やめて! 私の過去を暴かないでッ!
自分達の名前、身分、職業、今までの人生から両親迄。俺達は何の問題も無く、淀みなく答える事も難しくないだろう。そりゃあ、俺達を構成するピースを答えられなかったらどうなんだという話だ。
「……アレ? どうなさったんですか?。顔色が物凄い事になってますけど」
「い、いえ何でもありません。大丈夫です。はい。えっと」
しかし、それは元居た場所……現代、2000年代での話である。この物語世界では俺達が存在した証拠も、痕跡も、欠片も無い。そもそも、俺達は此処に突然乱入して来たイレギュラーだ。まぁつまりどういう事かと言えば。
「あ、すいません姉ちゃんちょっと、最近語り過ぎで喉やっちゃって。時々強く痛むんですよ。会話は大丈夫だって、お医者様はいってらしたんですけれどもねぇ!」
――今迂闊に俺達の事を話せば、間違いなくボロが出るという事である。という事でサポートは任せろォォ!。あらかじめ用意していた言い訳(別案件)が火を噴くぜ! なんかあからさまにそれっぽい言い訳用意するのに苦労したぞ!
「そ、そうなんですか?」
「ちょっと休ませたら直ぐに治ると思うんで! はい! ちょっと待ってくださいね」
編集さん此方に。
「――どうします」
「我々の経歴……を話すしかないかと」
「名前も何もここら辺の名前じゃないのに……? 無茶じゃない?」
「経歴と言っても、そこまで深く聞かないでしょう。ここ最近の話さえしておけば、文句は言われない、と思いたいですけど」
編集さんも流石に今の言い分は苦しいと分かってるな。顔が険しい。その場しのぎの言い訳にしても、余りにもタネが少なすぎるぞ、この話題は。
「黙り通した方がまだバレない気もするけど」
「自分達の経歴を黙るのは、あからさまに怪しいと言っているのと同等ですよ」
「そうぢゃなぁ……」
脛に傷ありますよって喧伝は流石にしたくない。しかし薄っぺらい経歴で誤魔化しに行くっていうのも、不安ちゃぁ不安だけど……
「――いや、逆転の発想だ。ここは黙り通す!」
「えっ」
「なんで、とかは聞くなよ、俺にもちゃんと考えがあるんだからなぁ。ぬふふふ……」
「先生、あんまり大きな声出すのは止めてください。バレたらどうするんですか」
「あ、はい……」
めっちゃ正しい事言われた。うん。もうちょっと冷静に考えるべきでしたね……ってそうじゃなくて! 待って! 話を聞いて!
「えっとね、ちゃんと理由があるから。あの。お願い、頼むから話を聞いて」
「それは分かりましたよ。それで? どんな理由があるんですか? さっさと教えてくださいお願いします、時間ありませんよ」
「はいっ、お任せください」
「おや、もう大丈夫なんですか?」
「はいすみません、お待たせいたしまして……」
「いえいえ。それで良ければお話を聞かせて頂けるとありがたいんですけど」
「まぁ、俺達も仕事なんでね。出来ればササッと話して貰えるとありがたいんですけど」
「――あの、それなんすけど、聞いて貰えませんか、兵士さん」
さぁ、こっからは俺が仕事を始める番だ。まぁ、と言ってもやる事は難しくないから、サクっと終わらせよう。えっと、頭の中でイメージ。動作を考えて……良し、凡そは完了した。行くぞ。
「その、姉さんは貴族様に雇われてたんですけど、その理由が、ですね……」
「その理由が?」
「……ちょっと、大声で言いにくいというか。その……あの……」
そしてこのタイミングで、ちょっといい感じに編集さんを見る! 凄い、こう、憐れむ哀しい瞳をする! 若干流し目。目を細めて。うん。そうでしょう? そうやって、見ちゃってると思わずハッ、て気付いてしまうようなお顔でしょう?
「姉貴って、こう、良い顔に、体してるでしょ? それで、昔は」
「え、っと、もしかして、ですけど、あの」
「想像にお任せしますよ。その後にお貴族様に拾われたんですけどね? だからっていう訳じゃないんですけど、話を聞くにしてもちょっと位、手加減してくれると、ありがたいんですけど」
ふふふ……貴族ってのは、脛に瑕持った奴を雇うことだってあった。普通は出来ない事も出来るという事。割とこの時代はね、どんな変な事をしていても『まぁお貴族様ですからねぇ』、または『まぁ王族様ですし』で済ませられる時代なんだよ。それに便乗する。
「……ど、どうする……」
「どうするって言っても……マジでどうする? 迂闊に訊いたら」
「や、やめろよ。いや、これは……」
「……っすぅー……取り敢えず今回は帰ろうぜ。取り敢えず。王子に報告して、聞き込むかどうかを仰ごう」
うーん冷静だ事で。ふふふ、嫌だろうねぇ。後味悪くなるだろうしねぇ。昔だからこそ人情に流されて『いやっ、コレは聞くのはちょっと』ってなるんですよ。因みに現代だとこうはいかない。『分かりました、で?』ってなっちゃう。
「じゃ、じゃああの……お聞きし難い事であれば、ちょっと、今日は……な」
「そうだな。まぁ、もしかしたらまた聞きに来るかもしれないけど、そうならない事を祈っててくれや?」
はーい、お勤め、ご苦労様でした兵士の皆さん。また来ないでくださいねぇ。出来れば二度と私達の事を気にしないで頂けるとありがたいですねぇ。ばいばーい……
「……っしゃああっ! 成し遂げたっ!」
「驚く程上手く行きましたね」
「誰だって他人の嫌な記憶なんざ聞きたくは無いだろうよ! いやぁ、やったやった」
「因みにどの小説からの参照ですか?」
「……一遍さ、純文学的な、他人の傷やら自分の傷をしっかり描写する小説にチャレンジした事があったけど、驚く程に筆が進まなかった上に、一応フィクションの筈なのにマジで心がへし折れそうになった」
だから、他人の哀しい話なんて、誰も彼も好き好んで読みたくは……だとすれば悲恋だとかの話ってなんで受けるんだろうって話になるけど、モノ好きはいるもんなんだな。うん。そう言う事にしておこう。
アンデルセン先生ごめんなさい。
多分同じ立場なら私も帰りたくなる気がする。