第21話:2度目の全国大会へ
今年の全日本少年サッカー大会がスタートする。
オレたちのチームも開催地に到着した。
「相変わらず、凄い人の数だね!」
一年ぶりに訪れた会場の熱気に、オレは興奮する。
全国から集まった、48都道府県のチームの選手と関係者。総勢千人以上の人で、会場は賑わっていた。
開催地は昨年と同じ、鹿児島県のスポーツセンター。開催が12月下旬の冬ということもあり、暖かい南国で開催されるらしい。
昔は東京や関東で開催されていたらしい。その時は試合中に雪が降って大変だった、とコーチに聞いたことがある。
その当時に比べたら南国の冬での開催は、今のオレたち小学生には幸せだった。今日もいい天気だ。
「見て、ヒョウマ君と葵! あそこに新しいイベントコーナーがあるよ! あっちでは“元日本代表の講演会”だって! 凄い!」
全国大会の会場の周辺は、今年もお祭り雰囲気である。
スポンサーのイベントブースのテントが立ち並び、いろんな体験コーナーがある。
今年の目玉は、元サッカー日本代表選手の講演会があるのだ。
だが試合中なので親しか聞けない。どうやら“サッカー親育”というテーマらしい。
出来ればオレも聞きに行きたかった。
「ん? あれはTV局の取材かな? 凄い! ボクも映りたいな!」
Jリーグや日本代表が、好調なお蔭であろうか。昨年に比べて全国大会の会場は盛り上がっていた。
各局のTV局や新聞社が取材に来ていた。至る所で、撮影とインタビューをしている。
「あれは将来のJリーガーを探しているのかな……」
これまで日本代表選手たちも、小学生の頃はこの全国大会で活躍していた。
次の未来のスーパースターの映像を、マスコミの人たちも欲しいのであろう。
オレもいつかは特番で、取材とかされてみたい。
「やれやれ。相変わらずミーハーだな、野呂コータ」
「そうだよ、お兄ちゃん。恥ずかしいから、もう少し静かにしてちょうだい」
そんなお祭り雰囲気でも、ヒョウマ君はクールであった。それに妹の葵も大人しくしていた。
これはいかん。オレは落ち着きを取り戻す。
どうしても前世でサッカーオタクだった、自分の気質が出ていた。
精神年齢は31歳なのに、はしゃぎしまって恥ずかしい。もう少し大人しくしないと。
「でも、お兄ちゃんの言うとおり、凄い熱気だね……」
全国大会に初参加の葵は、少し緊張していた。周りをきょろきょろして、やや落ち着きがない。
おそらく周りの歩いている他のチームが、全員が上手そうに見えるのであろう。
緊張でギュッと、その小さな手を握りしめている。
「大丈夫だよ、葵。ボクたちは強い。だって昨年はベスト8……そして今年は全国優勝するんだから!」
これは葵を安心させる方便でも、オレの慢心でもない。
何度も言うが、オレたちチーム“リベリーロ弘前”は本当に強い。
どこにでもあるような、街の小さなサッカーチームかもしれない。
だけど、エリートの集まるJジュニアチームにも負けてないのだ。
「野呂コータの言う通りだ、野呂妹。オレ様とお前たち兄妹がいれば、怖い者はない。それに5、6年の先輩たちがいるからな」
ヒョウマ君も葵を励ます。
彼のお父さんは有名な元Jリーガー。だから生まれた時からヒョウマ君も、プロのサッカー業界を目にしていた。
そんなヒョウマ君のサッカー分析力は的確。本当の頼もしい激励の言葉だ。
「澤村がオレたち上級生のことを、そんな褒めるのは珍しいな」
「そうだな。今日は雪で降るかもな! はっはっは……」
後ろで聞いていたキャプテンと6年生たちは、まんざらじゃない顔で笑っていた。
今だから言えるが、ヒョウマ君が選手コースに昇格した当初。この先輩たちとチームプレイが、上手くいってなかった時もある。
孤高の天才肌のヒョウマ君と、上級生のメンツがぶつかってしまったのだ。
でも今は違う。
昨年のベスト8敗退の時から、このチームは一枚岩となっていた。
「それじゃ、コータ。それに澤村も。オレたちは先にアップグラウンドに行っている。後で合流しよう」
「えっ、キャプテン? 何で先に行っちゃうの?」
キャプテンたちは何かに気が付く。
そして先に試合前のアップグラウンドに向かう。オレとヒョウマ君は、あと葵の三人は置いていかれる。
「ほら、お前たちに客が来たぞ。じゃあ、頑張れよ、コータ」
ん? 客?
一体誰が来たというのであろうか?
オレはキャプテンが指さした方角を振り向く。
「君たちは……」
「久しぶりだな。リベリーロ弘前の14番……いや、野呂コウタ。それに澤村も」
そこにいたのは三人のサッカー少年だった。
彼らはJリーグのTVでよく目にする、青白赤を基調とした、マリンカラーのユニホームを着ていた。
それはサッカー少年のエリートコースで、Jリーグの下部組織の所属の証。
日本中のサッカー少年が憧れる、ジュニアチームの一つである。
「こちらこそ、久しぶりだね」
見覚えのある三人に、オレも挨拶をする。
来客は昨年の全国大会の優勝チーム。
横浜マリナーズU-12のエースの三人だった。
◇
「1年ぶりだね。今年もそっちは……マリナーズの方は、ここまで順調だったみたいだね」
オレは相手の三人と挨拶をかわす。
今の時代は全国各地の地区大会の結果を、ネットニュースで確認できる。それに名門のJジュニアチームは、動画サイトでも見られる。
この一年間、オレは横浜マリナーズU-12の情報を、密かにネットで見ていた。
彼らは昨年以上の総合力で、地区と県大会を勝ち抜いてきたのだ。
「リベリーロ弘前の方も、地区と県大会で圧勝だったな」
驚いたことに相手も、オレたちのチームの状況を知っていた。
昨年は準々決勝で負かした、リベリーロ弘前のことを調べていたのだ。いったい、どうしてだろう。
「前回の大会で一番苦戦したのは、お前たちだからな。それにウチの監督も『リベリーロ弘前だけは気を付けろ』って言っていた」
オレの不思議そうな顔に、マリナーズのキャプテンが答えてくれた。
すぐ顔に出るのはオレの悪い癖だ。今度から気を付けないと。
それにしても昨年の覇者に、ここまで警戒されていたのは意外だった。
「それから澤村……昨年はアップグラウンドで、悪口を言って悪かったな。すまない」
マリナーズの三人は、素直にヒョウマ君に謝罪する。
昨年、格下に見ていたことを反省していたのだ。
「ふん。オレ様は小さいことに気にしない。頭を上げてくれ」
ヒョウマ君は昨年のことを、気にしていなかった。
彼は冷静沈着だけではなく、寛大な心ももっていた。やっぱり凄い人だ。
そう言えば前にヒョウマ君から聞いた。
彼は幼い頃から『親の七光り!』と、色んなチームの仲間に言われていたらしい。
才能があり過ぎって、年下にレギュラーを奪われたこと。それが今回も原因だったらしい。
「それに男なら試合で勝負をつけよう。“決勝戦”でオレ様たちは待っている」
「そうだな、澤村……決勝戦まで、負けるんじゃないぞ」
今年の全国大会の対戦表。
それによるとオレたちが、横浜マリナーズU-12と戦うことが出来るのは、最終日の決勝戦だけ。
つまりヒョウマ君と三人は、互いをライバルと認め合っていた。決勝戦で戦うべき強敵として。
「それは、こっちのセリフだ。何しろオレ様は……オレ様たちのチームは強くなった。昨年の何倍もな」
ヒョウマ君は相手に啖呵をきる。
互いにライバル心を燃やしながら、自分を高めていた。
まるでスポーツ漫画のような熱い展開である。
やっぱりヒョウマ君はカッコイイ。サッカーの才能ある人は、なにを言っても様になる。
「澤村、それは知っている。それと野呂コウタ。今年はお前のことは、見くびらない……トレセン選抜クラスとして、当たらせてもらう!」
「へっ……ボクが、トレセン選抜クラス?」
シリアスな展開が、いきなり自分に飛び火してきた。
不意をつかれて、オレは思わず変な声を出す。
何しろトレセン選抜クラスとは、全国の優秀なサッカー少年を集めるエリート機関のことつまり小学生の凄い人の敬称に等しいのだ。
「お前たち、この男を甘く見ない方がいいぞ。U-12代表クラスと思わないと、止められないぞ」
なんかヒョウマ君まで、その話に乗っていく。
一体どうしたんだ、両者とも?
トレセン選抜クラスとか、U-12代表クラスとか……そんなにオレをおだてても、何も褒美は出せないよ。
「ちょっと、黙って聞いていたら、失礼ね! お兄ちゃんは、その程度じゃないわ! 将来は世界トップ選手になって、世界MVPに選ばれるんだから!」
そこに妹の葵まで乱入してきた。妹は凄い剣幕で怒っている。
これはヤバイ状況だ。
「ええ……と。みなさん……試合前なので、どうか穏便に……」
唖然とするオレを中心に、横浜マリナーズの三人、ヒョウマ君、葵。その三角形のトライアングル・ゾーンが形成される。
真ん中にいて当人のオレは、非常に気まずい。ここは緊迫しすぎた空間で、息が出来ない。
「それでは澤村、それに野呂コウタも。決勝戦で会おう……」
「ああ」
ヒョウマ君たちはシリアス展開の、締めに入っていた。マリナーズの三人は去っていく。
張り詰めた空気から、穏やかな空気に戻る。
◇
ふう……何事もなくて、よかった。
特に妹の葵は興奮すると、何をしでかすか分からない。
前科でキャプテンの頭に、ボールをぶつけたこともあるし。
「それにしても、ヒョウマ君。さっきの会話だけど……優勝を目指しているんだね?」
さっきの彼のセリフは、少し意外であった。
何故ならヒョウマ君はどこかドライな感じがある。
父親は有名な元Jリーガー。本人もエリートで育ち全国レベルの世界を知っている。
そために以前は、自分のチームに対して勝利に対して客観的なのだ。
「意外か? オレ様くらいなら、全国優勝しなくても、Jリーグのスカウトはくる」
それは昨年、ヒョウマ君の口から聞いた話と同じ。全国大会はあくまで通過点と、クールであった。
「だが『サッカーが好きなんだから!絶対に優勝を目指そう!』……だからな。今回はオレ様も必ず優勝する」
「ヒョウマ君……その台詞は……」
その台詞はオレが、ちょうど1年前に言ったものである。
どこか冷めていた前のヒョウマ君に対して、思わず発した言葉であった。
「お前たちは勘違いしているから、訂正してやる。オレ様はサッカーが好きだ……世界中の誰よりもな」
「ヒョウマ君……うん。ボクも負けないくらいに、サッカーのことが大好きだよ!」
心が震えて、オレも想いを発する。
初めてヒョウマ君の口から、こんな本音が聞けたよう気がした。
やっぱりヒョウマ君は凄い。サッカーとリベリーロ弘前のことを、本当に大事に思ってくれていたのだ。
「葵もサッカーは……うーん? お兄ちゃんと同じくらいに好き!」
葵もテンションが上がっていた。
実の妹に好き! と言われると恥ずかしいが、嬉しい気分もある。
「よし、先輩たちに合流して、試合に備えよう、ヒョウマ君!」
「そうだな、野呂コータ……いや、コータ」
えっ?
今、ヒョウマ君がオレのことを、初めて下の名前で呼んでくれた?
「ねえ、ヒョウマ君。もう一回、下の名前で呼んでよ!」
「うるさい。早く行くぞ」
こうしてオレたちの今年の全国大会が、いよいよスタートする。
今年の1回戦は強豪チームの一つ。
だが今のオレのテンションは最高潮に達していた。
どんな相手にも負ける気がしなかった。