34 襲撃者撃退作戦
千聡が偵察に出向いてしばらく。船内は銃声も爆発音もやみ、不気味な静けさに包まれている。
一度だけスピーカーから威圧的な声で『この船は我々が占拠した、命が惜しければ部屋を出ないことをお勧めする。今の所人質に危害を加えるつもりはないが、我々の要求が通らなかった場合には見せしめとなってもらう事になる。その時は反抗的な行動を取った者を優先するから、そのつもりで』と、思いっきり脅されたが。放送もそれっきりである。
なんか大変な事態に巻き込まれた感じがするが、リーゼはと見ればトランプを再開したいらしく。床に散らばったカードをチラチラ見ているし。潮浬にいたっては、俺を守るように抱きかかえたまま離してくれない。
それも襲撃を警戒している様子ではなく。ここぞとばかりにスンスン匂いを嗅いでいるし、背中に頬ずりされているような感覚もある。緊張感は限りなくゼロである。
「――リーゼ、トランプ再開しようか」
危険な偵察に行ってもらっている千聡には悪いが、潮浬を穏便に引き剥がすために。そう提案を出す。
「はい!」
リーゼは嬉しそうに床に散らばったトランプを集めはじめ、潮浬は名残惜しそうだったが、なんとか俺から離れてくれた。
まずは枚数が揃っているかの確認を兼ねた7並べからはじめ、俺が一位で潮浬が二位。リーゼがまた最下位になった事に新たな接待プレイの予感を覚えながら、三人でゲームを進めていく。
千聡の事は心配だが、今の俺にできる事はないし。一応戦闘は一段落して、大人しくしていれば危害は加えられないらしいので。トランプは無難な人質生活の過ごし方だろう。
そんな感じで、千聡が偵察に出てから20分くらい経った頃。不意にリーゼが顔を上げて、『あ、師匠帰ってきましたよ!』と嬉しそうに言う。
俺にはなんの気配も感じられなかったが、数秒して扉の向こうから『戻りました』と声が聞こえ、千聡が姿を現す。
相変わらずリーゼの気配察知は大したものだ。爺ちゃん家で飼われていた犬が、爺ちゃんの帰りを玄関を開ける前から察して、玄関前でお出迎えしていたのを思い出す。
俺達がトランプで遊んでいるのを見て気を悪くするかなと思ったが、千聡は特に気にした様子もなく。むしろ進行中だったゲームが終わるまで待って、報告をしてくれる。
「まず、この襲撃は魔王様を狙ったものではないようです。襲撃者はこの船の船主である、カルメ卿に敵対する勢力。具体的には、南イタリアに勢力を持つマフィアの一味で、人間です」
またマフィアか……。
今までの人生でほとんど無縁だった人達と、本日二度目の関わり合いだ。
なんか穏やかじゃないなと思いつつ、報告の続きを聞く。
「現在この船は、ほぼ襲撃者達の手中にあります。襲撃者達の人数はおよそ60人。内船内に50人ほど。他の戦力は小型ボートが左右両側に三隻ずつ計六隻。内一隻ずつに20ミリ機関砲が装備されています」
機関砲……なんか機関銃より強そうな響きだ。違い分からないけど。
千聡はそこで一旦報告を切ると、話を俺に向ける。
「魔王様。爾後の行動について、いかがいたしましょうか?」
え、なにそれ俺が決めるの? ……まぁ魔王だから当然か。
「千聡はどうすればいいと思う?」
「私からの具申といたしましては、『このまま様子を見守る』『この船を脱出する』『襲撃者を撃退する』辺りが無難ではないかと考えます」
千聡は基本、俺に判断を求める時はイエスかノー。選択を求める時は三択にしてくれる事が多い。
だが最初の二つははともかく、三つ目は無難だろうか?
「……このままじっと様子を見てたら、穏便に済むと思う?」
「不確定要素が多いので断言はいたしかねますが、襲撃者達はカルメ卿と乗客を人質にして、なにかを要求するつもりでいるようです。その交渉経過によっては数日、あるいは数週間このままという事もありえますし。その間に害意を向けられないとも限りません。我々以外の人質が救援を呼び、再びこの船に襲撃をかけてくる可能性も高いです。三つの中では一番リスクが高い選択であると考えます」
一番リスクが高いんだ……。そして数日ならともかく、数週間は困るな。
それにまた襲撃を受けたりしたら、今度はロケット弾がこの部屋に直撃するかもしれない。
「襲撃者を撃退するっていうのは可能なの?」
「はい、そうお命じ頂ければ」
……なるほど。考えてみればこの船には武器を持った人がいっぱい乗っていたし、こっち側にもマフィアさんがいる。
潮浬に叩きのめされてどうなったかは知らないけど、戦うなら戦力になるだろう。
何百人か集まれば、50人を撃退するくらいはなんとかなるのかもしれない。
それにテロリストの人質として長期間を過ごすというのも、なんかよくない想像が働いてしまう案件だ。
こっちには世界的人気アイドルの潮浬とか、貴族令嬢のリーゼとか、とてもかわいい千聡とかがいるのである。
「千聡、撃退の成功率ってどのくらいだと思う?」
「特別の条件をつけなければ、99.99パーセント以上はあるかと思います」
「そんなに?」
「はい」
「じゃあ、なるべく犠牲者を出さずにって条件をつけたら?」
「『絶対に』ではなく『なるべく』であれば、さほど変わりません。99.95パーセントといった所でしょう。これは撃退の成功率には変化がなく、犠牲者を出さずに済む確率であるとお考え下さい」
……千聡の性格上、この手の事で『100パーセント』とは言わないだろうから。これはもう確実にと言っているに等しい。
千聡は交渉事が得意みたいだし、乗客をまとめ。もしかしたらその力を背景に、話し合いで相手を引かせる算段とかあるのかもしれない。
「わかった、じゃあ撃退にチャレンジしよう。どうすればいい?」
「はい。一旦船上へと出て潮浬をボートへの対処に向かわせ、外からの攻撃を封じた上でリーゼが暴れて敵の注意を引き。その間に魔王様と私で敵が本拠にしている操舵室を制圧するのが妥当であると考えます」
……まさかのガチ強攻策。それも応援なしでやると言ったように聞こえた。
「ちょっと待って、俺達だけでやるの?」
「はい。このような状況では、どこに人質を装った敵の内通者がいるか分かりません。信用できる最小限の人数で。迅速に行動するのがよろしいかと考えます」
「な、なるほど……」
言っている事にはすごく説得力があるが、50人か60人かを相手に俺達四人で。……実質俺は役に立たないから、三人でなんとかなるものなのだろうか?
そんな俺の不安をよそに、千聡は方針が決まったとばかりに視線を巡らせる。
「リーゼ、魔王様の御意向です。なるべく相手を殺さないように気をつけなさい」
「はい!」
「あと、敵の注意を引きつける局面まではあまり大声を出さないように」
「は……ぃ」
元気よく返事をしかけ、急に声を小さくするリーゼ。そしてまたしても、なんか俺の想定と違う。
『なるべく犠牲者を出さずに』というのは味方の話だったのだが、千聡はどうやら『敵も含めて』と理解しているらしい。
そりゃ、そうできるのならその方がいいけど。難易度高すぎないだろうか?
話し合いでなんとかする感じじゃなかったし……。
不安は増すばかりだが、逆に考えれば千聡にとって襲撃者達は、『手加減ができる程度の相手』という事でもある。
もしそれが本当なら展望は明るいし、勝率99パーセント越えというのも納得だ。
期待と不安が入り混じる中で千聡を見ていると、潮浬とリーゼとで簡単な打ち合わせを終えたらしく。こちらに視線を向ける。
「では参りましょうか、魔王様」
「うん……」
そうして俺は千聡に誘われるがまま。襲撃者達との戦いに向かう事になった。
微かに煙と火薬の臭いが立ち込める廊下を歩きながら。俺はこの戦いが無事に終わりますようにと祈るのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.11%(西日本の魔族と小さな拠点がいくつか+魔族の小勢力三つ)
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト(さすが魔王様。襲撃を受けても動じる事なく、トランプを楽しむ余裕をお持ちだ)