30. 大薮新平 王都を発つ
異世界に召喚された大薮新平。そこは内乱が起きている国だった。踊ると魔法が掛かるという没ネタみたいなスキルを得ていた新平は、紆余曲折を経て神の使徒と認められる。そして今、アンジェリカ王女を代表とする一団と共に、王都を旅立とうとしていた。
王宮の正面広場には、アンジェリカ王女のウラリュス大神殿巡礼団と銘打たれた一団が揃っていた。先程まで盛大な壮行会が催され、フォーセリカ王女がこれでもかと妹を持ち上げ、観衆や兵達の拍手喝采を浴びて式は無事終了した。
新平は当初、アンジェリカ王女の後ろで山の様に着飾られ、げんなりとした表情で立ち尽くし観衆に笑われていたのだが、最後の紹介で間違って呼ばれた名前『魔道士 オーヤバイ、シッパイ』が観客達に連呼され、怒りで拳を震わせていた。
「オーヤバイ!」「オーヤバイ!」「オーヤバイ!」
広場の観客には新平が治療した人達や、その家族達も居る。治療に感謝する人々、直接会って礼を言えなかった人々が、この時とばかりに諸手を振って、感謝と笑顔で歓声を上げている。非常に複雑な心境だった。
「シッパイ!」「シッパイ!」「シッパイ!」「シッパイ!」「シッパイ!」
道中が凄く心配になってきた。
壮行会が終了し、出発する兵達と一緒に広場に移動して出立の準備を始める。その列の中へ、旅立つ兵達の家族や友人達がやって来て最後の別れを惜しんでいた。これから王城を出て王都内をパレードで進み、今日は王都外周まで進むのだ。その後、八日程で隣国ドーマ王国へ入る予定だそうだ
その中で新平は、知らない貴族達に囲まれ困っていた。次々挨拶され握手を求められるのだが正直名前なんて覚えられないし顔の区別もつかない。引き攣った笑顔で握手しながら、会話は全て聞き流していた。「そーなんですかー」と「どーも、ど-も」しか喋っていない。貴族達も新平の対応がおざなりなのに気づいている筈なのだが、意地になってるのか構わずに挨拶を繰り返す。周囲と比べて、その一角のみギスギスした光景が繰り広げられていた。
ラディリアとイリスカか通りかかったので、大げさにリアクションして囲みから抜け出した。連中はまだ話したそうだったが、とても付き合っていられない。式典前に会った時は、二人共妙に挙動がおかしくて避けられたのだが、式が終わって緊張が解れたのか、もう何時も通りの様子だ。ちょっと安心した。しかし改めて見る二人の格好には違和感を感じてしまう。
「その格好……」
「な、何かおかしいのか」
二人共近衛騎士の正装をしていた。その上に旅装として白いマントを羽織っている。しかし何故かこの近衛騎士の正装。女性はミニスカートなのだ。膝上迄の足具を履いているので太腿に絶対領域? みたいなのが出来上がっている。先月再生した肢体なので、町行く娘よりも傷一つ無い太腿が白くまぶしい。
「なんで騎士の正装なのにミニスカなの?」
「おかしいのか?」
「昔から女性騎士はこの姿ですが」
素で返されると、こちらも困ってしまう。いや、嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいのだが、良いのだろうか。この格好で騎乗されると、横で馬車に乗ってる俺はさぞ目が泳ぐだろう。楽しみだ。じゃない、気をつけなければ。
問題はそこじゃなかった。その白い太腿のラディリアは右腿に、イリスカは左腿の地肌に紋章が刻まれてるのだ。刺青なのだろうか。こんなの前からあったか。いや、二人共【癒す女神のムスタッシュダンス】を受けたのだ。アレは古傷も全部消してしまう。刺青なんかあっても消えた筈だ。では彼女達はその後にこの刺青を彫った事になる。
「……コレは?」
心なしか攻める口調で聞いてしまう。十代の童貞男子らしい潔癖な価値観で、新平は女性が刺青する事に忌避感がある。
「これは戦乙女の紋だ」
ラディリアの説明じゃさっぱり判らない。イリスカさんプリーズ。
「天馬騎士が契約の為、背中に紋を刻むのは御存知だったと思います。この大陸では同じ様に紋を身体に刻む事によって、様々な精霊の加護を受けるのです。この紋は戦乙女の精霊を宿し、勇気と素早さの加護を得ます。正規の近衛師団では、主に女性に好まれて使われます。我々も一団に随行し、王女殿下と貴方を守る者として、今回紋を刻みました」
「ふうん……あれ、これを刻んだら天馬騎士には?」
体中に幾つも紋を刻むとも思えない。
「はい。身に一つしか紋は刻めないので、天馬騎士として務める事はできなく成ります」
少し寂しそうにイリスカが微笑む。
「あ……」
元はといえば、この旅は俺の旅だ。俺の意思では無いが、それにアンジェリカ王女を巻き込んで、次は近衛である彼女達も巻き込んだ。更にはこうして天馬騎士への復帰を諦めさせてしまった。一人の女性の人生を狂わせてしまったと言っても良い。
「……お気になさらず。未練が無い、といえば嘘になりますが、天馬騎士としての功績はひとまず上げられたので満足しております。他国内を天馬で横行する訳には参りませんので、これから近衛として務める節目としても、決断を後押しして頂く機会を得られたと考えています」
「そ……そうですか」
上手い言葉でまとめ、こちらが自責を負うわないように気遣ってくれている。大人な対応だな。そして美人だ。だから話す時は、一々覗き込む様に顔を近づけないで欲しい。
「そうだ。これは私達が自分の意思で決めて刻んだのだ。チンペー殿が責を感じる必要は無い」
ラディリアが答えた。最初に答えたのは自分なのに、即座にイリスカに聞き返した事に、少しムッっとしているようだ。比べると、こっちは少し子供っぽいとこあるよな。城砦からの逃走中は、凄い頼りになる大人の女性騎士に見えてたんだが。
「……まぁ、分かった。ってあれ、じゃあラディリアは元々この印をしていたの?」
「いや、私はな……」
何故かラディリアは口篭った。
「彼女は準近衛でした。見習いのような者です。通常準近衛は二年を経て正近衛となり紋を刻む事が許されます。今回はアルクス王子の反乱が始まってしまい。彼女は昇進が遅れていました。もっともそれだからこそ、話に聞く修道院からの脱出行にて、侍女を装う事ができたのですが」
アルクス王子の命を受けた兵の強襲を受けて、侍女を装った近衛二人とアンジェリカのみが修道院の脱出に成功した。残った二人の近衛騎士達は戦い殺害されたと聞いている。紋を刻んでない為、騎士と思われず助かったという事だろうか。ラディリアを見ると複雑そうな表情で目を伏せた。あまり話題にしない方が良さそうだ。
「そうですか。でも、何故わざわざ、見えるところにしているの?」
そんなに見せたがりなんだろうか。自慢したがっているとも思えないが。
「紋章は精霊の加護を得ますので、外気に触れていないと効果が得られないのです。天馬騎士達も外気に触れられる場所に刻んでいるでしょう。大体紋章によって身体のどこに刻むのが一番効果が得られるかは研究されていますので……」
だから天馬騎士はあんな背中を出す装束になっていたのか……あの天馬達の趣味という気もするが。いや絶対そうだろうな。
「戦乙女の紋は古来より腿に刻むのが一番効果が高いのでな、必然近衛の正装も男女とも対応できるようになっているのだ」
「男女って……男も?」
「うむ。男性も戦乙女の紋に対応した正装が用意されている」
「……!」
恐ろしい情景を想像してしまった。ミニスカートのもじゃもじゃ大集団。
「まあ男性は膂力が上がる『戦夫の紋』を首に刻むのが普通だがな、以前王国騎士団に会っただろう。彼等は皆『戦夫の紋』だな」
王国騎士団の赤鎧連中が首に刺青してたのを思い出す。なるほど、あれはこういった紋章だったのか。暴力団の組の紋所みたいなのかと思ってた。
「チーベェさま」
そこへ挨拶の一通り終わったアンジェリカ王女一行がやって来た。彼女の脇には今回の旅に同行する近衛騎士の女性二人と、後ろには侍女長を含めた王女の身の回りの世話をする侍女達が控えている。アンジェリカ王女と近衛騎士四名、侍女四名。今回の旅の一行が揃った。
「何を話されていたのですか」
「いや、近衛騎士の正装って、スカートでエロいなって話」
「そんな話ではなかっただろう!」
「王女殿下、ジンベイ殿が『戦乙女の紋』を初めて見たというので、説明していたのです」
「あー。そうかも」
ミニスカの方が印象強かったので、すっかり忘れてた。ラディリアに赤い顔で『お前、何を言い出しやがる』みたいな顔で睨まれてしまった。
「そうですか? とても凛々しく、可愛らしいと思うのですが」
「姫様、男性の感性は女性とは違うと申しますし。まして、オオヤバイ殿は異国の方ですので」
なにげに酷い補足をするのは侍女長のマイヤーさん。一団の侍女や料理人達のまとめ役だ。目付きの鋭い初老のおばちゃんなのだが、待ちきれず何度も一人で旅立とうとした自分と、準備万端整え巡礼団として出立すべきと主張する彼女は話が合わず、何度と無く言い合いをした為、俺への評価が超低い。すっかり姫さんと気安く話す様になってしまった今でも、何かと俺を酷評する。背後の侍女達も少し困ったような顔をしている。
「そうですか。チーベェさま、女性騎士の正装の多くはこの様な装いです。もっとも近隣国では女性騎士は殆どいないので、我が国特有とも見られますが」
「そうなんだ。ちょと寂しいね。それ」
色々な国の女性騎士の軍装も見てみたいところだ。アンジェリカ王女に頷いた後、顔を上げたら背後の侍女さん達と目があった。ぎこちなく目礼し合った自分と侍女達にアンジェリカ王女が気づき、さっそく紹介を始める。気配り上手な幼女様だ。
「そういえば、きちんと紹介していませんでした。改めて紹介いたしますね。こちらの二人はご存知だと思います、近衛隊のリプレとモーラです。今回の旅に同行して頂きます」
金髪碧眼の女性騎士二人が頭を下げるので、慌てて礼を返す。
「リプレです。私が近衛の隊を率いさせて頂きます」
「モーラです。道中警護を務めさせて頂きます」
なるほど、言われてみれば確かに彼女達は『戦乙女の紋』をしている。
アンジェリカ姫に仕えた期間はラディリアが一番長いのだが、序列的にも彼女は低いので、年長のリプレさんが近衛の隊長になるとの事。どちらも二十代後半の女性だ。何度か会って睨まれたり、怒られたり、説教されたりしたので少しは気安い。 ……少しだけ気まずい。
「こちらが私とチーベェさまの身の回りを世話して頂く者達で、マイヤーを長としてこちらからエニシア、メリアージュ、エリーゼです」
「って、ちょっと待て。俺の世話? 何で。いらんよそんなの」
次々頭を下げる侍女達を遮って、聞き返す。
「いいえ。わたくしがチーベェ様に仕えていますのに、わたくしにだけ侍女が居るという訳にはまいりません」
「はい。オオヤバイ殿へはアンジェリカ王女殿下同様、御世話をする様命じられております。道士様の御世話となると勝手が違うかと思いますが、御容赦頂きたく」
「うっ……」
鉄面皮のマイヤーさんに丁寧に頭を下げられて寒気が走る。口唾飛ばして怒鳴りあった相手なのだ。絶対腹の中は嫌がってるだろう。そもさ王宮の侍女長の彼女が、国外の旅に同行すること事態がありえない。残った王宮の侍女達の管理はどうすんだという話だ。なんでも今回の旅に無理矢理同行を願い出たらしい。これはもう信用していない自分を監視する為としか思えない。世話と言って道中散々小言を受ける未来が想像できる。勘弁して欲しい。
「姫様、わたしくも皆様に御挨拶させて頂いてもよろしいでしょうか」
そこへ新たな女性が現れた。白い司祭衣を纏った巨大なおっぱ……ユエル司祭だ。
「あ、どうもです」
「チンペコ様には先日御挨拶させて頂きました。皆様、ヴィスタ神殿より同行しますユエル・オマーンと申します」
「これは御挨拶が遅れまして申し訳ありませんでした。初めまして、私達は……」
自分を少し危ない名で呼んだ彼女は、ヴィスタ教の司祭でユエルさんという。先日アンジェリカ王女に連れられて来て、既に挨拶を交わしている。ヴィスタ教は国教ではあるが、国を跨る宗教勢力なので、皆とは一線を引いてしまっている。少し微妙な立場な訳だ。
今回の旅、名目上はヴィスタ教の巡礼団なので、彼女が代表案内人となっている。
司祭らしく白い法衣とロングスカートにケープ、白手袋と敬虔な修道女風なのに、胸元だけが大きく菱形に開いており清楚さが台無しだ。しかも彼女は妙齢の女性で豊満な肉体をお持ちというかなんというか、つまりデカい。フォーセリカ王女並だ。おかげで胸元が谷間というか胸半分が露出しており、初対面時に驚きのあまり、慌ててデニスに耳打ちした程だ。
(なんで、胸元あんなに開いてるの?)
(なんでも対面して治療する時に、相手の緊張を解す為とか言ってたけどな。治癒魔術を受ける時に緊張してると効果が鈍くなるんだとよ)
……男として凄く納得してしまった。アレを目の前にして、気を張っているのは不可能だ。正直正面で向き合ったら顔が緩むのを止められないだろう。
ほんわりしていて癒し系というのだろうか。お辞儀をされると、巨乳がたぷんと揺れて『ふへへぇ』と幸せな気持ちになる。一度で良いから触ってみたいものだ。経験がなければ現実味が無い話として諦めもつくが、逃亡時にフラニーとラディリアの胸を揉んだ幸運があるので、あの時の喜びと興奮を思い出して、つい夢想してしまう。ラッキースケベ。嗚呼、なんて素敵な響きだろう。あれは至福の瞬間だった。
「「……」」
はっとして顔を上げたら、全員にじとっとした冷たい目を向けられていた。ユエル司祭の挨拶が一通り終わったのに自分は呆けていたらしい。
(私達は不要なのではないか)
(……そうかもね)
ラディリアとイリスカから不穏当な小声が聞こえた。
「い、いや、違うから! 二人共大事だから。居なくなったら困るから!」
二人に機嫌を悪くされては困る。知らない連中ばかりの道中は、アンジェリカ王女とこの二人だけが頼りなのだ。デニスはいざとなると信用できない。
すると二人はぎょっとして、声を張り上げた。
「そそそうか! わかった!」
「は、はい。 ありがとうございます!」
何故か顔を赤くして、揃って後じさった。
ちょっと、何故逃げる。近衛長のリプレさんとモーラさんが、それを見て噴き出した。
「……?」
アンジェリカ王女と顔を合わせ首をかしげる。この二人、最近なんかおかしいよな。
「二人共、どうしたのですか?」
「いいえ、何でもありません!」
「はい。何でもありませんので、御気になさらず」
「……」
集合の声が掛かった。首をかしげながらも戻り、兵達の家族の声援を聞きながら隊列を組み直し始める。
別れ際、見送りの近衛騎士達がラディリアを、天馬騎士達がイリスカを捕まえて最後の別れを惜しむ。俺から見れば頼りになるお姉さん達なのだが、肩を叩かれ恐縮する姿は、可愛い後輩でしかない。どこの世界も同じだと少しほっこりして通り過ぎようとした。
しかし途中からお姉様方がこっちを見て、ニヤニヤ笑って何やら耳打ちし始めた。二人は急にうろたえて言い返している。チラチラこっちを見るのが妙にイラッとする。振り返ったが、アンジェリカ姫一行は先に戻ってるので、自分の他には案内に残ってる侍女、メリなんとかさんしかいない。どう考えても俺についての話みたいだが、あの手の光景は中高で女子達が集まった時によく見た。下手に声を掛けても、はやし立てられるか凄く怒られるかで碌な事が無い。スルーすべきと第六感が警告しているので、そのまま逃げる。
列を掻き分けてアンジェリカ王女と一緒の馬車に乗り込んだ。ラディリア達近衛騎士が騎乗し馬車の周囲を固める。先頭のアイズバッハ団長がフォーセリカ王女達に槍を掲げ、号令を出して行進を指示する。管弦楽団の演奏が開始され、花火が鳴り、花吹雪が舞ってパレードが始まった。
一段高いところからフォーセリカ王女達が笑顔で見送っていた。愛妹の門出なのに大人しいな、手も振ってないなと思ったら両脇の近衛騎士に腕を掴まれていた。飛び出そうとでもしたのだろうか。とりあえず何かやらかそうとしたのは確からしい。困った王女様である。
次女のカチュエラ王女も見当たらないと思ったら、時折天馬達が上空を舞って花吹雪を飛ばしてる先頭に居た。馬車内の自分と一瞬目が合ったが、何故か口をへの字にされて睨まれた。本当最後まで気の合わない娘だった。今日まで『アンジェに何かあったら許さない』と何度も何度も云われて辟易したものだ。騙されて治療させられた恨みを言ったらにこやかに微笑んで、気取ってお辞儀をしやがった。嫌味たらしい娘だ。思わず頭にチョップ落としたら掴みかかってきやがった。何だよ、王女様の癖に堪え性もないのかよ。取っ組み合っていたら周囲の近衛騎士達に慌てて抑え込まれたよ。本当、あいつ関わると碌な目に合わない。それでも、これでもう会う事もないかと思えば……あー、安心するな。うん。
一団が街に出ると、王都民達の新たな歓声が迎えてくれる。まだ内戦も終わってない状況で末姫が国外に行くというのに怒ってる人はいないのだろうか。聞き様によっては国外へ逃げ出すとしか思えないだろうに。それ以上にフォーセリカ王女達の仕込みが上手いという事なのかな。
馬車の窓際にアンジェリカ王女が顔を出すと一際歓声があがる。反対側の窓に顔を出してと云われて顔を出す。同じく歓声が沸くが、男性達を中心として露骨に残念そうな声が沸く。そりゃ誰だお前と思うよな。気持ちはとても良く判るが、やられる当人としては悲しい。それでも、次々と残念がる連中に義理で笑って手を振り続ける苦行。罰ゲームをやらされている気分になってきた。
窓から王城を振り返る。もう来ることはないだろう。多くの人に会った。色々珍しい体験もした。折角の異世界、本当はもっと堪能すべきだったかもしれない。こんな状況じゃなかったら、さぞ観光を楽しめた事だろう。
しかし今、自分はそれどころじゃないのだ。急ぎ行くべきところがある。戻らないとならない家がある。
ああ……やっと。やっと先に進める。
速攻進んで、大神殿とやらに乗り込んで俺を召んだ神をぶっとばして日本へ帰るんだ。
アンジェリカ王女と目が合ったので微笑み合う。すっかり打ち解けてくれているのだけど、少し心苦しい。
彼女は天啓によって自分が使徒とやらの使命を果たすのを手伝おうとしている。しかし、自分は使徒になどなるつもりは無い。使命など果たす気も無い。自分は神殿についたら即、話をつけて日本に帰るつもりなのだ。
彼女を騙して利用してる様で悪いとは思う。きっと最後には悲しませてしまう事になるだろう。せめて、出来る範囲で、彼女には優しくしてあげたいとは思う。
今はとりあえず、前に進める事を喜ぼう。やっと進めるのだ。
新平は窓から前方を見やって思いにふける。
まだ王都の門さえ見えない。その道行きは遥か遠かった。
パレードは夕刻まで続いた。フォーセリカ王女が一日限りで流通の税を廃し祝賀ムードを煽った事により、ひさびさに王都民達は夜まで盛り上がった。
こうして、大薮新平と一行は王都を旅立った。
――そして七日後の深夜。王宮に急報が入る。
近衛騎士と侍女が殺害され、アンジェリカ王女が行方不明となったのだ。
次回タイトル: 大薮新平 反乱軍一派に襲われる。