19. 大薮新平 再会
ちと長いです。
大薮新平は踊ると魔法が掛かるという、ふしぎな踊り子スキルを得て異世界に召還された。出会った少女を従者に迎え、二人は東へと旅立つ。オラリア王国の窮状を知り思い悩む新平に、リーダは神獣の復活を提案。一行は王宮に忍び込み神獣を復活させるも、王宮に捕らえられるのだった。
夕刻、ユエル司祭が三人を伴って再び訪れて来た。
三人とはもちろんトリスタ王国で世話になった女性達。ヴィスタ神殿の憲兵団の法衣を纏ったラディリアとイリスカ、そして司祭衣を纏った幼女、アンジェリカ王女だ。
「ち、……ち、チーベェさまああああっ……!」
アンジェリカ王女が段々駆け足になって、胸に飛び込んで来て泣きだす。
「ちょっ、えっ、どしたの……ええーっと。……ご、ごめんな。えーと、ごめんな姫さん。でも俺は犬じゃないぞ。な、ごめんな」
いきなり泣き出されるとは思わなかった。こういう時どうしたらいいのか全然分からない。やばい、なんか凄い罪悪感が湧いてきたぞ。さっきまで、これから彼女達と同行するかどうかは、まず話しをしてからだ(キリッ)とか考えていたのに吹っ飛んだ。 貰い泣きしてるのかラディリア達二人も涙ぐんでる。うわ、これどうしたらいいんだ。助けてリーダ、黙って控えてないで。
何故か姫さんは自分が悪かったと謝りだした。訳がわからん。逃げ出したのは俺の方だぞ。混乱しながらも謝り合う。
泣き縋る姫さんをなんとか宥めて、対面のテーブルに座らせるまでおよそ十分以上掛かった。もう百回くらい謝まったかもしれない。つ、疲れた……。
「……御見苦しいところを見せてしまい、申し訳ありませんでした」
「え、いや。ほんとゴメンな」
「そうですよ姫様。こうしてジンベイ殿も謝罪しておりますし、気をお静め下さい」
「ええ、全部この男が悪いと言ってるのですから、お悔やみになること等ありませんよ」
ラディリアさん、なんか口調に棘があるんですけど。王宮前で眠らせて逃げたのをまだ怒ってますか。
「……それではジンベイ殿。あれからどうされていたのか、お聞かせ願いますか」
「あー……うん」
何故か扉の脇に立ってこちらに来ないユエル司祭を置いて、自分がオラリア王国を脱出しここまで来た経緯をざっと説明する。
旅が中断した宿場で、新たな踊りである『瞬間移動』を発現し脱走したが失敗。オラリア王国で行き倒れたところを奴隷に売られてしまった。同じ牢に居た子供と傭兵団に助けられるが、ここが実は反乱軍で討伐隊から逃走劇となった。その後はリーダと一緒に東に向かっていたが、指名手配されてまた逃走の再開。神獣復活を試そうと王都を訪れたら、こうして捕まってしまった。我ながら波乱万丈である。ワクワクは皆無で、イヤイヤとドキドキしかなかったけどな。
話している最中、姫さん達は驚いたり泣きそうになったりと百面相をしていたが、話が終わった時点で三人揃って渋い顔をされた。
「だから、我々と一緒に一度王都に戻るべきだったではないか」
まずラディリアに怒られた。
「確証も無く見込みで飛び出すから、そのような事態に陥いるのです。御自分の身を少しは大事にしてください」
イリスカに冷たく責められた。
「それでも……こうして御無事な姿にお会いできて、本当に良かったです」
おお、アンジェエリカ姫さん良い子だな。天使だな。ありがとな。
どう、どうだ。この素晴らしい反応は。と二人に顔を向けたら、凄い顔で睨まれた。おおう……。
「まったく……それにしても、まさかオラリアで反乱軍に参加されていたとは」
「してねえよ。世話になったとこが、反乱軍だっただけだよ」
「この国の方達から見れば、同じに映るでしょうね」
イリスカが頬に手を添え呆れた声を漏らす。お前等本当、以前より俺に当たりがきつくなってないかい。
「そんで、そっちはなんでこんなところにいるんだ? その格好は何」
「貴方を追って来たに決まっているでしょう!」
そんなに怒るなラディリア。あれ、お前もしかして少し涙ぐんでないか。ちょっ、どうしたの。
「その前にチーベェさま。お隣の方をご紹介して頂けますか」
いかん、リーダのことをすっかり忘れてた。
俺が紹介するまでもなく、リーダは自分から立ち上がり優雅に一礼して自己紹介を始める。流石ルーベ神殿の元司祭。立ち振る舞いが堂に入ってる。
「ご挨拶が遅れました。私はこの地にて従者となり、御仕えさせて頂いております、イェフィルリーダと申します」
「……?」
あれ、こいつ国境迄の案内人として雇うってことで了解した筈なのに、なんで従者になってんだろ。それ断ったよな。
リーダの丁寧な自己紹介に対し、イリスカが代表して自分達の身分を明かしていく。教えてはいたが、アンジェリカ姫さんが隣国の末姫さんと聞いて、改めてリーダは礼儀よく頭を下げる。そのまま流れで俺に話が振られてくる。
「ジンベイ殿、従者を召されたのですか」
「え? いや俺は案内人と――」
「死に瀕した私をお救い頂き、少しでもご恩を返すべく、微力ながら旅の道中のご案内をさせて頂いております」
「お、おう。そゆこと。この子がいなかったら、多分俺速攻で捕まってるか死んでるわ」
まあどうでもいいか。
「……」
向き直ると何故かアンジェリカ王女が硬直していた。じっとリーダを見つめたまま固まっているのだ。
「……姫様」
「どしたん」
「……え!? い、いえ。なんでもありません!」
びくりと飛び上がって姫さんが弁明する。散々泣いたので疲れたんだろうか。
「そ、そうなのですか。それは誠にありがとうございました。私共からもお礼申し上げます」
「いえ、これは私の望みでもあり、使命であると考えております」
幼女二人がかしこまった礼を言い合う。……なんかギスギスして見えるのは俺の気のせいかな。小学校でクラスの女子達が険悪になってた時の雰囲気を感じるんだが。
「このような少女を召し抱えるとは……」
「意外と手が早かったのでしょうか」
「そこ二人、妙な言い方すな!」
「……それで、皆様方はどの様にして、こちらにいらしたのでしょうか?」
「おお、そうそう、どうなってんだよ」
「……完全に手綱を握ってますね」
「なんということだろう」
「ちょっと! だから変な言い方すな」
女騎士二名の穿った見方に言い返しながら、彼女達の事情を聞く。
俺が瞬間移動で消えた後、宮廷魔道士のミモザ婆ちゃんは宿周辺から国境沿いに捜索網を引いたそうだ。しかし、俺は既に隣国の砂漠の中だ。見つかる筈もなく一団は王都に帰還する。捜索を国内中に広げたのだが、新たな情報を得ることが出来ず、ついに近隣諸国に捜索依頼を出すことに。しかし、このオラリア王国とは国交が停止されたままだ。仕方なくヴィスタ神殿から手配を回したのだという。まさにリーダの読み通りだった訳だ。
「お前すっごいな。完璧じゃねえか」
肘で突いて褒めたら、すっごく嬉しそうに照れる。向き直ったら、三人の顔がなぜか強張っていた。
捜索依頼をだしたが、有力な情報は一向に集まらなかったそうだ。そして転機は一ウィナル(一ヵ月)後に起きた。俺のバックをアンジェリカ王女が背負っていたところ、何故か急にバックが引っ張られ消失するという事件が起きた。言うまでもなく俺が【縦横無尽な招き猫】で召還した結果だろう。
そのバックにはミモザ婆ちゃんが、位置を特定できる呪を施した割符を忍ばせていたそうだ。もし俺の元に戻った際に捜索出来るようにとの布石だった。消えたと知るや、しめしめとばかりに婆ちゃんは探査魔術を開始。オラリア王国に俺が居ることを突き止めたという。
割符って……え? 慌ててバックを持って来て中身をひっくり返す。 ……それっぽいのが出てきました。
「おお?」
驚く俺に対し、ドヤ顔で無い胸を張るアンジェリカ王女と、こめかみを押さえて唸るリーダ。苦笑いする両騎士。
「これで俺の居場所が丸分かりってこと?」
「はい。これを元にミモザ老師が使い魔である鳥を使わされ、オラリア王国内でジンベイ殿本人を発見。その後は本国のミモザ老師に毎夜場所を確認して頂き、通信魔術を施した水晶で誘導して頂きながら後を追っておりました。オラリア王国と国交はないので、我等近衛の部隊はヴィスタに入信し助祭補という肩書きで王女殿下、ユエル司祭と共にこの国に入ったのです」
「まずこの国のヴィスタ本殿にご挨拶をと考え、王都の本殿に向かっていたところ、何故かチーベェさまも王都に向かわれていると判りました。アウヴィスタの導きの様に思えてとても嬉しかったです」
「こちらの司祭長ファーミィ様がユエル司祭と縁戚であると知り無事お目通りは適ったのですが、何故かファーミィ様にも天啓が降りており、ジンベイ殿を探されていました。そこで我々は協力を申し出て、王都での捜索に加わらせて頂いたのです」
「王都に操作網が引かれていたのは、そういうことだったのですね」
「……ぬへぇ」
納得しているリーダに顔を向けると苦笑いされた。凄い情けない顔を俺がしてたらしい。
「じゃあ、あの晩、王宮の前で待っていたのも……」
「そうだ。ミモザ老師から知らされ、貴方が王都に滞在しているのは判っていた。そして、神獣ラリアが王都上空に現れた際。このようなことが出来る方は、チンペー殿に相違ないと姫様が仰られたのだ」
「我々は部隊を率いて王宮周辺に部隊を展開したのですが、どうもこちらの動きがヴィスタ神殿の方々に漏れてしまっていたようです。彼等が王都民を動員された為、あのような混乱となってしまいました。その点は申し訳なく思っています」
こうして謎は全部解けた。
爺っちゃんの名の下ではなく、ミモザ婆っちゃんの手の平だった訳だ。やられたもんだ。
「成る程なあ……」
「チーベェさまは何故、神獣ラリア様の御復活を?」
「そりゃあ……俺は内乱に加担する気なんてないし、戦うのもまっぴらだ。けど、こんな酷い状況を良く出来るって聞いたらやるだろさ」
「流石チーベェさまです」
「ええ」
「確かに」
「今すんごい後悔してるけどな!」
朝方まで寝転がっていた神獣ラリアの居た場所を一瞥して悪態をつく。まさが当の神獣に捕まって、脱出失敗するとは思わなかったよ。
これでお互いの事情は把握できた。さて、ではこれからの話だ。
「兄様……」
リーダがそっと肩口を引くので耳を貸す。壁際で立つユエル司祭を視差された。成る程、ヴィスタ神殿がトリスタ一行と俺を取り合っている以上、こっち側の神殿と通じてるだろう彼女に話を聞かれたくないという訳か。
アンジェリカ王女達も目配せをしてみるが、苦い表情を返され動かない。リーダから神殿に滞在させてもらっている姫さん達の立場は弱い筈。故に強く出られないのだろうと教えられる。
関係ないが、リーダに耳を寄せた時、正面のアンジェリカ王女が少しムッとしたのが妙に可愛かった。うは。幼女にやきもち焼かれちゃったぜ。
ならここは俺が言う役だろう。ユエル司祭は別に嫌いでもなんでもなかったが、あのファーミィ司祭長は駄目だ。アレには関わりたくない。
「ユエル司祭。貴方には悪いけど、俺はあのおばちゃんが大嫌いだ。だから俺達の話を伝えられたくない。悪いけど話を聞いて欲しくないので一度外に出ててもらえないか」
両騎士がぎょっとしてこちらに振り向く。どうも言い方が直接過ぎたようだ。ユエル司祭は何か言い返そうと構えていたようだが、そっと溜息をついて一礼して出て行ってくれた。良かった。
「よし続けよう」
「……相変わらずだな貴方は」
「本当に御変わりなく」
おい、変なとこで感慨深く頷くな。俺だって少しは成長してるんだからな。アレだ。三歩進んで二歩下がるってやつだ。ええと……二十センチくらいか。うん。二十センチか……。
「それでは、これからのことですが……」
「私達はこのままチーベェさまを迎え……いいえ、私共がチーベェさまの下に戻り、ウラリュス大神殿への旅を再開したいと考えています」
そう語るアンジェリカ王女は、何故か俺のバックをしっかりと腕の中に抱え込んでいる。お気に入りなのだろうか。う、うん。でもあげないぞ。そのバック俺のだからね。
「……うーん、でもな……」
「お嫌なのですか?」
「嫌っていうか……ううん」
別に彼女達のことを嫌っている訳じゃないのだ。
上手く言葉を返せないでいると、アンジェリカ王女が不安そうな顔をする。両騎士まで不安そうな顔をするので焦ってくる。困っているとリーダが助け船を出してくれた。
「差し出がましいようですが、意見させて頂いてよろしいでしょうか。 ……兄様は何より拙速を望まれています。現在は神獣ラリア様とご一緒に休息をされていますが、後顧に憂いが無くなった際は、他事に囚われず大神殿に向かわれたいと考えています。それが王女殿下と同行となった場合、どうなるかを懸念されているのです」
「おお、サンキュウ」
本当、この子は説明上手くて助かる。
「そのようなことは……」
「失礼ですが、今回王女殿下の随員はどのような規模でしょう」
「……ええ、王女殿下と私達二名を隊長とし、十名の部下と共にこちらのヴィスタ本殿に滞在しております」
「うえ?」
イリスカの返答に驚く。そうか、あの晩もイリスカは部隊を率いていた。来たのはこの三人だけじゃないんだ。そりゃそうか。
「そして国外にも……」
「ええ、ご指摘の通り、南のドーマ国境に再編した巡礼団を逗留させています。一般の騎士達はこの国への入国が難しいですので」
「そうなりますと同行した場合、一度部隊に合流を望まれる訳ですよね。その時間をまず兄様は憂いておられる訳です。現在兄様は瞬間移動の舞で身軽に遠距離の移動が出来ます。その際の足並みを懸念されておられます」
「なる程……」
「え、国外にも人がいるのか」
「はい。このオラリア王国と我がトリスタは国交が無い為、兵の入国はかなり厳しいのです。今回はヴィスタ神殿の信徒としてユエル司祭の協力を仰ぎ、我等少数のみで参った次第です」
「王女が隣国に内密で入国するのだ。簡単なことではないのだし、本来なら随員は倍でも足りないのだぞ」
「……失礼ですが随分とお詳しい様子ですが、貴方は一体」
「おお、この子すっげえだろ! 頭良いぞー。手配書回したのがヴィスタ神殿だって読んだのこいつだもん」
一目置いた様子のイリスカに、リーダの肩を叩いて自慢する。才媛と言われてたイリスカに認められるとは大したものだ。褒められてリーダも凄く嬉しそうだ。でも俺がはしゃぐ程に正面の三人の顔が強張っていくのは何故だ。
「申し遅れました。私はヴィスタのルーベ神殿で司祭職を勤めておりました。縁あって今は兄様の従者を勤めさせていただいております」
「おお……ルーベの司祭殿でありましたか」
「お、お若いのに素晴らしいですね」
いや、姫さん。こいつより年下で司祭になってるあんたが言っちゃいかん。
「それはそうと……その『兄様』とはどういうことなのだ、チンペー殿」
ラディリアの声が凄く冷たい。おい、いま目が光ったぞ。
「そうですね。私もその辺の事情は詳しくお聞かせ願いたいです」
「わたくしも……です」
なんでみんな続くの。
「え、いや。だってさ……」
「道中検問の際に関係を問われた時の為、ヴィスタ神殿に務める義兄妹と偽装させて頂きました。そこで『兄様』との呼び名を許され、このようにお呼びさせて頂いております」
「……だってさ、せっかくだから一度くらいオニイチャンって言われてみたかったんだよ。妹居なかったしさ。 ……いいだろ別に」
膝にのの字を書きながらぼやいたら、ラディリアがガックリと肩を落とす。イリスカと姫さんも酸っぱい物を食べた様な表情で首を傾けた。いや、なんで俺、お前等に弁解してるみたいになってんの。いいじゃん別に。お、俺の勝手だろ。
ふと中学時代、クラスで付き合ってもいない女子達から責められていたイケメンを思い出す。
突然、アンジェリカ王女が立ち上がった。
「お、お望みでしたら、わたしもオニイタンとっ!」
「いや、姫さん。それはマズイ。勘弁してくれ」
姫さんを妹視する気にはなれない。妹を溺愛しているフォーセリカ王女に兄呼ばわりさせてると知られたら、くびり殺されるだろう。神槍振りかざし天馬に乗ってカッ飛んでくる王女の姿が脳裏に浮かぶ。超怖え。神獣より怖え。
断られた姫さんは凄くショックを受けたようで落ち込みだした。私では駄目ですかと呟いてる。どうすればいいんだろう。そうか飴だ。バックからミルキーを出せ。ああ駄目だ。そのバックを当の姫さんが抱えてんぞ。
「た、確かに我々としては一度部隊との合流を望みますが……」
「今から連絡を出して、国境東に先回りさせておきましょう。それなら旅程に遅延は発生しません。チーベェさま、如何でしょうか」
おお、復活した。ナイスだイリスカ。
「うん、それなら良いんだが……」
「アンジェリカ王女殿下のご安全を考えると、先に部隊と合流して頂きたいのだがな」
「いえ、彼等が国内に入れない以上、何処で合流しても同じでしょう。構いませんよねイリスカ」
「分かりました。手配しておきます」
「そうか。じゃあ何時出れる? 俺達は明日にでも都市アイール迄飛べるぞ」
「「「ええ?」」」
全員にぎょっとされた。リーダまで驚いてる。
「……何、駄目なの?」
「チーベェさま、明日にも此処を発たれると?」
「そうだよ。此処に残ったのはラリアに邪魔されたのもあるけど、王宮前で待ち伏せされた原因を探るのと、お前等がここにいた理由を聞く為だったんだ。事情が判ったんだから、もうここに残ってる必要無いよ。瞬間移動の【天翔地走】で一度アイール辺りまで飛んで、リーダと二人で先に国境東を目指すよ。今から出てもいいくらいだ」
「そんな……」
アンジェリカ王女がイリスカを振り向くが、イリスカは慌てて首を振る。準備が間に合わないか。なんだよホラ、歩調合せようとするとやっぱりこうやって足止めになるじゃないか。それが嫌なんだよな。
司祭長という凄く嫌な奴にも会ってしまったし、こっちはこんなところに一日も居たくない。神獣ラリアに付いて来ないように説得し、さっさとこの王宮からずらかりたいのだ。
「兄様、それはちょっと……こちらの事情を兄様が話してしまいましたし」
「え、駄目なの?」
「ええ、兄様は神獣ラリア様を復活されました。王国側としてはなんらかの処遇を与えずにはいられません。ここでなんらかの合意を果たさずに姿を消された場合は、大々的に東の国境沿いに手配が掛かるでしょう。ヴィスタ神殿の手配とは規模が違います。ファーミィ司祭長から追っ手も来るでしょうから、逃げおおせるのはかなり困難です。無事抜けたとしても国境には飛竜で先に連絡が行き、兵達が待ち受けているので突破は難しいでしょう」
「嘘!?」
「チーベェさま、現在国王陛下含め重臣達によってチーベエさまの功績に対する処遇を検討されていると聞いています。今いなくなられては失踪として、国王命で捜索手配されると思います」
「いいだろ別に、逃げ切れば。なんとか突破しようぜ」
今迄ずっと逃げ回ってきたのだ。今更躊躇なんてしてない。
「何か犯罪を犯したのではと勘繰る者、または罪を着せてしまおうとする者も出るでしょうね。神獣を復活されたジンベイ殿を恨んでいる立場の者もいるでしょう」
「どうでもいいよ、そんなの。この国から出てくんだから」
「チンペー殿、昨日ヴィスタ神殿から神獣ラリアを復活させたのは、自分達が手配していた貴方だと発表があった。彼等は神殿の功績としてそれを語っている。立看板も出ているぞ。王都街の一部では神獣復活を祝ってお祭り騒ぎだ。貴方は市街で英雄扱いだぞ」
「素晴らしいことだと思います。チーベェさまはこちらの国でも英雄たる功績を成されたのです。オラリアとしてはその功績を称えない訳にはいかないでしょう」
「いらねえよ、そんなもん! リーダ、今すぐ逃げようぜ!」
それで前回みたいに、また王宮で軟禁されてグダグダ話が伸びてしまうってのか。冗談じゃねえぞ。
「「……」」
「……謙遜とかではなく、本心で言われてるのですね」
「いやまあ……そういう方だしな」
「分かってはいたことですが、なんというかもう……」
お前等その変な人を見るような、呆れた顔するの止めろ。
「兄様それは……厳しいです。アイールからですと、山脈を二つ越えることになります。飛竜が先回りして包囲網が引かれるでしょうし、あの周辺は村々も小さいです。隠れながら突破するのは大変困難です。交渉を終えずに出てしまっては捕まって引き戻されてしまいます」
「うっそお!」
「申し訳ありません。王宮騎士達の尋問の際、ご自分から事情を説明されたので、逃亡ではなく折衝を覚悟されたのだと思い違いをしておりました。今から逃げるというのは、かなり難しいことで……」
「……」
なんてこった。いつのまにか自分で下手を打っていた。
そこへ外壁を抜けて神獣ラリアが部屋に戻って来た。相変わらずキンキラ光っている。驚いた三名が飛び上がって後ずさる。完全に腰が引けてて面白いんだがそれどころじゃない。
『ふむ……騒がしいぞ』
「お前が逃げるの邪魔した所為じゃねえかあ!」
蹴とばしてやろうとしたら、リーダが慌ててしがみついて来た。
驚いて腰が引ける三人に、これが当の神獣であり、懐かれてこの部屋に居つかれていることを説明する。
「放っておいていいよ。害は無いから気にすんな」
「……神獣ラリア様と懇意にされているのですか」
「懇意つーか、住んでる場所を壊したから行く場所ないって居座られてる」
『崩落したには仕方が在らず』
「壊したんだろが!」
子供かよ。昔よく服を「破けた」と母親に見せたら「あんたが破いたんでしょうが」と怒られた自分を思い出すじゃねえか。
「あー、まあ。居てくれると、ここでの待遇が良くなるんで、そのままにしてんだけどさ」
最初は見た目がライオンなので落ち着かなかったが、話しているうちに慣れた。体が淡く光っているので、夜は明るくて居ると便利だしな。ただし、就寝時に近寄られた時は明るくて寝れねえじゃねえかと叩き出すが。
「なんと恐れ多いことを」
「まさにシルヴィア女王の再来となっていますね」
「……いや、こいつただ単に話が出来る相手がいるの嬉しいみたいだぞ。会話が出来るの何百年振りとか言ってるし。だから懐いてきたんだよ」
復活させた恩も少しは感じてる所為か、基本的にはこっちの味方だしな。常識が違う所為か、無理して敬語を使わなくてもいいので、気楽に話せるのは助かる。リーダは未だに俺の口調にビクビクして、本当に大丈夫かと伺ってるけど。
「そうだ。お前さ、俺とリーダを乗っけて、国境の向こうまで送ってくれないか」
『我は騎獣にあらず。人を乗せるなど笑止千万』
けち臭え神獣だな。無視してると文句言ってくるさびしんぼうのくせしやがって。
さて困った。じゃあどうするか。リーダもアンジェリカ姫さん達もこの国の重臣達となんらかの話を終えずに逃げ出してはいけないという。うえー……面倒臭え。
「じゃあ、とりあえず直ぐに発ちたい様に伝えて催促しておいて、隙を見て逃げるってことで……」
「ですから、逃げるのはどうかと……」
駄目なんか。
「窓口からこちらの意向を伝えることはできるでしょうが、我々は王宮に不法侵入した罪人でもあります。そのような者をラリア様を復活させたからといって、称えていいのかという話になってると思われます。結論がでるのはかなり掛かるかと」
「うげえ……」
「ただし、窓口を立ててもらうことも、こちらの意思を伝えるのも確かに有効なことではあります。先方の考え方も変わるでしょう」
すぐさま侍女さんに話があると人を呼んでもらった。来たのは騎士団の人ではなく官吏の人だった。
「悪いけど俺達二日後にこの城を出て行くから。何か話があるならそれまでにしてくれ。駄目と言っても出て行く。この神獣ラリアも協力してくれるといってるから邪魔しても無駄だぞ。騒ぎになるかもしれないけど知らん。こっちは先を急いでるんだわ」
リーダや姫さんには十日は必要でしょうと言われたが待ってられない。こっちの世界では交渉ごとは吹っかけるのが基本だろう。ならば最短で伝え急かすべきである。
官吏の人はこっちを説得しようと色々話してきたが、『早く上の人に話さないとマズイくないか』と何度も言い返すと顔を青くして出て行った。なんか完全に悪者である。皆も困ったような顔をしている。
でもこれで、最低でも明後日にはなんらかの動きが返ってくるだろう。もし来ないなら一度そのまま出て行こう。囲まれて動けなくなったら戻って催促し、また痺れが切れたら飛び出そう。精々引っ掻き回してやる。向こうも焦るだろうさ。
「チンペー殿、それでは脅迫と変わらないぞ」
「いいじゃん。待ってるだけでゴネても話が進まないって、俺はお前達の国で学んだんだよ」
どうだ。俺だって少しは成長したのだ。その証拠に三人は気まずい顔をしてうつむくじゃないか。ふふーんだ。
「兄様……この話は国王に届きます。兄様は国王陛下に問答を迫っていることになりますが」
「へ……あの……例の?」
「はい。国王ギブスン・ジラード陛下です」
国王ギブスン・ジラード。この国に君臨し異常な税や圧政を敷いて、この国を混乱させている独裁者。つるし首や火炙り等おかしいとしか思えない罰則を施行して村々を滅ぼし反乱軍に狂王と呼ばれている男。そんなヤバイ奴がこの国の王なんだった。そういえば奴はこの王宮の何処かに居るんだ。神獣や司祭長への怒りですっかり忘れてた。
「マジ? 国王が関わってくるの? もしかしてやばかった」
「はい。陛下の逆鱗に触れなければいいのですが……」
「……どうしよう」
「どうしようって……」
「今となっては……」
青くなって皆に助けを求めるが、気づいてなかったんかとばかりに一斉に溜息をつかれる。
後の祭りであった。
ふふーんだ。
◇
日も落ちたし、アンジェリカ王女達はそろそろ帰ないとならなくなった。しかしリーダがそれを引き止める。
「お待ちください。おそらくこの様に会えるのは今回のみだと思います。明日以降は皆様が面会を申し出ても取り次いでいただけない可能性が高いです」
「あの司祭長にか?」
「はい。彼等と王女殿下は兄様を巡って、どちらが優先の臣とされるかの競争関係にあります。今回は初回ということで無理に呼ぶことができたようですが、次回以降は取り次いではもらえないと思います」
あのファーミィ司祭は自分達こそが使徒の従者だと言ってる。捜索時もアンジェリカ王女達を利用するだけ利用して都合の悪いことの責任を押し付けようとした。今後自分が姫さん達と話をするのはよしとしないだろう。
皆がううんと頭を抱える。
「じゃあ、いっそのこと皆でここに残るか。だったら取次ぎもなんも関係無いだろ」
「……よろしいのですか?」
「いいんじゃね。俺達だってあの神獣がいるからこんな待遇になってんだから」
「いえ、私共は部下を統率せねばなりませんので」
ラディリアとイリスカは固辞する。部下も全員呼んじゃえよと言ったら皆に止められた。隣国の助祭補風情が王宮に集団で泊まるなど、とんでもないということらしい。
結局、アンジェリカ王女だけがこのまま部屋に残ることになった。廊下で控えていたユエル司祭に事情を話したら困った顔をされたが、結局彼女は何も言わずその引き下がってくれた。
立ち去る際の事だ。ドアの手前でラディリアが立ち止まった。イリスカが訝しげな表情で彼女を覗き込む。ラディリアは少し黙って固まっていたが、勢いよく振り向くと俺に迫って来ていきなり胸倉を掴み上げた。
「チンペー殿っ!」
「な、なんでしょうか……」
そういえば、王宮前で眠らせて逃げたのをまだ謝ってなかった。怒ってますよね。ごめんなさい。
しかし、彼女は口をパクパクさせながら何故か顔を赤らめていく。
「こっ……わたっ……」
「……?」
黙ってしまった。なんだろう、言いだして詰まるなんて珍しい。彼女は勢いよく顔を上げると、赤い顔で怒鳴りつけてきた。
「もう、二度とか、勝手に出て行くのではないぞ!」
「お、おう。 ……ならべく」
「絶対だ!」
「はいっ、ごめんなさい!」
反射的に謝ってしまった。俺は年上の女性に囲まれて育った所為か、どうも年上女性の説教に弱い。
ラディリアが肩をいからせてドアに向かうと、それを微笑んで見送りながら交代でイリスカがやって来た。彼女は俺の前に立ち、目が合うと何故か深呼吸を始める。こっちはなんだ。また怒られるのか。
「ジンベイ殿。私は貴方に謝らねばならないことがあります」
「……はあ」
「自分が今、生きているのは誰のおかげか。こうして健康な身体を取り戻せたのは誰のおかげなのかと。それ程の恩を受けながら、私は騎士の務めに拘泥し貴方を拘束してしまった。それは恩を仇で返す行為。騎士よりも『人として』恥じるべきことではないかと気づいたのです」
「ええー……」
凄く嫌そうに反応したら、「あれ?」という表情が返ってきた。
「いや、そっちの立場からすれば、普通のことだったろ……そんなこと言ったら俺はこの国から出られなくなるんだけど」
『人として』なんて言葉を出されたら、俺はこの国の惨状を見捨てられなくなる。なんとかしない限りずっと出て行けなくなるのだ。それはもう何度も考え振っ切った考えだ。囚われる訳にはいかない。人でなしと言われてもかまわない。この国で最小限以上の出来ることはした。後は見て見ぬ振りをして逃げ出すだけだ。早く日本に帰るために。
「……私を怒ってはおられないのですか」
「全然」
逃げ出したのだから、怒られるのはむしろこっちの方だろう。あれからもっと酷いことがたくさん起きたので、正直どうでもいいというのが本心なんだが、流石に言ったら怒られる気がする。
「はあ……」
話は終わったんだろうか。なんか話の腰を折ってしまったようだが。
「……それでもですっ!」
あ、復帰した。
「自分は家族と団欒を過ごすことができたというのに、私は貴方が家族の下へ帰るべく一途に動いていたのを妨害してしまった。これでは貴方から信用を得られる筈がなかったのです。あなたの信を受けられなかったと知った時に私は自分でも信じられない程動揺しました。そこで私は考えたのです。この感情はなんなのかと。私は本当はどうすべきなのかと。どうしたいのかと!」
イリスカの顔が紅潮して、だんだん早口になってくる。おい、早くて聞き取れないぞ。興奮すんな。
「私は気づいたのです。わ、私はあにゅるっ……!」
噛んだ。
「……」
イリスカが固まった。それを眺める俺達も固まっている。
調子良く話していて、盛り上がった瞬間に噛んだみたいだ。こういう時恥ずかしいと思うのはこの世界の人も同じなのね。彼女はどんどん顔を赤くしていく。美人が赤面する様は可愛いのだが、どうも居た堪れない雰囲気だ。何かよく分からなかったが、フォローした方がいいんだろうか。励ますか。えーと、イリスカさんのちょっといいとこ見てみたいと拍手と掛け声でもしてみよう。そーれっ。
「…………で」
「で?」
「…………出直します」
「そうですか」
顔を合わせまいとしてか、伏せたまま肩を落とし、よろよろとドアへ向かって行く。迎えたラディリアがニヤニヤと笑みを浮かべているのに気づき、イリスカは顔を赤くして睨み返した。おお、珍しいな。二人の素の表情を初めて見た気がする。
二人はそのまま一礼して退出していった。振り返るとリーダとアンジェリカ姫さんが、目を見開き両手を口元に当てて『まあ』とばかりに固まっている。
何なの君達。おばさん臭いよ。
こうして部屋には三人が残った。
侍女さんには神獣ラリアが言うのでアンジェリカ王女も滞在することになったと嘘を伝え、食事等の手配をお願いする。もっとも俺達の会話は侍女さん達には聞かれているので事情は駄々漏れだろう。まあ問題があればなんか言ってくるだろう。それ以上に只の司祭ではなく、隣国の王女だと知って侍女さん達はかなりびびっているようだ。
「そうだ、姫さん。寝室のベッド使ってくれよ。なんか豪華過ぎで寝られないから使ってないんだよ」
寝室にあるのは中世映画で見た様な天蓋付きの高級ベッドだった。四方からレースが降りてるわ、ベッドはふかふか過ぎるわで落ち着かない。ベッドや枕は香りを出すものを中に仕込んでいるのか異様に臭い。薔薇とか香水とかの匂いってきつくて苦手なのだ。
リーダに譲ろうとしたらとんでもないと固辞されてしまい、結局俺達は居間のソファーで就寝。神獣ラリアが天蓋付きベッドで、レースの奥から爛々と光りながら座っているというホラー映画みなたいな光景がおきていた。
「とんでもありません。私もチーベェさまの従者です。一人だけ厚遇される訳にはまいりません」
なんか、リーダと張り合ってるように見えるのは気の所為だろうか。お姫さんなんだから、気にしなくていいのに。
結局その晩は三人揃ってソファーに雑魚寝になった。
朝方見ると横に居た二人は向かいのソファーで身を寄せ合って御就寝だった。幼女二人の寝姿は微笑ましい。でも事情を聞くと、俺が寝相悪くて二人共蹴り飛ばした結果でした。ごご、ごめんなさい。
朝食後、ファーミィ司祭長率いる一団が迎えに来ましたわとやって来た。怒鳴りつけて追い返す。やっぱり話が通じない。どれだけ叫ぼうと全然判ってくれないのが腹立たしい。こっちの言う事は全て間違い。アウヴィスタ神の真意に気づけばそのような思い違いは無くなると笑顔で言うのだ。自分が間違っているとは欠片も考えず、指摘しても平然と言い返してくる。会話にならない。話しててこっちが悪いのかと何度か自問してしまったくらいだ。危ない危ない。
横に座るアンジェリカ王女について聞かれたので、ここに滞在してもらうことにしたと言い返す。暗に俺が選んだのはお前じゃないと言ってるのだが、笑みがまったく崩れないのが腹立たしい。
一緒に来た司祭らしい男達も気に入らなかった。彼等は目付きが危ない。もう坊主憎けりゃという奴かもしれん。
「それとも姫さん達、先に国境まで行ってるか。そしたら俺達がここ抜け出せたらすぐ合流できるだろ」
「とんでもありません。ずっとご一緒します。至らぬところがあれば直すよう努めますのでお傍においてください」
なんか時代劇の押しかけ女房みたいなことを言ってる。貴方のお姉さんの顔がチラつくので、ヤバい台詞言うの止めて欲しい。
夕食後に別れて湯浴みをして帰ってきたら二人が戻って来ない。何故か何時までたっても戻って来ない。侍女さんに聞いても判らないと言う。結局その晩は二人共戻らなかった。
翌朝になっても戻って来なかったので即効【半熟英雄の大護摩壇招き】で二人を召還する。実はリーダに私達が行方を告げずに居なくなった場合、一晩経っても連絡が無ければ召還で召び戻してくれと言われていたのだ。召還に使えるよう身に着けていた物も預かっている。まさか本当にこんな事態が起きるとは思わなかった。
二人共ボロボロな姿で現れた。
「ちょっ、ど、どうしたんだ」
聞けば湯殿から上がった後、兵士が待っていて連行され、王宮の外へ放り出されたらしい。アンジェリカ王女はまだしもリーダは邪魔者として命を狙われる可能性があったので、一緒に王都街を逃げ回っていたという。さっさと召び戻せば良かった。
アンジェリカ王女は神殿に戻っても良かったのだが、自分が居れば盾となり得るかもしれないと同行してくれていたらしい。改めて二人に謝る。呑気に寝てる場合じゃなかった。下手すれば殺されていたかもしれない。
「王女殿下に同行頂き大変お世話になりました。殿下の励ましは大変心の支えに成りました」
「とんでもありません、足手まといになって申し訳なかったです。リーダさんは大変聡明で頼りになる方です。私などより余程従者として才覚に溢れており、自分には精進が足りてないと実感致しました。先人として見習いたいと思います」
色々あって一晩でかなり仲良くなったようだ。これはちょっと嬉しい。
そしてこれは誰の仕業だろうか。そんなの考えるまでもない、司祭長ファーミィだろう。俺から引き離そうとしたのだ。
「あの糞婆ああああっ!」
甘かった。アンジェリカ王女と一緒なら安全だと思い込んでた。
控えている侍女に、昨日二人を誘導した侍女と連行した衛兵を呼べと怒鳴りつける。当然の様に何時まで経っても誰も来ない。雲隠れしたか。ここは司祭長達の勢力圏だと実感する。王宮内なのにだ。
歯軋りしてる自分を逆に二人が宥めてきた。我に返って謝る。以前よくお前が先に怒り出すとこっちが怒れなくなるとクラスメイトに文句を言われたのを思い出したのだ。腑が煮えくり返ってるのは本当は彼女達だ。落ち着け自分。
しかし、二人に何故か礼を言われた。俺が怒ったのが嬉しかったらしい。揃って涙を浮かべて笑顔で感謝を述べだした……さっぱり分からない。俺と常識違うんだろうか。それとも男と女では感性が違うのか。
イリスカ達からの連絡は無い。恐らく伝手が封じられているんだろう。でもアンジェリカ王女の件を伝えておきたい。彼女達だって危ないかも知れないのだ。そして司祭長に会ったらぶっとばしてやろう。ぶっとばす。絶対ぶっとばす。
……駄目だ。我慢できない。
止める二人を引き連れ、神獣ラリアを説得して王宮正門から無理矢理外に出る。しかし王宮正門前の広場で、ラリアを見た人々が何故か押し寄せて来た。彼等がラリアを囲んで平伏するので進むことが出来ない。怒ろうがわめこうが、どんどん人が集まってきて大騒ぎになった。
そうこうしているうちに王宮内から騎士団の連中が追いかけてきて囲まれる。一様に諭されてしぶしぶ王宮の部屋に戻る羽目に。畜生、無駄に騒ぎを起こして終わったぞ。
しかし、昼過ぎに当の司祭長達が笑顔でやって来た。
「てえめえええっ!」
見た瞬間激発して掴みかかる。相手が女性とかはまったく思わなかった。しかし、彼女の後ろに控えていた司祭達二人に簡単に取り押さえられた。護衛も兼ねている司祭だったらしい。ファーミィを怒鳴りつけるが、当の本人は何故かまったく悪びれてない。俺から引き離したことをあっさり認めたうえで笑顔で言い返してくる。
「このような方々は使徒様にふさわしくありませんので」
「ふふふざけんな!! お前が一番おかしんだよ!」
「まあまあ、どうしたことでしょう。ご理解が得られなくて悲しく思います」
「……!」
「聖言書をお持ちしましたわ。是非ご一緒に朗読致しましょう」
「……?」
そのままテーブルに座り、嬉々として聖言書とやらを広げ始める。
ぞっとした。こいつは自分のしたことを欠片も悪いと思っていないんだ。俺が怒っているのもなんとも思っていない。異常過ぎる。
国交が無く非公式に来ているとはいえ、一緒にいたアンジェリカ王女は王位継承権もある王女だ。それなのに巻き込んで排除しようとしたうえで、それを悪びれてない。巻き込まれてたら国際問題だろう。ヴィスタ神殿ってなんだ。そんなに偉いのか。それともこいつがおかしいのか。
「何度でも言うぞ、お前は頭がおかしい。俺は絶対お前を従者とは認めないし、まともな人間だとも思わない。二度と顔を見せるな」
「なんということでしょう。ご理解が得られなくとても悲しく思います。どうかお気を静めてアウヴィスタ神の御心に耳を傾けていただけませんか」
「ふざけんな!」
……駄目だ。平行線どころじゃない。こいつに俺の言葉は通じない。こいつは俺を見てない。人として見てない。神が降ろした不出来な物としか見てないんだ。そのうち捕まえて洗脳しようとしてくるんじゃないのか。
「……ラリアアア!!! ちょっと来いいいい!」
ラリアを呼んで脅かしてやろうと叫んだら、司祭達が慌ててファーミィを引き摺って廊下に逃げていった。
なんだ。ラリアは怖いのか。それじゃあこれから連中が来る時はラリアに傍にいてもらうようにしよう。吠えられて涙目になってる姿を是非見たい。
……あ、やばい。ラリアが本当に来ちまった。
『何用か』
「悪い、何でも-……いや、ちょっとお前の格好良い尻尾が見たくなってな。おお、やっぱ格好良いなそれ、よく見せろよ」
『……ふむ……ふむ。まいるな。まいるぞ。所用があったのだがな』
そう言いながら、どっしりと座り込んで尻尾を振りだす。なんてチョロイ子だろう。俺に言われるなんて凄いぞお前。
我に返って再度アンジェリカ王女達に謝る。言い返したかっただろうな。リーダならきつい嫌味の一言でも返せた筈なのに俺が速攻爆発してしまった。二人は苦笑いしながら首を振った。
幼女二人に苦笑いされる俺ってなんだろか。
翌日進展があった。窓口に立ってくれている官吏がやって来て今後の予定が伝えられる。
国王を含む重臣達との前で最終的な話をつける席を儲けるというのだ。
国王ギブスン・ジラードへの謁見が決まったのだ。
次回タイトル:大薮新平 血まみれの謁見