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彼女に少し嫌われたい ~俺を魔王と呼ぶ美少女と運命の出会いをしたけど、忠誠度が高すぎるので少し下げて普通の恋人を目指したい~ - 29 魔王にしかできない事
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29 魔王にしかできない事

 マフィアの男五人の指が引き金を引き、潮浬が蜂の巣にされてしまう……。

 そんな光景が頭をよぎり、飛びついて床に伏せさせようと動いたが。俺が立ち上がるよりも速く。潮浬の槍がひらめき、光の線が走る。


 ――次の瞬間。聞こえてきたのは銃声ではなく、空気が切り裂かれる鋭い音に、打撃音。いくつも重なった短いうめき声と、重い物が床に落ちる落下音の連続だった。


 ……わずかに腰を浮かせた状態で固まる俺の目に映っているのは、部屋の真ん中まで吹き飛ばされてピクリとも動かなくなった部下四人。

 そして、潮浬の足元に叩き伏せられたボスの姿だった。


 俺の目で見えたのは、一瞬男達の足元をなぎ払うように光の線が走った光景と。足元をすくわれた男達の体が、半回転して宙に浮いた所だけ。


 あとは潮浬の動きも、槍の動きも全く見えなかった。


 ほんのまばたき一つをする間に。一迅いちじんの風が吹いて男達をなぎ倒し、吹き飛ばしてしまったような。そんな錯覚にさえ襲われる。



 ……しばらく呆然としてしまったが、我に返った俺は視線を動かして状況を把握しようとする。


 部屋の真ん中まで吹き飛ばされた部下達はとりあえずいいとして、潮浬の足元に転がるボス。

 仰向あおむけに横たわるその口には……潮浬が持つ槍先がねじ込まれていた。


「あが、あぐっ……」


 一瞬ゾッとしたが、ボスはとりあえず生きているらしい。まともに言葉になっていない、うめき声のようなものを発している。


 潮浬の槍を見せてもらって初めて知ったが、槍の刃は先が尖っているだけじゃなくて、側面にも刃がついている。両刃の短剣に長いがついているような構造なのだ。

 だからあの状態では、舌もあごも満足に動かせないのだろう。


 どう見ても潮浬の完勝だが、隣に戻ってきた千聡は厳しい表情のままで。俺に向かって言葉を発する。


「魔王様。お手をわずらわせる事になってしまって申し訳ありませんが、潮浬を止めてやってくださいませんでしょうか?」


「え?」


「あの状態の潮浬は、私の言葉など聞かないでしょう。リーゼと二人でなら無理やり押さえ込む事は可能でしょうが、血を見る事になると思います。ですが魔王様のお言葉なら聞くはずですので、お願いできたらありがたいのですが」


「…………」


 そう言われて改めて潮浬を見ると、潮浬は槍先をボスの口にねじ込んだ状態で。じっとボスを見下ろしている。その目には、ゾクリとするような冷たさが宿っていた。


『ねぇ、あなたはわたしが敬愛する魔王陛下の事を三度も侮辱ぶじょくしたのよ。三回死んでお詫びするくらいは当然だと思わない?』


 千聡の訳によるとそう言いながら、潮浬は手の中の槍をわずかにひねる。


「ごごっ!」


 潮浬はわりとなんでも訳してくれたが、千聡は意味のある言葉以外は訳さない方針らしく。悲鳴はスルーだ。

 まぁ、なんとなく分かるけどね。


『ねぇ、わたしなぶる趣味とかはないんだけど。あなたが上げる悲鳴が陛下に害をなそうとするバカ共への牽制けんせいになるのなら。無様ぶざまにのたうつ姿が見せしめになるのなら。めいいっぱいみじめであわれにもがいて見せるのが、陛下に暴言を吐いた事へのせめてもの罪滅ぼしになるんじゃないかと思うんだけど、どう思う?』


 潮浬は冷たい表情で。平坦な声で言葉を発しながら、また手の中の槍をわずかに動かす。


『ガキッ』と槍の刃とボスの歯が強くこすれる音がし、声にならない悲鳴と共に、ボスの体がビクンと跳ねる。


 多分許しをう声だろう。ボスはうなり声のようなものを上げながらわずかに手足を動かすが、わずかでも頭を動かしたらのどを貫かれてしまう状況では、ほとんど動く事ができないようだ。


「『許してください。おびしますから、なんでもしますから』……でしょうか? 申し訳ありません。ちょっと正確に聞き取れません」


 千聡は千聡で冷静に訳してくれるが、ほとんど『うーうー』言ってるだけにしか聞こえないのに、よくわかるな。


 ボスの顔は、涙と血が混じったよだれにまみれ。ズボンのまたの所も濡れてしまっている。


 そしてそれを見下ろす潮浬の表情には、一切の感情が見えなかった。

 いつもの穏やかで柔らかい微笑ほほえみを浮かべている潮浬の姿はどこにもなく。ただ無表情でボスを見つめている。


 ……あれを、俺が止めるの?


 正直とんでもない無茶振りだと思うし、近寄るだけでも恐ろしいが。他ならぬ千聡からのお願いなのである。


 それに、このままだと潮浬は本気でボスを殺してしまいそうだ。さすがにそれは見過ごせないので、どうにかできるのならしてあげたい。

 そして千聡によると、平和的にどうにかできるのは俺だけらしい……。


 ……しばらく気合を溜めてから立ち上がると、俺は潮浬に向かって一歩を踏み出す。


 護衛のリーゼがピタリと後ろをついて来てくれるし。千聡もそばに控えていてくれるから、いざとなったら助けてもらおう。


 そんな情けない事を考えつつ、潮浬に手が届く距離まで来たが。たしか以前、千聡から『潮浬は俺の方から抱きしめてやると大人しくなる』と聞いた気がする。


 この状態でいきなり抱きつくと反射的にられてしまいそうで怖かったので、まず『潮浬』と一声かけ。ピクンと反応したのを確認してから、意を決して後ろから。覆い被さるようにして潮浬の体を抱きしめる……。



 ――潮浬は小柄で、俺の腕の中にすっぽり入ってしまうサイズである。


 そんな潮浬をギュッと抱きしめ、耳元でささやくように言葉を発する。


「潮浬。俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど、もう十分だよ。だから落ちついて……」


「…………」


 その一言で。堅くて冷たい石人形に抱きついたような感覚だったのが、柔らかい女の子の感触に変わり。鼻にふわりと、甘くていい香りが漂ってくる。


 なんとなく上手くいっている気配を感じて、さらに腕に力を入れてみると。潮浬の体からふっと力が抜け。槍が『カラン』と音を立てて床に転がる。


「ひぃっ!」とかなんとか、そんな言葉なのだろう悲鳴を残して。マフィアのボスが四つんばいで這うように、すごい勢いで逃げていく。

 気絶している部下達は置き去りだ。



 ……とりあえず当面の危機は去ったような気がしたので、潮浬を抱いていた腕をゆるめると。潮浬はそのまま、俺にしなだれかかるようにして体を預けてきた。


「陛下……」


 そんな甘い声とともに、潮浬の右手が俺の胸元へと伸びてくる……。


「い、いやちょっと待った。潮浬、もう一回落ちつこう」


 新たな危機の気配を感じて一歩後ずさると、千聡がすかさず間に入ってきてくれた。


「潮浬、これ以上魔王様のお手をわずらわせるのではありません。大体さっきも、もし魔王様に流れ弾でも当たったらどうするつもりだったのですか」


 千聡の言葉に。潮浬は一瞬強い殺気を向けたが、すぐにそれを引っ込めて言葉を発する。


「……わかったわよ。間違った事をしたとは思わないけど、陛下にお手数をかけてしまったのは確かだしね。でも、あんな連中に引き金を引く時間を与えるほどわたしは愚鈍ぐどんじゃないからね」


 それだけ言うと、潮浬は一つ大きく息を吐き。いつもの柔らかい微笑を向けてくれる。


 会場では状況終了と見たのか、あちこちでザワザワとささやく声が発せられ。メイドさん達が気絶しているマフィアの部下達を、手際よく担架たんかに乗せて運び出していく。

 手慣れた様子なのがちょっと怖い。


『そこのあなた、悪いけどこの槍拭いてくれる?』


 潮浬が足元に落ちていた槍を拾い。メイドさんに渡すと、メイドさんはちょっとおびえたような表情を浮かべたが。紙ナプキンを使って槍先に付いた血やなにかを、丁寧にぬぐってくれた。


『ありがとう』


 潮浬はそう言って、自分でももう一度槍先をぬぐうと。布を巻いて肩に担ぎ。もう一度会場を見渡して日本語で言葉を発する。


「千聡、これからどうするの?」


「……顔見せという当初の目的は果たしましたし。魔王様もお疲れでしょうから、部屋に戻りましょうか」


「了解」


 千聡の言葉で、俺達は一旦部屋へと戻る事になる。


 会場中の視線が向けられているのを感じながら。俺達はパーティー会場を出て、与えられた部屋へと向かう。


 これで一日目の日程終了といった所なのだろうが。なんかこの旅行、覚悟していた三倍くらい大変な事になりそうな予感がする。



 俺は日程がもう一日ある事に軽い頭痛を覚えながら、千聡の先導で船内を歩くのだった……。




 現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本と小さな拠点がいくつか+小勢力三つ)


 千聡の主人公に対する忠誠度……100%(頼りになる魔王様を見て上昇。カンスト)

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[良い点] 流石にそろそろ現実に向き合う時が来てるのでは!w [一言] 上昇?!…運営さんに表示桁数増やすように要望送らなきゃ(錯乱
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