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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く - 悪意のある床で書け宣言
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ポンコツ作家と有能編集、自世界を行く  作者: 鍵っ子
二章:ポンコツ、新天地に立つ
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悪意のある床で書け宣言

 編集さんが話して曰く、どうやら、その王族の方と言うのは、悪党を捕まえる為に熱心な情報収集を欠かさず。でもって、その為に酒場を利用しているご様子、との事。


「ほーん、凄い熱心な方もいらっしゃるなぁ……で? 性別は?」

「女性です」

「お姫様じゃねぇかい! それは! 要するに! 見つかったら! 圧殺! 確定!」

「先生は、ですけどもね。私は別に気にもされてないと思うので、大丈夫ですよ」


 そうだったチクショウ、隠れる必要があるのは俺だけだったんだ。この安全だからって余裕ぶっこきやがって……いや、コレはもう八つ当たりか。ここに不満垂れた所で、俺は別に自由に動ける訳じゃないんだ。


「……で? どうだったの、其処の印象は」

「良い店でしたよ。高すぎず安過ぎず、大衆酒場の、正に王道、と言った感じです。前の酒場よりも大きかったですし、満員御礼ともなれば、結構収入も入りそうです」


 おぉ。良いじゃないの。


「そのお姫様の心も射止められれば、より資金が」

「いやその人には関わらない方向で行こう。うん。そこはね!」

「……自分の設定したキャラがそこまで恐ろしいですか」

「状況が恐ろしくさせてるんだよ!」


 原作通り、修道院のシスターとして生活した過去を持つ隣国のお姫様は、その影響からなのかまぁ正義感が強い! 誰かを救うのではなく、善き人々を守る方向で覚醒しちゃったせいで、犯罪者絶対許さないプリンセスと化してる。


「俺も、お尋ね者じゃなければお近づきになりたいくらいの人ではあるけど!」

「冤罪がかかって居る以上は、近づきたくも無いと」

「そうだよ……編集さんも気を付けてくれ。編集さんから芋づる式でバレたらどんなに俺が引きこもっても意味がない」

「む、私が口滑らせてばらすみたいな言い方は心外です」

「口は間違いなく固いんだろうけどなぁ」


 今回ばかりは、それこそ壁に耳ありの可能性だって十分ある。こっちを捕捉して、顔が割れたとたん、見つかってはいけない作家24時が始まる訳だ。


「可能性は、出来るだけ潰しておきたいんだ……頼む!」

「っはぁ、まぁ間違った事は言ってないから、先生がそこまで言うのであれば。それに今はそこまでしっかり稼ぐ必要もありませんし」


 あぁ良かった。編集さんも話の分かる人で。これで余計なリスクは背負わなくて済む。まぁ、問題は王女が超推理を発揮して編集さんから俺に辿り着く可能性だが……いやそこまで考えなくても別に問題無いか。流石に無いだろう、フラグも無いよ。そうそう。


「……しかし、この国で色々とやろうと思ってたというのに。こうなったら何も出来ないし、もう稼ぐくらいしかやる事ないぞ、どうするの?」

「いっその事、資金を稼いで持ち家持ちます? 安全地帯ですよ多分」

「どんだけかかるのその気長すぎる計画は」


 もう年単位で稼がないとどうにもならないレベルじゃないかな。多分だけど。それまで俺に気が狂う様に稼げと?


「まぁそれは兎も角として、先ずはアイデアを練りましょうか」

「えっ!? 結局!?」

「良いアイデアが思い浮かばないのであれば、先ずはお金を稼いで落ちついて生活できるようになってから考えるのも手ですよ」


 はぇえ成程なぁ。とっても合理的な判断をなさるなぁ。うーん追い詰められているというのに本当に先ずできる事をしようと言うこの胆力よ。見習うしかないよなぁ。この胆力を覚醒できれば、もっと吹っ飛んだ展開も書けるようになるんじゃないかな。


「……りょーかい。それで? 俺は何処で書けばいいの?」

「取り敢えず机も何も無いので床で」

「床でぇえ!?」


 嘘だろ? この土塗れ誇り塗れの、ぼろい場所の床で書くの!? 本気で!? た、確かにそれしかないけどまって、今羽ペンをちょっとカリっとやってみたんですけど、その跳ね方が、ちょっと、異常だったというか。ダメだよコレ。


「か、書けないよマジで。どうすんの!?」

「書けないの、では無く、書くしかないんですよ。頑張ってください。ほら、こことか」

「あー成程比較的平たくていい感じに見えない事も無いですね―成程成程……ってそう簡単に納得できるかバカぁ! そんでもってここも大分ボコボコォ! 糞みたいな環境にパンチだよ!」


 く、クソッたれが……! 書くしかないのか。俺がッ! こんなっ! 書くにも限界レベルの劣悪な環境で、この、そこそこスマッシュヒットの作家が! いや、環境的には下手すると一番酷かった頃の俺の部屋の方が……? ワンチャン……?


「いや、考えるのはやめよう」

「そうですね。書きながら考えるべき事は幾らもありますからね。まず……あの偽物の先生の事だとか」


 ……そうなんだよなぁ。ソイツの正体とかも考えないとなぁ。そもそも、俺がこんな状況に追い込まれてる根本的な理由、ソイツだもんね。見つけ出してどうしてこんな事をしたのか聞かないといけない。


「そもそも、誰なんだっていう話よ」

「……一応お聞きしますけど、先生って、生き別れの兄弟でもいらっしゃいます?」

「居ねぇし居たとしてなんでこんな所に来てるんですかね……? 俺がそんなに憎い感じですか? 恨まれる事、なんかしたかなぁ?」

「まぁ先生だったら忘れてても可笑しくは無いと思いますけれど……」

「おいっ」

「まぁ、先生が無いというのであれば、恐らくはないと思います。そこまで酷い記憶力ではないと思うので。となれば、先生を貶める為に悪意を持って、先生の真似をする何者かとしか思えませんけども」


 ……う、恨みかぁ。恨みかぁ。そんな沢山恨みを買った覚えはなかったんだけどなぁ。普通に小説書いてただけだし。俺自身、極道入稿なんてした事も無かったし。編集さん通して、出版社の人達とも、ちゃんと顔合わせして、話もしたし。


「まぁ人間なんて、何処で恨みを買ってるか分かりませんし」

「いやまだ恨みの犯行って決まった訳じゃないでしょう。勘弁してくれ。泣くぞ。俺恨まれてないから大丈夫!」

「大丈夫ですよ。恨まれていても先生をきっと助けますから」

「だからやめてください。恨まれてませんから!」


 恨みの犯行でないと証明したい。けど今はそれどころの話じゃない。仕方ない。考えられるような余裕を作ってから、改めて反論を……しかし、その為にはここら辺で書かなくちゃいけないのか……うぅ……


アンデルセン先生ごめんなさい。


そんな所で書けたら苦労はしないんだよなぁ。

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