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素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する【書籍化】 - 第75話:【閑話】正月休みの里帰り
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素人おっさん、転生サッカーライフを満喫する【書籍化】  作者: ハーーナ殿下
【中学生編】

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第75話:【閑話】正月休みの里帰り

 12月29日の夕方、オレは父親と共に日本に帰ってきた。

 正月休みを実家で過ごすためである。


「ただいま!」


 日本を出国したのは三月の下旬。約九か月ぶりに我が家に戻ってきた。

 懐かしの匂いのする玄関で、大声でただいまする。


「お兄ちゃん、おかえりなさい!!」


 その声に反応して、一人の少女がダッシュしてきた。そしてそのまま、抱きついてくる。


「あっ、葵。ただいま」


 抱きついてきたのは妹の葵。葵と顔を合わせるのも九か月ぶりである。


「葵、ちょっと家に入りたいから、離してくれると助かるんだけど……」


 妹に抱きつかれたままだと、靴を脱ぐこともできない。

 それに葵はもう小学6年生なので、身体つきもけっこう女の子っぽい。少し恥ずかしい。


「あっ、そうか。ごめんね、お兄ちゃん。つい嬉しくて。えへへ……」


 葵は舌をぺろりと出して、恥ずかしがる。

 こういった子どもっぽいクセは、前と変わらなくて懐かしい。


「コーちゃん、おかえりなさい。あれ、パパは?」


 続いて母親が出迎えてくれた。エプロン姿で夕飯の準備の途中だったのかな?


「お母さん、ただいま! お父さんは、先に荷物を会社に置きに行ったよ。三十分くらい遅れて来るって」

「あら、そう。それなら先にお風呂にする、コーちゃん?」

「そうだね。お風呂に入ってから、ご飯にするよ」


 オレと父親はドイツから羽田空港を経由で、地元の飛行場から実家まで戻ってきた。二十時間近い移動で、へとへとだった。


 まずはこの汗臭い身体を、お風呂でさっぱりしたい。

 荷物の開封は後回しにして、まずはお風呂場へと移動する。


「晩ご飯はコーちゃんとパパの大好きな料理を、用意してあるから楽しみしておいてね」

「うん、ありがとう、お母さん!」


 身体を洗ってから湯船に浸かっていると、母親から話が飛んでくる。

 そうか。今日の晩御飯は大好物のオンパレードか。

 母親の手料理は美味しいので、本当に楽しみだな。


「それにしても家のお風呂は、本当に落ち着くな……」


 湯船に入りながら、深く息を吐き出す。

 ドイツで父親と暮らしている借家は、ドイツ式の住居である。

 そのためお風呂もドイツ式で、日本のお風呂のように落ち着いて入れなかったのだ。


「あっ、パパ。おかえりなさい!」


 ゆっくりしていると、母親のそんな声が聞こえてきた。

 どうやら父親が会社から戻ってきたらしい。

 よし。それならオレも湯船から上がろう。

 野呂家の大黒柱である父親に、ゆっくりとお風呂を満喫させてあげないと。



「それでは、パパ、コーちゃん。おかえりなさい! かんぱーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 父親が風呂から上がった後に、全員で夕ご飯パーティーをする。

 パーティーといっても、野呂家は普通の庶民の家。エレナの家とは違い、普通の夕食会である。

 小さい頃から見慣れた食卓に料理を並べて、ジュースとビールで乾杯するのだ。


「美味しい! 美味しい! やっぱりお母さんの料理は美味しいね!」

「そうだな、コータ。ママの料理は世界一だからな! はっはっは……」


 父親と二人で料理にがっつく。

 ドイツで住んでいる街では、どうしても日本の食材が手に入りにくい。だから、この九か月は洋食が中心な毎日だった。


「ご飯、お替り!」

「よし、それならパパも負けずにお替りだな! はっはっは……」


 そんなオレたちにとって、母親の手料理は何よりもご馳走であった。

 中学一年で成長期であるオレは、いくらでも白米が食べられそうだ。


 ふう……でも、あんまり食べ過ぎると、栄養が偏ってしまう。ほどほどにしておかないとな。


「ねえ、ねえ、お兄ちゃん。ご飯を食べたら、葵の試合を皆で見ようよ!」

「おっ、全国大会で四連覇した映像か……よし、見よう!」


 日本の小学生世代のサッカーの大会“全日本少年サッカー大会”

 オレやヒョウマ君たちが、去年まで目標としていた全国大会。


 なんと葵がキャプテンとして率いるリベリーロ弘前ひろさきは、その大会で四連覇の偉業を達成したのだ。


「これが決勝戦の映像だよ。ママが撮影してくれたんだよ、お兄ちゃん。あっ、そういえば優勝メダルを部屋から持ってくるね!」


 今年の全国大会の決勝戦が行われたのは、昨日の午前中。葵は貰いたてでホヤホヤの優勝メダルを持ってくる。


「あと、そういえば得点王とMVPのトロフィーもあるの、お兄ちゃん!」

「えっ……葵が大会の得点王で、更に大会MVPに⁉ それは凄い!」


 妹のまさかの偉業に、オレは本当に驚く。

 全国大会は出場することも難しい、ハイレベルな大会である。

 それなのに葵はチーム優勝に加えて、個人での栄誉を独占したのだった。


「ねえ、お兄ちゃん。葵、すごい? お兄ちゃんの言いつけを守って自主練と、キャプテンび仕事を頑張って、えらい?」

「うん、葵は本当に凄いよ」

「えへへ……お兄ちゃんも褒められると、優勝したことよりも、嬉しい……えへへ……」


 葵が頭を出してきたので、昔のようになでなでしてあげる。


 それにしても葵は、本当に凄い選手になっていたんだな。

 ドイツでは送られてきたメールの写真しか、見ることが出来ない環境だった。

 だから大会の映像を見ながら感心していく。葵は前よりも一段と上手くなっていた。


「それに葵だけじゃなくて、リベリーロの後輩たちも、みんな上手くなっているね……」


 全国大会でのリベリーロ弘前は、葵を中心にした攻撃的なシステムを敷いていた。

 オレが9か月前まで一緒にプレイした後輩たちは、葵に負けじと一人前のサッカー選手に成長している。


「みんなで毎日、自主練を続けているんだよ。お兄ちゃんたちが残してくれたメニューをね!」

「うん、そうだね。これを見ていれば分かるよ……」


 試合の映像を見ていると、後輩たちが過ごした九か月が手に取るように分かる。

 きっと前みたいに毎朝6時に集合して朝練習。ゴールデンウイークや夏休みも毎日練習していたのであろう。


(才能の差を、努力で埋めていたんだな……)


 リベリーロ弘前は地元の小学生が中心の、普通の街のクラブである。全国の名門Jクラブとは、選手の潜在的な才能が違う。

 だが後輩たちは地道な練習を重ねて、全国制覇を成し遂げたのである。


「リベリーロの魂は継承されていたんだね……今でも……」


 映像を見ながら感慨にふける。

 オレやヒョウマ君たちが伝えていった想いが、こうして後輩にも伝わり花咲いていた。そのことに思わずジーンとしてしまう。


「ん? この3番は誰だ? 見たことない顔だけど、やけに上手いぞ?」


 映像の中での初めて見る後輩がいた。

 体格も大きく、葵に次いで抜群のテクニックの持ち主である。途中で入団した6年生かな?


「ん? その子はゲンタローっていって、4月に他県から引っ越してきて、入団した四年生だよ、お兄ちゃん」

「えっ、この体格とテクニックで四年生?」

「うん、そうだよ。何でも『野呂コータさんに憧れて、一緒にプレイするために転校してきたっす!』って言っていたよ」


 なるほどオレが小学生の時に、全国大会で活躍したプレイを見て、感動して入団した子か。それは何か嬉しいな。

 でも、よく考えるおかしい奴だな。オレは今年一月で、とっくにリベリーロからは引退していたのに?


「そうなんだよね、お兄ちゃん。佐々木ゲンタローはサッカーは上手いけど、ちょっとバカな熱血漢で、抜けているところがあるんだよね」

「はっはっは……そういう子なのか。ゲンタロー君は……んっ? 佐々木ゲンタロー?」


 葵と談笑しながら、あることに気がつきハッとなる。

 佐々木ゲンタローという名前に憶えがあるのだ。


(この面影とプレイスタイルで、佐々木ゲンタローといえば……まさか……)


 なんとこの少年は将来、Jリーグのプロ選手になる少年であった。

 前世では日本代表にも招集されたことがある凄い選手。特徴ある選手だったので、サッカーオタクのオレはよく覚えている。


 そうか。あの佐々木ゲンタロー選手か。それなら四年生でこんなに上手いもの納得できる。


 ん? あれ。でも記憶によると彼の出身は、遠く関東の方。この街に引っ越してきたという記録は見たこともないけど。おかしいな。


(もしかしたらオレたちが活躍したお蔭で、運命が少しだけ変わっちゃったのかな?)


 それはヒョウマ君が転校してきた時と、近い現象であった。

 今のリベリーロ弘前はオレたちの時から全国大会四連覇で、小学生年代では無敵の状態。それで全国から有望な小学生が、わざわざ入団してきているのであろう。


(佐々木ゲンタロー少年がいたら、リベリーロの黄金時代も続いていきそうだな……)


 少年サッカーは一人の凄い選手がいるだけで、チームの勢いが違う。

 我らリベリーロも最低二年間は、その強さを維持できるであろう。


(葵は引退しちゃうけど、これでコーチも安心して采配を振るっていけるかもね……)


 三十路で彼女がいないコーチには、せめて仕事で幸せになって欲しい。

 あっ、でもコーチの性格を考えたら、逆に連覇し続けていることで精神的に大変かもしれない。


 何しろ才能ある子どもを預かるコーチ業は、親に対してもかなり気を遣う。今まで以上に子どもたちの育成に気をつかわなければいけないのだ。


(そうだ。正月が明けたら、コーチにドイツ土産を渡しにいこうかな。それに後輩たちの顔も見に行こうかな……)


 今回は日本には正月休みで、十日間ほどの滞在となる。その間に地元の皆の顔を見ておきたい。


「ねえ、お兄ちゃん! 次はお兄ちゃんのドイツの映像を見たい! パパ、準備して!」

「はっはっは……分かったよ、葵。パパのビデオを接続するから、待ってなさい」


 次はオレの映像の番となる。

 父親はドイツでも、オレの試合を毎回応援にきていた。その時の映像を編集したものがあるのだ。


「ねえ、ねえ、お兄ちゃん。見ながらドイツの話を聞かせて! メールや電話だけだと、いまいち難しくて分からなかったから」

「そうね、コーちゃん。お母さんにも教えてちょうだい」


 ドイツにいる間は、定期的に家族には連絡はしていた。

 だがブンデスリーガーや3部リーグ。そして二軍や昇格交流戦など、文章で説明するのは難しい。

 それで葵と母親は、オレの話を直に詳しく聞きたがっている。


「よし。それなら映像を見ながら、詳しく説明するね。ボクがドイツで過ごしてきた、この九カ月間のことを……」


 ドイツの映像がテレビに映し出された。

 オレは向こうで出会った人のことや、毎日の暮らしの様子を語り始める。


「本当に刺激的なサッカーの毎日だったよ、向こうは……」


 こうしてオレは家族との団らんを満喫するのであった。


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