お客様を楽しませる語り部の鑑
「いつも思うんだけどよ。あの姉ちゃん、誰に仕えてるんだろうな」
「気にするような事か?」
「だって、あんだけ美人だろ? 優しそうだし、袖の下掴ませるくらいには強かだっていうしよ。それこそ身分とか関係なく、嫁に欲しいって思ってもしょうがない。けど手を出す所か、そのお貴族様の名前も出さないと来た」
まぁ、当然のようにそんな貴族も居なければ、そもそも根無し草だからね俺達。口からうっかり口ついて出てくる、とかも無いのだ。
「そのお貴族様、漢として大事なもの失ってんじゃねぇかって。酒場じゃ話題だぜ。弟さんとして、その辺りどうだよあんちゃん」
「……致命的な欠点があるからな。完璧人間って訳じゃねぇんだ」
「ほーう?」
「まぁ、その分色んな事が出来るから、そう言う相手としてじゃなければ、凄い人だよ」
それにしても、編集さんと結婚かぁ……そんな猛者が居るとしたら見てみたいもんだ。どうなるのか純粋に興味がある。結婚すると人は凄い穏やかになると聞くし、穏やかな編集さんを見てみたくはある。
「――まぁ少なくとも、あの四人はねぇな」
そう言ってオヤジが見つめる先には……ブレーメン、第二話前編に大興奮し、投げ銭を続ける兵士さん(休暇)四人衆の姿。いやぁ、本当に真っ向からぶっ潰しに行くとは思っても無かったけど、上手くいっちゃったよね。
「ないか。親父の嗅覚的に」
「ないな。アイツら四人は、多分告白しても、酷薄な結果になって終わる」
「上手い事言ったつもりかアンタ……ネタとしては拾っておくわ」
「ネタ?」
「ああ気にしないでくれ。個人的な話だ。いや、でもこの類のネタはもう擦られ過ぎて味もクソも無くなってる気がしないでもないけど」
でもあんまり聞かないから大丈夫なのかな。だとしたらセーフ、ガンガンチンパンムーブして言っても良いのかな。脳死横振りで行けたら凄い楽しいんだけど。
「まぁアレだ。暫くはお姉ちゃんに甘えられるから、安心しとけ」
「宿屋にもそんなこと言われたんだけど……何、そんなに姉思いに見えるか?」
「見えん事も無い」
解せん……寧ろあの人の無茶なやり方には辟易としている筈なんだけれども。案外、その切実な願いは外には届かないのかな。
「いやーしかし、凄いお話でした!」
「まさか鶏が朝に単騎駆け、敵陣に奇襲を仕掛けるとは……雄としての意地、というものを感じさせるような……俺達も、負けてられないなぁ!」
「ここに来たのは当たりだったよ」
「楽しんで頂けて、何よりです。ありがとうございました」
……前提として、この世界の物語が、未だ未発達だからこそ、俺のああいう話は通じてるんだと思うと、なんだろうなぁ。もうちょっと、人魚姫程のインパクトがある作品も作れれば良いと思うんだけど。と、終わったか
「――お待たせしました」
「別に待っちゃいねーから安心してくださーい。それよりも、評判良さそうじゃないですか?」
「お城の方にも色々お話を通してくれる、との事です」
えっ? いやそれは……ちょ、顔寄せろ、こっちゃこい。
「なんですか」
「声潜めろ……それって、喜んでいいの?」
「良いのでは?」
「だってバレたら首切りよ? わかってる? リスクしかないぞ?」
「構いませんよ。向こうは娯楽を追い求めてくるですから、我々を探しに来るわけでもありません……お城に直接呼ばれる訳でも無し。バレる前に我々は、ね?」
そりゃあそうだけどさ……幾らなんでも無謀じゃないかね。バレなきゃセーフ理論だって、使い所ってもんがあるでしょうよ。
「――大丈夫ですよ。全く、貴方は心配性ですね」
「ばっ、そりゃあ心配だってするだろうが!」
「お姉ちゃんは何処にもいきませんから、ね? 本当に姉離れが出来なくて……」
!? おまっ!?
「何言ってんの!?」
「ホント、お姉ちゃんがお城の人に取られてしまうと思って……」
「ははっ、大人に見えても、やっぱ大好きな姉貴には勝てねぇってか?」
「はぁっ!? ホントに何言ってんの!? 俺がお姉ちゃん子だって?!」
こ、この野郎。話題を強制終了させる為だけに、俺にとんでもない疑惑をかけて来やがった! ええい、俺はこの年になってまでそんな気質持っておらんし、そもそもその人は姉でも無いってのに!
「はいはい、行きますよ」
「まて、マジで誤解を解かせてくれ。俺はそんな変態じゃないんだ!」
くそっ、離せ! 俺はっ……無実だっ……!
「……」
「仕方なかったじゃないですか。幾ら内緒話とはいえ、人がいっぱいいる場所では聞こえるかもしれませんし。話をするのであれば、場所を変えた方が宜しいかよ思います」
「その為に俺をシスコンにして、あの場から連れ出す口実にしたと」
「ええまぁ」
「人にさらりと冤罪を擦り付けるのをやめてくれ。泣くぞ」
暫くここで過ごすんだぞ。酒場でこすられる絶好のネタじゃねぇかこんなん! あーもう俺はあそこで、静かに、水の一杯でも飲みながら自分の作品のウケを見ていたいだけなのに! こんなのってない!
「まぁ大丈夫ですよ」
「何が大丈夫なんだよ」
「こんな美人な姉ですから。シスコンになっても誰も馬鹿にしませんから」
「いやそう言う事を気にしてんじゃねぇ! そもそもアンタは姉じゃねぇ!」
俺のプライドだとかそう言う問題じゃない、それ以前に完全な冤罪だからそれは! 冤罪を着せられるのが我慢ならねぇんだよ!
「まぁ兎も角、大丈夫ですよ。幾ら私達の話を聞きに来る人が増えたって、城の方々は存在しない男の方を追って海まで行って見失ったでしょうから。私たちの事を怪しんだりはしませんよ。寧ろ来た人たちの給料をむしり取ってあげる、位の勢いで行きましょう」
「本当に図太いなぁ編集さんは……」
まぁ、ここは宿だし。バレやしないだろうけど、だからってそんな野望をぶちまけるとは。今は金が要るのは確かだけど、幾らなんでもはっきり出し過ぎじゃないかなぁ。
「……評判になったらなったで、絶対弊害があると思うんだけど」
――そして、そんな俺の憂慮が的中するかの如く。
数日後、俺達は何故か、逃げ出したはずの城の前に立っていた。
「……終わった」
アンデルセン先生ごめんなさい。
ちょっとー、敵の本拠地に呼ばれてんよー