の魔竜斧槍をマジックバッグに仕舞い、【魔剣グラシャラボラス】を取り出すと、そのままぶつかり合うように一閃。
少しでも傷つければそれでお終いです。フェンリルとてそこいらのウルフと大差ありません。
悶え苦しむフェンリルを無視して【風】の塔主を追おうとしますが――
「させぬわっ!!!」
今度はディンバー王が仕掛けてきました。
どうやらジータ様との戦いを遮ってまで向かってきたようです。さすがにご自分を召喚した塔主は守りに来ますか。
ならば――
「ジータ様、掃討を!」
「お、おう!」
これでよし。手の空いたジータ様には残り少ない敵を処理してもらいましょう。
おそらくゼンガー様を守りつつ戦ってくださるはずです。騎士団長様らしいですからね。守る為に戦うのは騎士の本分でしょう。
とは言えわたくしも時間をかけるつもりはございません。
「御前失礼いたします、ディンバー陛下」
「ぐっ……!」
ご挨拶もそこそこにわたくしは突貫から魔剣を振り下ろし。それをディンバー王は篭手で防ぎつつ払います。
しかしわたくしは同時に二本の腕に持つ魔竜斧槍で斬撃。これはさすがに防げないようですね。両足にダメージ。
おまけに魔剣を防いだアダマンタイトの篭手は煙を上げ、シュウシュウと嫌な音を立てています。
「貴様……これはっ……!」
「お答えは出来かねます。またお会いするかもしれませんので」
そんなことを喋りながらも手は緩めません。
ディンバー王は魔剣を脅威と見たのか距離をとろうと動きますが、ダメージを受けたその足でわたくしの速度に敵うはずもなく。まあそもそもディンバー王に中・遠距離の攻撃手段があるかも不明ですが。
わたしはすぐに追いつき、そのまま斬りつけます。刃が当たらずとも魔力が皮膚に当たればそれで終了。
「があぁぁぁああっっっ!!!」
倒れ込んだディンバー王。このまま野放しでもいいのですがあまり長い時間記憶させておくのも問題ですかね。
ここは確実に斃しておきます。
「き、きさまあああああ!!!」
――ザシュ
首をおとしました。ディンバー王の身体が光となって消えていきます。
なるほど召喚された神定英雄はこうして消えるわけですか。
来年以降、またディンバー王がどこかの神定英雄に選ばれるかもしれません。
その時の為にわたくしの情報は極力出したくなかったのですが……少し出しすぎましたかね。
出来れば魔竜斧槍だけで終わらせたかったところですが急ぎの仕事ですから仕方ないと言い聞かせましょう。
ちらりと後ろを見ればジータ様が掃討中。そしてどうやらゼンガー様も立ち上がり援護を始めたようです。
僥倖ですが病み上がりで無理をさせるわけにはいきません。
わたくしはさっさと最上階を片付けて参りましょう。
■ヴォルドック 26歳 狼獣人
■第490期 Bランク【風の塔】塔主
「うああああ! どうすんだよこれ!」
「なんなんだよこいつは! ああっ! へ、陛下までっ……!」
俺が急ぎ最上階へと戻ってくれば、タウロとペルメが画面を見ながら騒いでいた。
頭を掻きむしり、悪態をつき、阿鼻叫喚の最中だ。
それを見た時、俺は「ああ、やっぱりか」とすでに全てを諦めたのだ。
振り返らずとも背中に感じる気配が、<風狼の超覚>が教えてくれる。フェンリルも陛下も……。
あの場面、俺に向けられたメイドの殺気は尋常じゃなかった。
よく階段を転ばずに走らせてくれたと己の足を褒めたいほどだ。
殺気、戦場の空気を直に感じた――感じてしまったが故に諦めたのだ。ああ、もう終わりだなと。
一応二人の元に歩みを進める。騒ぐその声はもはや耳に入らない。
しかしカツカツと階段を上るその音だけはなぜかよく聞こえた。
当然、姿を現したのはメイドだ。その手に黒いハルバードを持ったまま。
怯える二人、そして立ち尽くす俺を無視してメイドは言う。
「ご挨拶遅れました。わたくし【女帝の塔】塔主シャルロット様にお仕えしております、エメリーと申します」
ハルバードを持ったままだというのに随分と仰々しい挨拶だ。
これでちゃんとしたメイドに見えるからもはや笑えてくる。
「本来ですと宝珠を割るに留めるか、わたくしに斬られるかを選んで頂いているのですが――お嬢様を害し、覗き見した時点で大罪です。宝珠を割って済ませるということはございません」
……っ!? こいつ……俺が『マーキング』したことを知っている……!?
なぜだ!? なぜバレた!?
まさかずっと……最初から? だとすると【輝翼】と【赤】が秘密裡に作戦を立て【女帝】に漏らさなかったのも……!
こちらに知られているという前提で……? ずっと手のひらの上で――
「しかし苦しんで死ぬか、一撃で首を刎ねられるかは選ばせてさしあげます。もし後者を選ぶのであれば――例のスキルの詳細と、そちらのお二人の神授宝具の詳細をお教え頂けますか?」
こ……こいつは……。
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 50歳 ハイエルフ
■第500期 Dランク【輝翼の塔】塔主
『はい終~~~了~~~! こっちの五人同盟の勝ち~~~!』
ふぅ……やっと肩の力が抜けた。さすがに頭を使いすぎたし、延々と気を張っていたからのう。
おまけに最後にはゼンガー爺が死んだかと思ったし。
周りの四人も喜び半分、安堵半分といったところ。
色々と神経を使う戦いじゃったからのう。わしに限らず。
「ゼンガー爺、身体は大丈夫か?」
『はい。しかし何がどうなっているのか……今一理解できていないのですが』
安心せい。わしもよく分からん。あとでエメリーが帰ってきたら答え合わせじゃな。
『いやー、思いの外楽勝だったねー。勝つとは思ってたけどさ』
「いえいえ神様、わたくしたちとても楽勝だったとは思っておりませんわよ。むしろギリギリと言えるのでは」
『そんなことないでしょー。眷属だって誰もやられてないしさ、一方で相手側の眷属は全部斃してんじゃん?』
「それはまあそうですけれど」
『【風の塔】なんて結構強い部類なのにさ、普通だったらもっとボコボコだし下手すりゃ負けてるよ。まー今回は殊勲のフッツィルちゃんを褒めてあげるべきだね』
四人から「おおー」という声と拍手がわしに向けられる。やめてくれ照れくさい。
『特にシャルロットちゃんはみんなに感謝しておきなよー? まあ持ちつ持たれつって感じだったけどさ』
「えっ、それってエメリーさんがヴォルドックさんに言ってたことと関係ありますか? あれって何が……」
『まーそこらへんはみんなに聞いておくといいよ。僕はそろそろ退散するし。あ、それと報酬はこないだみたいにシャルロットちゃんの宝珠に合算させるからね。分配は一度きりだから気を付けるように』
「は、はい」
そうして神様は画面から消えた。
エメリーは【甲殻の塔】の最上階を接収し、ゼンガー爺とジータと合流後に戻って来るという。
帰って来てから色々と聞きたいこともあるし、シャルに説明しなければならぬこともある。
報酬やら何やらは後日になるかもしれぬな。明日も休まず塔は営業するわけじゃし。
とは言えひとまずはお疲れ、と。
我らは五人で輪になってハイタッチを交わした。
その顔には笑みが、そして五本の手首には五色の組紐が並んでいた。
最後は駆け足になりましたが、それくらい急がせたという感じです。ディンバー王、すぐまた呼ばれるとかあるんですかね……?
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