53 千聡と潮浬へのプレゼント
旅行から帰ってきて二日目。俺は千聡と潮浬に贈るプレゼントについて、頭を悩ませていた。
というか、リーゼもあのキーホルダー一つだとなんか微妙なので、全体でバランスが取れるようにしたい。
幸い資金は、潮浬に体……じゃなくてTシャツを売ったお金があるので、あそこから半分くらいを充てようと思う。
問題はなにを贈るかだが……ここで一つの選択肢が浮かんでくる。
それは千聡に対して。ちゃんとしたプレゼントを贈るか、それとも好感度を下げる事を目的に、残念プレゼントを渡すかである。
好感度を下げるだけなら千聡にだけ渡さないという方法もあるが、それはいくらなんでもあんまりだ。
仲間外れはよくない。俺は千聡の好感度を下げたいのであって、悲しませたい訳ではないのだ。
……どうしようか悩んだ末。俺は思い切って、残念プレゼントに走る事にした。
俺の目的はあくまで、千聡と対等の恋人同士になる事。
そのためなら、センスが悪いやつという評価も甘んじて受け入れよう。
――思い立ったがなんとやらで、俺は早速駅前のショッピングモールに向かう。
潮浬は午前中仕事で、千聡には『角煮炊いてるから、30分に一回様子見ておいて』と頼んで拘束してある。
申し訳ない気もしたが、さすがに残念プレゼントを選ぶ所を隣で見られていたら、台無しというか横槍が入りそうだからね。
そんな訳で、俺は護衛役のリーゼと一緒に雑貨屋やアクセサリーショップなどを見て回る。
……なんかやたら注目されている気がするのは、間違いなくリーゼのせいだろう。
長身金髪スレンダー美人なんて、この辺りではまず見かけないもんね……リーゼは都会でも大いに人目を引くと思うけどさ。
それはともかく、『なんであんな美人があんな冴えない男と?』みたいな視線に耐えつつプレゼントを探すが、中々これといった物はない。
よく考えたらお店で売っている時点で、致命的にダサいものとかは最初から並んでいないのかもしれないね……。
……早くも作戦ミスの気配が漂うのを感じながらお店を巡っていると、不意にリーゼが声を上げた。
「あ、閣下閣下! 見てくださいこれカッコイイですよ!」
あんまり人前で『閣下』とか呼ばないで欲しいと思うが。とりあえずリーゼの視線の先をのぞいて見ると、そこは12星座対応のキーホルダー売り場だった。
誕生日ごとに何座かの表記もしてあって、リーゼが手にとっているのはみずがめ座だ。ええと……1/20~2/18の生まれらしい。
キーホルダーは銀色ベースで、全部違う色の石が埋め込んである。
お値段が780円なのを見ると、多分メッキにガラス玉だろう。
カッコイイかどうかは正直疑問だが、剣にドラゴンが巻きついた痛デザインのキーホルダーを見て目を輝かせていたリーゼなので、リーゼ的にはカッコイイのだろう。
と言うか、キーホルダー好きなのだろうか? なんだかとても楽しそうに言葉を続ける。
「こういうの、みんなお揃いでつけたいですね! 閣下何がめ座ですか?」
「……何がめ座?」
俺は星座に詳しくないのでよく知らないが、リーゼの国では12星座は全部亀で、海亀座とか陸亀座とかあるのだろうか? ……いや待て。ひらがなで書いてあるから一瞬戸惑ったけど、よく見たらデザイン的にリーゼが持っているのも、水亀座じゃなくて水瓶座だぞ。生物じゃなくて壷の方だ。
「えっと……亀じゃないけど、俺はこれかな」
そう言って、おひつじ座のキーホルダーを取る。うん、羊であって亀じゃない。
「わかりました! ええと、師匠と先輩は……これとこれかな?」
リーゼはそう言って、てんびん座といて座のキーホルダーを手に取るが。そのまま動きが止まってしまう。
「……これ、みんな貰ってくれますかね? 閣下、どう思います?」
どうやら土壇場で冷静になってしまったらしい。……たしかに、貰っても使う事なく押入れの奥にしまいこんでしまうタイプのプレゼントだ。中学の修学旅行で買った、俺のドラゴン剣キーホルダーがそうであったように……。
このキーホルダーはあれよりは大分マシなので、さすがに突き返されたりする事はないだろうけど、それでも普段使いするかと問われると大変微妙だ。少なくとも俺は、多分使わない。
……ん、待てよ。微妙なプレゼント……か。
「ねぇリーゼ。これ、俺が買ったらダメかな? みんなには色々お世話になってるから、俺からみんなに渡す形で」
「え、そんな悪いですよ!」
「いいからいいから……あ、どうしてもリーゼから渡したいって事なら、無理にとは言わないけど」
「い、いえ。そんな事は全然!」
うん。リーゼの様子を見る限り、目的はプレゼントを渡す事ではなく『みんなでお揃いのアクセサリーをつける事』だろうから、多分俺から渡す方がその目的に適う。
そして俺の方もプレゼントを確保できるという、一石二鳥な気がする提案だ。
千聡の好感度を下げる残念プレゼントという企画の趣旨には……どうだろう? 片足くらい突っ込んでるかもしれないが、あまり効果は見込めない気もする。
まぁ元々潰れかけていた企画なので、気にしない。
好感度を下げる方法もその機会も、この先いくらでもあるだろうからね……。
そんな事を考えながらレジに向かおうとした所。リーゼが遠慮がちに言葉をかけてくる。
「あの、閣下……これもいいですか?」
そう言って渡されたのは、しし座のキーホルダー。誰の分だろう?
「あの……できたらシバも一緒がいいなと思いまして……」
――ああなるほど。シバの誕生日はわからないし、12星座にいぬ座はないから、しし座なのか。なんか凶暴な魔獣って設定だったしね。
「うん、いいよ」
シバ用のキーホルダーも受け取って、五つをレジへと持っていく。一個780円(税込み)で、合計3900円。
うん、想定よりもかなり安くついた。
浮いたお金でリーゼにお昼でもご馳走してあげようかなと思っていると、お店を出た所でリーゼが声を発する。
「あ、先輩!」
その声に驚いてリーゼの視線を追ってみるが、潮浬の姿は見当たらない。
……と、わりと離れた場所から眼鏡をかけた、二十歳くらいのピシッとした格好のお姉さんがやってくる。
「――陛下。わたしを差し置いてリーゼちゃんと二人でデートなんて、ズルいです!」
そう言葉を発したお姉さんは、姿も印象も。なんなら声も潮浬とは全然違う。
一瞬潮浬じゃない別の先輩かと思ったが、発言内容は100パーセント潮浬である。
困惑する俺に。お姉さんは小声で、『陛下、ここでは目立つので場所を変えましょう』と言い。『リーゼちゃんもおいで、お昼一緒に食べよう』と、俺達を食事に誘う。
俺への小声は完全に潮浬だったが、リーゼを誘う声は全然違う。学校の先生みたいな、大人の声である。
そういえば旅行で通訳をしてもらった時も、潮浬は人間変声機みたいに、色んな人の声を自在に出していたな……。
……それにしても、改めて見ると声もだけど、背格好から雰囲気まで完全に別人だ。身長なんか10センチくらい高くなっているのではないだろうか?
潮浬は大人気アイドルだから、バレて騒ぎにならないように変装しているのだろうけど。それにしてもすごい。俺は近くに来ても全く気付かなかったし、話しかけられても脳の理解が追いつかなかった。
て言うか、リーゼはよく気付いたな。
戸惑いと感心とで心が落ち着かないままに。俺はショッピングモール上層階へと向かう潮浬について、足を進めるのだった……。
現時点での世界統一進行度……0.16%
・西日本の魔族と小さな拠点がいくつか
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を配下にしたかも?
千聡の主人公に対する忠誠度……100%↑ カンスト『魔王様直々に任務を与えられた。光栄の極みだ、しっかりとやり遂げなくては……ああ、30分に一度しか確認できないのがもどかしい。(角煮の鍋にチラチラ目をやりながら)』忠誠度上昇