第98話、コアラ子(ああ、ああっ…!)
書きあがりましたので投稿します!
そして前半部分について一言あります!
コアラ子ちゃんの為に言わせてください!
『広樹の心の声は十中八九合ってます!たぶん!』
「コアラ子ちゃん……俺達、どうしよっか?」
現実逃避をしながら、両手で抱えたぬいぐるみに話しかける。
でもしょうがない。
この光景を見せられたら、誰だって独り言くらい呟く。
「コアラ子ちゃん……あそこに飛び込んでみないか?今なら鮮やかなピッチャーフォームで二人の中心に投げてあげるよ?」
…………。
ははは、何言ってんだろう俺…
痛々しいキャットファイトを見せられて、混乱しているかもしれないな。
鬱だわこれ…
「……ん?」
ん?……湿ってる?
ぬいぐるみに濡れ濡れした感触が…
……いや、きっと俺の手汗だな。
緊張と恐怖で手汗が大量に出るとか…俺も末期かもしれない……ガチで末期だわ。
そしてゴメンよコアラ子ちゃん、俺の手汗で凄いビッショリにしてしまって…………アレ?本当にビッショビショなんだけど、洪水?……何これ?
俺の手汗ってこんなに凄かったっけ?
もしかして俺って『手掌多汗症』だったのか?
だったらヤバイな!すぐに手術をしないと大変だ!
だから帰ってもいい?此処には一分一秒たりとも居座りたくないんだけども!
ドンッッ!!
「ぇ?」
右に歩き出そうとしたら、その方向にあった壁に焦げ穴が掘られた。
そして理解するよりも先に、左に歩き出そうと一歩踏み出し、
ドンッッ!!
「ぃ?」
またまた向いた方向に見えた壁に、焦げた穴が生まれた。
ああ、これはアレだ!
もう逃げられない的なアレだな!
ハハハハ!
…………………………………………ほんとたすけて
黒鱗の抜剣により、少女達の戦いは互角の一途を進んでいた。
常人離れした運動能力を発揮し、黒燐を最大限に活かした少女と、最低限の動きをしながら相手の行動を先読みし、能力と武装で攻撃一辺倒を続ける少女。
「こっのぉお!」
「ッッ!!」
黒鱗を振りかぶって突進を繰り出す。
真っ直ぐと突き進もうとする詩織に対して、鈴子は接近を許さないと、連続射撃と能力を駆使して応戦する。
「相変わらずっ!万能なっ!能力っ!ねぇ!」
「ッッ!」
「いっつもそう!序列者の中でも私の能力だけが地味って言われてた!」
「くッ!」
「私に比べてアナタ達は良いわよね!私なんてただ黒い棘を出すだけなんだから!」
「ッッ!勝手な八つ当たりっ?私は関係ないっ…」
「そうよ!勝手な八つ当たりよ!でも可笑しいじゃない!」
銃弾を黒鱗で受け流しながら、死角になった場所に黒棘を展開して防御。
接近の機会を伺いながらの防戦を繰り返す詩織は、鈴子に感情の篭った怒声を放つ。
「頑張って来た私の先々にいるのが、頭の可笑しな変人集団なのよ!まるで私が馬鹿みたいじゃない!」
「人を責める前に、鏡で自分を見た方がいいよ」
「どう言う意味よぉお!!」
激怒の咆哮を叫びながら、詩織は床を爆散させて鈴子に接近する。
「ッ」
「?」
その接近に鈴子に動揺の色が見えた。だが、理由を分析するよりも先に、黒鱗を構えて一撃を狙う。
「これで!」
「また同じだよ」
鈴子の呟きに、詩織の顔に焦りが生まれた。
そしてすぐに答えは分かる。
強化された五感が死の音を感じ取り、即座に黒鱗を構えた。
ッッッッッッ!!
「クッ!?」
「やっぱり壊れない…そして速い…」
真上から降り注いだ銃弾の嵐。
それを詩織が黒鱗で全て受け流し、床を蹴って後退した。
「どうして私がっ、アナタに勝てないのよっ」
「私が詩織よりも強いからだよ」
「っ!そんなの分かってるわよ!だからこそ認めたくないんじゃない!!」
涙で濁した瞳で、詩織は真顔の鈴子に叫び散らした。そして火花を散らす戦いが再び開幕する。
「私は上を目指して頑張って来たっ!なのに変人集団が上でのうのうと立ち塞がってるっ!」
「だから?…だったら私達を見ずに、勝手に上を目指せばいい」
「目指せなくなってるから仕方ないんじゃない!序列者以外に、私の目標になる存在は何処にもなかったんだからっ!」
過去の自分を思い出し、鈴子を含めた序列者に愚痴を開いた。
「最初は何も知らなかったっ。序列者は近寄り難い存在だったっ。だから目標にして目指したっ。そして序列者になって、現実を知った私が何を思ったか知ってる?」
「知る訳ない」
「だったら教えてあげる!今までに感じた事の無い程の侮辱と失望よ!」
序列者の本性に気付く前までは、詩織は変人集団に惹かれた勉強熱心な少女だった。その勉強の先にいる明確な存在の価値に憧れ、大人達が褒める才能を一層磨いて来た。
だが、その先にいた明確な存在の正体が、侮辱に塗り固められた幻想だったと知って、深い失望に打ちひしがれた。
「序列者になってからは、大人達を目標にしようと考えた。だけど、私以上の人達は、あの作戦の所為で…」
過去に大勢いた熟練の戦闘力者達。
その大人達のほとんどが、ある大作戦の失敗で、今や能力を失って、生き残りの大多数が凡人となった。
そして今や、詩織の才能に敵う大人はそうはいない。
故に自分の目標に至れたのは、その本性を知らなかった序列者だけだった。
「もう誰もいなかった。私の目指せる目標が。私を導いてくれる存在が…………でも」
詩織の瞳に僅かな希望の光が漏れ出る。
「ようやく…見つけたのよ……」
「っ…………まさか……」
鈴子の中で一つの予感が浮かび上がった。
成長に執着する彼女は目標を必要としていた。
だが、それに成り得た存在が何処にもいなかった。
いくら実力のある序列者でも、本性が悪ければ目標としたくない。
故に目標となる存在を探し出した。そしてそれを己の近くに置いた。
その存在とは──彼。
「だから、邪魔をしないでっ!」
「ッッッ!」
感情を爆発させた詩織が、回避、受け流し、防御の手段を駆使して、限界の距離まで接近する。
思考で反応が遅れた鈴子は、咄嗟に背後飛躍を踏んで、狙撃銃の持ち方を変えた。そして、
「っ!?クッッ!?」
詩織の顔面に狙撃銃を投擲する。
狙撃銃専用のマガジンが切れ、用済みだと言う様に躊躇なく放棄した。
重量もあり、力の入った投げ込みではなかったが、意表を突かれた詩織は呼吸を乱され、再び距離が開けられる。
「ようやく分かった……繋がった」
淡々と鈴子は唱える。
「でも、それはただの我儘」
「ッ」
「勝手な執着心…それを押し付けてどうするの?」
「押し付けるのはアナタも一緒でしょ!」
「……」
熱を帯びた詩織の言葉は正しく。否定は出来ないと鈴子も思った。
だが、
「一緒……?」
その単語が一つの思考を作り出す。
「思い出した……そういえば一緒だったね」
「ッッ!?ッ!」
言葉を酌み交わす中、戦いは鈴子が新たに抜き構えた銃器によって再開。
能力による不規則な軌道を繰り返す鈴子の攻撃に、詩織は言葉を詰まらせながら対応する。
「改めて分かると凄い……だから執着したんだ……我儘は取り消す」
「何っ、一人でっ、理解してんのっ!ッッ!」
「──同類相求」
「っ!?」
鈴子の一言に詩織は両目を見開いた。
『同類相求』
──同じ性質を持つ者同士が、互いに求め合う現象の事。
「詩織の一方的だけど……この言葉は今の序列十位そのもの……」
「勝手に私を語らないで!」
怒りをあらわにして詩織の動きが乱雑になる。力強い音を発する敵を前に、鈴子は依然として出来事の整理を止めない。
鈴子は詩織が胸に抱えているモノを知っていた。
そして今知った広樹との関係を知り、一つの『憶測』が生まれる。
鈴子はそれを淡々と呟いた。
「未解明の多重能力者が現れて、未解明な黒棘出現が惹かれた……」
「何をっ、そんなんじゃっっ!?クッ!!」
「目指すなんてのは建前で……本当は、一緒にありたかっただけ。そうなんでしょ?」
攻撃に言葉を詰まらせた詩織を置き去りにして、鈴子は言葉を無情に続けた。
「だって、似ている境遇で分かり合える存在が現れたんだもん。私にもその気持ちは分かるよ」
「何を言ってるのよ!!さっきからアナタの言ってる事が一つも分かんない!!」
「じゃあ、私からも分からない事を言う……」
詩織の質問に答える様に、鈴子は思考の中心にある存在を呟く。
「『黒槍出現』の正体は何?」
「ッッ!?」
その質問は詩織にとって大きな事だった。
「鉄でもなければ氷でも、結晶でもない……それはまだ地球上で発見されていない未知の物質」
鈴子が知る詩織の能力についてを語る。
「だから『未解明』……その正体を解き明かす為に、あらゆる方法で研究を行って来た……その黒鱗も、溜め過ぎた詩織のDNAサンプルと情報から生まれたんでしょ……でも、まだ分からないまま……」
黒鱗が生まれるまでに積み重ねられた経緯。有り過ぎる詩織のDNAサンプルと、数年に渡った検査。
それらがあって、群を抜いた才能を持つ榛名は、黒鱗を急速的に創り上げる事が叶った。
だがそれは偶然の奇跡。
『偶然作れた試作品』であり、『新たに作る事は出来ない』。
詩織のDNAを材料にし、偶然が生み出した奇跡の産物。
『未解明』が故に、次は無い。
それが『黒鱗』であると、榛名は詩織に伝えていた。
「『鉄程の強度を持った黒い突起物』……曖昧な表現で表記された能力……」
だが言い換えれば、『未知の物質を黒い突起物の形状で出現させる事が出来る』。つまりそれは、正体不明の物質を呼び出す力とも取れる。
鈴子が重ねた言葉によって、詩織の動きは更に激しさを生み出す。
それは本人にとって、心の内に秘めていた悩み。
身体の内に宿る未解明は、不安となって抱え続けていた能力だった。
「能力の正体が未だ不明な存在と、多重能力を持った前代未聞の存在……」
未知において詩織と広樹は重なっていると、鈴子は独説を語った。
「成長が目的で努力をして来た?上を目指して頑張って来た?…………違う。それは間違い」
「ッッ!間違いじゃないっ!私は今まで──」
「正体の分からない能力が怖いから、常に安定し続けられる様に戦闘力を磨いて来た……」
「っ!?」
鈴子の導き出した答えに、詩織は顔を歪ませた。
「能力は数多の種類が存在してる…だけど、黒槍出現は発見事例が無く、発現者の第一号が姫路詩織だった。……世界でたった一人の黒槍出現……だからこそ、何が起こるにしても、詩織が必ず最初になってしまう」
前例の無い黒槍出現によって発生する出来事。
その全てを一番最初に抱え込むのが、世界でたった一人、姫路詩織だけなのだ。
「能力は、脳にあるDNA情報に組み込まれている……それは、黒槍出現が脳に存在している事……」
前例の無い能力が、脳の中にある。
世界で唯一、詩織だけの脳に。
「だから怖い……何かがあれば、それへの解決手段がまだ作られていないから……」
未知の病原体が存在し、まだ発症を起こしていない状態。
それを思わせるのが、詩織の能力。
何が起こるのかも分からず、起こった後の解決手段も分からない。
「でも……一番に怖いのはまだある」
「ッッ!?」
「二ヶ月前に報告された……黒槍出現の正体を調べる研究で」
「やめなさい…」
「怖いよね……私も怖いと思った……」
「やめなさいっ…」
「この恐怖を和らげる為に、未解明を抱える相手を求め、見つけ、依存した……違う?」
「やめろっ…」
「考えられる筈の無い報告だった……だってそうだよ……黒槍出現は──」
「鈴子ぉおおおおおおおお!!」
鈴子の言葉を打ち消して、限界までの咆哮を叫んだ詩織は、鈴子の攻撃を乱暴に切り開いて突貫に走る。
焦り、恐怖、激怒、奮起を入り混ぜた形相。
それは詩織の心の内をまさに体現したものだった。
読んでくれてありがとうございます!
あくまで『鈴子の憶測』として、詩織が広樹に惹かれた理由を出しました!
鈴子の憶測としてなので!それが本当に正しいかはまだ不明です!
序列者という変人集団に嫌悪しながら、正体不明の物質を召喚する能力に恐れ、暴走を抑えるために戦闘力を磨く事に努力を費やした。
だが、それでも一人で抱えるしかない恐怖に耐え切れず、気持ちを分かってもらえる相手を求めた。
そして見つけたのが、戦闘学史上に類を見ない多重能力者。
戦闘力のことわりから外れた未知。歴史上最初の多重能力者。
そして、その脳の構造は闇に等しい。
前例の無い存在であるが故に、何か異常を起こせば即座に適切な処置が出来ない存在だ。
そんな危ない状況を共に歩いてくれる存在を、詩織は求めていた……
鈴子の憶測をまとめたら、上記のようになると思います!
もう第98話になったので、そろそろ詩織が広樹に惹かれた理由に触れる何かを書かなきゃと思い、今話の展開を考えました!
この憶測が合ってるかは、今後の展開で明確にしていこうと思います!
これからもぜひ読みに来てください!