59話 姫として扱われるのではなく
登校二日目。真新しかった制服はすぐに砂埃などで汚れてしまい、二日目にして新品を用意して貰うことになりました。このペースですと、毎日新品を着ることになりそうですね。
スザンヌに着替えを手伝ってもらい、馬車の所に向かいますと、何故かアレクシス、ミゲル、ビルジニ、リビオの四人が既にいらっしゃいました。
「おはようございます皆様」
私が挨拶をすると、それぞれが返事をします。しかし、何故皆様こんなに集まっているのかしら。
魔法学園はいつから集団登校になったというのよ。
「王宮に住んでいるリビオはともかく、皆様は何故?」
「いえ、宜しければご一緒にと思いまして」
「私はクリスティーン姫が変な噂を立てられない様に」
「私は今朝、小鳥のさえずりが心地よくてね。この気持ちのまま君に会いにいけばどれだけ素晴らしい一日を迎えられるだろうかと思い来てしまったよ」
ちょっと何言っているかわからない。ミゲルは一緒に登校しようってことでしょう?
アレクシスの変な噂って何か噂されるようなことがあったのかしら。それでビルジニはもう考えない。この子はこういう子。
噂について詳細は聞いておいた方が良いのかしら。でもあからさまにやばいものでしたら勝手に耳に届きますよね。
「申し訳ありませんが、この馬車は四人乗りでございます」
スザンヌが四人に深々と頭を下げる。そう、私専用の馬車は確かに広い。ですが五人の乗りの乗用車の後部座席程度ある椅子が向かい合っているため、座ろうと思えば六人まで座れる。ですが、それを許さないのが貴族社会。
特に姫である私をぎゅうぎゅうに押し込めるなど論外なのである。それに仮に私がよくても、私が良いといえば、みんなが嫌々押し込められる馬車に乗ることになります。
つまり、私が五人で乗りましょうって提案するのは、姫という権力を行使したパワーハラスメントなのである。そんなことを友人に強いてしまうと、絶交になってもおかしくありません。
「あの? 私はスザンヌと二人で乗ります。皆様は別の馬車で登校してください」
こういう時、権力者である私が身を引くべきよ。みんなで仲良く。私は仲間外れになってもみんなと仲良くしていく自信もあるし、友情を壊すわけにはいきませんよね。さあ、皆さまは一つの馬車に!!
私がそう思ってニコニコしながら馬車の外を眺めていると、四台の馬車にそれぞれがそれぞれの従者と二人ずつ乗り込みました。あれー?
しばらく馬車に揺られているタイミングでスザンヌがボソッと呟きました。
「可哀そうな四人」
「…………そうね。まさか友達の友達は友達じゃないタイプだったなんて。でも私がいない時ってアレクシスとビルジニは普通に話していますし、ミゲルとリビオだってそうでしたのに。顔見知り程度なのかしら」
「頭が可哀そうな姫様」
「頭が!? 頭がって何!? ねえ!? ちょっと? 無視しないで!!」
その後、何度問い詰めても、スザンヌはその真意を話してくださりませんでした。あまり複数人で一緒にいてもなぜかみんな私がいると喧嘩しちゃいますし、今後は極力一人ずつお会いするようにしましょう。
学園に到着し、みんなもそれぞれ馬車の停留所で降りていきます。私がスザンヌと二人で降車した時にちらりと聞こえてきました。
「今日は男を連れてきていないんだ」
ああ、変な噂ってそう言うことね。まさかアレクシスってば、リビオを護ろうとしてくれたのですね。確かに彼は伯爵家。
私と一緒の馬車に乗っている貴族がリビオだけですと、皆さまから恋仲だと勘違いされてもおかしくありませんね。いえ、確かアレクシスは私を護るって言っていたわね。
別に勘違いされたところで、私に何か言える立場の人なんていないのではないでしょうか? 私にたいして強気で出てきたのなんてカトリーヌさんくらいよね。まあ、あの態度は正直姫様扱いとは違ってちょっと楽しいのですけどね。
私は彼女のことを考えながらふと周囲を見渡すと、深紅の瞳と視線をかわした。周囲の生徒と同じように、私が馬車から降りてくる瞬間を確認していたのだ。しかし、睨まれたり何かを言われたりすることなく、彼女は校舎の方へと歩いていきました。
あとよく考えれば私を姫扱いしない人は私の後ろに付き従っているメイドもいましたね。それから…………アイツ、今頃何しているのかしら。
今回もありがとうございました。