35話 大司教ミカエル・ド・セイリグ
昼食前になるくらい。ジェラールの側近の男性が私達のもとにやってきて、ジェラールに軽く耳打ちをし始めた。
するとジェラールは良い表情を作り、側近の男性にすぐにここにつれてこいと言った。
しばらくして背の高い灰色の髪の男性が訪れた。二次元かよと叫びたくなりそうな糸目の男性。
祭服を着ているあたり、教会の人間で間違いないでしょう。そしてあのビジュアルに教会関係者。
おそらく彼こそ次期大司教筆頭候補ミカエル・ド・セイリグの数年後の姿。当然、彼は大司教に就任している。
それにしてもこの世界、お偉いさんになる年齢低いわね。ちょうど前の世代が老いたタイミングで最も優秀な人が成り上がっていると考えても、若すぎる。
ゲームの攻略キャラをハイスペックにしすぎる乙女ゲーム的な要素が、歪に作用した結果ね。制作もスタッフも五年、十年後なんて考えませんよね。
「いやぁ、ジェラール。呼ぶならもっと事前に言っておくれよ」
うわ、このすぐに裏切りそうなCVは、間違いなくミカエルのものじゃない。
めちゃくちゃイケボなのに一瞬背筋が凍ったわ。
「久しいなセイリグ。今日はお前に相談があってだな」
「おや? 君がかい? それは珍しい。今夜は宴にしよう。それで、一体どういう悩み事なのかな?」
ミカエルは【藍】のワンダーオーブが手に入るルートだったわよね。彼にも同じくらいの子供がいることは噂話で聞いているわ。
「お前も忙しいだろうし、早速本題に入ろう。子供と遊ぶって何をすればいいんだ?」
「…………え? ちょっと最初から説明して貰ってもいいかな?」
ジェラールはこれまでの経緯を話すと、ミカエルはおなかを抱えながら床を転がり回り大笑いし始めた。
「ギャハハハハハハ。嘘でしょう? ほんと? 本気? あのジェラールがかい? 今夜の宴は中止だ! なにせ今夜が最後の晩餐なのだからね! 銀貨は誰に握らせればいい?」
「宴が中止にできていないぞ。それとみっともない笑い方をするのはやめろ。最後の晩餐が昨夜の食事になるぞ?」
ジェラールにそう言われ、まだ笑うことを抑えられていないミカエルがやっとの力で立ち上がり、そして視線をこちらに向ける。しばらく私を見つめた後に彼は提案した。
「彼女には今まで何もしてあげていなかったということだよね? 本を読み聞かせたことは? 庭園内で駆け回ったことは? 小動物と遊ばせたことは? お人形などを買い与えてあげたことは? 他にもまだあるだろう? ただ遊ぶだけじゃない。彼女にとって本当に大事なのは君たち二人との時間だと僕は思うな」
ミカエルが笑いながらそういうと、ジェラールもエリザベートもそれで何で遊んであげればいいのというリアクションだった。
その反応にミカエルはやれやれと言いながらも、私の頭を撫でながら語りかける。
「君は大好きな両親から楽器を教えてもらったり、魔法を教えて貰ったり。危なくない範囲で両親から直接何かを教えて貰えるのであれば、どんな遊びよりも楽しいし、嬉しいんじゃないかな?」
ミカエルの言葉は、すとんと頭に入った。何の抵抗もなく、その言葉がどんな言葉よりも正解だと思えた。彼は教会で多くの子供を見てきているのでしょう。
「はい」
私がそう答えると、早速ジェラールとエリザベートが何を教えるか言い合いになる。そんな様子を見たミカエルは、反笑いで私に耳打ちをした。
「あの二人、学生時代は必要最低限しか会話しなかったほど険悪だったんだよ? 子を持つだけであそこまで変わったのは二人だけかもしれないな。それはもしかして君おかげなのかな?」
私のおかげなのだろうか。ジェラールはまだよくわかりませんが、エリザベートはジェラールのことが好きですよね。
学生の頃からそういう気持ちを押し殺して、今も本人は表に出していないつもりで、今でもたまにジェラールを見ては、少し幸せそうにしていることを、私は知っている。
「それとどうだろう? できれば姫を聖歌隊に」
「やらん」
「それは残念だ」
ミカエルが思いついたかのように私を聖歌隊に入れようと提案しましたが、ジェラールが即否定。しかし、エリザベートは何か思いついたらしくジェラールに耳打ちをする。
するとジェラールが何か考えこんだ後に、顔を少し赤らめさせながら、ミカエルに伝える。
「クリスティーンの練習はあくまで王宮内だ。本番だけは公に出ることを許可しよう」
「おや? 聖歌を歌う娘が見たくなったんだね?」
数分もしないうちに、ミカエルは王宮から追い出されてしまいました。聖歌隊になればミカエルの子供に逢えるのではないかしら?
今回もありがとうございました。