思い出すという作業は相当苦しい
「――どうして俺がここまでされなきゃいけないんだ……」
「お疲れ様です。いっぱい思い出しましたか?」
「思い出したよ……何だったら全部悪夢だったよ」
「じゃあちょっと待ってくださいね。流石に全部記憶して、思い出せとは言いませんので。メモ位はするので」
「めもぉ?」
筆記用具も真面にないんだけども?
「先生のフードがあるじゃないですか。あの裏に、書けそうだなとは思って居たんですよ常日頃から」
「そんなこと思ってたの!?」
「いえそんなこと思ってませんし、冗談ですけど」
……なんだろう、この人をド派手にぶん殴っても許される気がして来た。いや、ダメなんだろうけども。でも、ちょっとくらい良いんじゃないかな。ホント、指先だけで良いからブスッと。
「とはいえ、スペースもありますし、丁度宜しいかなと」
「いや、なにで書くの?」
「木炭で」
「いやクッソ汚れますけど???????」
何の躊躇いも無く、俺の一張羅を汚す宣言をやめろ。こ、コレが今の俺のカモフラージュする唯一の手段なんだぞ。
「丁度いいかなって思ったんです」
「何が丁度いいんだよ。そんなもんでメモした後に着たら俺、めちゃんこ汚れると思うんだけども」
「まぁ色々、とです。兎も角、其方をお貸し願えればと」
そして書いた後に着せる気も満タンと。まるで容赦がないな。
えー……結構愛着湧いてたんだけどなぁ。もうちょっと他に無かったんかなぁ……ええいもう仕方ないか。
「……はい、お願いします」
「ありがとうございます。木炭を取ってきますので、少し待っていてください」
「了解」
まぁ書ける手段なんてそうそうないし、この時代に。とはいえ木炭は相当汚れるぞ本当に。マジで浮浪者見たくなると思うんだけど。
「えーと、人魚姫と王子のクロスパンチが……クロスカウンターになってないのが……」
「それは大分どうでも良さそうですね」
「あぁぁああん!? 結構気になる所だと思うんですけどぉオオオ!? ただ拳が同時に当たるだけじゃなくて、クロスカウンターっていう、一つの要素が加わるだけで変わると思うんですけどぉっ!?」
「余りにもこだわりがしょぼすぎるというか、そこに拘った所で何か変わる訳でも」
「ちょっと言い方考えて?」
おい、俺の心に致命的なダメージを与えるのは止してくれ。しょぼすぎるとかちょっとアンタ、心が砕け散りそうなんだけど。
「っはぁ……あー疲れた……思い出せたのは、今の所これで全部だよ」
「お疲れ様です。全部前半の出来事ばかりですね」
「前半の出来事から思い出した奴ばっかりなんだよ」
数自体は結構あると思うけども。
「この中から、次の候補を探すとなると……一つか、二つと言った所でしょうか」
「そんな少ないかぁ……?」
「決定的な場面が少ないと思うのですよ、私としてはですけど」
決定的な場面かぁ……ううん、作者側としては結構出したつもりなんだけども。編集側としては、そうでもないのかなぁ。
「とはいえ、これだけ出たんです。私が頑張って選別してみましょう」
「あれ、やってくれんの?」
「えぇ、一応は。先生の編集なので、先生の小説を監修するのは私です」
こういう時ばっかり編集っぽい事言いやがって……とはいえ、こういう時の編集さんはマジで頼りになるから、任せても良いか。
「後は先生もお休みください。今日は相当に酷使してしまったので」
「あーぉ……マジであくび出てくるレベルだし……それじゃあお言葉に甘えさせていただかこうかなぁ……」
とはいえ、この情報が役立つのであれば、俺が疲れたのも……無駄じゃない……かなぁとも思えるんだけど。
「本当にお辛いのであれば、マッサージでもしますけど」
「マッサージぃ?」
「はい。私といたしましても、先生のお疲れを癒す事が出来れば、と少しは考えていましたので。それで」
マッサージねぇ……?
「えぇ。一応、此方に関しては医療の心得は無くても、多少はどうにかなるので」
「上手いって事で良いの?」
「上手いかどうかとなると……ただ、評判はそこそこ良いですよ」
「えっ、誰かにやったの? マッサージとか、そう言う事は気軽にしちゃあいけないよ編集さん。そう言う、ボディタッチとかで誤解して……」
「お父さんにやっただけです。何を変な勘違いしているんですか先生」
あ、そういう。でもお父さんに評判が良いって、それはどうなんだろう。信じて良いんだろうか。とはいえ……結構疲れてるし……
「――良し、ダメで元々。お願いできる?」
「分かりました。では相当に痛いですけどお覚悟ください」
「……えっ? 痛い?」
あ、あのスイマセンそれってどういうあちょ、何も言わずに右手を掴まないで、そしてちょっと待ってそんな風に引っ張ると体がしぼぼぼぼぼぼぼぼっ!?
「あがあがががががっががっ!?」
「体をほぐし、調子を整える。事は出来るんですけど……相手を気持ちよくし、リラックスさせる、という事が出来ないので、お父さんも悲鳴を上げながら、最後には結構すっきりしていらっしゃったので」
マッサージって言わない! それはマッサージじゃない! なんか別の何かだから! チクショウ、こんなん自分のオヤジにやるとか、凄い度胸して……
「……オヤジ……お父さん……王子の……」
「では今度は此方を」
「あっ、ちょっとまってそんな所に指入れちゃぁあああああああっ!? 待って、そのまま曲げないで!? 俺の足を何処に曲げようって言うんだ! 折れる! 砕ける! ギブギブギブギブゥゥッ!」
あぎぎぎぎぎぎっ! 思い出したっ、思い出したけどっ……今、思い出しても、どう伝えろってんだあぁアアアアアアアっ!?
アンデルセン先生ごめんなさい。
マッサージの体への効き目と、その心地よさとは必ずしも比例しないらしいですね。