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【完結】モブメイドは戦死する伯爵の運命を変えたい - どっちが大事なんだ
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【完結】モブメイドは戦死する伯爵の運命を変えたい  作者: 絵山イオン
最終章 モブメイドと変える運命
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どっちが大事なんだ

 私はアルスにブルーノとの関係を伝え、二人きりにしてもらった。

 アルスは最後まで「僕も君と一緒にいる」と言ってきかなかったが、子供たちが「お腹空いた」と彼を家の中に誘導したおかげで、希望通りになった。


「私に……、何の用?」

「あの水晶玉、無くさず持ってるよな」

「もちろん。あれはオリバーさまから預かっているものだから」


 二人きりになってブルーノが切り出した話題は【時戻り】の水晶についてだった。

 五年前のあの日、ブルーノは「何が何でも手放すな」と言ったあの水晶。

 私はその問いに正直に答えた。

 ブルーノは、それを聞いて一瞬ほっとした表情を浮かべている。


「あれは特別な条件が起こらない限り、ただの水晶玉よ」

「ソルテラ家の血筋、兄さんが死なないと【時戻り】が発動しないんだろ」

「な、なんでそれを……」

「これにすべて書かれていた」


 ブルーノが【時戻り】の発動条件を知っており、私は驚いた。

 どうやってそれを知ったのか尋ねると、彼はバックから見覚えのある古い手記を取り出し、私の前に突きだした。

 それは私がブルーノに渡した、初代ソルテラ伯爵の手記。

 きっと、その手記の中に【時戻り】の水晶について書かれていたのだろう。


「エレノア、お前はあの男と兄さん、どっちが大事なんだ?」

「……」


 ブルーノは痛い所を突く。

 私はすぐに答えられず黙ってしまった。

 五年もアルスと円満な結婚生活をしていたら、十度目の【時戻り】に迷いが出てくる。

 二人の子供の成長を見送りたい、お腹の中にいる三人目を産みたい。


「あの男なのか?」

「違うといったら嘘になります」

「お前……! 兄さんがどんな覚悟でお前に【時戻り】の水晶を託したか、忘れたのか!?」

「分かっています! でも――」


 ブルーノは私を責める。

 責められて当然だ。

 オリバーは何が起ころうとも私が五年前に戻ると信じて、私に【時戻り】の水晶を託した。

 それは分かっている。

 だけど、【時戻り】をしたら五年間の結婚生活、幸せな日々をすべてなかったことになる。

 娘のイルーシャと息子のオリバー、そしてお腹の子供が世界から消えてしまう。


「五年前に時戻りすれば、私の子供はいなかったことになります」

「お前は、兄さんよりも自分の家族を選ぶんだな?」

「選ぶとは言ってません、ただ迷っているのです」

「不安だな……」


 ブルーノは私の迷いを聞き、不安げな表情を浮かべた。

 私が今の生活を選び、【時戻り】をしないのではないかと不安がっている。


「だが、俺はお前にかけるしかない」

「私に……?」


 二つの秘術、【時戻り】の水晶について知ったブルーノが、何故私に会いに来たのだろうか。

 私の覚悟を聞きにきただけではないはず。

 他に話に来たはずだ。

 ブルーノは少し間をおき、私に伝えた。


「今夜、二十四時。マジル王都に秘術を放つ」

「え……」

「俺のこの身体ではせいぜい城とその周りを燃やすことしか出来ないだろう」

「え、今夜? 待って、突然すぎるわ!!」

「お前の家は王都内とはいえ、城から遠い。瓦礫が飛んでくるかもしれんが、地下室に隠れていれば助かるだろう」


 ブルーノが私に会いにきたのは、安全な場所へ避難し、次の【時戻り】に備えろと伝えるため。

 二十四時にマジル王国はブルーノの手によって滅ぼされる。

 それを決断が揺らいでいる私に伝えるのは、不安で仕方がなかっただろう。


「オリバーさまは、王都にいるのね」

「ああ。終戦後から五年、城内の一室に幽閉されている。日の当たらない部屋で、誰にも会うこともなく次の戦争の兵器として生かされている」

「……」

「お前なら、兄さんを救える。この結末を書き換えられる」


 ブルーノはオリバーの行方を知っていた。

 彼から聞いた話が本当であれば、オリバーはマジル王国の監視下の元、飼い殺しにされている。

 私が【時戻り】を起こさなければ、オリバーは暗い部屋に閉じ込められたまま、その部屋で一生を終えることになる。


 ―― エレノア。


(もう、オリバーさまの声と顔すら思い出せない……)


 あれから五年、私はオリバーを救うことだけを考えてきたつもりだった。

 それなのに、もう彼の声が、顔が思い出せない。


「頼むエレノア! 過去に戻ってくれ」

「分かりました――」


 ブルーノが【時戻り】をしてほしいと私に懇願する。

 現在ではなく過去を選べ、と。


「【時戻り】をします。過去のオリバーさまに会ってきます」


 私はブルーノにそう言った。

 言ったものの、私は母親として、子供たちの存在が無くなることについて踏ん切りがつかない。

 他に方法があるのではないかと考えてしまう。


「俺は、それを伝えに来ただけだ。最期の晩餐、しっかりと噛みしめろ」

「さようなら、ブルーノ」

「ああ。”またな”エレノア」


 私は「さよなら」と言い、ブルーノは「またな」と言った。

 それは【時戻り】を知っている私たちなりの、別れの言葉だった。

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