68話 僕はクリスティーン姫を親しいと思っている
私を人質として、ブランクがジョアサンに脅迫する。私、別にジョアサンに助けて貰えるようなほど彼と親しい訳じゃないんだけどなぁ。
そりゃあ、一応幼馴染ですし、顔なじみ程度には思って頂ければとは思いますが、それでも得体のしれない者であるブランクと関わらせるリスクを負えるほど、彼は私を大切だなんて思っていないはずだ。
しかし、私の想像とは違い、ブランクはじーっと私を見つめてからこう言い放ちました。
「わかった。悪いことをしないのであれば助力してやる。ただし、クリスティーン姫を解放しなければ容赦ない」
「おー、こわ。まあ、アンタと姫にお願いすることは、アンタの理念に反することはねーよ。多分な」
「その言葉、忘れないでくださいね?」
するとブランクは黒い靄になって消え去りながら、私達に言葉を残す。
「協力してもらう時はまた現れよう」
そして私達の前から黒い靄が視認できなくなりましたが、ジョアサンは何もない空間を見つめてその視線がゆっくりと不自然に空いていた窓に向かっていった。
「あの窓、いつの間に開いたのかしら?」
「少なくとも、僕らが話し始めるころには…………けた違いだなあいつ」
けた違いね。本当にそう思うわ。見せてくる魔法は波動魔法でも守護魔法でもない。他の基本魔法のどれにも該当しないのであれば、あれはワンダーオーブを使用して初めて使える浄化魔法と同クラスの魔法に違いない。
ジョアサンも彼の異様さに気付いているうえに、悪魔だと思い込んでいる。しかし、大司教の息子が悪魔と契約までするなんて。
「ジョアサン、ごめんなさいね。対して親しくもない私なんかの為に」
「……それは別に構わない。君は友人を護ってくれているし、知らない仲でもないからね。それに、もし君が知らない人だったとしても、僕は君を助ける選択をしたと思う」
やっぱりジョアサンはミカエルの子供ね。ミカエルはいつだって善人悪人問わず見捨てるという選択肢を取らなかったわ。言動はどうにかして欲しいけどね。
やっぱり【藍】のワンダーオーブはミカエルの息子であるジョアサンだからこそ、手に入るチャンスがあると思う。
「では、ごめんなさいではなくありがとうって言わせて貰うわ。貴方が善意で動くのであれば私は感謝で返すべきだと思うの」
私がそういうと、ジョアサンは目を見開いて私を見つめる。あれ? 私何かおかしなこと言ってしまったのかしら?
ジョアサンは何事もなかったように空き教室から出ていこうとします。しかし、扉に手をかける寸前で立ち止まってからこちらを振り向かずに声を出しました。
「僕はクリスティーン姫を親しいと思っている」
「え?」
私が声をかける前に勢いよく扉を開けて空き教室から出ていくジョアサン。そんなジョアサンが退散したのを確認したスザンヌが私の様子を伺う様に教室を覗き込みます。
「姫様、遅刻してしまいますよ?」
「そうね、すぐ教室に向かうわ」
教室に入れば、ミゲルとジャンヌにだけが私に挨拶をしてくれる。他の生徒は嫌々挨拶していることがよくわかる。別に構わないけどね。自分で選んだ道ですし、わかってくれる友人もいる。姫と言う立場のおかげでいじめられることもない。
特にいじめの発展に至らないのは、カトリーヌさんが卑怯な行いを嫌う人間だからこそ、他の生徒たちからも、私に対して強く出ようとしないのである。クラスメイトにいる他国の皇族なども外交問題になるため、強く接触してくることもなし。
そろそろワンダーオーブの入手方法もちゃんと考え始めないとね。
今回もありがとうございました。