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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され - 05. 大薮新平 異常な町
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大薮新平 異世界にふしぎな踊り子として召喚され  作者: BAWさん
2章 奴囚王国オラリア騒乱編(全26話)
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05. 大薮新平 異常な町

 大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎな踊り子スキルを得て異世界に召還された。行き倒れた末に騙され、奴隷として売られてしまった新平。踊り子スキルを使って一度は牢を脱走したが、再び捕らわれてしまう。怪我を負って、手枷を嵌められ絶体絶命の新平達を救ったのは、とある傭兵団の者達だった。



「うちの傭兵団入らねえか」

「嫌です」


 即効断った。こっちは先を急ぐ身だ。更に色々と話せない事情も抱えてる。次々来る質問に窮していると、この時勢脛に傷を持つ男は多いらしく自分もそんな男の一人と思われたようだった。それで治まれば良かったのだが、何故か勧誘の手は止まなかった。男達は次々やって来て『俺はわかってるぜ』『一緒にやろうぜ』『似たような連中がいるぜ』『実は俺もそうなんだ』と話す節々に匂わせ勧誘してくるのだ。病人に酒を持ってきて、身を寄せニヤニヤと肩を叩いて囁いたりしないで欲しい。

 世話になってる身分で非常に申し訳ないと思うのだが、正直ウッッッッッゼエ! と叫びたい。いかつい男達に、毛深い肌を寄せられて喜ぶ趣味はないのだ。


 どうも、団内に俺を勧誘するように話がいき渡っているようだ。そんなに魔道士が貴重なんだろうか。 ……貴重らしい。傭兵団にとって魔術を使える人間は喉から手が出る程欲しい人材らしい。

 そんな事言われてもな。掛ける相手には笑われ、仲間達にはドン引きされる悲しい職業だと思うんだが。


 そんな魔道士はおま(以下省略)


 魔術を色々見せて欲しいと云われたが残回数を理由に断りまくる。下手に見せて興奮されても困るからだ。残回数等聞いた事もない。嘘じゃないかと呆れたり疑う男達も当然出てきた。癪な話だがここでムキになって見せれば元の木阿弥である。我慢、我慢。それで諦めてくれればいいのだが、クリオ達を助けた(と思われてる)実績は中々消えない様で勧誘は止まなかった。

 男からの勧誘では反応が鈍いと知るや、おばちゃん達に囲まれて褒められたり、なんで呼ばれたか本人も判ってない酒場の娘が食事を持ってきたりした。この町は良いだろう、仲間になりたくならないかと思わせたいらしい。まだ一度も外出できていないんだが……。いかにも足りない脳筋男達が考えそうな策である。結構馬鹿な連中だ。俺にそう思われるのだから、そうとうなものだと思う。 

 怪我で動けないので勧誘から逃げられない日々が続き、居心地が悪くなってきた。安息の時間はクリオ達と遊んでいる時くらいだ。彼女達も外に出られなくて暇らしく、よく遊びに来る。というか居ついている。今はジャンケンを教え、クリオと二人、せっせっせのヨイヨイヨイに励んでいた。 ……ヴェゼルの視線が冷たい。『またそんな子供っぽい事してる』と蔑んだ姉ちゃんとそっくりの視線を向けるように彼はなってきた。素直に尊敬の目を向けてくれていたあの日が懐かしいよ。

 ……たった十日程前だけど。


 とにかくクリオ達の安全は確保できた。俺の役目は終わったといえよう。そろそろ先に向かって行動を移す時期だろう。しかし腕の矢傷はなかなか治らず右手を動かすのが辛い。自由に動かせるにはあと十日静養をと言われているのだが、どうすべきか。動かせない事はないしな。

 ……迷った時は進もう。

 決心した。

 下に降りて団舎のロービーで歓談する男達に、二、三日したら旅立つ旨を話す。一様に男達が寄ってきて残念がられる。いいから、肌を、擦り付けて、くるな!

 すると話を聞いていた壮年の男が立ち上がって、最後に町を少し案内しようと言ってくれた。

 彼の名はアウディ。ここくれないの傭兵団の団長である。別に四足で走り出したり、エアコン口が後ろに無くて夏場に姉と二人で死にそうになったりする訳ではない。

 この人だけは自分を勧誘して来なかった。部下達が勧誘してくるのを見逃してる事から反対はしてないようだが理由はよく分からない。自分が勧誘して、もし駄目だったら団長のメンツが立たないとかそこらへんだろうか。


 髪の色が目立つとの事で布を巻かれ町を案内される。思っていたより寂れた感じの町だった。道行く人の顔に覇気がないというか……屋台が少ない所為なのかな。

 畑、厩舎、雑貨屋、飲み屋を回って通りに出る。しかしおかしな事に気づいた。異臭がするのだ。トリスタ王国と違って町内の環境整備が行き届いてないのだろうか。

 更に不思議なことには、町の中心に向かっているのに人通りが少なくなっていくことだ。露店も消えた。

 何故だろう。

 広場に出る。ここが町の中心らしい。木製の櫓が組み上げられていた。


(なんだありゃ)


 櫓からはボロ布が二つ吊るされていた。異臭はそこからのようだ。

 一番綺麗にしなきゃいけない町の中央広場で、異臭放つゴミを放置するなんて、町長達の怠慢だろう。だから町の中心なのに人通りが少ないのだろうか。しょうもないことだなと、会った事もない町長に駄目をだす。

 随分前から放置されているらしく、ボロ布に虫とかは湧いていない。


(!?)


 近づいて櫓がよく見えてくると、嫌な予感が背筋を走った。

 先頭のアウディ団長は無表情のまま、真っ直ぐ櫓に近づいていく。背後の男達も一緒なので自分だけ足を止める訳にもいかない。


(いや、ヤバくね?)


 見ちゃいけない。そんな予感がひしひしとしていくる。

 おかしいのだ。あの外見は何かおかしい。ヤバい。自分の第六感が凄く訴えている。


(……っ!)


 足が止まった。


 後ろから男達が急かすが動けない。前に進めない。嫌だ。もう進みたくない。これ以上見たくない。


 櫓は刑場だった。

 

 吊るし首の刑場だ。


 吊るされているのは、かつて人間だった物だった。



               ◇


「……っ」


 知らずふらついた上体を男達が支えてくれた。

 アウディ団長が自分を一瞥した後、広場を右に歩き出す。追いかけようにも足が動かない。震えて力が入らないのだ。男達に両脇から支えられ広場を後にした。

 聞くべきか、流すべきか。しかし男達は今迄と違い不機嫌そうにむっつりしている。


「……あ、あれ。何?」

「……絞首刑だ」

「あんなっ!」


 声を張り上げそうになったところ、素早く口を押さえられる。無表情なアウディ団長の顔が横にあった。


「静に。周りの目がある、戻るぞ」


 真っ直ぐ帰る中、思考が渦巻いていた。怒りとも恐怖とも悲しみとも判らない衝動が渦巻いて唇が強張る。


(なんだ。なんだアレ。なんなんだよここ)


 もしかして、もの凄くヤバイ無法の町なのだろうか。クリオ達も外に出せないとはそういうことだったのか。

 

 団舎に戻って一階のロビーで皆と一緒に茶を貰う。喉はカラカラに渇いているのだが、全然飲む気になれない。

 テーブルの対面にアウディ団長が座る。周りの椅子を男達が不機嫌そうな顔で埋める。俺の動揺を知ってるのだ。違う、わざと自分にアレを見せたのだ。何の為にか。


「――それで?」


 アウディ団長は自分に言わせようとしている。そう気づいていても聞かざるを得ない。息を、息を整えろ。


「あれは……――何?」

「罪人の処刑跡だ」

「…………」


 おかしいだろ。

 トリスタ王国であんなの見たか? いや、記憶に無いぞ。それとも気づいてなかっただけか。あの綺麗なフォーセリカ王女やアンジェリカ王女が治める国の町々であんな事が日常的に起きていたらと思うとぞっとするぞ。

 なんであんな……


「なんであんな酷い事。それもあんな場所で」

「見せしめだな」

「見せしめって……」


 アウディ団長の冷めた一言に肝がすっと冷えるのを感じる。

 この世界が中世っぽいとは思っていた。でもあれはやり過ぎだ。なんだよあれ。公開処刑でもしたのかよ。魔女狩りかよ。



 世界史の成績も悪い新平は、処刑と云われても魔女狩りくらいしか思いつかない。



「この町では、罪人は公開で吊るし首に処せられる」

「……」


 唖然とするしかない。

 おかしいだろと叫びたいが言い淀む。これがこっちの世界の常識かもしれないなら、部外者の自分が下手に文句を言うべきではないかもしれないと思ったからだ。しかし


「さ、殺人犯だったとか……」

「いや、あれは税を納められなかった者だ」

「おかしいだろが!」


 あっさり叫んだ。

 たかが税金を納めなかっただけで吊るし首なんて異常過ぎる。そんなら、そこら中で吊るし首だらけになるんじゃないのか。


「この町では税は収入の六割だ。納められない場合はあのように見せしめに吊るされる」

「ろっ……」


 六割。税に全然詳しくない自分にも異常な高さだという事は判る。


「なんだそれ、おかしいだろ! なんでそんな町長を放置してんだ」

「町長ではない。この一帯を治めるプロナード子爵領の決まりだ。ここら近隣は全て同様に、税は六割だ」


 領主の方針という言葉に眩暈を覚える。

 最初に行き倒れた自分を助けてくれた、ミードさん一家の貧困を思い出した。だからか。だから助けた自分を売り飛ばさざるを得なかったのか。彼等もそこまで追い詰められていたのか。


「……なんで、そんな奴を放置してるんですか」

「これはこの領一帯だけの話ではない。近隣の領も似たようなものなのだ」


 異常過ぎる。おかしいだろ、それ。


「十二トゥン(年)前、このオラリア王国は南国ドーマに敗戦し属国となった。税は倍以上となり、罰則は増え、逆らえば処罰される」

「……」

「神獣が身隠れされた為、大地は痩せ砂漠が広がり魔獣が横行している。収穫が減った農家では若い者は街に出稼ぎに行き、足りない場合は子を手放す必要がある。兵役に出たまま帰らない者も多い」

「……」

「我ら傭兵団は主に商隊の護衛や魔獣の討伐で生計を立てているが、正直手が回らない。町が痩せ細るにつれ維持が苦しくなり、大きな討伐にはかなりの危険が伴うようになった」


 横に座る男が、苦い顔をしてテ-ブル上の拳を握りしめる。


「それでも我々は生きなくてはならない。間違えば自分だけでなく仲間達もあのような仕打ちに会うだろう。その為にも我等傭兵団には少しでも戦力が必要なのだ。ローウォルフ十数体に囲まれても、瞬時に倒してしまえる強力な魔道士ともなれば言う迄もない。オウバヤイ君。我々の仲間になってはくれないだろうか」


 そういうことか。 ……大体わかった。


「はー……」


 最後が俗な話で終わってくれたので少し冷めた。助かった。

 成る程。そういう状況なら俺はかなりの戦力になると期待される訳だ。敗戦国か。悲惨なものだ。でも


「すいません。自分は先を急いでいます。待っている人が居ます。帰らなくちゃならない場所があります。世話になったのは大変ありがたいんですが、受ける事はできません」


 断るしかない。

 例えどんな事があっても。邪魔する者がいようと、縋る者がいようと、振り払って先に進むと決めたのだ。見捨てるのか、人でなしと罵られ蔑まれようと構わない。もう迷わないと決めたのだ。

 膝に両手を突いて頭を下げる。


「すいません。受ける事はできません」


 ロビー内に重いため息が漏れた。

 嫌な雰囲気だが、ここで折れる訳にはいかない。それでも何人かが声を掛けてくるが全てに首を振る。


「……やめろ。分かった。すまなかったな、オウバヤイ君」


 団長の一言で男達は肩を落とす。



 旅立つ事になった。



              ◇



「やだよ、ジョンペェ! もっと遊んでくれるって言ったじゃん! また川に魚取りに行こうって、言ったじゃん!」 

「……ごめんな。約束守れなくて」


 べそをかいて駄々をこねるクリオに謝り、ヴェゼルに後を託す。すっかり懐かれてしまって、こっちも別れが惜しい。


 仲間への勧誘を断った翌日、アウディ団長と傭兵達は北の林道奥に魔獣の討伐に向かった。もう用はないと新平を無視する者もいたが、別れ際何人かは肩を叩いて別れを惜しんでくれた。団舎に残った男達や奥さん達と一緒にささやかな別れを惜しんだ翌朝、自分は町を立つ。

 隣町に買い入れがあるので、そこまで団員二人が荷馬車に乗せて送ってくれると言ってくれた。クリオ達を助けた謝礼として旅道具や路銀まで貰っており、至れり付くせりで申し訳ない。娘達を助けてくれて感謝してるとか言ってるが、結局子供達と一緒に捕まって、牢屋に転がってただけなんよな。自然と何度も頭を下げることになった。


 また会いに来てと泣きながら手を振るクリオと女房達に、荷台の上から手を振って別れた。向かうは東の町ザールだ。


 道中は平和なものだった。魔香はたっぷり詰んであるし、荷馬車にはくれないの傭兵団の団旗がはためいている。この旗を立てている限り、道中の夜盗の心配は無いという。是非分けて欲しいものだ。

 馬のたずなを引くのはマークさん。三十前後のひょろ長い兄ちゃんで、右手を怪我して剣が持てなくなった為、行商の担当をしているという。ずっと喋り続ける明るい二枚目半の男だ。結構なお調子者らしく、同乗している奥さんのミゼットさんを度々からかっては耳たぶを引っ張られて悲鳴をあげている。ちくしょう、イチャイチャしやがって。後ろから砂吐いてやろうか。

 腕も確からしく、何度か立ち止まっては森に向って突然矢を放つ。近づいて来た魔獣を牽制しているらしい。その証拠にしっかり森の奥から獣の悲鳴が聞こえる。全然気配が判らなかったのでこちらとしては感嘆の声しか出ない。弓だけでも十分戦えるんじゃないだろうか。自分一人の徒歩だったら危ない道中になったろうから凄く助かった。オウバヤイ君の魔道も見せて欲しいところだねと肩を叩かれたが、正直自分なんかよりもよっぽど凄いと思う。それに旅慣れている人が一緒なのはありがたい。旅の心得等も教えてもらったので、西に戻ってしまった時間以上の価値を得たかもしれない。人生万事塞翁が馬だったかな。あってただろうか。

 マークさんは仕入れを任されているだけあって、口が上手く話題も豊富で面白い。ひさびさに何度も笑わせて貰った。それでも団の状況や各町々の情勢が混ざるとトーンが落ちる。笑い話にしてくれてはいるが、傭兵団の経済状況もかなり苦しい様だ。町々が痩せ細っていくので討伐の賃金が減るのに対し、治安は悪くなり盗賊や魔獣は増える一方だと言う。更には毎年吊るし首を見せられれば鬱々ともなる。別の国に行くつもりはないのかと聞けば、君ならどうすると聞き返された。成る程、確かに生活が苦しくなったからといって、日本捨てて別の国に行こうとする奴は少ないだろう。


 スウェンデールを出て二日、ザールの町の手前で軍隊に出会う。

 くすんだ鉄鎧の騎馬達が二十騎近くいる。従軍する徒歩の兵士も二十人以上。槍を持ち、旗を掲げ荷馬車を引いてと完全な行軍だ。凄いな。映画みたいな壮観な眺めだ。


「プロナード子爵の紋だ。ドルア西方騎士団の部隊か……?」

「なんでこんなとこに……」


 マークさん夫妻が訝しむ。聞いた名前だと思ったら、ここらの領主の名前だった。領地の私兵団って奴だろうか。

 狭い道なので、すれ違う事が出来ない。荷馬車を脇の土手に降ろし、騎馬隊をやり過ごす。一団が通り過ぎた後、残った兵士達が四人程挨拶に来た。


「すまんな。避けて貰って」

「いやあ、とんでもない。お勤めご苦労様です」


 如才なくマークさんが返すと兵士達も笑顔になる。


「その旗は紅の傭兵団か」

「へい」

「やはりそうか……手伝おう、良いなお前ら」

「あ、いやすいませんねぇ」


 土手に降りた荷馬車を道に戻すのは少し手間が掛かる。兵達が頷きあって寄って来るので、マーク夫妻は笑顔で恐縮しながら礼を言う。あ、俺も礼を言った方が良いんだろな。へこへこ。えーと、二人は降りないで馬を急かすのね。俺は乗ってると重くなるので一度降りた方がいいんだろな。 ……なんでマークさん、剣を引き寄せるんだ。


「仕入れかい? ほう、なかなかだな」

「へい。お陰様で」


 魔獣討伐で仕入れた獣肉や毛皮等が荷馬車には詰んである。町で売買し野菜や雑貨等に変えるのだ。


「街道の討伐ですかい?」

「ああ……いや」

「では、エンデールの盗賊団の方で」

「いや……」

「ほう、ではどちらへ」

「それは……お前らだ!」


 突然、兵士達が剣を抜いて斬りかかってきた。マークさんは知っていたかの様に剣を抜いて弾き返すが、三人目の男に脇腹を突かれた。


「!!」

「がっ!」

「逃げな、あんた!」

「は……ぁあっ?」


 ミゼットさんが兵士に荷物をぶつけながら俺を突き飛ばす。荷台から転げ落ちた。


「そいつも逃がすな!」

「っだあ!」


 そのまま飛び起きて走り出す。危なかった。突き飛ばされなかったら完全に呆けて俺も切られていた。


「ぎゃあっ!」

(!?っ)


 後ろでミゼットさんの悲鳴があがる。恐怖で胃の腑が縮み上がった。


(い、いきなりなんだ、なんで殺されるんだ!)


 どこに逃げる。森か。隠れるか。


「追え!」「逃がすな!」


(ひいいっ!)


 追ってくる。俺も殺すつもりだ!

 どうする、連中は重い鎧を装備している。こっちの利点は軽装で足が速い事。森に入ったら逆効果。

 こっちだ!

 土手を駆け上がって街道を走る。追ってきた兵士達を五十m近く放して振り返る。今度はこっちの番だ、くらえ睡魔の踊り。


「スゥリィィイプ!」


 追ってきた四名が走って来て届く手前で昏倒する。睡魔の掛かる距離と迫るタイミングは、すっかり熟知してる。こんなことばっかり慣れてしまって本当悲しい。足元で転がる兵士を飛び越えて今度は荷馬車へと戻る。走れ。急げ。二人が死んでしまう。


 戻れば騎士団の荷馬車が二台と兵が四名が残っていた。自分を見て驚く兵達。逃げた男が走って戻って来たのだ。そして、その後ろには仲間が倒れている。


「貴様っ!」


 兵達が剣を抜いて迫ってくる。

 ふざけるな。怒ってるのはこっちの方だ。


「スゥリィィイプ!」


 兵達が地面に倒れる。そいつらをも飛び越え傭兵団の荷馬車に走り込む。マークさんとミゼットさんは血溜まりに倒れていた。ぴくりとも動かない。


「ああっ、うああああっ! 畜生おっ!」


 振り返る。街道に残りの兵は見当たらないが【癒す女神のムスタッシュダンス】を踊っている時に来られるとマズイ。あれは踊り終わるまで時間が掛かる。

 二人を担ぎ上げて街道横の茂みに走る。重さなんて感じてる場合じゃない。未だ暖かい。急げ。急げ。間に合わなくなる。転ぶ。馬鹿、早く走れ! 泣いてる場合じゃない。


「畜生、ちくしょうっ!」


 茂みに転がり込む。二人を両手に抱えて自分も血だらけだ。立て。それどころじゃない。


「死なせねえ!」


 【癒しの女神のムスタッシュダンス】を踊りだす。手足を振り回す度に、付いた血が飛び散る。未だ息はあるのか。間に合うのか。分らない。急げ。急げ。早く終われ。死ぬんじゃない。間に合ってくれ。


「ヒッ! ハッ! ヒッ! ハッ! ハチュ! ハチュ! ハチュ! ハチュ!」


 ダン、ダン! ダン!!


 大きく足を踏みしめ、両手でハートマークを作り心臓に当てて決めポーズ。


「死ぬんじゃない!」


【癒す女神のムスタッシュダンス】


 二人の身体が光る。


「……がはっ!」「…ああぁっ!」


 二人はギリギリ生還した。



 間に合ったのだ。



          ◇



「なんてこった」「そんな……奇跡だよ」


 二人はまるで自分が生き返ったかのように驚き、傷跡一つ残っていない自分の身体を見て感嘆の声を漏らす。いやあ、死んでたら治ってないから。これ癒してるだけだから。効果がバカ強いだけだから。


「とにかく助かったよ。礼を言う」

「本当ありがとう。あんたは恩人だよ。……本当に魔道士様だったんだねえ。嘘じゃなかったんだねえ……見掛けによらないねえ」


 こんな時に返答に困ること言わないでくれ。


「……とにかく、逃げる前にこれってどういう事だか分る? 一体どうなってんの?」


 なんで領主の騎士団に、騙まし討ちで殺されなきゃならないんだ。あいつらおかしいだろ。何が起きたんだ。


「……いや、君は関わらない方が良い。このままザールを抜けてサウールを出た方が良い」

「……そうだね。そうすんだよ」

「ちょっと! 今更何言ってるの? 俺も殺され掛けたんだよ」


 なんてこった。心当たりがあるらしい。

 連中は俺達を、紅の傭兵団を討伐すると言った。それはあのクリオや傭兵団の皆がこれから襲われると言う事だ。ここで聞かなかった振りをして先に進める筈が無い。


 二人は迷った挙句、溜息をついて手招きする。草むらに屈みこむと、マークさんが顔を上げる。目が合った瞬間心臓が跳ねた。


 なんだ? 


 気配が変わった。目付きが違う。顔つきが違う。別人だ。さっきまでと別人がいる。

 知らず息を呑む。

 マークさんは脅す様に話し出した。


「俺達は紅の傭兵団。スウェンデールを根城にして活動する傭兵団だ。だが、別の顔も持っている。狂王ギブスン・ジラードを打倒し国政を取り戻す目的で結成された『新生オラリア解放軍』それが、俺達の本当の名だ」



 彼等は解放軍だと名乗った。




 新平はこの国の反乱軍一党に、世話になっていたのだ。




次回タイトル:大薮新平 地上を翔ける

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