レディファイッ!
「いやぁ、悪かったねぇ! ちょっと力をかけ過ぎた」
「ちょッとだったら俺、死んだ爺ちゃんと囲碁打ったりしてないんですよ……分かりますか女将さん……っ! 貴女は、危うく俺をぶち壊すところまで行ったんです……お覚悟をして頂いても?」
「おーいコイツ何とかしとくれー」
「ハイハイ先生、今日は美味しいモノご馳走するので落ち着いて落ち着いて」
「オイラは餓鬼じゃねぇえええええええ!」
ホント! 爺ちゃんにさぁ! 『お前さん、こっち側に来るもんじゃないぜ……全く随分と頬がこけちゃいないかい?』とか言われたんだぞ! そりゃあそっちに行ったら頬もこけるってもんだ!
「オコル! サケブ! オレ! オカミ! マルカジリ!」
「あ、すいません女将さん。今直ぐに連れて帰りますので。ごめんなさいお見苦しいものをお見せしまして」
「いや、こっちが全面的に悪いから別に。というか、せめて一杯くらい奢らせてもらっても全然かまわないんだけど。流石に連れて行くのは……」
「いえ。先生はお酒を嗜まれないので。それでは、ご迷惑おかけしました」
あぁ連れていかれる! ダメだ! 強いっ! 敵わない! アァ止めろ! まだ、未だ言い足りない事はいっぱいあるのに! どうして! どうして貴方は僕を連れて行くんだぁあああああっ!
「チーズが、トロトロで……やば、うま。ナニコレ」
「昔のアニメに在りましたよね。こんなトースト。凄いシンプルですけど、本当に美味しいです」
「うん。やっぱり美味しいものだわ。こういうの食ってれば腹も立たなくなる」
チョロいって? 人間ね、腹を満たせば大抵は何とかなるんだよ。それにさっきのだって事故だからね。ブチ切れてても仕方ないって話よ。
「と思い込む事で冷静になっている節はある」
「なにか?」
「いんや、なんにも。あ、リンゴ頂戴。ちょっと口の中サッパリさせたい」
「柑橘系の方が良いと思いますが、サッパリさせるなら……はいどうぞ。ただ此方のリンゴは外れの模様ですよ。水っ気が多くて甘さは余り。というか、店のリンゴがごっそりと無くなってしまっていて、これしかなかったんですよね」
「サッパリさせるなら甘さはいらないまであるから大丈夫だよ」
……いや、甘みは無いってそういうレベルじゃないんだよ。もうこれはほぼ水なのよ。しかも果汁もちょっと酸っぱいかな? 位の感覚だからマジで。果実じゃなくてこれはもうただの水風船だよ。
「とはいえ、この水、案外しっかり口をさっぱりさせてくれる……果汁っていうよりうっすい薄い果実水だから逆に口を綺麗にしちゃった迄ある」
「果汁水で口を漱ぐとは、何という何処かの貴族」
「えっ、そんな事あったの?」
「えぇ。果実酒だか何かで、結構。ガッツリ」
す、スゲェな貴族……じゃなくて。それもネタにしていくんだよ俺。しかし果実酒か果実水で口を漱ぐとか、一体どんな場面でそれを使えと言うのか。全くもって分からないのである。
「――はー、平和だねぇ。良いねぇ。向こうでは、ずっとこんな風だったんだけどなぁ」
「先生」
「わーってる。んな事言ったって、この状況下じゃどうしようもないって言うのは」
皆が凄い活気づいてる町で、こんな良いお天道様のしたっていうのに、なんだか。平和になったらなったで、思い出しちまうものがあるって言うのが、どうしようもなく人間だこと。
「何かしら進展を齎したい所です。ここからの脱出も、先生が気になって居た事も」
「と言っても迂闊に行動したらループだからなぁ。ちょっと理不尽だよなぁ」
「待ちを強要されているのが状況的に辛いです」
格ゲーなら待ちは強いんだけども。間違いなく。現実じゃ寧ろ悪手としか言いようがないからなぁ、待ちって。
「何処までだったら許されるか試してみる? 俺達が積極的に動いて」
「その分ループを量産するお覚悟が有るのであれば」
「そのリスクはちょっと高いよなぁ……!」
いや、ループしても時間が進んだり、なんか明確に不利になる様な事は無いから無いでは無いんだよ。ただループを突破する為に、何がいけなかったのか、何をどうすれば解決出来るのか、その辺りを考える労力を度外視すればだけど。
「うーん、こうなったらいっそ、当面の間思考を停止させられるような出来事とか起きないかなマジで。そうしたら色んな事棚に上げてそっちに集中できるんだけど」
「それでは現実逃避の類ではありませんか?」
「否定はしない」
ま、こうなったら覚悟決めて真っすぐ突っ込むしかないかな? まぁーループ現象だって慣れたもんさ。自作自演で経験積んで、ちょっとずつ何処がラインかっていうのに慣れていくというのも悪い事では無いと思うし。
「やっぱり、ループ条件を確かめるのも兼ねて、ちょっと大胆に動いてみる?」
「現状はそれくらいしかできないでしょうね。物語が始まればあの謎ループに嫌でも対処しなければなりませんし」
「……ホント、分かんねぇよなぁ」
見所を作らないと永遠ループで、そのまま出られない。けども恨みを持った奴の犯行だって言うならそんなまどろっこしい事せずに……実際俺に罪引っ掻けようとしてきたからなぁ。うーん。
「俺達を言い様に使ったり、潰そうとしたり、何がしたいんだか」
「――我々としては無事に帰れれば御の字なのですから。向こうの思惑はどうでも良いと言えば良いですけど。先生としては、やはりそれじゃ気が済みませんか?」
「当然。アンタだって、その理由だとか色々推理してたろうに」
「私は先生の憂いを取り除いて、小説の腕を振るって頂きたかっただけです」
「うーん結局そこに行きつく訳だからブレないねぇ。もうちょっとここら辺のさ、人みたく遊びってものを持っても良いんじゃないか?」
「ブレたら先生のサポートなんて出来ませんから……しかし」
ん?
「どしたん」
「いえ。この町が活気があるのは、まぁ何時もの事ですが……ここまでだったかなと」
「何時もより多いの、人通り」
「えぇ……それに、なんだか……さっきリンゴが少なかった露店あたりから、一段と増えて来た、様な……?」
――喧嘩だ喧嘩だーっ! さっきのねーちゃんがまた一戦おっぱじめたぞ!
喧嘩? 一戦おっぱじめた?
「――編集さん」
「いってみましょう」
アンデルセン先生ごめんなさい。
絶対に平穏訪れさせないマン。