83 聖剣の傷
聖剣の破片によってつけられたという、天川さんのお腹の傷。
それを治す方法として、強い魔力をぶつけて相殺するというのがあるらしい。
俺はおもむろにスマホを取り出し、千聡にメッセージを送る。
『もしかして玉藻さんの時みたいに、俺の血が使えたりする?』
天川さんには俺が魔王である事は秘密……という訳でもないのだが。今話すとややこしそうなので、こっそり内緒話だ。
天川さんに『ちょっとごめんね』と断っている間に、返信が返ってくる。
『今回はおそらく必要ないと思います。内の病ではなく体表の傷であり、聖剣の呪いを中和する作業ですから。仮に魔王様の力をお借りする場合でも、直接手を当てて魔力を流し込むのが効果的です』
なるほど、そういうものなのか。
『聖剣の呪い』という言葉に微妙な違和感を覚えるが、魔族側から見るとそうなるのだろう。
一人で感心していると、千聡から追加のメールが来る。
『魔王様は、魔力を用いてこの者の傷を治す事をお望みですか?』
『うん、できるのならそうしてあげたい』
『承知いたしました』
その返信の後、千聡は天川さんへと向き直る。
「まず確認ですが、貴女は傷を治す事を望んでいますか?」
「え、うん。それはもちろん、治るのならとてもありがたいけど……」
天川さんはそう言いつつも、半信半疑なようだ。気持ちはよくわかる。
「わかりました、では我々で手を尽くしてみましょう。……貴女がやると言っていた、お祓いのようなものだと理解してください」
「――なるほど。じゃあお願いしてもいい?」
千聡の一言で得心がいったように、天川さんが頷いた。
なんか立場が逆転したな。
「話は決まりましたね。――理彩、やってみなさい」
「はい!」
千聡の言葉に、リーゼが大きな声で返事をして立ち上がる。そういえば、そんな偽名だったね……。
千聡は天川さんを床に寝かせ。リーゼは巫女服がはだけられたお腹に手を乗せると、目を閉じて意識を集中しはじめる……。
「――んっ」
天川さんが、ちょっとだけ艶っぽい声を上げた。
見る限りではなにも変化はないが、魔力を流し込む作業が始まったのだろう。
俺はとなりの千聡に顔を寄せて、小声で話かける。
(てっきり千聡がやるんだと思ってたよ)
(今回重要なのは魔力の強さですから。私達三人の中では、リーゼが一番魔力量が高いのです)
(へぇ、そうなんだ)
そんな言葉を交わしながら見ていると、だんだんリーゼの表情が苦しそうに歪んでいき。額に汗が浮かんでくる……。
「――――ぶはっ! はぁ、はぁっ……師匠、これ無理です」
その言葉に、千聡は表情を厳しくして眉根を寄せる。
「貴女の魔力で不足とは……これは思ったよりも、天川殿は魔族の血が濃いようですね」
「そうなの?」
「はい。聖剣は人間相手にはただの剣ですが、魔力が高い相手であるほど高いダメージを与え、呪いを相殺するのも難しくなります。……天川殿、日常生活に支障はないとおっしゃっていましたが、実はかなり痛むのではありませんか?」
「ええと……あはは。まぁ、寝込んだり気が触れたりするほどの痛みではないって事で……」
横になったまま苦笑を浮かべて誤魔化そうとする天川さん。あれ、これって実はかなり痛いって事なのでは……。
「――ねぇ千聡、俺の魔力ならなんとかならないかな? リー……理彩の魔力とどっちが強いかは分からないけどさ!」
千聡はさっき、『三人の中ではリーゼの魔力が一番強い』と言った。
三人とは千聡・潮浬・リーゼだろうから、俺は枠外なはずだ。
自覚はないけど一応魔王らしいので、もしかしたら一番魔力が強かったりしないだろうか?
「その前にわたしにやらせてください」
千聡の答えより先に、声を発したのは潮浬だった。
「……理彩で無理だったのに、貴女になんとかできるとは思えませんが?」
「そうね、だからあなたも手伝いなさい。わたし達二人なら、理彩ちゃん一人よりも魔力が高いはずよ。和人君の手を煩わせるのは、最後の最後にするべきでしょう」
「――なるほど、貴女の言う通りです」
潮浬、俺の事を名前で呼んでくれるのはいいけど、話し方が完全に魔王に対するそれだ。天川さんがちょっと不思議そうな顔をしているじゃないか。
そんな事を考えながら見ていると、千聡と潮浬が天川さんのお腹の上で手を重ね、意識を集中しはじめる……。
「――うんっ!」
また天川さんが艶っぽい声を上げるが、魔力を流されるのってくすぐったかったりするのだろうか?
ちょっとだけ妙な気分になりながら見ていると、次第に千聡と潮浬の表情も険しくなっていき、汗が浮かんでくる……。
……結果は、失敗だったらしい。
千聡と潮浬は脱力したようにへたり込み、呼吸を荒くしている。
「申し訳ありません。私達では力不足であるようです……」
千聡がうつむきがちに報告してくれる。これはいよいよ、俺の出番だよね……?
現時点での世界統一進行度……0.24%
・日本の魔族勢力を全て配下に
・魔族の小勢力三つ
・イリスルビーレ公爵を正式に配下に
千聡の主人公に対する忠誠度……100%→